何度言っても分からない大人は発達障害?考えられる特性と対応法

更新日 2025年04月30日

発達障害
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職場や家庭で「何度言っても分かってもらえない」と感じる場面は、多くの人が経験する悩みのひとつではないでしょうか。

しかし、その背景には発達障害に関連する情報処理や認知の特性が関係している可能性があります。

大人の発達障害は外見からは判断しにくいため誤解されやすく、社会的な孤立につながるケースも少なくありません。

この記事では、「何度言っても伝わらない」という現象の背景をはじめ、大人に見られる特徴と発達障害の関係や周囲との接し方、支援などについて紹介します。

伝え方や大人の発達障害について疑問や悩みのある人は、ぜひ参考になさってください。

「何度言っても伝わらない」の背景とは?

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職場や家庭で何度説明しても伝わらない、同じミスを繰り返すといった状況に直面すると、相手の能力や意欲に問題があるのではと感じるかもしれません。

しかし、発達障害の特性が理解のズレにつながっている可能性があります。

ここでは発達障害の観点から、「何度言っても伝わらない」の背景について紹介します。

情報の定着が難しい理由

発達障害のある人は、相手の話を正確に聞き取っても記憶に定着させにくい場合があります。

これは発達障害の特性によるものであり、「聴覚情報の処理や作業記憶の働きが安定しにくい」という一面があるためです。

例えば、口頭で複数の指示を一度に伝えられた場合、情報の一部しか保持できなかったり、話の順序が入れ替わったりすることがあります。

そのようなケースは本人の努力や意識の問題、または不注意などではなく、脳の処理の特性に由来していると考えられています。

特に、以下のような伝え方をすると正確な情報が伝わりにくいため、注意が必要です。

• 具体的ではない曖昧な表現による指示
• 話の前後関係が複雑

このような場合、内容の理解や情報の保持が混乱する可能性があるため、意思の疎通にズレがあると感じたら、改めて伝え直す・聞き直すなどするとよいでしょう。

感覚のズレと注意の切り替え

発達障害の中には、周囲の刺激に対して感覚が過敏、または鈍感な特性を持つ人がいます。

特に自閉スペクトラム症(ASD)ではこうした特性が多いとされ、ADHDでも一部に見られることがあります。

このような場合、注意の切り替えや維持に影響を及ぼしやすい点に注意が必要です。

例えば、周囲の音や視覚的な刺激が多い環境では、注意がそちらに向いてしまい、会話の内容に集中しづらくなることがあります。

また、本人の興味・関心が特定の対象に強く向いているタイミングだと、ほかの情報が入りにくくなることも少なくありません。

このような感覚や注意のズレが積み重なり、「話を聞いていない」「指示が伝わらない」と誤解されることがあるでしょう。

周囲との認識のズレ

発達障害のある人とのやり取りでは、「伝えたつもり」「理解しているはず」という前提がすれ違いの原因となる恐れがあります。

口頭での指示が記憶に残りづらかったり、曖昧な表現を誤って解釈したりすることにより、期待された行動と実際の行動が一致しない場合があるためです。

また、本人は「聞いた内容を理解して行動した」と思っていても、細部の認識が異なっており、求められた結果を出せないケースも見られます。

このようなすれ違いが繰り返されると、周囲の誤解が広がり、本人にとっても大きな負担になってしまうでしょう。

円滑な関係を築くためには、一方的な伝達にとどまらず、互いの理解を確認し合う姿勢が求められます。

「努力不足」と見なされる誤解

注意の持続が難しかったり、情報の定着ができていなかったりする場合には、意識的に努力していても結果につながらないという点に理解が必要です。

何度同じことを言っても伝わらない、指示を守れないといった行動は、周囲からは「やる気がない」「ふざけている」と受け取られることがありますが、実際には本人も苦しんでいるケースが少なくありません。

このような状況を本人の意欲や性格に起因する問題だと決めつけると、関係性の悪化や精神的な負担をさらに大きくしてしまう可能性があります。

背景にある認知の特性を理解し、誤解を避ける視点を持つことが重要です。

大人の発達障害に見られる特徴とは?

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大人の発達障害は、仕事や人間関係などにおいて困りごととして表面化しやすく、特性に応じた理解や対応が求められます。

ここでは、ADHDタイプ・ASDタイプの行動傾向について紹介します。

ADHDタイプの行動傾向

大人のADHDタイプでは、仕事の指示を忘れたり、提出期限を守れなかったりする場面が見られます。

これは記憶力の問題ではなく、注意力の維持が難しい、または注意がほかに向きやすい特性によるものです。

また、優先順位の判断が苦手な場合、どの作業を先に行うべきか迷いやすく、業務の効率が下がる原因になることもあります。

スケジュール管理が不十分になったり、持ち物を忘れやすかったりといった日常的な困りごとも少なくありません。

周囲からは「だらしない」「集中力がない」と見なされることが多いですが、背景には発達障害の特性が関わっている可能性があります。

ASDタイプの行動傾向

ASDタイプの大人は、社会的なやりとりや文脈の理解に難しさを抱える場合があります。

例えば、あいまいな表現や場の空気を読むことが求められる場面では混乱しやすく、相手の意図を正確に捉えにくいケースがあります。

また、ひとつのやり方や習慣に強くこだわる傾向があるため、環境や手順の急な変更への柔軟な対応が難しいこともあります。

このような特性から、職場では「融通が利かない」「話が通じにくい」と誤解されることもあるでしょう。

本人は真面目に取り組んでいても、その姿勢が評価につながらないケースも少なくありません。

発達障害の人に対する周囲の接し方と対応の工夫

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誤解や行き違いが起こらないようにするためには、本人の特性に合わせた工夫が大切です。双方の負担を軽減し、良好な関係を築きやすくなるでしょう。

ここでは、具体的な指示の出し方や視覚的なサポート、フィードバックの方法などについて紹介します。

指示の出し方を見直す

発達障害のある人への指示は、抽象的な表現では伝わりづらいことがあります。

曖昧さを避け、指示を受け取る側が迷わないような配慮が、円滑な業務遂行やストレスの軽減につながります。

例えば、「適当にまとめて」「あとで処理しておいて」といった言い方は、解釈に幅があり混乱を招きやすいため注意が必要です。

代わりに「このファイルを15時までに3部印刷して、部長の机に置いてください」など、具体的かつ明確に伝えることが望まれます。

また、一度に複数の指示を出すのではなく、順序立ててひとつずつ丁寧に伝える工夫も効果的です。

視覚的なサポートやツールの活用

口頭での説明だけでは情報が整理しづらい場合には、情報を可視化できる視覚的なサポートが有効です。例えば、以下のようなツールが役立つでしょう。

• ToDoリスト
• スケジュールボード
• マニュアル など

このようなツールを活用することにより、本人が自分の作業内容や手順を視覚的に把握しやすくなります。

特に、工程が多い作業や日常的な業務では、図や箇条書きを取り入れた資料が役立ちます。また、タスク管理アプリなどのデジタルツールも選択肢として有効です。

ツールを使い視覚的な情報にすることで、記憶する負担が軽減され、ミスや混乱の防止につながります。

叱責よりも建設的なフィードバック

発達障害のある人が失敗やミスをした場合、頭ごなしに叱責するのではなく、今後に活かせるフィードバックを重視する姿勢が望ましいです。

たとえば「何でできないの?」と責めるよりも、「次にどう進めればうまくいくか、一緒に考えてみよう」と伝えるほうが本人の安心感にもつながりやすいでしょう。

失敗を非難されると萎縮してしまい、さらに新たな挑戦を避けるようになる可能性もあるため、言葉の選び方は大切です。

改善に目を向けた関わりを心がけることで、本人のモチベーションと成長の機会を確保しやすくなります。

無理に「普通」に合わせない

発達障害のある人にとって、「周囲と同じように振る舞うこと」が常に最善とは限りません。

無理に一般的なやり方に合わせようとすると、かえってストレスや疲労が蓄積し、結果的にパフォーマンスが低下する恐れもあります。

特性に応じて、その人にとって自然な手順や工夫を採用するほうが、安定した成果を生み出しやすくなるでしょう。

例えば、静かな環境で集中力が上がる人もいれば、作業の手順を視覚的に整理することで力を発揮しやすい人もいます。

重要なのは、「普通にできること」ではなく、「自分に合ったやり方で進めること」を肯定し、その方法が尊重される環境を整えることです。

発達障害の診断や支援を検討するなら

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発達障害かもしれないと感じたときは、その特性を正しく理解し、適切な支援につなげていくことが大切です。

診断を受けることで得られる気づきや周囲との関係性の変化、支援制度の利用方法などについて整理しておくと、今後の選択肢を広げやすくなります。

ここでは診断の意義と、相談先・制度の活用について紹介します。

診断を受ける意味

発達障害の診断は、自分を理解し直す大きなきっかけになります。

これまで生きづらさを感じていた理由が分かり、自分を過度に責める必要がなくなる場合も多いです。

また、診断結果があることで、家族や職場の人にも特性について説明しやすくなり、必要な配慮を求めやすくなる一面もあるため、悩みのある人は、医療機関で診断を受けることをおすすめします。

周囲の理解が深まれば、無理のない働き方を調整したり、関係性の築き方を今までよりも前向きに考えやすくなったりなど、メリットを感じることが多くなるでしょう。

さらに、医師の意見書があれば、合理的配慮や支援制度の利用にもつながる可能性があります。

相談できる機関

発達障害に関する診断や相談は、専門の医療機関や支援機関で受け付けています。

まずは、精神科や心療内科、発達障害外来などの受診が一般的です。診断を希望する場合には、発達障害に詳しい医師のいる施設を探すとよいでしょう。

また、自治体の福祉窓口や障害者支援センターなどでも、生活上の困りごとについて相談を受け付けており、支援制度の案内も行っています。

就労支援を希望する場合には、就労移行支援事業所などの専門施設も利用してください。

いずれの機関も、本人だけではなく家族が相談することも可能です。まずは身近な窓口で悩みを共有し、必要に応じて医療や支援につなげていきましょう。

支援制度の活用

発達障害と診断された場合には、以下のような社会的な支援制度を活用する選択肢もあります。

• 障害者手帳の取得
• 就労支援施設の利用

障害者手帳を取得することにより、就労時の合理的配慮が受けやすくなります。また、就労支援施設では、仕事に関する訓練や職場定着支援が可能です。

このような制度を利用すれば、働く上での不安やストレスを軽減しやすくなるでしょう。

ただし、制度には申請や審査が必要であり、内容によっては利用条件も異なります。

自分に合った支援を受けるためには、相談機関で制度の内容を丁寧に確認しながら、段階的に検討していくことが望ましいです。

発達障害の特性で困ったときは専門家に相談を

「何度言っても伝わらない」「同じミスを繰り返す」といった状況の背景には、認知や注意の特性、感覚のズレなど、本人の意思や努力とは別の要因が関係している場合があります。

そうした特性を理解し、具体的な指示の工夫や視覚的な支援ツールの活用、建設的なフィードバックを通じた関わり方を意識することが、双方のストレスを軽減し、信頼関係を築くための第一歩になります。

また、本人が特性を把握し、必要に応じて医療や支援制度を利用することで、自分に合った働き方や生活スタイルを選択しやすくなるでしょう。

そのためには発達障害であるかどうかの診断は欠かせません。医療機関や公的機関は本人だけではなく、家族も相談できるため、必要性を感じたらぜひ相談してみてください。

オンライン診療・オンラインカウンセリングの『かもみーる』では、医師や有資格の心理士による治療やアドバイスを提供しています。

「対面相談が苦手」「病院が遠い」などのハードルがある方でも受診しやすい環境のため、発達障害をはじめ、心の問題を感じた時にはお気軽にご相談ください。

また、対面診療をご希望の方は、『かもみーる心のクリニック(東京院)(仙台院)』でもご相談いただけます。こちらもお気軽にお問い合わせください。