投稿日 2026年06月19日
「お酒の量を減らしたいけれど、なかなか自分ではコントロールできない」
「健康診断で指摘されたが、完全に断酒するのはハードルが高い」
そんな悩みを抱える方に向けた新しい治療の選択肢として、2025年9月1日に国内初となる減酒治療補助アプリ「HAUDY(ハウディ)」が販売開始されました。
これまでアルコール依存症の治療は「完全な断酒」が基本とされてきましたが、近年では「減酒(お酒の量を減らすこと)」を目標とする治療も重要視されています。
HAUDYは、スマートフォンを通じて患者さんの減酒をサポートし、健康保険が適用される「治療アプリ(プログラム医療機器)」です。
本記事では、精神科医の監修のもと、HAUDYの仕組みや臨床試験で示された効果、従来の薬物療法との違い、そして実際に処方を受けるための条件について解説いたします。
減酒治療補助アプリ「HAUDY(ハウディ)」とは?
HAUDY(販売名:CureApp AUD 飲酒量低減治療補助アプリ)は、株式会社CureAppが開発し、沢井製薬株式会社から販売されているアルコール依存症患者向けのプログラム医療機器です。
断酒ではなく減酒を目指す新しいアプローチ
アルコール依存症の治療目標は、長らく「生涯にわたる完全な断酒」とされてきました。しかし、断酒のハードルの高さから治療をためらったり、途中でドロップアウトしてしまったりする患者さんが多いことが課題でした。
そこで近年注目されているのが、「減酒(ハームリダクション)」という考え方です。完全にお酒をやめることが難しくても、飲酒量を減らすことで身体的・精神的・社会的なダメージ(害)を減らし、生活の質(QOL)を向上させることを目指します。HAUDYは、この「減酒」を治療目標とする患者さんを対象に開発されました。
患者アプリと医師アプリが連携する仕組み
HAUDYは、患者さんが日常的に使用する「患者アプリ」と、医師が診察時に使用する「医師アプリ」の2つで構成されています。
1 患者アプリ(日常のサポート) 患者さんは毎日、朝と夜にアプリを開きます。飲酒量の記録、個別化された学習コンテンツの閲覧、自身の飲酒行動の振り返りなどを通じて、お酒との付き合い方を客観的に見つめ直し、行動変容を促します。
2 医師アプリ(診察のサポート) 患者さんがアプリに入力したデータは、自動的に医師側のシステムに共有されます。医師は4週間に1回の診察時にそのデータを確認し、患者さんの頑張りを認めたり、目標の再設定を行ったりすることで、限られた診察時間でも質の高い心理社会的治療を提供できます。
HAUDYの治療効果(臨床試験データ)
HAUDYの効果は、国内で実施された第Ⅲ相無作為化比較試験(ALM-003)によって科学的に証明されています。
この試験では、アルコール依存症患者を「HAUDYを使用する群(介入群)」と「飲酒記録機能のみのアプリを使用する群(対照群)」に分け、12週間後の飲酒量の変化を比較しました。
参考:HAUDYの臨床成績
①多量飲酒日数(HDD数)の有意な減少
最も重要な評価項目である「多量飲酒日数(HDD数:1日の純アルコール摂取量が男性60g、女性40gを超える日数)」において、HAUDY使用群は対照群と比較して有意な減少を示しました。

12週時点でのベースラインからの減少量は、HAUDY使用群で-12.2日/4週となり、対照群(-9.5日/4週)と比べて統計学的に有意な差(p=0.0038)が認められました。
②総アルコール摂取量と低リスク飲酒量達成率の改善
HDD数だけでなく、総アルコール摂取量(TAC)や、低リスク飲酒量(RLDRL:男性40g/日以下、女性20g/日以下)を達成した患者の割合においても、HAUDYの有効性が確認されています。

・総アルコール摂取量(TAC)の変化:HAUDY使用群は-39.4g/日の減少(対照群は-33.3g/日)
・低リスク飲酒量達成率(RLDRL):HAUDY使用群は29.3%が達成(対照群は15.9%)。オッズ比は2.23倍
これらの結果から、HAUDYは日々の飲酒量を着実に減らし、健康リスクの低いレベルまで飲酒をコントロールする上で、確かな効果があることが分かります。なお、本アプリに起因する重篤な有害事象(副作用)は報告されていません。
従来の治療薬(セリンクロ等)との違い
アルコール依存症の治療には、心理社会的治療をベースに、補助として薬物療法が行われることがあります。減酒を目的とした代表的な薬として「セリンクロ(一般名:ナルメフェン)」がありますが、HAUDYとはどのような違いがあるのでしょうか。
比較項目 | 治療アプリ「HAUDY」 | 減酒薬「セリンクロ」 |
治療の目的 | 減酒(飲酒量の低減) | 減酒(飲酒量の低減) |
アプローチ方法 | 認知行動療法に基づく行動変容の支援(心理社会的治療の補助) | 脳内のオピオイド受容体に作用し、飲酒による快感を抑える |
使用のタイミング | 毎日(朝・夜の記録と学習) | 飲酒する1〜2時間前に頓服 |
主な副作用 | なし(機器の不具合等のリスクのみ) | 吐き気、めまい、傾眠(眠気)、頭痛など |
対象患者 | 断酒ではなく減酒が目標となるアルコール依存症患者 | 断酒ではなく減酒が目標となるアルコール依存症患者 |
アプリと薬は併用することも可能
HAUDYとセリンクロは、作用する仕組みが全く異なります。HAUDYは患者さん自身の「考え方や行動のクセ」に働きかけて習慣を変えるアプローチであり、セリンクロは「脳の報酬系」に直接働きかけてお酒への欲求を抑えるアプローチです。
そのため、どちらか一方を選ぶだけでなく、医師の判断によって両方を併用することも可能です。
例えば、「アプリで日々の記録と振り返りを行いながら、どうしても飲み会がある日だけは事前にセリンクロを服用する」といった、よりきめ細かな治療戦略が立てられるようになります。
HAUDYの処方を受けるための条件と費用

HAUDYは一般的なスマートフォンアプリのように、誰でも自由にダウンロードして使えるものではありません。医薬品と同様に、医師の診断と処方箋(処方コード)が必要です。
患者さんが満たすべき条件
HAUDYの処方を受けるには、以下の条件を満たす必要があります。
1 アルコール依存症の診断:ICD-10などの基準により、アルコール依存症と診断されていること。
2 減酒が適切な治療目標であること:重篤な臓器障害がある場合など、「直ちに完全な断酒が必要」と判断される状態ではないこと。
3 スマートフォンの操作が可能であること:ご自身のスマートフォンを持ち、日常的にアプリの操作ができること。
医療機関(施設)の要件
HAUDYはどの病院でも処方できるわけではありません。以下の要件を満たした医療機関を受診する必要があります。
1 厚生局へ「プログラム医療機器等指導管理料」の施設基準を届け出ていること。
2 日本アルコール・アディクション医学会などの「アルコール依存症に係る適切な研修」を修了した医師が在籍し、診察を行うこと。
治療にかかる費用(保険適用)
HAUDYは2025年9月より公的医療保険が適用されています。
3割負担の患者さんの場合、アプリの処方と指導管理にかかる自己負担額の目安は以下の通りです。
また、下記の費用に加えて、通常の再診料、処方が出る場合は処方料等がかかります。
HAUDYの利用期間は原則として6ヶ月間とされています。
なお、2026年6月1日より、HAUDYは正式にオンライン診療でも処方が可能となりました。
・初月:約2,500円〜3,000円程度(特定保険医療材料費+指導管理料+導入期加算)
・2ヶ月目〜6ヶ月目:月額 約2,400円程度(特定保険医療材料費+指導管理料)
HAUDYを用いた治療の流れ
実際に医療機関を受診し、HAUDYを使った治療を進めるフローは以下のようになります。

1 受診・相談:HAUDYを導入している精神科・心療内科・内科を受診し、お酒の悩みを相談します。
2 診断・適応確認:医師がアルコール依存症の診断を行い、減酒治療が適切かどうかを判断します。
3 HAUDYの処方:適応となれば、医師からアプリを利用するための「処方コード」が発行されます。
4 アプリの開始:ご自身のスマホにアプリをダウンロードし、コードを入力して毎日の記録を始めます。
5 4週ごとの診察:月に1回通院し、医師と一緒にアプリのデータを見ながら振り返りと目標設定を行います。
まとめ:1人で悩まず、まずは専門医へ相談を。
減酒治療補助アプリ「HAUDY」の登場により、アルコール依存症治療のハードルは大きく下がりました。
「断酒は無理でも、少しお酒を減らして健康を取り戻したい」と考える方にとって、スマートフォンで毎日寄り添ってくれるHAUDYは心強い味方になります。
お酒の飲み方で少しでも気になることがあれば、一人で抱え込まず、まずは減酒外来やアルコール専門外来を設けている精神科・心療内科へご相談ください。
かもみーる心のクリニックでは、対面診察あるいはオンライン診察にて、患者さん一人ひとりのライフスタイルに合わせた減酒治療のサポートを行っております。オンライン診療でのHAUDYの相談も可能ですので、ご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
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