なぜ寝不足だとイライラするの? 脳やホルモンなど身体に起きていること
更新日 2025年06月18日
睡眠障害
寝不足になると、ささいなことでイライラする、感情をうまくコントロールできなくなるなどの経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
これは単なる気の持ちようではなく、脳やホルモン、自律神経といった、体内の重要なシステムが睡眠によって大きく左右されているためです。
寝不足になりやすいは、具体的にどのような影響があるかを知ることで、生活習慣の見直しにつなげやすくなるでしょう。
この記事では、寝不足が引き起こす感情の乱れや心身への影響、具体的な対処法や、個人に適した睡眠時間の見直し方などについて紹介します。
寝不足でイライラすることが多いという人は、ぜひ参考にしてください。
寝不足が感情を乱す仕組み

睡眠不足になると感情がコントロールできなくなりイライラしやすくなるのは、単なる気分の問題ではなく、脳やホルモン、自律神経など重要な機能の変化が関係しています。
ここでは、寝不足によって具体的にどのような機能が変化しているのかを紹介します。
前頭葉の機能低下
寝不足によって前頭葉の働きが低下し、理性的な判断や衝動の抑制が難しくなります。
前頭葉は人間の理性や論理的思考、社会的判断を担う部位であり、感情のブレーキ役として機能しています。
ところが、寝不足だとこの部位の活動が低下し、以下のような状態を引き起こすことが少なくありません。
- 些細なことで怒りやすくなる
- 冷静な判断が難しくなる
このように、寝不足は脳の「理性を保つ機能」を麻痺させるため、イライラや攻撃的な言動に繋がる原因になります。
場合によっては本人の性格によるものと誤解されやすいこともありますが、実際には脳の物理的な変化によって生じている反応です。
扁桃体の過活動
寝不足は扁桃体の活動を過剰に高め、怒りや恐怖などの感情に敏感になります。
扁桃体は不安や恐怖のような原始的な感情を処理する部位で、外部からの刺激に対して「危険だ」と判断する働きをもっています。
通常であれば前頭葉が扁桃体の暴走を抑制しますが、寝不足により前頭葉の働きが鈍ると、扁桃体の活動を制御しきれなくなり、怒りや恐怖を過剰に感じやすいです。
その結果、些細な指摘や音、視線などにも過敏に反応し、感情的な爆発を引き起こしやすくなります。
コルチゾールの増加
寝不足は、ストレスホルモンであるコルチゾールの過剰分泌を招き感情を不安定にし、結果的にイライラを引き起こします。
人はストレスを感じるとコルチゾールを分泌し、交感神経を優位にします。この状態が長く続くと心身が緊張するため、リラックスできなくなる原因です。
寝不足が続くことによってこのサイクルが断ち切れなくなると、イライラや不安などのネガティブな感情が増幅しやすくなり、日常生活の些細なことにも敏感に反応してしまいます。
さらに交感神経が優位な状態が長引くことで寝つきも悪化し、寝不足とストレスの悪循環に陥るリスクが高まります。
自律神経の乱れ
寝不足になると自律神経のバランスが乱れ、イライラしやすい状態になります。
これは交感神経が過剰に優位になることで、心身が常に緊張したままになるためです。
例えば、本来は夜間に優位になるはずの副交感神経が働かず、眠っても身体が休まらない状態が続くと仮定します。
その結果、翌朝からだるさを感じたり、少しのことで感情が高ぶったりなど、日常生活に支障が出やすくなります。
寝不足がもたらすその他の悪影響

寝不足は単にイライラのような感情の乱れを招くだけではなく、身体的・精神的な面でも不調を引き起こします。
ここでは、寝不足が引き起こす主な4つの悪影響について紹介します。
認知機能の低下
寝不足は、集中力や判断力、記憶力などの認知機能を低下させます。
これは脳のパフォーマンスが十分に回復していないために起こる現象で、思考のキレや作業効率に差が出やすくなる原因です。
人は睡眠中に記憶を整理し、情報を統合する脳内処理を行っていますが、寝不足の状態ではその処理が不十分になり、新しい情報をうまく扱えなくなります。
そのため、以下のようなことが起こりかねません。
- 業務のミスが増える
- 作業に時間がかかる
- 勉強内容が頭に入らない など
一時的な寝不足でも影響は大きく、慢性化すると脳全体の処理能力が落ちていくため、注意が必要です。
精神的な不安定さ
寝不足は精神的な安定にも深刻な影響を与えます。
十分な睡眠が取れないと、脳内の情動調整機能が乱れ、不安感や抑うつ気分、焦燥感が増しやすくなります。
これは、扁桃体などの情動を司る部位が過敏になる一方で、理性を保つ前頭葉の働きが弱まるためです。
例えば、些細なミスや対人関係のちょっとしたすれ違いなど、通常であれば気にしないことにも過剰に反応し、落ち込みや怒りを引きずるケースが見られます。
こうした状態が続くと、心の余裕を失い、適切なストレス対処が難しくなる恐れも否定できません。
長期的にはうつ病や不安障害など、メンタル疾患の発症リスクも高まるため、精神的な健康を守る上でも十分な睡眠を確保しましょう。
身体的リスク
寝不足は身体面にも多くのリスクをもたらし、場合によっては生命に重大な影響を与える病気になる恐れもあります。具体的には以下が代表的です。
- 高血圧
- 肥満
- 心筋梗塞
- 糖尿病 など
このような重大な病気は、寝不足によって発症リスクが高まるとされています。
これは寝不足により自律神経が乱れ、交感神経の緊張状態が続くことや、血糖値を調整するホルモンのバランスが崩れることなどが関係しており、睡眠の重要性が分かる一面です。
さらに、寝不足によって食欲を抑えるホルモンが減少し、過食から肥満につながる傾向もあります。
免疫力の低下と病気への弱さ
寝不足が続くと免疫力が低下し、風邪にかかりやすくなったり、体力が低下しやすくなったりします。
睡眠中には免疫細胞が働き、体内のウイルスや細菌などへの防御体制が強化されますが、寝不足の状態ではその働きが鈍くなりやすいです。
このような状態が続くと体調を崩しやすくなり、回復にも時間がかかるようになります。
例えば、同じ環境にいても寝不足の人だけが風邪を引きやすい状況が見られるのは、免疫機能の差によるものです。
また、回復力の低下は疲労の蓄積にもつながり、慢性的な倦怠感や体力の低下を招きやすくなります。
睡眠不足の対処法

寝不足を改善するためには、環境や生活習慣の見直しが重要です。日中の行動や夜の過ごし方を含めて具体的な対策を行い、睡眠の質を高めていきましょう。
ここでは、寝不足を改善するために、効果が期待できる対処法について紹介します。
カフェインの摂取時間を考える
コーヒーやエナジードリンクなどのカフェイン飲料は、朝から昼過ぎなど早い時間に摂取する、または水やノンカフェイン飲料に置き換えることで、睡眠の質を保ちやすくなります。
カフェインは覚醒作用があり、摂取のタイミングや量によっては夜の入眠を妨げる原因です。そのため、寝不足の解消にはカフェイン摂取のコントロールが有効になります。
カフェインの効果は数時間持続するため、午後以降に摂ると眠気を感じにくくなり、就寝時間が遅れる原因になります。
夕方以降にコーヒーやエナジードリンクを摂取する習慣がある人は、摂取時間を早め、就寝時間に影響が出ないように注意しましょう。
ストレスコントロールをする
日中に受けたストレスも睡眠を妨げる原因です。ストレスの原因を整理し、リラックスして、就寝前に脳を沈静化させましょう。
ストレスが溜まった状態では、交感神経が優位になり、身体が興奮して眠りにくくなります。
例えば、寝る直前まで仕事のことを考えていたり、スマートフォンで刺激の強い情報を見ていたりすると、気付かないうちに心身が緊張し、質の良い入眠が難しくなる恐れがあります。
このような状態を避けるため、以下のようなことを試してみましょう。
- 深呼吸する
- ストレッチをする
- 日中にストレスの元を書き出しておく
- 照明を暗くする
心身ともにリラックスできる入眠環境を作ることで、スムーズな入眠と質のよい睡眠が得やすくなります。
仮眠する
短時間の仮眠は、寝不足の緩和に効果的です。
特に昼過ぎの時間帯に15〜20分程度の仮眠を取ると、集中力や気分の回復が期待できます。
15〜20分程度の睡眠は深い睡眠に入る前の浅い段階であり、その時点で起きれば脳がすっきりと覚醒し、その後のパフォーマンスが向上しやすくなります。
例えば、昼食後に少しだけ目を閉じる習慣を取り入れるだけで、午後の眠気や作業効率の低下を防ぎやすくなるためおすすめです。
ただし、夕方以降に仮眠を取ると夜の入眠が遅くなり、睡眠の質を下げてしまうおそれがあるため、時間帯と長さには注意が必要です。
専門機関の受診
さまざまな方法を実践しても寝不足が改善しない場合は、専門機関の受診も検討しましょう。寝不足の背後に睡眠障害や精神的な疾患が隠れている可能性があるためです。
不眠が続いて日常生活に支障が出ている場合、心療内科や睡眠外来で専門的な検査を受けてください。
また、眠れない原因がストレスやうつ状態に起因していると判断された場合には、投薬やカウンセリングなどのサポートも受けられます。
オンライン診療・オンラインカウンセリングの『かもみーる』でも、寝不足に関する悩みをご相談いただけます。
適切な睡眠時間の目安とは

睡眠時間の目安は年齢や体質によって異なります。また、時間だけではなく、質や深さを考えることも重要です。
ここでは、睡眠時間の目安や、適切な睡眠時間を見つけるポイントなどについて紹介します。
年齢別の目安
必要な睡眠時間は年齢によって異なります。それぞれの時期に応じた適切な睡眠を確保することが、健康維持に欠かせません。
特に成長期には長時間の睡眠が必要で、加齢に伴いその時間は変化していきます。
年齢別に推奨される睡眠時間は、以下を参考にしてください。
年齢・年代別 | 推奨睡眠時間 |
---|---|
1~2歳 | 11~14時間 |
3~5歳 | 10~13時間 |
6~12歳(小学生) | 9~12時間 |
13~18歳(中学生・高校生) | 8~10時間 |
成人 | 7時間以上 |
高齢者 | 個人の体調や生活に合わせて適切に |
加齢とともに推奨される睡眠時間は変わります。ライフスタイルや仕事・勉強のスケジュールによっては増減が出やすいですが、できるだけしっかりと眠ることが大切です。
睡眠の「質」と「深さ」
睡眠は時間だけでなく、質や深さも重要です。例えば、以下のような人は十分な睡眠が取れていない恐れがあります。
- 中途覚醒が多い
- 入眠に時間がかかる
このような場合、長く寝ていてもしっかりとした質のよい睡眠が取れているとは考えにくいです。
深く質のよい眠りが取れないままでは、脳の疲労回復やホルモンの分泌が不完全になり、日中の集中力や感情の安定に悪影響を及ぼします。
就寝前のスマートフォン使用や、照明の明るさ、室温の高さなどが浅い眠りの原因になっていることもあります。
時間だけに注目するのではなく、寝つきや眠りの深さを意識してコントロールしていきましょう。
睡眠時間の見直しポイント
自分にとって適切な睡眠時間を考えるためには、自身の体調や生活リズムに照らしながら考えましょう。判断基準として、以下の点に注目してください。
- 目覚めのよさ
- 日中の眠気の有無
- 集中力の持続
- 体調の安定 など
例えば、寝起きが悪く日中に何度も眠気を感じる場合は、睡眠が足りていない、または質が悪い可能性があります。
逆に、規則正しいリズムで起床でき、日中も活発に活動できているなら、その人にとって適切な睡眠が取れていると考えられます。
年齢や年代別に推奨される睡眠時間を基準にするほか、自分のライフスタイルも考えながら適切な睡眠時間を見つけましょう。
まとめ
寝不足でイライラする場合には、前頭葉や扁桃体の過活動、コルチゾールの増加、自律神経の乱れなどさまざまな原因が考えられます。
寝不足が長く続くと、体調やメンタル面でも悪影響が出ることがあるため、「睡眠の改善が必要かも」と感じたら、カフェインやストレスのコントロール、仮眠などを試してみましょう。
また、セルフケアで対処できなかった場合には、専門機関の受診もおすすめです。心療内科や一般内科など、睡眠の悩みに対応可能な診療科を受診してください。
オンライン診療・オンラインカウンセリングの『かもみーる』では、医師や有資格の心理士による診療やカウンセリングを提供し、睡眠の悩みにも対応しています。
オンライン診療は24時まで対応可能なため、日中が忙しい方でも受診しやすい環境を整えています。
睡眠の悩みがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。