ADHDの脳波の特徴とは?QEEG検査による発達障害の診断補助について解説

ADHDは発達障害の一つで、通常とは異なる脳波がみられます。
そのため、QEEG検査(定量的脳波検査)による発達障害の診断補助が可能です。
この記事では、ADHDの脳波の特徴について解説します。
ADHDの症状、診断基準、診断・検査方法、QEEG検査の特徴などもまとめているため、ADHDの疑いがある方はぜひ参考にしてみてください。
ADHDとは

ADHDは『注意欠如・多動性障害』のことで、発達障害の一つです。
発達障害は脳の発達に関係する障害で、コミュニケーションや対人関係を苦手とします。
ADHDのほか、学習障害や自閉症、アスペルガー症候群、トゥレット症候群なども発達障害に含まれます。
文部科学省によるADHDの定義は以下の通りです。
ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。
また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
引用元:学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)及び高機能自閉症について:文部科学省
ここではADHDの主な症状、原因、診断基準などについて解説します。
主な症状は不注意・多動性・衝動性の3つに分類される
ADHDの主な症状は不注意・多動性・衝動性の3つに分類されます。それぞれの特徴について見てみましょう。
不注意の症状
不注意は物事に対し注意し続けることができない症状で、具体的には以下のような特徴が挙げられます。
- 失くし物や忘れ物が多い
- 1つの作業を最後までやり遂げられない
- 仕事に集中できない
- 気が散りやすい
- 話を聞いていないように見える
- 指示されたことをすぐに忘れてしまう
すぐに気がそれてしまったり、忍耐力がなかったりするのが不注意の症状です。
ADHDの中でも多動性・衝動性の症状は大人になるにつれて徐々に目立たなくなる傾向がありますが、不注意の症状は大人になっても続きやすい傾向があります。
多動性の症状
多動性は落ち着いていられない症状で、具体的には以下のような特徴が挙げられます。
- 落ち着いてじっと座っていられない
- そわそわして体が動いてしまう
- 常におしゃべりをしてしまう
活動性が異常に高かったり、落ち着いて会話や食事ができないのが多動性の症状です。
衝動性の症状
衝動性は衝動的な感情や行動を抑えられない症状で、具体的には以下のような特徴が挙げられます。
- 相手の話を聞かずに話し始める
- 他人の物を勝手に使ってしまう
- 列に並んだり待ったりするのが苦手
- すぐにイライラする
- 衝動買いをしてしまう
危険な行為でも思い付きで行動してしまったり、欲求をすぐに満たそうとしたりするのが衝動性の症状です。
原因ははっきりとわかっていない
ADHDの原因ははっきりとわかっていません。
遺伝子や環境因子などさまざまな要素が関係して起こるとも考えられていますが、それも明確な原因ははっきり判明していないのです。
またADHDは神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリンとの関連も指摘されています。
これらの神経伝達物質の分泌量に異常が生じたり前頭前皮質での機能障害が起きたりすると、ADHDの特性が現れやすい傾向にあります。
ADHDの診断基準
ADHDの診断には、『DSM-5』というアメリカ精神医学会が作成している精神疾患の診断基準・診断分類が使用されています。
DSM-5で以下の5つの項目をすべて満たしたとき、ADHDと診断されます。
- 不注意か多動性・衝動性、または両方の症状がみられる
- 不注意、多動性・衝動性の症状が12歳以前からみられる
- 症状は特定の場面だけでなく、学校と家庭など2つ以上の状況でみられる
- 症状が社会的、学業的、職業的な機能を明らかに支障している
- 症状はほかの精神疾患によるものではない
またDSM-5のほかにも、WHO(世界保健機関)が作成している『国際疾病分類第11回改訂版(ICD-11)』の内容も参考にしながら診断するのが一般的です。
ADHDの脳波の特徴

脳波を分析することで、脳や体の疾患や睡眠の分析などさまざまな情報が得られます。
ADHDの方は通常とは異なる脳波を持つため、脳波検査を行うことで診断に役立てることが可能です。
ここではADHDの脳波の特徴について解説します。
ADHDの脳波は4つのグループに分類される
脳波は周波数によって以下の4つに分けられます。
分類 | 周波数 | 特徴 |
---|---|---|
β(ベータ)波 | 14~30Hz | 覚醒状態や集中しているとき、緊張しているときに出る脳波 |
α(アルファ)波 | 8~13Hz | リラックスしているときに出る脳波 |
θ(シータ)波 | 4~7Hz | 浅い睡眠中に出る脳波 |
δ(デルタ)波 | 4Hz未満 | 深い睡眠中や麻酔時に出る脳波 |
上記の脳波のうち、どの脳波が強く出るかによって、ADHDの症状の傾向に違いが現れるのです。
例えばθ波が強すぎる場合、唐突に注意が途切れたり、注意が散漫してしまったりする傾向があります。
β波が強すぎる場合は、一つの物事に対し集中しすぎてしまう傾向がみられます。
実際にADHDの方の脳波を実際に測定すると、睡眠中にみられるθ波やδ波が脳波の大半を占めるケースが多いです。
つまりADHDの方はまどろんでいる状態と覚醒の間を行き来することで、注意力の欠陥や落ち着きのない状態を発症するということがいえます。
通常の脳波と発達障害の脳波の違い
通常の脳波と発達障害の脳波では、違いがみられます。
このことは2017年にブルガリアのヴァルナ医科大学のRaya Dimitrova氏の発表により明らかになりました。
ADHDでは、θ(シータ)波やδ(デルタ)波の増加が多くみられます。
一方、高機能アスペルガー症候群の場合は、β(ベータ)波の増加が穏やかであるなど、症状によって脳波の特徴が異なります。
うつ病とADHDの脳波の違い
うつ病とADHDはどちらも前頭葉の異常活動がみられる共通点がありますが、脳波にも違いがみられます。
うつ病の場合はα(アルファ)波の過剰や全般的なβ(ベータ)波の低下がみられるのに対し、ADHDは前頭葉の高いθ(シータ)波やβ波の減少がみられるのです。
上記は典型的な脳波パターンの例であり、実際にはいくつかパターンがありますが、ADHDとうつ病の脳波には明確な違いがみられます。
ADHDの診断方法

ADHDは問診や行動観察、心理検査といったいくつかの検査を通して診断されます。
具体的な検査方法については後述しますが、問診で聞き取りされる内容には以下のようなものが挙げられます。
- 生育歴
- 既往歴
- 家族歴
- 自宅や学校での生活
問診だけではADHDの判別が難しいため、さまざまな検査から総合的に判断されます。
質問用紙法による評価スケールや知能検査・発達検査、人格検査のほか、脳波検査やCT検査、MRI検査などの医学的な検査が行われる場合もあります。
ADHDの検査方法

ADHDの診断に用いられる検査には以下のようなものがあります。
- 質問用紙法による評価スケール
- 知能検査・発達検査
- 人格検査
- 器質的な疾患の検査
ここでは上記4つの検査についてそれぞれ解説します。
質問用紙法による評価スケール
ADHDの検査では、質問用紙を使った評価スケールが用いられることがあります。
日本の医療機関で使用されている評価スケールには『ADHD-RS』や『Conners 3(日本語版)』『Conners Adult ADHD Rating Scale(CAARS 日本語版)』などがあります。
それぞれの特徴をまとめると以下の通りです。
評価スケール | 特徴 |
---|---|
ADHD-RS | ADHDの診断基準に沿った不注意、多動性・衝動性に関する18項目を4段階で評価するもの。学校版と家庭版があり、年齢別に基準となる点数が異なる。 |
Conners 3(日本語版) | 保護者110項目、教師115項目、本人99項目からなる評価スケール。項目数が多いためさまざまな面からの評価が可能。 |
Conners Adult ADHD Rating Scale(CAARS 日本語版) | 18歳以上の成人を対象としたもので、本人用と家庭用の2種類がある。66項目あり、回答結果に応じて不注意・多動性・衝動性などの各症状の困り度が数値化される。 |
この検査方法は患者さんの自己記入式の評価スケールとなるため、問診やほかの検査の情報も加味して総合的に判断する必要があります。
知能検査・発達検査
知能検査・発達検査は心理検査に含まれる内容で、日本では以下の3つの検査方法が主に用いられています。
検査の種類 | 特徴 |
---|---|
ウェクスラー式知能検査 | 年齢に応じて3種類あり、それぞれ内容が異なる。いずれも心理専門家と1対1で個別に行われる検査方法。 |
ビネー式知能検査 | 個人面接法による知能検査で、問題の回答内容に応じて精神年齢が算出される。 |
K式発達検査 | 姿勢・運動領域53項目、認知・適応領域166項目、言語・社会領域120項目ある検査方法。患者さんの状態に合わせ、実施する項目の数や順番は変動する。 |
この検査ではADHDの発達特性に応じた得意・苦手を見つけることができ、診断の補助的な役割を持ちます。
人格検査
人格検査も心理検査に含まれる内容で、具体的には『描画テスト』や『文章完成法』、『PFスタディ』、『ロールシャッハテスト』などの検査方法があります。
これらの検査を通して人格の特性を理解することで、ADHDの傾向を把握できます。
器質的な疾患の検査
器質的な疾患とは臓器そのものに炎症やがんなどの病変がみられることです。
臓器に疾患がある場合、身体にさまざまな症状が出現することがあります。
器質的な疾患によってADHDに似たような症状が現れる場合もあるため、必要に応じてCT検査やMRI検査といった検査が行われる場合があります。
QEEG検査(定量的脳波検査)で発達障害の診断補助が可能

QEEG検査(定量的脳波検査)では、ADHDをはじめとする発達障害の診断補助が可能です。
ここではQEEG検査の特徴や流れなどについて解説します。
QEEG検査とは
QEEG検査は脳内の活動に伴う微弱な電気振動を計測し、脳波を解析・可視化する検査方法です。
従来の精神疾患領域では医師による問診がメインに行われており、医師の主観に任せられる部分が多かったのですが、このQEEG検査では可視化されたデータをもとに客観的な診断ができます。
特にADHDや自閉症スペクトラム障害といった発達障害の診断補助に役立ちます。
QEEG検査でわかること
QEEG検査では、脳波が正常な状態と比べたときの活動性の上昇や下降を確認できます。
脳波の種類であるβ(ベータ)波、α(アルファ)波、θ(シータ)波、δ(デルタ)波の活性状況を可視化することで、どのような心理状態になっているかを推測できるのです。
例えばβ(ベータ)波が活性化されている状態の場合、緊張や不安を強く感じている状態であることが推測されます。
ほかの検査方法とQEEG検査を合わせることで、発達障害特性やうつ特性、躁特性、統合失調特性などさまざまな特性を判断できます。
QEEG検査の流れ
QEEG検査の基本的な流れは以下の通りです。
- 19個の電極を頭皮に装着
- それぞれの脳波を測定
- 測定したデータを解析
- 正常な脳の状態と比較
- 問診やほかの検査と症状を照らし合わせて診断
電極はジェルで頭皮につけるだけのため、痛みなどの刺激はありません。
QEEG検査の注意点
QEEG検査はこの検査単体でADHDか否かを判断するためのものではなく、あくまでも発達障害の診断補助的な役割を持つ検査方法です。
ほかの検査や問診が必要になることをあらかじめ理解しておきましょう。
ほかにも、整髪料はつけない、かつら・エクステ・ヘアピンは外す、強いパーマがかかっている場合は検査を受けられないなどといった注意点があるため、あらかじめ医療機関に確認しておきましょう。
まとめ
ADHDの方の脳波には特徴があるため、QEEG検査による診断補助を行うことで、より正確な診断へと近づけられます。
神谷町駅から徒歩1分のかもみーる心のクリニック東京院では、発達障害の診断補助としてQEEG検査を行っています。
保険適応の診断の中での検査も可能なため、注意力散漫や衝動性の高さなどにお悩みの方は、ぜひ当院までご相談ください。
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