人の話を聞かない人に対して、「わざと無視しているのでは?」と感じたことはありませんか。
しかし実は、その背景には発達障害や聴覚情報処理障害、精神的なストレス、脳機能の特性などが関係していることもあります。
本人の努力だけでは改善が難しい場合もあり、周囲とのすれ違いやトラブルを引き起こす原因になることも少なくありません。
この記事では、人の話を聞かないように見える行動の原因について解説します。
ADHDやASDの話し方の特徴もまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
発達障害や病気?人の話を聞かない行動の理由

人の話を聞かないという行動の原因として、以下が挙げられます。
- ADHDやASDなどの発達障害
- 聴覚情報処理障害
- 精神的要因
- 脳機能の低下
- 話の内容に興味がない
- コミュニケーションスキルが未熟
ここでは上記6つについてそれぞれ解説します。
ADHDやASDなどの発達障害
人の話を聞かないように見える行動は、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)などの発達障害が関係しているかもしれません。
ADHDは注意散漫になりやすく、外部の刺激にすぐ気を取られてしまい、相手の話に集中し続けるのが難しい傾向があります。
また、衝動的に話を遮ったり、話の途中で別の行動を始めたりすることもあります。
これは本人の意思や性格の問題ではなく、脳の特性によるものです。
一方、ASDのある人は、会話における非言語的な要素(表情や雰囲気など)を理解するのが難しく、また言葉の裏にある意図を読み取るのが苦手な場合があります。
その結果、会話の意図を把握できず「聞いていない」と受け取られることがあります。
聴覚情報処理障害
聴覚情報処理障害は、聴力に問題はないものの、脳が音を適切に処理できない状態です。
例えば雑音の多い場所では話し声だけを聞き取るのが難しい、早口の会話や滑舌の悪い話し方に対応しづらいなどの特徴があります。
複数人が同時に話していると混乱し、誰が何を言っているのか理解できなくなることもあります。
また、長話や複雑な内容を一度に聞くと、内容が頭に入らず途中で混乱することも少なくありません。
聴覚情報処理障害のある人は「聞こうとしているのに聞こえない」「音がバラバラに感じられる」といった感覚を抱えることが多く、話を理解すること自体が困難です。
このような背景を知らないと、「話をちゃんと聞いていない」と誤解されやすいため、周囲の理解と配慮が重要になります。
精神的要因
人の話を聞かないように見える行動は、精神的な状態によって引き起こされることがあります。
例えば強いストレスや不安、うつ状態にあると、注意力や集中力が低下しやすくなります。
内面的な悩みや不安が大きいと、頭の中がそのことでいっぱいになり、他人の話が耳に入ってこない状態になるのです。
また、疲労や睡眠不足も注意力の低下を招き、話に集中できなくなります。
こうした精神的な要因は一時的なものもありますが、長期間続くようであれば、専門機関への相談が必要になることもあります。
本人のやる気の問題と見なされがちですが、心理的な負担が原因である場合には、叱責や指摘では改善につながりません。
周囲の理解と適切な治療が必要になります。
脳機能の低下
高齢者や脳の病気を抱える人に「人の話を聞かない」行動が見られる場合、脳機能の低下が関係していることがあります。
加齢による認知機能の衰えや、脳卒中、頭部外傷、認知症などによって、記憶力や注意力、判断力が低下することがあります。
これによって話の内容を理解できなかったり、途中で話を忘れてしまったりするため、結果的に「話を聞いていない」ように見えるのです。
また、聴力や視力の低下も影響します。
相手の声が聞こえにくい、表情や口の動きが見えにくいといった物理的な要因により、会話の理解が難しくなることがあります。
こうした変化は、本人の性格や意識によるものではなく、加齢や疾患による機能低下が原因です。
そのため無理に話を理解してもらおうとするよりも、環境調整や適切な医療的サポートが重要になります。
話の内容に興味がない
話を聞かない原因として、話の内容そのものに興味がない場合もあります。
人は誰しも、自分の興味や関心がある話題には自然と注意が向きますが、反対に興味のない話題には集中しにくくなる傾向があります。
特に子どもや思春期の若者では、親や教師の話を「つまらない」と感じ、意図的に聞き流すことがあるのです。
また、大人であっても、自分にとって関心の薄いテーマには注意を向けづらいものです。
このような場合、「聞いていない」のではなく「聞く必要性を感じていない」「関心が向かない」といった心理が背景にあります。
ただし、こうした態度が続くと、信頼関係や対人関係に悪影響を及ぼす可能性があります。
相手との関係性や話し方、話の内容に工夫を凝らすのも、意識を向けてもらうための大切な要素です。
コミュニケーションスキルが未熟
人の話を聞かないように見える理由の一つとして、コミュニケーションスキルの未熟さが挙げられます。
会話には、相手の話を途中で遮らずに最後まで聞く、相槌を打つ、内容に対して適切な反応を返すといったルールやマナーが含まれます。
これらのスキルが十分に育っていないと、話を聞いていないように見えたり、会話が一方通行になったりするのです。
特に子どもや社会経験が少ない人の場合、こうしたスキルをまだ身につけていないことがあります。
また家庭や学校での対話経験が少ないと、相手の話を理解しようとする姿勢や、聞き取る力が十分に育まれないこともあります。
この場合は叱るのではなく、少しずつ練習を通じてスキルを身につけることが大切です。
ADHDの話し方・聞き方の特徴

ADHDの話し方・聞き方の特徴として、以下が挙げられます。
- 会議や研修中に集中が途切れる
- 話を最後まで聞かずに遮る
- 重要な指示や情報を聞き逃したり忘れたりする
- 話が飛躍したり脱線したりする
- 相槌や表情による反応が少ない
ここでは上記5つの特徴についてそれぞれ解説します。
会議や研修中に集中が途切れる
ADHDの特性の一つに「注意の持続が難しい」という点があります。
特に会議や研修といった長時間にわたる説明や話し合いの場では、途中で集中力が切れやすく、話の内容が頭に入らなくなることがよくあります。
これは外部の音や視覚的な刺激に注意が逸れてしまうほか、自分の中に浮かぶ考えに気を取られることが原因です。
結果として、話を聞いていないように見えたり、突然関係ない発言をしてしまったりすることもあります。
本人としては真面目に聞こうという意思があっても、脳の働き方の違いにより集中を維持するのが困難な場合があります。
話を最後まで聞かずに遮る
ADHDの人は衝動性の影響で、会話の中で相手の話が終わる前に割り込んでしまうことがあります。
話を聞いているうちに、自分の意見や関連するエピソードが頭に浮かび、それをすぐに口に出したくなるのです。
これは「相手の話を無視している」という意図があるわけではなく、思いついたことを忘れないうちに伝えようとする自然な衝動によるものです。
ただし、繰り返し話を遮ることで相手に不快感を与えたり、会話の流れを乱したりすることもあるため、相手の話を最後まで聞く練習が必要になります。
重要な指示や情報を聞き逃したり忘れたりする
ADHDの人は、一度に多くの情報を処理したり、記憶に留めたりするのが苦手な傾向があります。
複数の指示を一度に受けた場合に混乱してしまったり、大事な部分を聞き漏らしてしまったりすることも珍しくありません。
また、その場では理解したつもりでも、数時間後には内容を忘れてしまっていることもあります。
話が飛躍したり脱線したりする
ADHDの人は思考のスピードが非常に速く、次々に関連するアイデアや話題が浮かんできます。
そのため、話しているうちに話題がどんどん飛び、会話の流れがわかりにくくなることがあります。
自分では一貫した話をしているつもりでも、聞き手にとっては話の脈絡がつかみにくく、「話が飛びすぎて分かりにくい」と感じられることが少なくありません。
特に雑談ではこの傾向が強く現れやすく、一方的に話しすぎてしまう場合もあります。
相槌や表情による反応が少ない
ADHDの人は、会話中に適切なタイミングで相槌を打ったり、表情で反応を示したりすることが少ない傾向があります。
これは相手の話を処理することに集中していて非言語的な反応まで意識が向かない、あるいはそもそも非言語コミュニケーションの重要性を認識しづらいという要因が関係しています。
その結果、相手からは「聞いているのか分からない」「関心がなさそう」と受け取られてしまうことがあるのです。
しかし、実際には話に集中しているからこそ無表情になるというケースも多く、決して無関心というわけではありません。
ASDの話し方・聞き方の特徴

ASDの話し方・聞き方の特徴として、以下の5つが挙げられます。
- 言葉の速さやトーンなどの抑揚が少ない
- 言葉を文字通りの意味で受け取ってしまう
- 場の空気が読めない
- 一方的に話続けてしまう
- 言葉選びが独特
ここでは上記5つの特徴についてそれぞれ解説します。
言葉の速さやトーンなどの抑揚が少ない
ASDの人は話すときの声のトーンや速さ、抑揚に乏しい傾向があります。
感情がこもっていないように聞こえるため、相手に冷たい印象を与えてしまうこともありますが、本人にそのつもりはないケースが多いです。
これは感情を声に乗せる、相手に合わせて話し方を変えるといった非言語的な調整が難しいという特性に起因しています。
機械的な口調と受け取られることもあり、周囲との誤解や距離感を生む原因になることも少なくありません。
また声の大きさやリズムが一定であるため、長時間聞いていると単調に感じられることもあります。
このような話し方は脳の特性からくるものであり、悪意ではありません。
言葉を文字通りの意味で受け取ってしまう
ASDの人は言葉をそのままの意味で受け取る傾向があり、比喩表現や冗談、皮肉などを理解するのが苦手です。
例えば「適当にやっておいて」「いい感じに仕上げて」といった曖昧な表現で指示されると、意味が分からず混乱してしまうことがあるのです。
日常会話には曖昧な表現が多く使われますが、それらを理解するには文脈や感情の読み取りが必要で、ASDの人にとっては非常に負担となります。
そのため曖昧な指示や遠回しな言い方では正確に意図が伝わらず、「話が通じない」「指示が入っていない」と誤解されることもあります。
場の空気が読めない
ASDの人は表情や視線、雰囲気などの非言語情報を読み取ることが苦手な傾向があるため、場の空気を把握するのが難しい場合があります。
そのため真剣な場面で冗談を言ってしまったり、不適切なタイミングで発言したりすることがあります。
これは相手の感情や意図を瞬時に察するのが難しいこと、また、その場にふさわしい言動がどういうものか判断しにくいという特性によるものです。
さらに相手との距離感を測るのが難しく、初対面でも馴れ馴れしい口調になったり、逆に親しい相手に対してもずっと丁寧語を使い続けたりなど、コミュニケーションがぎこちなく見えることもあります。
一方的に話続けてしまう
ASDの人は、自分の関心のある話題になると一方的に話し続ける傾向があります。
相手の表情や反応から関心の有無を読み取ることが難しく、自分の話が退屈に感じられていることにも気づきにくいのです。
また会話のキャッチボールが苦手で、相手が話すタイミングを逃したり、途中で遮って話してしまったりすることもあります。
こうしたコミュニケーションが続くと、「人の話を聞かない」「自分のことばかり話す」と受け取られてしまうことがあり、対人関係での誤解を招く原因になることがあります。
言葉選びが独特
ASDの人は、語彙の使い方や表現方法が独特であることが多いです。
文語調の硬い言葉を日常会話に使ったり、専門的な用語を頻繁に使ったりすることがあり、相手にとっては「話し方が不自然」「わかりにくい」と感じられることもあります。
また興味のある分野に偏った語彙を使うため、特定の話題では非常に詳しい一方で、一般的な表現や比喩を理解したり使いこなしたりするのが苦手なケースもあります。
相手との言葉の使い方のギャップが会話の行き違いにつながることもあるため、周囲の人がその特徴を理解して受け止める姿勢を持つことが大切です。
人の話を聞けないという悩みに対する本人と周囲の対処法

人の話を聞けないという悩みは、適切な対処法を取り入れることで改善につなげられます。
ここでは本人と周囲の人それぞれができる対処法について解説します。
本人ができる対処法
本人ができる対処法として、以下が挙げられます。
- メモを取る習慣をつける
- 静かで集中できる環境を選ぶ
- 重要な部分は復唱する
- 分からない部分はすぐに質問する
- 信頼できる相手に特性を伝える
人の話を聞けないという悩みがある場合は、自分の特性を理解したうえで、環境を整えたり相手とのコミュニケーションを工夫したりすることが大切です。
もし可能であれば、信頼できる相手に特性を伝えておくと良いでしょう。
自分の特性と必要な配慮をあらかじめ伝えておくことにより、相手の理解を得やすくなるだけでなく、円滑なコミュニケーションがとりやすくなります。
周囲の人ができる対処法
周囲の人ができる対処法としては、以下が挙げられます。
- 簡潔に、かつ明確に話す
- メモや図などの視覚情報を併用する
- 重要な情報は繰り返し伝える
- 理解度を確認する
- 肯定的な言葉をかける
伝え方を工夫したり相手の特性を理解したりすることにより、より円滑に情報を伝えやすくなります。
相手が話を理解できない場合にも「どうして分からないの?」と責めるのではなく、「ここは難しいからもう一度説明するね」といったように、肯定的な言葉を選びましょう。
「どうすれば伝わるか」に意識を向けて工夫することが大切です。
人の話を聞かない行動で悩む場合はカウンセリングの利用を検討しましょう
人の話を聞かないという行動は、意図的ではなく脳の特性や環境、精神的な要因によって起こっていることがあります。
本人の工夫や周囲の配慮によって改善が見込めることがありますが、対人関係の悩みやストレスが蓄積している場合には、専門家の支援を受けることも大切です。
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