TMS治療はASDに効果的?期待できる効果やメカニズムを解説

ASD(自閉症スペクトラム症)は発達障害のひとつで、一般的には心理療法や薬物療法などによる治療が行われます。
そのほかにも有効な治療方法があり、その一つがTMS治療です。
TMS治療は脳に直接アプローチする治療方法で、ほかにもうつ病や強迫性障害などの治療にも有効です。
この記事ではASDに対するTMS治療の効果について詳しく解説します。
効果的な症状や治療のメカニズム、TMS治療を行う際の注意点などもまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
ASDは発達障害の一つ

ASDは発達障害の一つで、『自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder)』のことです。
発達障害は脳機能の発達に関係する障害のことで、他人との関係づくりやコミュニケーションを苦手とする傾向にあります。
ASDのほかにも、ADHDや学習障害などがあります。
ここではASDの主な症状や一般的な治療方法などについて見てみましょう。
ASDの主な症状
ASDの主な症状としては、強いこだわりや社会性障害、コミュニケーション障害などが挙げられます。
- 決まった順序に強くこだわる
- 予定が変わると対応できなくなってしまう
- 名前を呼ばれても反応しない
- マイペースで遅刻が多い
- たとえ話や冗談が通じない
- 他人の気持ちを理解できない
- 返事がオウム返しなど
対人関係が苦手だったり、強いこだわりを持っていたりするのがASDの主な特徴です。
上記のような特性を持つASDは周囲に理解をしてもらいにくく、対人関係でストレスをため込んでしまいやすい障害といえます。
そのため上記のような症状だけでなく、ストレスからくる身体症状(頭痛や食欲不振など)や精神症状(不安やうつなど)に悩まされることもあります。
ASDの一般的な治療方法
ASDの一般的な治療方法としては、心理療法、環境調整、薬物療法が挙げられます。
心理療法・カウンセリング
心理療法やカウンセリングは、ASDの症状に効果的な治療方法です。
心理療法にはさまざまな種類がありますが、うつや不安障害といった二次障害を引き起こしている場合、認知行動療法が特に有効とされています。
認知行動療法は凝り固まってしまっている自分の考えや行動を解きほぐし、ストレスが溜まらないように改善していく治療方法です。
もともとはうつ病の治療のために開発された治療方法ですが、現在は幅広い精神疾患の治療に使われています。
このほかにも、ソーシャルスキルトレーニング(SST)という対人関係を円滑にするためのトレーニングを行う場合もあります。
環境調整
ASDの患者さんは子どもから大人までいますが、どの世代にも共通して有効なのが環境調整です。
ASDの特性に合わせた環境に変えていくことで、日ごろのストレスを軽減し、さまざまな症状を緩和できます。
具体的な環境調整の方法としては、騒音が少ない環境にする、職場での働き方を整える、苦手な刺激を減らすといったものが挙げられます。
患者さん一人では環境調整が難しい場合もあるため、家族や職場の人たちに協力してもらうことが大切です。
薬物療法
ASDの症状に対する治療として、薬物療法を行う場合もあります。
具体的には睡眠障害やてんかん発作、感覚過敏、うつ病といった症状の治療に有効です。
薬の種類 | 対象となる疾患・症状 |
---|---|
睡眠薬(睡眠導入薬) | 睡眠障害 |
抗てんかん薬 | てんかん発作 |
気分安定薬 | 双極性障害 |
非定型抗精神病薬 | 興奮、パニック、攻撃的行動 |
抗不安薬 | 不安障害 |
抗うつ薬 | うつ病、強迫性障害 |
薬物療法は薬による副作用のリスクがあるため、医師の指示をきちんと守って、正しい用法用量で服薬することが大切です。
ASDに対するTMS治療の効果

ASDに対する一般的な治療方法は心理療法や環境調整、薬物療法などですが、TMS治療も効果的とされています。
特にうつ症状や不眠といった二次症状がある場合に適した治療方法です。
ここではTMS治療の効果やメカニズムについて解説します。
TMS治療とは
TMS治療とは、正確にはrTMS治療(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)のことで、日本語で『反復経頭蓋磁気刺激療法』という治療方法です。
脳に何度も磁気刺激を与えることにより、低下している脳の働きを正常化する治療方法となっています。
刺激を与える部位や強さ、頻度などを調節することで、さまざまな症状に効果が期待できます。
日本では2019年に治療抵抗性うつ病に対する保険適用が認められたばかりで、まだ歴史の浅い治療方法と思われがちです。
しかし実はアメリカでは2008年には治療適応となっている治療方法で、精神疾患の治療に積極的に使われています。
さらにアメリカではうつ病だけでなく、強迫性障害やニコチン依存症も適応疾患となっており、その他の精神疾患についてもさまざまな研究が行われています。
ASDに対するTMS治療のメカニズム
ASDに対するTMS治療は、ASDそのものの原因にアプローチするというよりは、ASDに伴ううつ症状の改善に効果が期待できるというものです。
ASDの特性自体を改善するのは難しいものの、二次症状を改善することで、それに影響する特性が落ち着く可能性があります。
TMS治療の具体的なメカニズムを理解するためには、まずは脳内での情報伝達の仕組みについて知る必要があるでしょう。
人間の脳にはニューロンという神経細胞が存在しており、この細胞同士は電気信号で情報伝達を行っています。
そしてニューロン同士のつなぎ目にはシナプスという隙間があり、電気信号を化学信号(神経伝達物質)に変換することで、情報を伝えやすくしています。
この変換される神経伝達物質は、電気信号の情報量に応じて調節される仕組みです。
この調整する能力を神経可塑性といいますが、過剰なストレスなどによって能力が低下してしまうことがあります。
この低下した神経可塑性を修正できるのが、TMS治療なのです。
8の字コイルを使用して磁場を作り出し、局所的に脳に磁気刺激を与えることで、神経の機能を調整できます。
これによって、神経可塑性の低下によって起こるさまざまな症状の改善が期待できるのです。
ASDに対するTMS治療のエビデンス

ASDに対するTMS治療にはいくつかの研究データがあります。
まず2017年にブラジルのサンパウロ大学で9歳から17歳のASDの男性患者さんに対して行われた臨床研究です。
右のDLPFC(背外側前頭前野)に対して『シーターバースト』という高頻度刺激を3週間かけて行いました。
背外側前頭前野は、思考や創造性などの重要な役割を担う最高中枢です。
この研究では、ASDの繰り返しの行動や強迫観念、認知機能に改善がみられています。
参考:自閉症スペクトラム障害に対する間欠的シータバースト経頭蓋磁気刺激
この研究データのみを見ると、ASDにはTMS治療が効果的というように捉えられますが、まだ十分な研究が行われてないのが実情です。
ASDを含む発達障害に対するTMS治療の報告自体の少なさに加え、研究データの質の低さなども課題となっています。
ただしうつ症状に対する治療効果はきちんとエビデンスがあり、日本でも保険適用が認められているため、ASDに伴ううつ症状に悩んでいる方には効果が期待できる治療方法といえるでしょう。
TMS治療で改善する可能性のあるASDの症状

まだ研究段階ではありますが、TMS治療で改善する可能性のあるASDの症状として、以下の3つが挙げられます。
- 社会的コミュニケーション
- 反復行動や特定のこだわり
- 感覚過敏
ここでは上記3つの症状についてそれぞれ解説します。
社会的コミュニケーション
TMS治療で改善される可能性のあるASDの症状として、社会的コミュニケーションが挙げられます。
この症状はASDの大きな特徴の一つでもあり、対人関係においてストレスの原因になりやすいものです。
具体的には相手の気持ちを理解するのが難しい、たとえ話や冗談が通じないといった症状が挙げられます。
TMS治療で前頭前野や側頭葉を刺激することで、相手の表情を理解したり言葉のニュアンスを汲み取ったりする力が向上する可能性があります。
反復行動や特定のこだわり
反復行動や特定のこだわりなども、TMS治療で改善される可能性があるASDの症状の一つです。
ASD患者さんは自分の決めた順序に強いこだわりを持っていたり、気持ちの切り替えが苦手だったりする特徴があります。
また反復行動とは何度も同じ行動を繰り返すことで、具体的には体を前後に揺らす、同じ場所をうろうろするなどが挙げられます。
TMS治療で前頭前野を刺激することで、これらの反復行動や特定のこだわりなどが改善される可能性があるのです。
上記の症状が改善されると、日常生活の適応力向上も期待できます。
感覚過敏
ASDでは音や光などの感覚に対し過敏になることがありますが、TMS治療で改善される可能性があります。
例えば特定の音に対する感覚が過敏になる『聴覚過敏』、肌の感覚が過敏になる『触覚過敏』、日差しに対する感覚が過敏になる『視覚過敏』などがあります。
これらの感覚過敏は日常生活に支障をきたす場合もあり、悩んでいる患者さんも少なくありません。
TMS治療で脳の感覚処理にかかわる部位を刺激することにより、これらの感覚過敏が改善される可能性があります。
ASDをはじめとする発達障害にTMS治療を行う注意点

ASDをはじめとする発達障害の患者さんが、TMS治療を受ける際に押さえておきたい注意点は以下の3つです。
- TMS治療の効果が現れない場合もある
- 子どもに対するTMS治療はリスクが高く推奨されない
- ASDに対するTMS治療は保険が適用されない
ここでは上記3つの注意点についてそれぞれ解説します。
TMS治療の効果が現れない場合もある
TMS治療の効果はすべての患者さんに必ず現れるわけではないという点に注意が必要です。
あまり効果が感じられない場合もあるため、「TMS治療を受ければ絶対に治る!」と過度に期待しないようにしましょう。
特にTMS治療はまだ臨床効果の事例が少ない治療方法でもあるため、効果が現れない場合も十分に考えられます。
TMS治療を受けたい場合は、主治医とよく相談のうえで検討してみましょう。
子どもに対するTMS治療はリスクが高く推奨されない
子どもに対するTMS治療はリスクが高いため、基本的には推奨されないことを理解しておきましょう。
まだ脳が未発達な子どもに対するTMS治療は安全性が確認されておらず、どのような影響が出るかも不明です。
日本精神神経学会が公開している『反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)適正使用指針』には、安全かつ効果的にTMS治療を行うための指針が示されています。
ここに示されている年齢に関する指針は以下の通りです。
- 対象疾患は十分な薬物療法で治療効果が認められない中等症以上の成人(18歳以上)のうつ病であること
- 18歳未満の若年者はTMS治療を施行すべきではないこと
TMS治療を検討する際は、安全に治療を受けられる医療機関を選びましょう。
ASDに対するTMS治療は保険が適用されない
TMS治療は日本でも保険適用が可能な治療方法ですが、いくつか条件を満たす必要があります。
その条件は以下の通りです。
- 成人である
- うつ病と診断されている
- 過去に抗うつ病の薬物療法を受けており、効果が不十分だった
- 中等度うつ病である
- 2か月の入院が可能である
- 決められた機器とプロトコルが導入されている
日本ではまだ治療抵抗性うつ病にしかTMS治療の保険適用が認められておらず、上記のような条件をすべて満たさなくてはいけません。
うつ病を併発していて、上記の条件をすべて満たしていれば保険適用で治療が受けられますが、実際のところはTMS治療の保険診療を提供している医療機関が多くないというのが現状です。
ただし保険診療でなくても、自由診療でTMS治療を受けることは可能です。
自由診療は保険診療よりも最新のプロトコルを使えたり、短期集中治療が可能であったりと、さまざまなメリットがあります。
TMS治療が気になる方は、一度医師に相談してみるとよいでしょう。
ASDに伴ううつ症状の軽減にはTMS治療が効果的
ASDをはじめとする発達障害に対するTMS治療はまだ研究段階です。
しかしいくつかの研究データで効果がみられているため、今後のさらなる臨床研究に期待が高まる治療方法といえるでしょう。
またASDに伴ううつ症状に対しては、TMS治療で効果が期待できます。
『かもみーる』では、自由診療でのTMS治療を行っています。
医師監修のオンラインカウンセリングもあるため、ASDの症状にお悩みの方やTMS治療が気になるという方はぜひ当院までご相談ください。
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