森田療法について(その1)

更新日 2021年04月03日

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 皆さん、こんな経験はありませんか。 

「人前で緊張するので、集まりなどに出るのが辛い」 

「世間話が苦手で、人の輪に入れない」 

「汚れが気になり手洗いを続けたり、ガス栓や戸締りが気になったりする」 

「乗り物が苦手で、パニックになったり、不安で乗るのを避けてしまう」 

「日々漠然とした不安でつぶされそう」 

「なにかやろうとしても、うまくいかなかったらと考えると、恐くて動けない」「体の不調や心配事が頭から離れず、何も手が付けられない」 

他にもたくさんあると思いますが、この様な悩みの解決に有効なのが、日本で生まれ世界的に評価されている精神療法、森田療法です。ここでは、その森田療法について、何回かに分けて紹介します。 

森田療法は、1874年に高知県で生まれた森田正馬が、自らも苦しんだ体験から生み出したものです。 

森田は、旧制五高(現在の熊本大学)から東京帝国大学に進み、呉秀三教授のもとで精神医学を学びました。その後は、根岸病院医長や東京慈恵会医科大学精神医学講座の初代教授などを歴任しながら、強迫観念をはじめとして、不安や恐怖などの症状で苦しむ人々の治療を行ってきたのです。 

その間、1919年には自宅で患者と生活を共にする入院療法を行い、大きな効果が見られたため、そこから、後に森田療法と呼ばれる独自の療法が確立されました。  

最近では、当初の入院によるものだけでなく、外来での森田療法も確立され、現在では入院療法よりも多く行われています。参考までに、現在は少なくなってしまった入院森田療法をやっている、東京慈恵会医科大学森田療法センターのサイトを紹介しておきます。 

https://morita-jikei.jp 

 森田療法の元々の対象は、強迫や不安、パニックや身体症状など、かつて神経症と呼ばれていた症状ですが、今では慢性疼痛やアトピー性皮膚炎など、神経症以外の症状で苦しむ方々にも広く応用されています。 

では、この森田療法はどんな特徴を持っているのでしょうか。 

森田療法は、仏教や特に禅から生まれてきていると言われることもあるのですが、実際には森田が西洋の多くの精神療法を研究実践しながらたどりついた療法です。とは言え、東洋的な思想を反映しているようなところもあり、西洋で生まれた考え方とは大きく異なる側面を持っています。 

例えば、西洋の多くの療法では、不安や恐怖、緊張などは悩みの原因だとして、取り除くことを目指しますが、森田療法では、不安や緊張そのものを取り除こうとしたり、症状の原因を探したりはしないのです。 

むしろ不安や緊張などの感情は、人間としての自然な反応であり、いわば自然現象ととらえています。自然現象ですから、自分の意思ではどうすることもできないものだということです。 

不安や緊張、恐怖心などの不快な感情を、あってはいけないものだと考えて取り除こうとすると、そのことにばかり注意が向いてしまい、目の前のことが見えなくなってしまいます。そして、不快な感情がどんどん強くなり、身動きができなくなってしまいます。こうなってしまうと、そのような不快な感情に出合うシーンを避ける様にもなり、生活はどんどん縮小してしまうのです。まさに悪循環です。 

森田療法では、不安や恐怖は排除すべき対象ではなく、そのままの自分自身であり、自然なものとしてそのまま受け入れるという姿勢が基本で、症状を相手にしたり、立ち向かったり取り去ろうとしないということです。 

そして、自分の中で大きく膨らませてしまった不快な不安や緊張、恐怖などを、元々の等身大に戻して、不安なまま日常生活を送っていくのが、森田療法が目指す回復の姿です。 

このような考え方の根底には、人間も感情も自然そのものであり、不安も緊張も人の力の及ばないものであるとの考え方があります。 

自然は立ち向かったりコントロールできるものではなく、人は自然と一体となって生きていくという考えで、自らの中にある自然性、内なる自然に着目していると言えます。 

さらに森田療法の大きな特徴は、その不安や恐怖が生まれるのは、その人が持っている強い欲求があるからであり、一人ひとりが持つその欲求を引き出していくことです。この欲求のことを、森田は“生の欲望”と呼び、後述の“死の恐怖”と共に、“欲望と恐怖”と言う森田療法の基本概念を形成しています。 

そのため、森田療法が目指す治癒像は、単に症状が消えることだけでなく、一人ひとりの個性を発揮できる、自分らしい生き方を実現することだと言えます。 

たとえば、人の前で話をするときに、緊張してドキドキしてしまった。そんなとき、こんなことで緊張する自分はいけない、情けない人間だと思うと、なんとかして緊張を消そうと考えてしまいます。でも、何とかしなければとあがくことによって、時にはもっと緊張して頭が真っ白になってしまうこともあるでしょう。場合によっては、次からは、大切な仕事であっても人前を避けてしまい、生活範囲も狭まって、自己否定感で落ち込むことになってしまいます。 

そして、この悪循環が繰り返されていくのです。 

でも、この緊張はその状況で湧きあがってくる、自然現象そのものです。 

森田療法では、緊張してしまった時に、こんなことで緊張する自分はだめだという考え方を修正し、自然な現象である緊張などを消そうとせず、これが自分自身なのだと、そのまま受け入れていくのです。そして、緊張したまま、声が震えながらでも、その場で話したいことや話すべきことを伝えられるようになることを目指すのです。そして、この態度を“あるがまま”と呼んでいます。 

では、なぜその場でそんなに緊張してしまうのでしょうか。 

森田療法では、その緊張の背景には、人前でちゃんと話したいという、その人が実現したいと思っている強い欲求があると考えています。 

でも、ちょっとした緊張を感じることで、ちゃんと話したいと思っている自分がこんなことで緊張してしまうなんて、自分にとってはあってはならないことだと思い始めて、せっかくの欲求を見失ってしまうのです。 

緊張は自然現象で、良いとか悪いとかの評価の対象ではありません。むしろその緊張を生み出す元にある、ちゃんと話したいとか、自分を表現したい、周囲から認められたいなどの思いを自ら感じ取って、緊張している自分なりに、ゆっくりでも詰まりながらでも話してみたり、その場その状況で精一杯の努力をしてみることこそが、その人らしさが活かされた生き方と言えます。 

この様な独自の考え方を持つ森田療法ですが、どんな背景から生まれてきたのでしょうか。 

森田正馬は、高知県の香美郡兎田(現在の香南市野市町)で生まれ、教育熱心で厳格な父のもとで育ちました。子供のころから頭痛や心臓病への不安などで悩み、病弱なため通院もしていました。そして9歳の頃に、近所のお寺の極彩色の地獄絵図を見たことによって死後の世界の恐怖に直面し、そのあまりの恐ろしさから、どうやって死の恐怖を乗り越えるか、どうしたら恐怖に打ち克つ強い人間として生きていけるかを目指しました。しかし、その後の人生の中でいくつかの疾患も経験し、弟や息子の死の悲しみを体験し、晩年にはさらに重大な病と共に生き、それらを通じて“死は恐れざるを得ない”、“死の恐怖”は人がどんなに立ち向かっても、決して克服できるものではないという考えに至ったのです。 

そして、その死の恐怖と表裏一体となっているのが、自らの中に自然に湧きあがってくる強い欲望、すなわち“生の欲望”だと気づいたのです。 

このような森田自身の人生を背景に生まれたのが、森田療法です。 

不安や恐怖を排除せずにあるがままに向き合い、その恐怖と表裏一体である、より良く生きたいという健全な欲望を引き出し、その欲望に乗った自然な活動を導き出していく森田療法は、単なる治療法に留まらず、私達に生き方そのものを伝えていると言えるのです。  

森田療法を主軸にメンタルヘルス向上の活動を推進している、公益財団法人メンタルヘルス岡本記念財団のサイトも紹介しておきますので、参考になればと思います。 

 また、下記の厚生労働省のサイトにも簡単に森田療法の解説が載っています。 

では次回は、この森田療法の考え方や具体的な進め方などの説明をしてみましょう。