強度行動障害とは?原因や支援方法について解説

更新日 2025年06月03日

児童精神科
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強度行動障害とは、自傷や他害、パニックなど、日常生活に大きな支障をきたす激しい行動が継続して現れる状態を指します。

こうした行動の背景には発達特性や環境への過敏さ、不安の強さなどが関係していることが少なくありません。

この記事では、強度行動障害について詳しく解説します。

強度行動障害の判定基準や原因となる特性、強度行動障害を持つ方に対する支援方法などもまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。

強度行動障害とは

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強度行動障害とは、日常生活に大きな支障をきたすような激しい行動を繰り返す状態を指します。

例えば自傷行為や他者への攻撃行動、物を壊すといった破壊行動、過度のこだわりによるパニック状態などが特徴です。

これらの行動は一時的なものではなく、長期にわたって繰り返される傾向があり、家庭や施設、学校など周囲の環境にも深刻な影響を与えます。

そのため単なる『問題行動』とは区別され、専門的な支援や医療的アプローチが求められるのです。

ここでは強度行動障害の具体的な特徴や判定基準について解説します。

強度行動障害の具体的な特徴

強度行動障害には以下のような行動特徴があります。

  • 自傷行為:頭を壁に打ちつける、腕や顔を引っかく、噛むなど
  • 他害行為:叩く、蹴る、つねる、噛みつくなど
  • 破壊的な行動:物を壊す、部屋を荒らすなど
  • 情緒不安定な行動:急に叫び出す、長時間泣き続けるなど

これらの行動は本人の意思とは無関係に現れることが多く、環境への過敏な反応や、コミュニケーションの困難さから生じているケースが少なくありません。

日常生活を送るうえで大きな障害となるため、周囲の理解と配慮が必要不可欠です。

強度行動障害の判定基準

強度行動障害の判定は、単なる問題行動の頻度や程度だけではなく、生活全体への影響度や支援の困難さなどを総合的に見て行われます。

厚生労働省のガイドラインでは、一定期間以上にわたって、重度の自傷・他害・破壊行為が継続的に見られ、生活に深刻な支障をきたしているかどうかが判断のポイントとされています。

厚生労働省が定める『強度行動障害児(者)の医療度判定基準』の強度行動障害スコアは以下の通りです。

行動障害の内容行動障害の目安の例示1点3点5点
1. ひどく自分の体を叩いたり傷をつけたりする行為肉が見えたり、頭部が変形に至るような叩き方をしたり、つめをはがすなど。週1回以上1日1回以上1日中
2. ひどく叩いたり蹴ったりする等の行為噛みつき、蹴り、殴り、髪ひき、頭突きなど、相手が怪我をしかねないような行動など。月1回以上週1回以上1日に頻回
3. 激しいこだわり強く指示しても、どうしても服を脱ぐ、どうしても外出を拒む、何百メートルも離れた場所に戻り取りに行くなどの行為で止められないもの週1回以上1日1回以上1日に頻回
4. 激しい器物破損ガラス、家具、ドア、茶碗、椅子、眼鏡などをこわし、その結果危険が生まれるおそれが大きいもの。月1回以上週1回以上1日に頻回
5. 睡眠障害昼夜が逆転してしまっている、ベッドについていられず人や物に危害を加えるなど。月1回以上週1回以上ほぼ毎日
6. 食べられないものを口に入れたり、過食、反すう等の食事に関する行動テーブルごとひっくり返す、食器ごと投げる、椅子に座っていられずみんなと一緒に食事ができないなど。週1回以上ほぼ毎日ほぼ毎食
7. 排せつに関する強度の障害便を手でこねたり、便を投げたり、便を壁面になすりつけるなど。月1回以上週1回以上ほぼ毎日
8. 著しい多動身体・生命の危険につながる飛び出しをする。目を離すと一時も座れず走り回る、ベランダの上など高く危険なところに上るなど月1回以上週1回以上ほぼ毎日
9. 通常と違う声をあげたり、大声を出す等の行動耐えられないような大声を出す、一度泣き始めると大泣きが何時間も続くなどほぼ毎日1日中絶えず
10. パニックへの対応困難一度パニックが出ると、体力的にもとてもおさめられず付き合っていかれない状態を呈する困難
11. 他人に恐怖感を与える程度の粗暴な行為があり、対応が困難日常生活のちょっとしたことを注意しても、爆発的な行動を呈し、かかわっている側が恐怖を感じさせられるような状況がある困難

参考:強度行動障害児(者)の医療度判定基準

上記を参考に算出した点数の合計が20点以上である場合、強度行動障害として判定されます。

強度行動障害は一人ひとりの状況により現れ方が異なるため、個別の支援計画に基づいた対応が求められます。

強度行動障害の原因となる特性

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強度行動障害は、自閉スペクトラム症(ASD)や知的障害のある方に多く見られますが、その背景にはさまざまな『発達特性』が深く関わっています。

本人の意思や性格によるものではなく、脳の機能的な違いによって生じる行動であることを理解するのが重要です。

強度行動障害の原因となる特性として、以下の4つが挙げられます。

  • 社会性に関する特性
  • コミュニケーションに関する特性
  • こだわりに関する特性
  • 感覚に関する特性

ここでは上記4つの特性についてそれぞれ解説します。

社会性に関する特性

強度行動障害のある方は、他者との関わり方に困難を抱えていることが少なくありません。

例えば人の気持ちを読み取るのが難しい、相手の視線や表情を理解しづらい、自分の興味だけで行動してしまうといった特徴があります。

そのため集団生活やコミュニケーションの場面でトラブルが起こりやすく、誤解や孤立を招くことも少なくありません。

また自分の思い通りに物事が進まないと強い不安や怒りを感じやすく、激しい行動として現れることがあります。

これらの社会性に関する特性は、本人の努力不足ではなく、認知の特性によるものであり、適切な支援や環境調整によって軽減できる場合があります。

コミュニケーションに関する特性

言葉の使い方や受け取り方に独自の傾向があることも、強度行動障害に大きく関与します。

例えば相手の言葉の裏の意味を理解するのが苦手で、冗談やあいまいな表現を文字通りに受け取ってしまうことがあるのです。

また自分の気持ちをうまく言葉で表現できない場合には、代わりに泣いたり、怒ったり、叩いたりといった行動で感情を伝えようとすることもあります。

このようにコミュニケーションに課題があると、周囲との誤解やストレスが重なり、問題行動が悪化するリスクがあります。

こだわりに関する特性

自閉スペクトラム症の特性の一つとしてよく見られるのが、こだわりの強さです。

例えば特定の順番で物事が進まないと不安になる、同じ道を通らないとパニックになる、決まった服しか着ないなどの行動が代表例です。

これらのこだわりが妨げられたとき、本人は強いストレスを感じ、それが自傷や他害などの強度行動障害として現れることがあります。

こだわり自体は悪いものではなく、本人にとって安心感を得る手段であることも少なくありません。

そのため無理にやめさせるのではなく、少しずつ柔軟に対応できるようサポートしていくことが大切です。

感覚に関する特性

感覚の過敏さや鈍さも、強度行動障害の要因の一つです。

例えば音や光、匂い、肌ざわりなどに対して非常に敏感な場合、日常的な環境でも強い不快感や苦痛を感じることがあります。

逆に、痛みに鈍感で怪我をしても気づかないといったケースもあります。

感覚過敏があると、周囲が気づかないような刺激に耐えきれず、パニックを起こしたり、自傷行為につながったりすることがあるのです。

こうした感覚の特性は見た目ではわかりにくいため、周囲の理解が特に重要です。

静かな空間を確保する、着用する服の素材を工夫するなど、本人に合った環境調整を行うことで行動の安定につながることが期待できます。

強度行動障害を持つ方を支えるための5つの原則

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強度行動障害を持つ方への支援では、安心できる生活環境の確保が極めて重要です。

厚生労働省が提唱する支援指針では、本人の特性を理解し、行動の背景にある不安や混乱を取り除くための5つの原則が示されています。

  • 安心して通える日中活動
  • 居住内の物理的構造化に取り組む
  • 一人で過ごせる活動を用意する
  • 確固としたスケジュールを用意する
  • 移動手段を確保する

ここでは上記5つの原則についてそれぞれ解説します。

安心して通える日中活動

日中活動の場は社会とのつながりを持ち、生活リズムを整えるための大切な拠点です。

安心して通える場があることで、生活に安定が生まれ、強度行動障害の軽減にもつながります。

厚生労働省のガイドラインでは、『過ごしやすい場所』の確保が支援の基本とされており、本人の好みに合った作業や活動内容、慣れ親しんだ人々との関係性が支援の質を左右します。

活動場所では、成功体験を積みやすい工夫や苦手な刺激を避けられる配慮も大切です。

居住内の物理的構造化に取り組む

居住空間の構造化は、強度行動障害を持つ方が安心して生活するために欠かせない工夫です。

ガイドラインでは『物理的構造化』を基本的な支援項目の一つとして掲げています。

例えば、視覚的な区切りや案内表示を取り入れることで、「今どこで何をするのか」がわかりやすくなり、行動の予測がつきやすくなります。

また、過剰な刺激(光や音、においなど)を避ける工夫も重要です。

パニックや混乱を防ぐには『安全で落ち着ける空間づくり』が必要となります。

一人で過ごせる活動を用意する

集団活動が苦手な方や刺激に敏感な方にとって、一人の時間は心を整える貴重な機会になります。

厚生労働省の支援指針でも、『一人でできる活動の確保』が安定した行動支援の重要な柱になるとされています。

好きな音楽を聴く、パズルや工作をする、絵を描くなど、本人が集中しやすい活動を選び、その時間を確保することが大切です。

確固としたスケジュールを用意する

「次に何が起こるか分からない」という状況は、強度行動障害のある方にとって大きな不安要因となります。

そのため、ガイドラインでも『視覚的なスケジュールの提示』を基本支援に組み込んでいます。

時間や順番をはっきり示すことで見通しを持って行動でき、突然の混乱を防ぐことができるのです。

スケジュールに変更がある場合には、事前に予告するなどして、できるだけ混乱を避けるよう配慮しましょう。

スケジュールは紙やカード、タブレットなど本人が理解しやすい形式で提示するのが望ましいです。

移動手段を確保する

安心して通所や通学、医療機関への受診などを行うためには、適切な移動手段の確保が不可欠です。

公共交通機関では予測不能な刺激や混雑によって混乱を起こす可能性があるため、本人に合った移動方法を選ぶ必要があります。

厚生労働省の資料では、支援の一環として『安定的な移動手段の提供』が重視されています。

家族による送迎や福祉タクシーの活用、慣れた道を使った移動練習を行うことが大切です。

こうした工夫によって、外出に伴う不安やストレスを軽減でき、活動範囲の拡大や自立支援につながります。

強度行動障害を持つ方に対する具体的な支援方法

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強度行動障害を持つ方に対する具体的な支援方法として、以下の3つが挙げられます。

  • 在宅での支援
  • 施設での支援
  • 病院での支援

ここでは上記3つの支援方法についてそれぞれ解説します。

在宅での支援

在宅で受ける支援方法として、以下の3つが挙げられます。

行動援護自傷、異食といった行動に伴う危険を回避するための援護や介護を行う
重度障害者等包括支援重度の障害があり支援が必要な人に対し、居宅介護や行動援護などの包括的なサービスを提供する
重度訪問介護重度の障害がある方に対し、入浴・排泄・食事の身体介護、家族援助、コミュニケーション支援、外出時の移動の介護などを行う

上記のような支援を受けることで、家庭内でも安心して生活を続けられます。

施設での支援

施設で受ける支援方法として、以下の3つが挙げられます。

施設入所支援施設に入所した人に対し、夜間の入浴・排泄・食事などの支援を行う
短期入所(ショートステイ)一時的に施設に入所した人に対し、介護や支援を行う
共同生活援助(グループホーム)地域で他の人と共同生活をしている方に対し、夜間の入浴・排泄・食事の介護、日常生活の支援を行う

より専門的な支援を受けたい方は、施設での支援が推奨されます。

病院での支援

病院での支援方法は、以下の4つが挙げられます。

環境調整本人が安心して過ごせるよう、光・音などの刺激を抑えた静かな個室や、明確な生活ルールを整える
行動療法問題行動の原因やきっかけを分析し、適切な行動を学べるよう段階的に支援する
薬物療法不安や衝動性、強い興奮状態に対して、医師の判断で適切な薬を処方する。環境や心理的支援と併せた活用が必要。
入院治療自傷や他害などが著しく、家庭や施設での対応が難しい場合、一時的に入院して集中的な支援を行う。医療・福祉が連携し、退院後の生活につなげていく。

病院での支援では医師、看護師、臨床心理士など多職種が連携して対応にあたります。

強度行動障害は周囲の支援が重要

強度行動障害への支援では、行動の背景を理解し、本人の感じる困難に寄り添うことが大切です。

本人の不安や混乱を軽減することで、問題行動は少しずつ落ち着いていきます。

家族や支援者だけで抱え込まず、周囲と連携しながら、長期的な視点で支えていくことが大切です。

かもみーる』では、医師によるオンライン診療や、有資格の心理士によるオンラインカウンセリングサービスを提供しています。

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