自閉症とADHD(注意欠如多動症)の違いとは?診断基準や併存について解説

更新日 2025年06月04日

児童精神科
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ASD(自閉症)とADHD(注意欠如多動症)はいずれも発達障害に分類される障害です。

似たような特性を持つことも多く、両者の違いが分かりにくいと感じる方もいるかもしれません。

最近ではASDとADHDが同時に現れる併存ケースも多く報告されているため、それぞれの特徴や診断基準を正しく理解することが大切です。

この記事では、ASDとADHDの違いについて詳しく解説します。

それぞれの特性や診断基準の違い、併存した場合に起こることなどもまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。

ASD(自閉症)とADHD(注意欠如多動症)の違いとは

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ASD(自閉症)とADHD(注意欠如多動症)はどちらも『発達障害』に分類されますが、それぞれ異なる特性を持っています。

共通して見られるのは、社会生活や学習、対人関係における困難さですが、その原因となる特性や行動パターンは大きく異なります。

ADHDは不注意や多動性、衝動性といった行動面の課題が目立つのが特徴です。

集中力が続かなかったり、思いつきで行動してしまったりするため、学校や職場などでのトラブルにつながりやすくなります。

一方のASDはコミュニケーションの困難さや強いこだわりが主な特徴です。

相手の気持ちを読み取ったり、場の空気を察したりすることが苦手な傾向があり、対人関係で誤解を生みやすい側面があります。

それぞれの障害に対して正しく理解し、適切な支援を行うことが大切です。

ASD(自閉症)の特性

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ASD(自閉症)の特性として、以下の3つが挙げられます。

  • 社会的コミュニケーションや対人関係に困難を抱える
  • 特定の物事に対するこだわりが強い
  • 感覚過敏・鈍麻

ここでは上記3つの特性についてそれぞれ解説します。

社会的コミュニケーションや対人関係に困難を抱える

ASD(自閉症)の大きな特徴の一つが、社会的コミュニケーションや対人関係における困難です。

これは「人とどう接すればよいのか」が感覚的に理解しづらく、会話や表情、身振り手振りといった非言語的なやり取りが苦手なことに起因します。

例えば相手の話すテンポに合わせて会話を進めることが難しかったり、冗談や皮肉をそのままの意味で受け取ってしまったりすることがあります。

また相手の感情や考えを読み取るのが難しいため、不用意な発言をして相手を傷つけてしまうケースも少なくありません。

本人に悪意があるわけではなく、相手の立場や気持ちを推測する想像力の部分でつまずいてしまうのです。

このような背景から、集団生活で誤解を受けたり、孤立したりすることも珍しくありません。

さらに、あいまいな表現が苦手な傾向があるため、「ちょっと待って」や「いい感じに仕上げて」といった言葉に戸惑うこともあります。

具体的な指示の方が理解しやすいという点も、日常生活において配慮が求められるポイントです。

特定の物事に対するこだわりが強い

ASDの大きな特徴として、特定の物事やルール、行動パターンに対する強いこだわりがあります。

例えば毎日同じ道順で通学・通勤したい、使う食器や筆記具はいつも同じでなければ落ち着かないといったルーティンにこだわることがあります。

予定の変更や予期せぬ出来事が起きた際には、強い不安や混乱を感じ、パニックになることも少なくありません。

また興味の対象が極端に偏る傾向もあり、特定の分野に対して専門家のような知識を持つ方もいます。

鉄道や昆虫、カレンダーや数字など、そのテーマは人によってさまざまです。

興味のあることについては一方的に話し続ける傾向もあり、会話のキャッチボールが成立しにくいことがあります。

このようなこだわりの強さは、生活や人間関係に影響を与える一方で、長所として活かされる場面もあります。

本人の特性を理解し適切な環境を整えることで、能力を伸ばすことが可能です。

感覚過敏・鈍麻

ASDの方には、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚など、五感における感覚の異常が見られることがあります。

これは『感覚過敏』と 『感覚鈍麻』の2つに分けられ、同じ人が別の感覚で両方の傾向を持つことも少なくありません。

感覚過敏とは、一般の方なら気にしないような音や光、匂い、手触りなどに過剰に反応してしまう状態です。

例えば蛍光灯の光がまぶしすぎて目が開けられなかったり、洋服のタグが肌に触れるだけで強い不快感を覚えたり、職場の空調の音がうるさくて集中できなかったりといったケースが挙げられます。

一方、感覚鈍麻はその逆で、痛みや温度、音などの刺激を感じづらい状態を指します。

例えばケガをしても痛みに気づかずに放置してしまったり、寒さに対して反応が鈍かったりといったケースです。

このような特性は、生活上の安全にも関わるため、周囲の見守りやサポートが必要となることもあります。

また嗅覚や味覚の過敏・鈍麻があると、食事の好き嫌いが極端になったり、限られた食品しか食べられなかったりする場合もあります。

感覚の違いは目に見えにくく誤解されやすいものですが、ASDの方にとっては大きなストレスの原因となるため、正しい理解と配慮が必要です。

ADHD(注意欠如多動症)の特性

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ADHD(注意欠如多動症)の特性は以下の3つです。

  • 不注意
  • 多動性
  • 衝動性

ここでは上記3つの特性についてそれぞれ解説します。

不注意

ADHDの『不注意』とは、注意力を持続させることが難しく、気が散りやすいという特徴です。

何かに集中していても、すぐに別の刺激に注意が向いてしまい、一つの作業を最後までやり遂げるのが困難になることがあります。

例えば授業中や会議中に上の空になったり、話の途中で内容が分からなくなったりすることがよくあるのです。

また物の管理が苦手なため、忘れ物やなくし物が多くなる傾向もあります。

持ち物をどこに置いたか覚えていなかったり、約束をうっかり忘れたりすることが日常的に起こり、周囲から「だらしない」「真剣に取り組んでいない」と誤解されることも少なくありません。

さらに時間の見積もりや計画を立てることも苦手なため、遅刻や締切に間に合わないなど、社会生活に支障が出やすい特性です。

本人の努力不足ではなく、脳の特性によるものだという理解が大切です。

多動性

多動性とは、「体をじっとさせておくことが難しい」「落ち着きがない」といった行動面の特徴を指します。

子供の場合、授業中に勝手に立ち歩いたり、教室内をうろうろしたりするなど、明らかに目立つ行動が見られることがあります。

体を揺らす、鉛筆を回す、椅子を揺らすなど、一見些細に見える動きも多動性の一種です。

大人になると目立つ動きは減ることが多いですが、心の中で常に何かに追われているような落ち着かない感覚を持ち続ける方もいます。

また無意識のうちに足を貧乏ゆすりしていたり、必要以上にしゃべり続けてしまうといった形で現れることもあります。

多動性は本人にとってもストレスであり、周囲との温度差を生み出す原因にもなります。

衝動性

衝動性とは、「考えるより先に行動してしまう」特性のことです。

思いついたことをそのまま口にしてしまったり、行動に移してしまったりするため、対人関係でのトラブルにつながることもあります。

例えば他人の話を遮って発言したり、列に割り込んでしまったりといった行動が代表的です。

子どもであれば、ゲームや遊びのルールを守れなかったり、感情のままに怒りを爆発させてしまったりすることがよくあります。

大人の場合でも、職場でつい余計なことを言ってしまったり、衝動的に買い物をしてしまう、突発的に仕事を辞めてしまうといった行動に出ることがあります。

本人も後悔する場面が多く、失敗体験の積み重ねによって自信を失うことも少なくありません。

ASD(自閉症)とADHD(注意欠如多動症)の診断基準

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ASD(自閉症)とADHD(注意欠如多動症)の診断では、アメリカ精神医学会が定めた診断基準『DSM-5』や、その改訂版である『DSM-5-TR』が用いられることが多いです。

ここではそれぞれの診断基準について解説します。

ASD(自閉症)の診断基準

DSM-5を使用した診断では、以下の4つの基準を満たした場合にASDと診断されます。

  • 社会的コミュニケーションや対人関係における持続的な障害
  • 限定的な興味・活動、反復的な行動パターンがある
  • これらの症状が発達の初期段階から存在する
  • これらの症状が日常生活や社会生活に著しい支障をきたしている

感覚の過敏・鈍麻といった知覚特性の有無も判断材料とされ、単なる性格や個性とは異なることを慎重に見極める必要があります。

ADHD(注意欠如多動症)の診断基準

ADHDの診断では、不注意と多動性・衝動性という2つの特性に着目します。

DSM-5では、主に次の条件を満たす場合にADHDと診断されます。

【不注意の診断項目(以下のうち5つ以上当てはまり、6か月以上持続する場合)】

  • 細部に注意を払えない
  • 不注意によるケアレスミスが多い
  • 長時間集中するのが難しい
  • 忘れ物や物をなくすことが多い
  • 話を聞いていないように見える
  • 課題を順序立てて行えない
  • 継続して課題に取り組むのが難しい
  • 指示されたことを最後までできない
  • 関係ないことでよく気が散る
  • 抜け漏れがなかなか減らない

【多動性・衝動性の診断項目(以下のうち5つ以上当てはまり、6か月以上持続する場合)】

  • 手足をそわそわと動かす
  • 着席していなければならない場面で立ち歩く
  • おしゃべりが止まらない
  • 順番を待てない
  • 他人の会話や行動に割り込む
  • じっとしていられないような気分になる
  • 遊びや余暇活動に静かに取り組むのが難しい

ADHDも個人差が大きいため、特性の強さや生活への影響を踏まえた総合的な評価が不可欠です。

ASD(自閉症)とADHD(注意欠如多動症)は併存することがある

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ASD(自閉症)とADHD(注意欠如多動症)は異なる特性を持つ発達障害ですが、実はこれらが併存するケースも少なくありません。

ここではASDとADHDの併存により起こることについて解説します。

ASDとADHDの併存により起こること

ASDとADHDの両方の特性を併せ持つ場合、単独の障害に比べて社会生活への影響がより深刻になることがあります。

ASDの特性である「相手の気持ちが読み取りにくい」「こだわりが強い」といった傾向に加えて、ADHDの「注意の散漫さ」や「衝動性」が加わることで、本人にとっては情報処理や感情コントロールが一層困難になります。

例えばASDにより周囲との意思疎通が難しい状況にある中で、ADHDの衝動的な発言や行動が加わると、相手に誤解を与えやすくなり、対人関係でのトラブルが増える傾向があるのです。

ASDとADHDが合併すると、社会適応力の低下がより顕著になり、本人のつらさも増してしまいます。

ASDやADHDの方は精神疾患も合併しやすい

ASDやADHDを抱える方は、精神的な負担が大きくなりやすく、他の精神疾患を併発するケースも少なくありません。

特にASDでは、うつ病や不安障害、強迫症、統合失調症といった二次的な精神疾患を発症する方が多いとされており、約70%以上の方が何らかの精神疾患を併存しているという調査結果も報告されているのです。

またADHDについても、うつ病や双極性障害、不安症、反抗挑発症、さらには学習障害(SLD/LD)やチック症といった発達関連の障害を併存している例が多数見られます。

ADHDの不注意型は、読み書きや計算に苦手さを感じることが多く、学習障害との合併率が高いという傾向があります。

精神疾患や身体症状を合併すると、日常生活でさらに困難を抱え、本人の自己肯定感や社会適応力の低下を招きやすくなるため注意が必要です。

ASD(自閉症)やADHD(注意欠如多動症)の疑いがある場合の相談先

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ASD(自閉症)やADHD(注意欠如多動症)の疑いがある場合の相談先は以下の通りです。

  • 発達障害者支援センター
  • 市町村保健センター
  • 子ども家庭支援センター
  • 児童発達支援センター
  • 精神科・心療内科

ここでは上記5つの相談先について解説します。

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターは、ASDやADHDを含む発達障害に特化した総合的な支援機関です。

本人や家族からの相談に対応し、生活上の困りごと、就学・就労、対人関係など、幅広い問題に対してアドバイスや情報提供を行っています。

また、医療・教育・福祉・労働分野の関係機関と連携し、必要に応じて適切な支援先の紹介もしてくれます。

市町村保健センター

市町村保健センターは、地域住民の健康や発達に関する相談窓口として機能しています。

ASDやADHDの心配がある場合、専門的な視点からアドバイスを受けられるほか、必要に応じて医療機関や支援施設への紹介も行ってくれます。

電話相談や窓口対応を実施している自治体が多く、身近な相談先のひとつです。

子ども家庭支援センター

子ども家庭支援センターは、子どもと家庭に関する幅広い悩みを受け付けている公的な相談機関です。

発達に関する相談も対応範囲に含まれており、ASDやADHDなどが疑われる場合には、家庭の状況や子どもの様子を丁寧に聞き取り、必要に応じて専門機関への橋渡しも行います。

地域の福祉機関や教育機関と連携して支援体制を整えているため、初期の相談先として適しています。

児童発達支援センター

児童発達支援センターは、発達に課題のある子供が通所して支援を受ける施設です。

ASDやADHDが疑われる場合には、発達の評価を行い、日常生活や集団行動に必要なスキルを育む訓練を提供しています。

利用するには市町村への問い合わせが必要ですが、専門的な支援が受けられる機関です。

精神科・心療内科

ASDやADHDの診断を受けるためには、医療機関である精神科または心療内科の受診が必要です。

特に大人の発達障害は、子供時代には見過ごされやすいため、社会人になってから困りごとを感じて初めて診断に至るケースもあります。

病院では問診や心理検査を行い、必要に応じて診断書の発行や療育への紹介も行ってくれます。

初診の際は予約が必要なことが多いため、事前に確認しておきましょう。

自閉症やADHDの疑いがある場合は早めに専門機関へ相談しましょう

自閉症とADHDはそれぞれ異なる特性を持ちながらも、併存することがある複雑な発達障害です。

症状が重なり合うことで、日常生活や対人関係における困りごとはさらに増える可能性があります。

そのため、気になる症状がある場合は早めに専門機関へ相談することが大切です。

かもみーる』は、医師によるオンライン診療、カウンセラーによるオンラインカウンセリングを提供しています。

自閉症やADHDなどの疑いがある方、心療内科を受診すべきか悩んでいる方は、ぜひ当院までご相談ください。

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