運動音痴は発達障害?苦手な人・得意な人の違い&発達性協調運動障害(DCD)について解説

更新日 2025年04月30日

児童精神科, 発達障害
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運動や動作を苦手と感じている場合、単なる運動音痴ではなく発達障害の可能性があることをご存知でしょうか。

不器用さや動作のぎこちなさ、空間認識の難しさなどは、大人になっても日常生活や職場で不便を感じる要因になり、可能であれば対策したいと考えるでしょう。

一方で、発達障害がありながらも運動神経がよく、特定のスポーツや身体表現で力を発揮する人も存在します。

発達障害と運動能力の関係には、脳の特性や感覚処理の違いがあるため、知っておくと対策方法を見つけやすくなるでしょう。

この記事では、発達障害と関係して運動音痴とされる理由や、逆に運動神経がいい人の特徴、苦手意識との向き合い方などについて紹介します。

発達障害と運動音痴の関係

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自分が運動音痴だと感じている場合、発達障害の特性が関係している可能性も考えられます。

ここでは、脳の特性やDCDの影響、生活での困難、周囲の誤解など、運動が苦手な人と発達障害の関係について紹介します。

不器用さやぎこちなさの背景にある脳の特性

発達障害のある人が運動音痴で不器用に見える理由のひとつに、脳内での感覚処理や運動指令の伝達がスムーズにいかない特性が挙げられます。

具体的には、視覚や身体の位置感覚といった情報を脳がうまく統合できず、必要な動きを適切に選んで実行するのが難しくなるという状態です。

周囲からは単に注意力が足りないように映るかもしれませんが、実際には本人の意図とは関係なく、神経系の処理に由来する動作のぎこちなさである場合が多いです。

DCD(発達性協調運動障害)の影響が続くケース

DCD(発達性協調運動障害)とは、脳機能の発達の問題により運動や動作にぎこちなさが生じる障害のことで、発達障害の一つです。

DCD(発達性協調運動障害)は、発達障害と併存することも多く、日常の動作やスポーツに困りごとをもたらすことが少なくありません。

DCDは単なる運動不足とは異なり、脳の協調運動に関する機能に発達の偏りがあることが原因です。

DCDの子どものうち、約7.2%が注意欠如・多動症(ADHD)、約1~2%が自閉スペクトラム症(ASD)であるとされています。

子どもの頃は運動が苦手とされる程度で済んでも、大人になってからもその傾向が続くケースも見られます。例えば、以下のような特徴が代表的です。

• 道具の使い方が不自然
• 階段の昇降に苦労する
• 歩き方が独特 など

子どもの頃にDCDと判明した人の50%は、大人(青年期)になっても影響が続くことがあります

仕事や日常生活で現れる「運動の困りごと」

発達障害の特性により、日常生活の中でさまざまな運動面の困難が現れることがあります。例えば、以下のような日常動作で影響を感じるでしょう。

• 靴紐を結ぶのが苦手
• タイピングが苦手
• 字を上手に書けない
• 靴紐が結べない など

仕事の現場では、細かい作業や道具の操作がうまくいかず、周囲からの評価が得にくいこともあるでしょう。

このような困りごとは、本人の努力や意識の問題ではなく、脳の処理の違いからくるものです。

本人の努力ではカバーできない部分もあるため、周囲の理解やサポートが重要になります。

周囲からの誤解と自己評価への影響

発達障害による運動の不器用さは、外見からでは分かりにくいため、周囲から誤解されることが少なくありません。

「怠けている」「注意不足だ」といった誤解を受けることもあり、本人も「自分はダメだ」と感じやすくなります。

そのような評価が積み重なることで、自己肯定感の低下や新しい動作への挑戦に対する不安が強くなる恐れもあります。

本来、脳の特性による違いであるにもかかわらず、努力不足とみなされる状況は、精神的な負担を大きくしてしまうでしょう。

「自分の運動音痴は発達障害が原因かも」と感じたら、早めに医療機関を受診し、専門家に相談することが大切です。

運動神経がいい発達障害の人もいる?

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発達障害は運動音痴だと思われることが多いかもしれませんが、中には運動神経がよく、身体的な能力を活かして活躍する人もいます。

ここでは、運動面で強みを発揮する発達障害の特性や、その背景などについて紹介します。

瞬発力や集中力が活きるスポーツ特性

発達障害のある人の中には、短時間の集中や瞬間的な反応を必要とする場面で力を発揮するタイプもいます。

特に、動きながら情報を得る場面では、感覚が鋭く、反応の速さが際立つ場合があるでしょう。

静かにじっとしているよりも、動いているときのほうが集中しやすい人にとって、スポーツは特性を活かせる貴重な機会になります。

競技の特性と本人の得意な感覚が合致すれば、自信や意欲にもつながっていくでしょう。

こだわりや反復によって技能を高めるタイプ

ASD傾向のある人は、ある特定の動作や技術に強いこだわりを持ち、何度も繰り返す中で、高い水準の技能に達する場合があります。

反復による学習を苦にしない人や、細かな動きに集中することに満足感を覚えるタイプでは、体操や水泳などの競技で力を発揮する可能性があるでしょう。

ルールや手順が明確な競技では混乱が少なく、パフォーマンスが安定しやすい点も特徴です。一見単調に見える練習でも、集中して取り組めるのが強みになります。

得意な運動・不得意な運動の極端な差

発達障害のある人の中には、ある種目では目覚ましい成果を出す一方で、ほかの運動では極端に苦手意識を持つ場合があります。

これは運動に関する能力が一律ではなく、空間認識やバランス感覚、タイミングの把握などに偏りがあるためです。

例えば、全身の連動が必要な球技は得意でも、細かな手作業を伴う運動は苦手と感じることがあるでしょう。

周囲の期待と本人の実感に差が出やすく、誤解を生むことも少なくありません。一人ひとりの特性に合わせたスポーツを選び、自信をつけていくことも大切です。

特性を活かした運動での自己肯定感向上

発達障害の特性が運動面で活かされると、成功体験につながり、自己肯定感の向上にも結びつきます。

苦手なことが目立ちやすい環境では自信を失いやすい一方で、自分の得意な分野で周囲から認められる経験は、日常生活全体に前向きな影響を与えるでしょう。

運動が得意という実感は、学業や人間関係にも好影響を及ぼすことがあり、自分への信頼感を育てることにもつながります。

ただ、もしも運動を長く続けてみたいと思うのであれば、「自分の特性だとこれが向いているはずだから」と特性だけで決めるよりも、興味を持てて楽しめそうな運動を選ぶことも重要です。

発達障害における運動習慣と身体意識

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発達障害のある人にとって、運動は身体の感覚を育てるだけでなく、心の安定にもつながります。

ここでは、運動がもたらす変化や感覚との向き合い方、続けやすい工夫などについて紹介します。

運動がストレス軽減や生活改善に与える影響

発達障害のある人は、環境の変化や感覚刺激に強いストレスを受けやすい傾向があります。その中で、身体を動かすことは気持ちの切り替えや安心感につながる有益な行動です。

特に、自分の身体感覚に意識を向ける運動は、日々のイライラや不安の軽減、集中力の安定に好影響を与えやすいでしょう。

運動を継続的に取り入れることで生活のリズムが整い、ストレスの受け止め方や発散方法について前向きな意識が生まれます。

生活の質を高めるきっかけとしても、運動はよい選択肢になるでしょう。

身体感覚の過敏・鈍麻と運動への向き合い方

発達障害のある人には、身体の感覚が過敏なタイプと鈍いタイプの両方が存在します。

前者では衣類のこすれや汗の刺激に敏感に反応し、運動を不快と感じることもあるでしょう。

一方、鈍感な場合は転倒や怪我に気づきにくく、身体の動きを正確に把握することが難しいと感じる可能性があります。

いずれのタイプでも、自分の感覚を否定せずに受け入れ、無理のない範囲で身体を動かすことが、運動へ前向きに関わりやすくなるでしょう。

ルーティン運動が心身の安定につながる理由

発達障害のある人は、予測できない出来事への対応に不安を感じやすく、決まった手順や繰り返しに安心感を持つ傾向があります。

このような特性を生かす形で、決まった時間や内容で行う運動は、日常生活の中に落ち着きをもたらしながら継続する手段になるでしょう。

例えば、朝の散歩や軽いストレッチなど、決まった時間に無理のない運動をしてみるのもおすすめです。心身のリズムが整い、不安や緊張を和らげながら習慣化しやすくなるでしょう。

続けやすい運動習慣の見つけ方と工夫

運動を継続するためには、自分の感覚や生活に合った方法を見つけることが大切です。

例えば、音や光、気温の刺激が気になる場合は、屋内でのストレッチや動画を使った運動をしてみてはいかがでしょうか。

また、決まった時間に短時間だけ行うという工夫も習慣化を助けます。

特性を理解したうえで、「楽しい、気持ちいい」と感じられる運動を取り入れることで、継続のハードルが下がり、ポジティブな体験として積み重ねやすくなります。

運動における「得意・不得意」との付き合い方

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発達障害がある場合、運動の得意・不得意には明確な偏りが出ることがあります。

ここでは、大人になってから気づく苦手さや受け止め方、無理をしない工夫、自己理解や自己肯定感の育み方について紹介します。

大人になって気づく運動の偏りと受け止め方

発達障害のある人は、子どもの頃から運動が苦手だと感じていても、それが発達特性に由来するものだとは気づかないまま大人になることがあります。

仕事や日常生活の中で動作のぎこちなさや不器用さを自覚し、社会に出てから初めてその偏りに向き合う人も少なくありません。

単なる運動不足や努力不足とされてしまいがちですが、原因が脳の働きにあると分かれば、自分を責めすぎずに適切な対応や受け止め方ができるようになるでしょう。

苦手を無理に克服しようとしない選択肢

発達障害の特性に起因する運動の苦手さは、努力だけでは簡単に改善しない場合があります。

大切なのは、苦手なことを無理に克服しようとするのではなく、自分に合った方法や環境で工夫していく姿勢です。

補助具の使用や手順の見直しなど、代替手段を取り入れることも十分に有効な選択肢になるでしょう。

身体を使う趣味や仕事で自己理解を深める

運動に苦手意識を持つ人でも、身体を使った趣味や仕事を通じて、自分の得手不得手を理解できることがあります。

例えば、スポーツでなくても、園芸や調理など手を使う作業から自分の動きの特徴に気づく機会は少なくありません。

興味を持って継続できる活動を通じて、自然と身体の使い方に慣れていくこともあります。

こうした日常の積み重ねが、無理なく自己理解を深め、自分に合った動き方や工夫を見つけるきっかけになるでしょう。

特性に合ったスタイルで自己肯定感を育む

運動の得意・不得意に対する自己認識は、自己肯定感に影響を与えることが多いです。

特性に合ったスタイルやペースで身体を動かす取り組みにより、自分らしさを認め、自己肯定感を高めやすくなるでしょう。

例えばADHDがある人の場合、周囲と同じ画一的な動作を求められる場面では失敗体験が積み重なりやすく、自信を失いがちなため、自分に向いた運動にチャレンジするのもよい方法です。

できることに目を向け、それを積み重ねていくことで、自分の身体との向き合い方が前向きなものへと変わり、自己肯定感の回復にもつながるでしょう。

発達障害かも?不安や悩みは専門家に相談できます

運動が得意な人とそうでない人との違いは、単なる運動量や努力だけで語れるものではありません。

発達障害のある人の場合、脳の特性によって動作にぎこちなさが出たり、感覚の処理がうまくいかず協調運動が難しいといった背景があります。

苦手な動きを無理に克服しようとせず、自分に合った工夫を重ねることが、心身の負担を減らすためにも大切です。

自分なりのやり方を尊重しながら、前向きに運動を楽しみましょう。

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