PMSとは?症状・原因・治療方法などについてわかりやすく解説
更新日 2025年07月09日
PMS
「月経前になると気分が不安定になる」「月経前になると身体のだるさや眠気が続く」といったお悩みを持つ方は少なくありません。
これらの不調は、『PMS(月経前症候群)』の可能性が考えられます。
PMSとは、生理の3〜10日前に心や体に現れるさまざまな不調のことです。
症状の種類や重さには個人差があり、中には日常生活に支障をきたすほど深刻なケースもあります。
この記事では、PMSの症状や原因、治療方法などについて解説します。
PMSによく似た症状が現れる疾患もまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
PMS(月経前症候群)とは?

PMSとは、月経が始まる3〜10日前に現れる心や体のさまざまな不調のことです。
英語では『Premenstrual Syndrome』と表記され、日本語では『月経前症候群』や『月経前緊張症』とも呼ばれています。
月経の開始とともに自然と症状が軽くなり、消失していくのが特徴です。
PMSの症状は非常に多岐にわたり、200種類以上あるといわれています。
イライラ感や憂うつな気分、不安感といった精神的な不調に加え、乳房の張り、腹部の膨満感、頭痛、腰痛、肌荒れ、疲労感などの身体的な症状も見られます。
これらの症状は人によって異なり、またその月によっても変化するため、自己判断が難しいケースも少なくありません。
日本では、月経のある女性のうち約70〜80%が月経前に何らかの不調を感じているとされており、約5%の女性は日常生活に支障をきたすほど重い症状を抱えていると報告されています。
(参考:月経前症候群、月経前不快気分障害の女性の臨床的特徴とストレス・コーピングについて)
それにもかかわらず、PMSという言葉自体の認知度は高くないのが現状で、不調の原因がわからず悩み続けている女性も多く存在しています。
PMSが起こるメカニズム

PMSがなぜ起こるのかは現時点でははっきりとは解明されていませんが、有力な説として、月経周期における女性ホルモンの変動が関係していると考えられています。
特に『エストロゲン(卵胞ホルモン)』と『プロゲステロン(黄体ホルモン)』という2種類のホルモンバランスの変化が、心身の不調を引き起こす要因になっているとされます。
月経周期の前半は、エストロゲンが優位に働き、排卵に向けて心身が安定しやすい時期です。
エストロゲンは肌や血管、骨の健康を保つなど、女性らしさを支えるホルモンでもあります。
ところが排卵後はエストロゲンの分泌量は減少し、代わってプロゲステロンが多くなります。
このプロゲステロンには体温を上げる、水分を体内にため込む、食欲を増やすなどの働きがあり、人によってはこの変化がむくみや倦怠感、イライラなどの不快症状を引き起こすのです。
さらに、女性ホルモンの急激な変化は脳内の神経伝達物質にも影響を与えるとされています。
例えば『セロトニン』という気分を安定させる物質が減少すると、気分の落ち込みや不安感、怒りっぽさといった精神的な症状が出やすくなります。
さらに黄体期には血糖値の調節にも影響が出るため、インスリンの働きが鈍くなり、低血糖になりやすくなるのです。
これが月経前に甘いものを無性に食べたくなる原因の一つです。
またPMSの症状は体質やそのときの体調、生活習慣によっても異なり、症状の出方は個人差があります。
複数の要因が絡み合って発症するため、単純にホルモンのみが原因とは言い切れませんが、月経周期と密接な関係があることは間違いないでしょう。
PMSの症状を悪化させる要因

PMSの症状を悪化させる要因として、以下の5つが挙げられます。
- ストレス
- アルコール
- カフェイン
- タバコ
- 性格や考え方
ここでは上記5つの要因についてそれぞれ解説します。
ストレス
PMSの症状は、日常のストレスによって悪化することがあります。
特に月経前は心の安定を保つ神経伝達物質である『セロトニン』の分泌が減少するため、気分の落ち込みやイライラが起こりやすい時期です。
そこに家庭内の問題や仕事上のトラブル、人間関係のストレスなどが重なると、情緒の乱れがさらに激しくなり、精神的に大きな負担となります。
またストレスは自律神経のバランスを崩す原因にもなり、心身を緊張させる交感神経が優位になることで、だるさや不眠、頭痛などの身体的症状も悪化しやすくなります。
月経前は無理をせず、タスクを詰め込みすぎないようにし、意識的にリラックスする時間を設けることが大切です。
アロマやマッサージ、軽いストレッチなどで副交感神経を優位に保つことで、PMSの症状を緩和しやすくなるでしょう。
アルコール
月経前は血糖値を下げるホルモン『インスリン』の効果が弱くなるため、体が低血糖になりやすい状態です。
このタイミングでアルコールを摂取すると、肝臓がアルコールの分解に多くのエネルギーを使い、ブドウ糖の供給が後回しになることで、血糖値がさらに不安定になります。
これによりめまいや集中力の低下、疲労感、さらには強い空腹感などが引き起こされ、PMSの不快症状が悪化する恐れがあるのです。
特に甘いお酒や大量の飲酒は血糖値の急降下を招きやすく、イライラや情緒不安定にもつながります。
月経前の時期はアルコールの摂取を控えるか、普段よりも量を大幅に減らすことが望ましいでしょう。
飲むとしても少量にとどめて、体に負担をかけないようにすることが大切です。
カフェイン
コーヒーや紅茶、エナジードリンク、チョコレートに含まれるカフェインには覚醒作用がありますが、月経前には特に注意が必要です。
過剰に摂取すると神経を刺激し、イライラや焦燥感、不眠の原因になることがあります。
またカフェインには血管を収縮させる作用があるため、適量であれば片頭痛を和らげる効果が期待できますが、月経前の摂取には注意が必要です。
頭部周辺の筋肉の緊張により、緊張型頭痛や冷えを悪化させる可能性もあるためです。
また利尿作用により体の水分バランスが乱れることもあるため、むくみ対策として取り入れる場合も量に注意しましょう。
特に就寝前のカフェイン摂取は睡眠の質を下げる要因となるため、なるべく控えることをおすすめします。
タバコ
喫煙はPMSを悪化させる要因の一つとされています。
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、全身の血流を悪くします。
その結果、冷え性がひどくなったり、頭痛や肩こり、腹部の違和感が強くなったりすることがあるのです。
また、喫煙は自律神経の乱れを引き起こしやすく、精神的なバランスも崩れやすくなります。
月経前はもともと交感神経が優位になりがちなため、タバコの刺激が拍車をかけ、イライラや不眠、集中力の低下などが強く現れる恐れもあるでしょう。
症状の軽減を目指すのであれば、ぜひこの機会に禁煙を検討してみてください。
性格や考え方
PMSの症状は、性格や考え方の傾向とも深く関係しているといわれています。
特に真面目で几帳面、完璧主義で自分に厳しいタイプの人は、精神的な負担を感じやすく、ホルモンの影響を受けやすい傾向があります。
これらの性格の人は、環境の変化や思い通りにならない出来事に強く反応してしまうため、月経前の不安定な時期には症状が悪化しやすくなるのです。
PMSとうまく付き合っていくためには、「完璧でなくても大丈夫」という考えを持ち、自分に優しく接することが大切です。
日々の小さなストレスを溜め込まず、良い方向に気持ちを切り替える習慣をつけましょう。
PMSの主な症状

PMSでは、心と体の両面にさまざまな不調が現れます。
それぞれにどのような不調があるかを具体的に把握しておくことで、症状が出た際に慌てず対応できるようになるでしょう。
ここでは、代表的な精神的・身体的症状についてそれぞれ解説します。
精神的症状
PMSでは、精神的な不調が目立つ人も多く、日常生活に支障をきたすことがあります。
代表的な精神的症状は以下の通りです。
- 普段気にならないことに対してもイライラする
- 怒りっぽくなり人に当たる
- 涙もろくなる
- 気分が沈み憂鬱になる
- 強い不安を感じる
- 集中力が低下する
- 無気力になる
- 寝つきが悪くなる、あるいは過眠傾向になる
これらの症状は、月経前に減少するセロトニンなどの神経伝達物質の影響と考えられています。
特に精神症状が重い場合は『PMDD(月経前不快気分障害)』の可能性もあるため、医療機関への相談も検討しましょう。
感情の波が大きくなっていると感じたときは、自分を責めすぎず、まずは心を休めることが大切です。
身体的症状
PMSでは身体的症状も現れます。
代表的な身体的症状は以下の通りです。
- 乳房の張りや痛み
- 肌荒れやニキビ
- 下腹部の張り
- 体がだるい
- 生理痛、腹痛
- 頭痛
- 吐き気やめまい
- 肩こり
- むくみ
- 下痢や便秘
- 食欲増加
身体症状がつらいときは無理に活動せず、体をしっかり休めましょう。
日々の体調の記録をつけておくと、症状の傾向が把握しやすくなり、セルフケアにも役立ちます。
PMSに似た症状が現れる疾患

PMSに見られる心身の不調は他の疾患と似た症状があるため、見分けがつきにくいことがあります。
具体的な疾患としては、以下の3つが挙げられます。
- PMDD(月経前不快気分障害)
- 月経困難症
- 更年期障害
ここでは上記3つの疾患についてそれぞれ解説します。
PMDD(月経前不快気分障害)
PMDDはPMSの中でも特に精神的な症状が強く現れる疾患です。
月経前に現れる強い抑うつ気分や不安、感情の起伏の激しさなどが特徴で、通常のPMSとは異なり、本人の意思ではコントロールが難しい状態に陥ることがあります。
この疾患は1994年に正式な診断名として認定され、現在では『特定不能のうつ病性障害』として精神疾患の一種に分類されています。
強い精神症状が月経前に現れる場合は、PMDDの可能性を視野に入れて医師に相談しましょう。
月経困難症
月経困難症は月経中に強い下腹部痛や腰痛、吐き気、頭痛、倦怠感などの症状を伴う疾患です。
PMSは月経の前に現れるのに対し、月経困難症は月経期間中に症状が出るのが特徴です。
特に寝込んでしまうほどの激しい痛みや学校や職場に行けないほどの不調が続く場合には、この疾患が疑われます。
月経困難症には『機能性月経困難症』と『器質性月経困難症』があり、前者は明確な病変がなく思春期に多くみられるもので、後者は子宮内膜症や子宮筋腫などの疾患が原因となるものです。
PMSと混同されがちですが、月経中の症状であるかどうかが見極めのポイントです。
更年期障害
更年期障害は主に40代半ばから50代にかけて見られる心身の不調で、閉経前後に現れるさまざまな症状の総称です。
PMSと同じく、イライラや気分の落ち込み、のぼせ、動悸、倦怠感などが出るため混同されやすいですが、年齢や月経の状態によって見分けることが可能です。
更年期に入ると女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に減少し、ホルモンバランスが乱れることで、体温調節や感情の安定に支障が出るようになります。
さらに仕事や家庭などの社会的な役割の変化やストレスも、症状を悪化させる要因になります。
更年期障害は月経の有無に関係なく症状が起こる傾向があるため、不調が慢性的に続く場合は医療機関を受診しましょう。
PMSの治療方法

PMSの主な治療方法は以下の4つが挙げられます。
- 生活習慣の改善
- 排卵抑制療法
- 漢方療法
- 対症療法
ここでは上記4つの治療方法についてそれぞれ解説します。
生活習慣の改善
PMSの症状を和らげるためには、生活習慣の見直しがとても大切です。
具体的なポイントは以下の通りです。
- 睡眠を十分にとる
- 適度に運動する
- 栄養バランスの整った食事を摂る
- タンパク質の摂取量を増やす
- 糖質の摂取量を減らす
- 喫煙・飲酒・カフェインの摂取を控える
- ストレス解消をする
上記に加え、日々の気分や体調を記録しておくことで、症状に対処しやすくなります。
排卵抑制療法
PMSの主な原因の一つとされる女性ホルモンの急激な変動に効果的なのが、排卵抑制療法です。
低用量ピルなどのホルモン製剤により排卵そのものを一時的に抑えることで、ホルモンバランスの波を緩やかにし、症状を軽減できます。
低用量ピルは服用を中止すれば排卵機能が回復するため、将来の妊娠に影響しないことが示されています。
(参考:低用量経口避妊薬、低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤ガイドライン(案))
症状の重いPMSや毎月同じようなサイクルで強い不調が出る方には、この方法が有効な選択肢となることがあります。
ただしホルモン剤は体質によって合う・合わないがあるため、必ず医師の指示のもとで使用するようにしましょう。
漢方療法
PMSの治療法の一つとして、漢方療法も広く取り入れられています。
漢方薬は身体全体のバランスを整えることを目的としており、特定の症状だけでなく、心身の不調を改善していく点が特徴です。
PMSでは気分の落ち込みやイライラ、倦怠感、むくみなど、複数の症状が同時に現れることが多いため、漢方との相性が良いとされています。
PMSの治療に使われる漢方には加味逍遥散(かみしょうようさん)や当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、抑肝散(よくかんさん)などさまざまな種類があり、それぞれ体質や症状に応じて選ばれます。
漢方薬は比較的副作用が少ないとされていますが、自己判断せず、医師や薬剤師に相談しながら使用することが大切です。
対症療法
対症療法は、PMSの症状を和らげるための治療法です。
例えば腹痛や頭痛がつらい場合には鎮痛剤、むくみが気になるときは利尿剤を使って一時的に症状を緩和します。
精神的な不調が目立つ場合には、抗不安薬やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が処方されることもあります。
SSRIは脳内のセロトニン濃度を高め、気分の安定を促す作用があるため、イライラや抑うつ感の軽減に効果的です。
対症療法は症状の一時的な改善にはつながるものの、根本的な原因を解決するものではありません。
あくまで一時的なサポートとして、他の治療方法と併用することが望ましいといえるでしょう。
PMSかも?と思ったら早めに医療機関を受診しましょう
PMSは女性の多くが抱える身近な不調でありながら、そのメカニズムや症状の多様さから気づきにくいこともあります。
生活習慣の見直しや適切な治療を取り入れることで、症状を和らげることが可能です。
また症状が重い場合はPMDDや月経困難症、更年期障害など他の疾患の可能性もあるため、早めに医療機関を受診することが大切です。
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