自閉症はなぜなる?ASDの原因や治療方法について解説
更新日 2025年06月04日
児童精神科
「どうして自閉症になるの?」「なぜうちの子が…?」と感じる保護者の方は少なくありません。
自閉症(自閉スペクトラム症/ASD)は生まれつき脳の働き方に違いがあることによって起こる発達障害で、親の育て方や愛情のかけ方が原因になることはありません。
近年では自閉症の理解が進んできた一方で、原因や診断、治療法についての誤解も多く見られます。
この記事では、自閉症の原因について詳しく解説します。
自閉症の特徴や診断時期、診断方法、治療方法などもまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
自閉症(ASD)は生まれつきの障害

自閉症(ASD)は、生まれつき脳の機能に違いがあることによって現れる発達障害のひとつです。
育て方や親のしつけが原因ではなく、遺伝的な要因や脳の発達過程に起因することが分かっています。
したがって自閉症は「治すべき病気」ではなく、先天的な「特性」として理解されるべきものです。
自閉症の主な特徴は、以下のような点にあらわれます。
- 対人関係の難しさ
- 強いこだわり
- 感覚過敏・鈍麻
このような特性は人によって異なり、非常に軽度で日常生活に大きな支障がない人から、重度でサポートが必要な人までさまざまです。
ASDは一般的に人口の1〜2%に見られるとされており、決して珍しい障害ではありません。
特に男性に多く見られる傾向があります。
また早い場合は1歳半ごろの乳幼児健診で指摘されることもあり、早期発見と早期支援が重要とされています。
薬で症状そのものを治すことは難しいため、教育的な支援や行動療法が治療の中心です。
個々の特性に応じた療育を通じて、生活の中で困ることを減らしていくことが目標となります。
特性への理解が進めば、本人も周囲もより良い関係を築くことができ、ストレスや生きづらさを軽減することが可能です。
自閉症の主な特徴

自閉症の主な特徴として、以下の4つが挙げられます。
- コミュニケーションが苦手
- 言葉の遅れがみられる
- 特定の物事に対するこだわりやパターン化した行動
- 感覚過敏・鈍麻
ここでは上記4つの特徴についてそれぞれ解説します。
コミュニケーションが苦手
自閉症の方は言葉による会話だけでなく、視線や表情、身振り手振りといった非言語的なコミュニケーションにも苦手さを抱えています。
例えば相手の気持ちをくみ取ったり、冗談や比喩を理解したりすることが難しく、意図せず失礼な言い方をしてしまうこともあります。
また一方的に話し続けてしまう、自分の関心のある話題に固執する、会話のタイミングがつかめないといった傾向も見られるのが特徴です。
これにより周囲と誤解やトラブルが生じやすくなることがありますが、本人に悪意があるわけではありません。
早期に適切なコミュニケーション支援を受けることで、徐々に社会的なやり取りがしやすくなることもあります。
言葉の遅れがみられる
自閉症の子どもには、言葉の発達に遅れが見られる傾向があります。
一般的な発達では1歳6か月頃から言葉を話し始めることが多いですが、自閉症の子どもは2歳を過ぎても話し始めない、言葉の数が極端に少ないといったケースが見られるのです。
また話し言葉が出ても意味のある会話が難しく、テレビや話し相手の言葉をそのまま繰り返す『エコラリア』という特徴が出ることもあります。
これは言葉の内容を理解して使っているわけではないことが多く、周囲が気付きにくい特徴のひとつです。
言葉の遅れの背景には、知的発達の遅れや集中力の偏り、感覚の違いなどが関係していることがあります。
できるだけ早く専門機関に相談し、言語訓練などの支援を受けることで、少しずつ言葉のやり取りがしやすくなることがあります。
特定の物事に対するこだわりやパターン化した行動
自閉症の方は物事に対して強いこだわりを持つことが多く、パターン化した行動がよく見られます。
例えば決まった順序でしか食事をしない、同じルートでしか通学・通勤できない、特定の服しか着たがらないなどです。
また同じ遊びを長時間繰り返す、特定の動画を何度も見続けるなど、一般的には飽きるようなことでも繰り返す傾向があります。
特に偏食や服の好みなど、日常生活に支障が出やすい面もあるため、周囲の理解と柔軟な対応が重要になります。
感覚過敏・鈍麻
自閉症の方には、音や光、触覚、味覚などの感覚に対して過剰に反応する『感覚過敏』や、逆に反応が乏しい『感覚鈍麻』が見られることがあります。
例えば音に敏感な子どもは掃除機の音や校内放送などを極端に嫌がり、耳をふさいでしまうことがあります。
衣服のタグや素材の刺激に敏感な場合もあり、着られる服が限られるケースも少なくありません。
一方、痛みや温度に鈍い場合、ケガをしても気づかずに放置したり、体温調節がうまくできず熱中症のリスクが高まったりすることもあります。
感覚鈍麻の子どもは、刺激を求めて自傷行為のような行動をとることもあるため注意が必要です。
感覚の違いは外からは分かりにくく、誤解されやすいため、周囲が正しく理解して必要に応じた環境調整を行うことが大切です。
なぜ?自閉症の発症の原因

自閉症は、生まれつきの脳の機能に違いがあることによって発症する発達障害です。
現在の医学では、これが原因と特定できるものはまだ明らかになっていませんが、主に『遺伝的要因』が大きく関係していると考えられています。
一方で、妊娠中の母体環境や出産時の状態といった『環境的要因』も、発症の一因として影響を及ぼす可能性が指摘されています。
自閉症は、親のしつけや愛情の有無によって引き起こされるものではありません。
これはすでに多くの研究で否定されており、家庭環境が原因とする考え方は誤りです。
ここでは遺伝的要因と環境的要因についてそれぞれ解説します。
遺伝的要因
自閉症の原因として最も強く関わっているとされているのが『遺伝的要因』です。
これは親から子に必ず自閉症が遺伝するという意味ではなく、脳の発達や神経の働きに影響する複数の遺伝子が関係しているということです。
近年の研究では、自閉症と関係があるとされる遺伝子がいくつも報告されています。
ただし、それらの遺伝子異常がすべての自閉症の発症につながるわけではありません。
相関関係の強い遺伝子の場合、単独でも発症に至るケースがありますが、相関関係の弱い遺伝子では複数の因子が重なった場合にのみ発症することがあります。
一卵性双生児の場合は、片方が自閉症でもう一方は健常であるケースも報告されており、遺伝だけでは説明しきれない部分もあることが分かっています。
環境的要因
自閉症の発症には、遺伝的要因に加えて『環境的要因』が関わっている可能性もあります。
ここでの環境的要因とは、具体的には妊娠中の喫煙、有機リン系農薩への曝露、妊婦や父親の高齢、低体重出生、早産などが挙げられます。
ただし、これらの要因だけで自閉症が発症することはありません。
あくまでも遺伝的要因が基盤にあり、そこに環境的な影響が加わることで、発症のリスクが高まる可能性があるという位置づけです。
つまり、環境的要因は引き金にはなっても、それ単独で自閉症を引き起こすわけではないのです。
また、育て方や親の愛情のかけ方が原因になることは一切ありません。
環境的要因に関する研究は現在も進められていますが、どれもまだ仮説の段階であり、断定はされていません。
子どもの特性を理解し、必要に応じた支援を受けることが大切です。
自閉症の診断時期・診断方法

自閉症は目に見える身体的特徴ではなく、行動やコミュニケーションの様子から判断されるため、診断は簡単ではありません。
しかし早期発見・早期支援がその後の成長に大きく影響することから、できるだけ早く気づくことが重要とされています。
ここでは自閉症の診断時期や診断方法について詳しく解説します。
自閉症の診断時期は1歳6か月から
自閉症の特性は、生後1歳6か月頃から少しずつ現れ始めることがあります。
特に1歳半健診の際に視線が合いにくい、指さしをしない、呼びかけに反応しない、笑い返さないといった様子が指摘されることがあります。
また言葉の遅れや強いこだわり、集団での遊びへの消極性など、日常の中で家族が違和感を覚えることも少なくありません。
ただし、これらの兆候が自閉症の子どもすべてに当てはまるとは限らず、逆に一部の子どもは言葉が早く出たり目をしっかり合わせたりすることもあるため、外見だけで判断するのは困難です。
そのため、少しでも気になる点があれば、早めに発達外来や児童精神科に相談することが大切です。
自閉症の診断方法
自閉症の診断では、『問診』『行動観察』『心理検査・知能検査』などが行われます。
まず重要なのが問診で、家庭や園・学校での子どもの様子について、保護者から詳しく話を聞きます。
育児記録や母子手帳、保育園の連絡帳などを持参するとより正確な情報提供ができるでしょう。
次に行われる行動観察では、子どもが遊んだり人と関わったりする様子を医師が直接見て、自閉症の特徴が表れているかどうかを判断します。
また心理検査や知能検査も重要で、知的発達の水準や認知特性を客観的に測るために実施されるのが『WISC-IV』や『田中ビネー知能検査V』などです。
これらを総合的に評価し、国際的な診断基準(DSM-5)に照らして診断が行われます。
ただし非典型なケースでは、DSM-5のみでは診断が難しいため、『CARS2(小児自閉症評価尺度)』という尺度を用いて重症度や診断の確度を高めることもあります。
自閉症の治療方法

自閉症の治療方法として、以下の4つが挙げられます。
- 環境調整
- 心理療法
- 認知行動療法
- 薬物療法
ここでは上記4つの治療方法についてそれぞれ解説します。
環境調整
環境調整とは、自閉症の人が感じるストレスや混乱を軽減するために、生活環境を本人の特性に合わせて整える方法です。
例えば予定の変更が苦手な人には、1日の流れを図や写真で見せて予測しやすい環境をつくります。
また大人の場合は職場でのコミュニケーションが負担になることも多いため、業務の明確化や静かな作業スペースの確保といった配慮が求められます。
環境調整は周囲の理解と協力が欠かせません。
家族や保育・教育現場、職場などが一体となり、本人の安心感を高める環境を作ることが大切です。
自閉症の方が持つ苦手を減らし、得意を活かすことで、ストレスを軽減しながら日常生活をスムーズに送れるようになるでしょう。
心理療法
心理療法は、言葉を使って感情や考えを整理し、心の安定をはかる治療法です。
自閉症の方は自分の気持ちをうまく表現したり、他人の気持ちを理解することが難しいことが多く、その結果として不安や混乱、怒りなどがたまりやすくなります。
心理療法では、カウンセラーや臨床心理士とともにその感情を丁寧に言語化し、本人の中にある混乱を少しずつ解きほぐしていきます。
個人で行う『個人療法』のほか、同じような特性を持つ人と話す『グループ療法』、家族全体で対応を考える『家族療法』などがあるのが特徴です。
これらの方法を通じて、自己肯定感を高めたり、対人関係のスキルを学んだりすることができます。
認知行動療法
認知行動療法は、考え方の癖や行動のパターンを見直し、より適応的な行動を取れるように支援する心理療法です。
自閉症の方は、物事を極端に解釈したり、特定の場面で不安や混乱を抱えやすい傾向があります。
認知行動療法では、「なぜ不安になるのか」「どういう場面で困りごとが起きやすいのか」など、自分自身の特性に気づくことから始めます。
そのうえで、状況への対処法や思考の整理のしかたを学び、少しずつ行動の幅を広げていくのが特徴です。
不安やこだわりの強さに対しても、客観的に見つめ直す機会となるため、生活全体のストレスを軽減する効果が期待されます。
療法は専門の心理士が行い、子どもから大人まで幅広い年齢層に対応しています。
薬物療法
薬物療法は、自閉症そのものを治すものではありませんが、日常生活での困りごとを軽減するために用いられる治療手段です。
例えば不安や緊張が強い場合、不眠が続く場合、自傷行為や他害行為がある場合など、生活に支障が出る症状に対して薬が使われます。
使用される薬の一例として、不安には抗不安薬やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、多動や衝動性には中枢神経刺激薬、強いこだわりや興奮には抗精神病薬などが挙げられます。
薬物療法はあくまで補助的な役割であり、環境調整や心理的な支援と併用することで効果を発揮するものです。
必要なときに必要な分だけを使用し、医師と相談しながら安全に進めていくことが大切です。
自閉症は遺伝的要因が大きく関係する発達障害
自閉症は「なぜなるのか」が完全には解明されていない発達障害ですが、主に遺伝的要因を基盤に、環境的要因が関係する場合があることが分かっています。
診断は早ければ1歳半頃から可能で、専門の医療機関による複数の検査や観察を通して行われます。
治療においては完治を目指すものではなく、環境調整や心理療法、認知行動療法、必要に応じて薬物療法などを組み合わせながら、本人がより良く生活できるよう支援していくことが重要です。
『かもみーる』は、医師監修のオンラインカウンセリングサービスを提供しています。
医師のほか、臨床心理士や公認心理士を中心とした有資格者のみ在籍しており、自閉症に関する相談も受け付けているため、ぜひ気軽にご予約ください。
▶カウンセラー(医師・心理士)一覧はこちら
▶新規会員登録はこちら