森田療法について(その2)

更新日 2021年04月03日

オンラインカウンセリング
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 前回は森田療法の概略について書いてみました。ここで初めて森田療法の存在を知った方もいらっしゃるかと思いますが、今回はもう少し具体的にご紹介します。 

1919年に森田正馬が自宅で始めた療法は入院によるものでしたが、現在では入院療法、外来療法、カウンセリング、更には自助グループによる森田療法の学習など、様々なシーンで森田療法が行われていたり、活用されています。 

それらの具体的なことを書いていく前に、少しだけ森田療法の進め方や手法についての説明をしておきたいと思います。 

多くの精神療法や心理学的なアプローチなどには、独自の手法というものがあり、定まったやり方で、一定の結果を得ていると思います。 

しかしながら、森田療法は少し異なっていて、きちんと決まった手法や型がないのです。当初の入院療法では一定の段階的なことが行われてはいましたが、それもそれらの手法が主役ではなく、その段階を通してたどり着く生き方が、森田療法の目指す姿なのです。 

そのような前置きをお伝えしたところで、実際の進め方を説明しましょう。 

まず、入院療法ですが、森田が始めた基本的な内容は、次のように四つの段階で進められていました。 

第一期の臥辱期、第二期の軽作業期、第三期の作業期、第四期の社会訓練期(複雑な実生活期)です。 

多くの書籍でこのように解説されていますので、森田療法と言うと、このような段階的なプログラムだと理解されている方も多いかもしれません。でも、森田療法は手法が重要なのではなく、いわゆる森田療法の体得とか、森田療法が目指す生き方にたどり着くことを目指しているので、その道筋は色々あると考えて下さい。 

そして、実はこの入院による治療は、現在ではほとんど実施されていないのです。 

入院療法は、森田が始めた以降、いくつかのところで行われてきましたが、広い施設の維持や経費など多くの課題のためと思われますが、残念ながら実施している機関は少しずつ減ってきて、現在はおそらく全国で数か所ではないかと思います。 

とは言え、創設時の入院療法として、それぞれの段階の中に森田療法のエッセンスが見つけられますので、具体的に紹介します。 

まず初めの臥辱期は、基本は一週間、面会や読書などもできず、食事とトイレ以外は一日中ただひたすら横になるのです。初めのうちは疲弊した心身の休息にもなりますが、横になり続けているうちに、様々な思いが浮かんでは消える葛藤の中、更に強い不安などにも襲われながら深く自己と向き合い、苦しみながら、次第に内に秘めていた“動きたい”という気持ちを感じ始めます。ただ寝ているだけとは言いながら、この過程に大きな意味があるのですね。 

次の軽作業期では、次々と浮かんでくる不快な感情を静かに持ちこたえながら、一人でできる簡単な作業や、周囲の自然などの観察をしていきます。このようなことを通じて、物ごとに向き合った時に、自分の中に自然と湧き上がってくる“何かをしたい”という感覚を感じ取り、そこからちょっと動き出す体験をしていくのです。 

森田は、このことを「感じから出発する」と言っていて、外からの指示によるものではなく、自発的な欲求にもとづく活動が促されていくという事です。 

また、日記による指導も行われます。日記には日々の行動を記録し、治療者がコメントを入れて返却しますので、自分の行動やその時に感じたことなどを振りかえることができます。 

第三期の作業期では、日記指導と共に、主として集団による作業を行い、不安などがありながらも、それにとらわれることなく、また消そうとすることもせず、自らの欲求に乗った自然な動きの広がりを体験していきます。そして、作業を通して、気分よりも目の前の実際の事に気持ちを向けるようになり、それまで自分の内面ばかりを向いていた注意が、どんどん外に向いてくることを実感していくのです。 

この第二期、第三期は、単に行動をしていくだけでなく、大きな気づきを得る時期と言えます。 

最終段階の社会訓練期(複雑な実生活期)では、外出も可能で、人よっては仕事や学校に通うこともあります。ここでは、気分に対するこだわりを離れ、社会に順応することに慣れながら、普段の日常生活に戻る準備をしていきます。 

このような一連の段階を経て、とらわれていた症状を消すことなく、不安や気分がどうであれ、自然な気持ちに促される活動の実感が身に付いていくのです。 

皆さんは、ここまで読んでなんとなく気づかれたかもしれませんが、ここでは各段階の具体的な進め方や形が重要なのではなく、その中から何を感じ、どんな気づきを得るかが大事なのです。 

入院療法をとても簡単に説明してしまいましたが、次に最近主流となっている外来の森田療法を説明しましょう。 

これは、入院療法でやっていた内容を、そのまま簡略的に外来で行うものではなく、また、外来療法として定型的に決まっているものでもありません。 

しかしながら、不快な感情を消そうとせず、むしろその感情を生み出す背景にある、よりよく生きたいなど、ありたい自分を目指す自分の中の欲求に気づき、そこを活かせるような自然な生き方を見出していくという意味では、入院療法と同じことを目指していると言えます。 

定型ではないと言っても、学会ではガイドラインというものも作られています。このガイドラインは、医療だけでなく様々な相談場面などでも参考にされていますが、進め方を固定的に決めているものではなく、状況により、様々な工夫や柔軟な対応が行われています。 

これはあくまでも専門家向けのものなので、ここでは詳しい説明は省きますが、基本的なステップとしては以下のようなことです。 

まずは、症状を理解することです。 

具体的には、不安や緊張など不快な感情を、あってはならないものとして消そうとすることで症状が生れてくることや、そこから悪循環が始まって更に症状が強まり、生活も縮小していくことなどを、面談などを通じて理解していきます。 

この一人ひとりの悪循環を理解するためには、実際にどのようなシーンでどんな感情が生まれ、どんな対応をしているかなども、具体的に考えていきます。 

この様にして、症状や苦しみの状況が明らかになってきたら、色々な感情に対する向き合い方を変えていくようにします。 

例えば人の前で緊張してしまった時など、今まではその不快な感情をなんとか消そうとしていたわけですが、それらの感情をやりくりしようとせずに、そのままにしておけるようになること、いわゆる“あるがまま”の態度を目指していくのです。さらに、不快な感情が生まれる背景には自分なりの欲求があることに気づき、その欲求に乗った自発的な行動に向かっていくようにしていきます。 

この過程で、感情に対する考え方が変わっていき、感情は自然現象であり、自然そのものであるという捉え方ができてきます。 

自然そのものである感情は、自分の思うようにコントロールできるものではありません。コントロールできないものをコントロールしようとしていた、言い換えれば不可能なことを可能にしようとしていたところから苦しみが生れてきているのです。そのため、不可能なことは手放し、自分にとって可能であることに対しては精一杯努力していく態度を身につけていきます。そして、不安や緊張があっても、そのままあるがままの態度で、自らの自然な感情に随った自分らしい生き方を実現していくのです。 

森田療法は、この様に外来での治療やカウンセリングの場で実践されているのですが、冒頭にも書いた自助グループ活動も盛んで、そこでは当事者同士がお互いに辛さを受け止め合いながら森田療法の学習を進め、症状の軽減だけでなく、より良い日常生活を送るヒントを得ています。 

森田が自宅で始めた入院療法ですが、現在はこの様に色々な場面で活用されています。そして、症状に苦しむ方だけでなく、広く多くの方々に人生の指針を伝えているのです。そのため、森田療法は、神経症の治療法に留まらず、生涯にわたって生き方を学び続けていけるものと言われているのです