発達障害はなぜ増えた?その原因や社会の変化との関係とは
更新日 2025年03月11日
発達障害
近年、発達障害と診断される人が増えていると言われています。「なぜこんなに多くなったのか」と疑問に感じている人も多いのではないでしょうか。
その背景には、医療や教育現場での理解の進展、社会の変化、支援体制の整備など、さまざまな要因が関係していると考えられます。
この記事では、発達障害の診断件数が増加している理由やその背景にある社会的・環境的変化、誤解されやすい点などについて紹介します。
発達障害が増加しているとされる理由

発達障害と診断される人の数が年々増えているという見方がありますが、このような現象は、診断基準や制度の変化だけでなく、社会全体の認識の変化や支援体制の整備とも関係しています。
ここでは、実際の診断件数や現場での実感、背景にある可能性などについて紹介します。
診断件数の推移と増加傾向
発達障害と診断される件数は、近年増加しています。
子どもを例に見てみると、発達障害のひとつである「注意欠如・多動症(ADHD)」では、公立小学校で通級指導を受ける児童の人数は令和元年度には20,626人でしたが、令和5年度には34,654人に増加しています。
(参考:令和5年度特別支援教育資料文部科学省)
その背景には学齢期の子どもに対する早期の気づきや受診機会の拡大、保護者や教育機関による理解の深まりが関係していると考えられるでしょう。
現場の体感としての「増えている」印象
医療機関や学校、支援施設の関係者からは、「以前より明らかに増えている」という実感が語られることもあるようです。
実際には、従来であれば見逃されていた軽度の特性が見つかるようになったため、増加しているように感じる側面もあるでしょう。
また、保護者の関心や情報収集の積極化も背景にあり、相談件数の増加につながっているとみられています。
つまり、数そのものが増加しているというよりも、社会全体の認知と関心の高まりが「増えている」という印象を後押ししている可能性が考えられます。
増えたのは実数ではなく「見つかる数」の可能性
発達障害の診断が増加している背景には、「本当に発達障害の人が増えている」のではなく、「発見されやすくなった」という要素も大きいです。以下のような変化が関係していると考えられます。
• 診断基準の明確化
• 診断技術の発達
このような変化により、従来は診断されなかった人が診断に至り、支援につながるケースが増えました。
また、本人や家族が早期に違和感に気づいて受診する流れが一般化しつつあり、結果として「診断数の増加」という統計上の変化につながっています。
受診・相談の機会増加や地域差の現状
保育・教育の現場での観察が丁寧になったことや、医療機関の情報が広く共有されるようになったことで、相談や受診のハードルは以前より下がっています。
例えば、子どもが通う園や学校の指摘をきっかけに専門機関にアクセスする例も増えており、特性への気づきが早期化している傾向です。
ただし、発達障害外来や専門の支援機関の整備には地域差があり、都市部と地方で支援の質や相談機会に偏りが見られるのも現状です。
こうした支援体制の違いが、地域ごとの診断件数に影響している可能性もあります。
増加の背景①:診断技術と認識の変化

発達障害と診断される人が増えている背景には、診断基準や医療体制の変化が関係していると考えられます。
ここでは、診断の枠組みや理解の変遷、当事者や周囲の気づきの変化について紹介します。
DSMなど診断基準の拡張と定義の変化
発達障害の増加には、精神疾患の診断・統計マニュアルである「DSM」などの診断基準の改訂も関係しています。
以前は限定的だった診断の枠が広がり、より多様な特性を持つ人が診断の対象になりました。
とくにDSM-5では、自閉症スペクトラム障害(ASD)という概念が導入され、境界的なケースも含めて評価されやすくなっています。
こうした診断の枠組みが変化していることにより、これまで見過ごされていた人たちも医療や支援の対象として認識されやすくなった点が、増加傾向の一因と考えられています。
発達障害の症状への理解が進んだ影響
医療機関の対応力向上と、支援の必要性に対する社会的理解の広がりも、診断数が増加した背景のひとつです。
発達障害は重度の症状だけでなく、軽度や境界的な状態にある人も少なくありません。
以前は「性格の問題」や「育て方」として、個人の性質や家庭環境の問題だと捉えられていたのが、現在では専門的な視点から発達障害の特性として理解されるようになってきました。
このような理解の進展により、比較的生活に支障の少ない人でも医療機関を受診し、診断に至るケースが増えています。
本人・家族・教育機関の気づきが早まった理由
かつては「育てにくさ」として家庭内で悩まれるだけだったケースも、近年では早期に保護者が専門機関へ相談する傾向が強まっています。
その背景には、インターネットなどを通じた情報の広がりや、発達障害に関する研究の充実などがあります。
教育現場では、担任教師が子どもの様子に違和感を覚え、保護者に専門機関での相談を促す事例も少なくありません。
本人や家族、教育機関の気づきの早さが診断件数の増加にも影響していると考えられます。
増加の背景②:社会的要因と環境の変化

社会や家庭、教育環境の変化も発達障害の診断増加に影響していると考えられます。
従来は表面化しにくかった特性が、現代社会における行動の基準や期待とのギャップによって、より目立つようになってきました。
ここでは、その具体的な要因について紹介します。
社会で求められる力の変化と「目立ちやすさ」
以前よりも仕事や人間関係で求められる水準が高くなり、これまで問題とされていなかった特性が「課題」として認識される機会が増えたことも背景のひとつです。
現代社会では、臨機応変な対応や複数の作業を同時に処理する力など、柔軟な対人スキルが求められます。
発達障害の人はこうしたスキルを苦手とする傾向があるため、社会的な場面で目立ちやすくなっています。
家庭や育児環境の多様化
核家族化や共働き世帯の増加など、家庭環境の変化は子育てのスタイルにも影響を与えています。
保護者が多忙になり、子どもの行動を見守る時間が減っている家庭がある一方で、不安や関心の高まりから、以前より早い段階で違和感に気づいて相談するケースも増えています。
また、育児書やインターネットによる情報共有の機会が広がったことで、特性への関心が高まり、受診や相談につながるケースも増えていると考えられます。
情報環境と脳の発達の関係
情報量の多い現代社会では、刺激への過敏さや注意の偏りが目立ちやすく、発達障害の特性が顕在化しやすくなっている可能性があります。
デジタル機器の普及やインターネットの利用拡大により、現代の子どもは幼少期から多くの情報刺激にさらされています。
こうした環境が脳の発達や集中力、感覚処理に与える影響については専門家の間でも議論が続いているため、今後も注視が必要でしょう。
集団行動・協調性を重視する教育制度とのギャップ
日本の教育現場では、集団行動や協調性が重視される傾向が強く、一定の枠に収まることが求められることが多いです。
発達障害のある子どもはこのような集団活動に適応しづらく、行動面で「浮いて」しまう場面も少なくありません。
その結果、特性が早期に注目され、支援や診断につながる機会が増えています。
教育現場では発達障害への理解が深まり、多くの支援方法が確立されているため、不安があれば積極的に相談しましょう。
発達障害への正しい理解のために

発達障害の診断件数が増えている現状に対して、「障害を持つ人が増えた」「今の子どもは弱くなった」といった誤解も少なくありません。
ここでは、そうした誤解を避けるために必要な視点や支援について紹介します。
診断数の増加=障害を持つ人が増えたわけではない
発達障害の診断数が増えている背景には、社会全体の理解の進展や早期発見の体制整備があります。
前述の通り、従来は見過ごされていた特性が、学校や家庭、職場で早期に気づかれるようになった結果として、診断件数が増加したことが背景にあります。
つまり、障害を持つ人の実数が急増したわけではなく、これまで把握されていなかった人が「見つかり、支援を受けやすくなった」と考えるべきでしょう。
発達障害という言葉の独り歩きとラベリングの危険
「発達障害」という言葉が広まる一方で、行動の一部を見ただけで決めつけたり、過度にラベリングしたりする風潮も見られますが、そのような行為は避けるべきです。
発達障害にはさまざまなタイプや特性があり、その程度も人によって異なります。
特性の一部だけを根拠に「この人は発達障害だ」と断定するのは危険であり、支援よりも排除や差別を助長しかねない行為です。
個別の背景や支援の必要性に目を向ける姿勢が求められます。
社会全体で支えるという意識の必要性
発達障害を持つ人への理解と支援は、医療や教育の現場だけでなく、社会全体で共有されることが理想です。
職場や地域、家庭などあらゆる場面で、特性に配慮した環境づくりが求められます。
個人の努力だけでは限界がある場合も多く、その際には周囲が理解を深め、ともに歩む意識を持つことで、誰もが自分らしく生活できる社会に近づいていきます。
そのためには、情報発信や研修、当事者の声に耳を傾ける機会の充実が重要です。
現代日本では発達障害への理解が進んでおり、支援体制も充実しつつあります。必要であれば利用しながら、生活しやすい環境に整えていきましょう。
発達障害の特性を強みに変える支援を
柔軟な働き方や多様性を受け入れる姿勢が、本人の可能性を広げ、社会全体の活力にもつながります。
支援の目的は「普通に近づけること」ではなく、「その人らしさを活かせる場を整えること」ではないでしょうか。
発達障害のある人は、不得意な分野がある一方で、集中力や独自の視点など、特定の分野に強みを持つ場合もあります。
こうした特性をマイナスと捉えるのではなく、環境や関わり方を工夫することでプラスに転じやすくなるでしょう。
発達障害の支援を相談できる場所

発達障害に関する支援や悩みを相談できる場所は多岐にわたります。例えば、以下のような場所での相談が可能です。
• 地域の発達障害者支援センター
• 保健所
このような場所では医療機関や福祉サービスとの連携も図りやすく、「まずどこへ相談すればいいのか」と迷った時にも話をしやすいでしょう。
医療機関であれば以下が相談しやすいです。
• 精神科
• 心療内科
発達障害に理解のある精神科や心療内科では、診断や継続的な支援の相談も可能です。
このほか、子どもなら児童相談所や教育センター、学校内の特別支援コーディネーターも利用できます。
大人の場合は、就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターなどの利用も可能です。先に医療機関で診断を受け、医師と相談の上で選択していきましょう。
発達障害の悩みは専門家へ相談しよう
発達障害の診断件数が増加している背景には、診断技術や認識の変化、社会的要因や環境の変化があります。
単に「発達障害者が増えた」という捉え方ではなく、気づかれなかった特性が可視化されるようになったと理解することが重要です。
また、誤解やラベリングによる偏見を防ぐためには、社会全体が正しい情報に基づいた理解を深める必要があります。
本人や家族の悩みに寄り添い、適切な支援や環境の整備を進めることで、発達障害のある人が自分らしく生活しやすくなるでしょう。
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