大人になっても感情のコントロールが難しいと感じる人は少なくありません。
「職場でのちょっとした指摘にカッとなってしまう」「予定変更に混乱して感情的になる」「些細なことで落ち込みが長引く」こうした状態が頻繁に起こる場合、その背景に発達障害の特性が関係していることがあります。
この記事では、大人の発達障害の特徴について解説します。
日常的に取り入れられる対処法もまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
大人でも感情のコントロールができないことがある

大人でも感情のコントロールが難しくなることは珍しくありません。
例えば、相手から反対意見を言われると強く言い返してしまう、仕事のミスを長時間引きずって気持ちを切り替えられない、予定の変更にパニックを起こしてしまうといったケースがあります。
こうした状態は一時的なストレスや睡眠不足など日常的な要因でも起こりますが、背景に発達障害や精神疾患が関係していることもあります。
特に「怒りやすい」「落ち込みやすい」などの傾向が長期間続き、人間関係や仕事に支障をきたしている場合は注意が必要です。
感情の起伏は誰にでもありますが、度合いや頻度が強くなると、本人も周囲も負担を感じるようになります。
発達障害の可能性がある
感情のコントロールが難しい背景には、発達障害の特性が影響していることがあります。
発達障害は生まれつきの脳機能の偏りによって生じる障害で、大人になってからも特性は続きます。
子どもの頃は気づかれなかった場合でも、職場や社会生活の中でストレスが重なり、感情のコントロールが難しくなって診断されるケースも少なくありません。
代表的なものにASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)があります。
ASD | 予想外の出来事や予定変更が苦手で、強いこだわりが阻害されたときに癇癪を起こすことがある発達障害 |
ADHD | 衝動性の高さから、刺激に対して即座に反応してしまい、冷静な判断ができない場合がある発達障害 |
ただし、発達障害だからといって必ず感情のコントロールが苦手になるわけではありません。
あくまで原因の一つとして考えられるため、他の要因と併せて総合的に判断することが大切です。
病気の可能性もある
感情の爆発が頻繁に起こり、自分でも制御できない場合は、間欠性爆発性障害(IED)などの精神疾患が関係していることもあります。
IEDは小さなきっかけで激しい怒りを爆発させ、物を壊す・怒鳴るといった行動を繰り返す疾患で、本人も後悔や苦痛を感じやすいのが特徴です。
また、双極性障害の躁状態やうつ病によるイライラ感なども、大人の癇癪や情緒不安定の原因となることがあります。
これらの疾患は発達障害と重なって存在する場合もあり、症状が複雑に絡み合うことで自己判断が難しくなります。
「怒りすぎてつらい」「感情が制御できず生活に支障が出ている」と感じるときは、性格や一時的なストレスのせいと決めつけず、精神科や心療内科などの専門医に相談することが大切です。
適切な診断と治療を受けることで、感情の波を安定させ、日常生活の質を改善できる可能性があります。
▶うつ病と双極性障害(躁うつ病)の違いは?症状・原因・治療法とセルフチェックリスト
大人の発達障害とは

大人の発達障害とは、生まれつきの脳機能の特性によって日常生活や仕事において困難が生じる状態を指します。
子どものころから特性は存在しますが、環境や周囲の理解によって目立たず過ごしてきた場合、大人になってから職場や家庭で生きづらさを実感することがあります。
代表的な発達障害には、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、LD(学習障害)などがあり、特徴や困りごとはさまざまです。
大人の発達障害でよく見られる困りごととしては、以下が挙げられます。
- ケアレスミスが多い
- 特定の物事や順序に対するこだわりが強い
- 社会的コミュニケーションが苦手
- 感情のコントロールが難しい
- 光や音に敏感
ここでは上記5つの困りごとについてそれぞれ解説します。
ケアレスミスが多い
ADHDの特性を持つ人は、集中力や注意力を長く保つことが難しく、仕事や日常生活でケアレスミスが多くなる傾向があります。
メールの添付忘れや数字の打ち間違い、会議の内容を聞き漏らす、タスクを期限内に終えられないなどが典型的な例です。
これらは怠慢ではなく、注意の持続や切り替えが苦手な特性によるもので、改善しようと努力しても繰り返してしまうことがあります。
また、短期記憶やワーキングメモリの弱さから、複数の情報を同時に処理する場面で抜けや漏れが生じやすくなります。
その結果、職場での評価が下がったり、自己肯定感が低下してしまうようなケースも珍しくありません。
特定の物事や順序に対するこだわりが強い
ASDの特性を持つ大人の中には、特定の手順や順序、ルーティンに強いこだわりを示す人がいます。
これは安心感を得るための行動でもあり、予定外の変更や予測不能な事態に直面すると強い不安や混乱を引き起こすことがあります。
例えば、仕事の手順や会議の進行が急に変更された場合に、パニックや怒りの感情が生じやすくなるのです。
こうしたこだわりは作業の正確さや品質の維持に役立つ一面もありますが、柔軟性が求められる場面ではストレスの原因となります。
社会的コミュニケーションが苦手
発達障害のある大人の中には、相手の表情や声のトーンから感情を読み取ることが難しい、冗談や比喩をそのままの意味で受け取ってしまうなど、社会的コミュニケーションに困難を抱える人がいます。
特にASDの特性では、曖昧な指示や暗黙のルールを理解しづらく、「空気が読めない」と誤解されることも少なくありません。
このため、職場や日常生活で誤解やトラブルが起こりやすく、本人は悪意がなくても人間関係がぎくしゃくしてしまうことがあります。
感情のコントロールが難しい
大人の発達障害では、怒りや不安などの感情が急に高まり、抑えるのが難しい場合があります。
ADHDでは衝動性が、ASDでは予定外の変化や感覚過敏によるストレスがその背景にあることが多いです。
例えば、注意を受けた瞬間にカッとなってしまう、予定変更で混乱し感情的になるなどが典型的な例です。
このような特性は職場での評価や人間関係に影響し、本人も自己嫌悪に陥ることがあります。
光や音に敏感
感覚過敏はASDの特性の一つで、光や音、匂い、触覚などに通常より強く反応してしまう状態です。
例えば、蛍光灯のちらつきやパソコン画面の光、周囲の雑音や話し声が強いストレスとなり、集中力が低下したり疲れやすくなります。
満員電車や人混みを苦手とする人も多く、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。
こうした感覚過敏は本人の努力だけで軽減するのは難しいため、サングラスやイヤーマフの使用、服の素材選びなどの環境調整が重要です。
職場でも作業場所を静かなエリアに変える、照明を調整するなどの配慮があると、ストレスが軽減されやすくなります。
大人の発達障害は診断が必要?

大人になってから発達障害を疑い、診断を受けるべきか迷う人は少なくありません。
診断を受けるかどうかは本人の意思に委ねられますが、受診にはいくつかのメリットがあります。
- 自分の特性を理解できる
- 会社に合理的配慮を求められる
- 病院で治療を受けられる
- 障害福祉サービスを受けられる
ここでは上記4つのメリットについてそれぞれ解説します。
自分の特性を理解できる
診断を受ける大きなメリットの一つは、自分の特性を客観的に理解できることです。
発達障害の診断では、問診や心理検査を通じて注意力や記憶力、柔軟性、感覚の傾向などを詳細に分析します。
これにより、「なぜ他の人と同じようにできないのか」という長年の疑問が解消されることがあります。
自己理解が深まると、自分に合った働き方や学び方を見つけやすくなり、無理のない生活環境を整えるきっかけにもなるでしょう。
また、特性を把握することで「努力不足ではなかった」と自分を肯定でき、自己否定から解放される人も少なくありません。
会社に合理的配慮を求められる
発達障害と診断されると、職場で合理的配慮を求めやすくなります。
合理的配慮とは、障害のある人とない人との間に不利益が生じないよう、環境や業務方法を調整する取り組みのことです。
例えば、発達障害の場合は「指示は口頭だけでなく書面でも伝える」「集中しやすい席に配置する」「作業手順を明確に示す」といった対応が考えられます。
法律上、事業者は過度な負担とならない範囲で合理的配慮に応じる義務があります。
診断があることで説得力が増し、具体的な要望を伝えやすくなるでしょう。
病院で治療を受けられる
診断を受けることで、医師の指導のもと適切な治療や支援を受けられるようになります。
発達障害の治療は大きく分けて薬物療法と心理療法があり、ADHDに対しては注意力や衝動性を改善する薬が処方されることがあります。
また、主治医がいることで、ストレスや二次障害(うつ病・不安障害など)の兆候が出た際に迅速に相談できる点も大きなメリットです。
障害福祉サービスを受けられる
発達障害の診断を受けることで、就労や生活を支援する障害福祉サービスを利用できる可能性が高まります。
例えば、一般企業で働くためのスキルを習得する就労移行支援、現状で一般就労が難しい人向けの就労継続支援、日常生活のサポートを行う居宅介護や相談支援などがあります。
これらのサービスは診断書なしでも利用できる場合がありますが、診断があれば対象範囲が広がり、より多くの支援が受けられるでしょう。
感情のコントロールができないときの対処法

感情のコントロールができないときの対処法として、以下が挙げられます。
- 深呼吸をする
- 今の気持ちを書き出す
- その場から離れる
- ポジティブな解釈をする
- いまに意識を集中させる
- 自分の好きなことをする
- アンガーマネジメントを学ぶ
- 十分な睡眠時間を確保する
ここでは上記の対処法についてそれぞれ解説します。
深呼吸をする
感情が高ぶったときに有効なのが深呼吸、特に腹式呼吸です。
背筋を伸ばして椅子に座り、お腹に手を当てながら「1、2、3」と数えつつ口から息を吐き、次に同じ秒数で鼻からゆっくり吸い込みます。
この呼吸は副交感神経を刺激し、心を落ち着ける効果が高いとされています。
職場や公共の場でも目立たず行えるため、感情が高ぶったときに即効性のある対処法です。
数回繰り返すことで思考が整理され、冷静に行動できる状態に近づきます。
今の気持ちを書き出す
感情の整理には、今の気持ちを紙に書き出す方法が効果的です。
「イライラしている」「悲しい」など、思いつくままに言葉を書くだけで構いません。
書き出すことで感情を客観的に見られるようになり、気持ちとの距離を取ることができます。
文字に限らず、絵や落書きでも同じ効果が得られます。
日記のように継続的に書き留めると、自分が感情を乱しやすい場面やパターンに気づけるため、長期的な感情コントロールの向上にもつながるでしょう。
その場から離れる
怒りや不安を感じたときは、その場を離れるのが効果的です。
感情を刺激する相手や環境から距離を取ることで、気持ちをリセットしやすくなります。
職場であれば「少し席を外します」と一言伝え、休憩室や屋外に出るだけでも効果があります。
ポジティブな解釈をする
同じ出来事でも、捉え方によって感情の揺れは大きく変わります。
心理学ではこれを『認知的再評価』と呼びます。
例えば、面接で難しい質問をされたとき、「意地悪だ」と思えば緊張や怒りが増しますが、「業務の一環で必要な質問だ」と捉えれば冷静に対応できる可能性が高まるでしょう。
ポジティブな意味づけを習慣化することで、感情の乱れを未然に防ぎ、ストレス耐性を高めることができます。
いまに意識を集中させる
過去の出来事や将来の不安にとらわれると、怒りや不安が長引きやすくなります。
そんなときは、マインドフルネスの方法を使って「今この瞬間」に意識を戻しましょう。
例えば、周囲の音や匂い、触感を細かく描写することで、頭の中の雑念を減らします。
「紙がこすれる音」「足音が近づく」など、感覚に意識を向けることで感情から距離を置き、冷静さを取り戻しやすくなります。
自分の好きなことをする
感情が乱れているときは、原因を掘り下げるよりも、気持ちを切り替えることが有効な場合があります。
好きなお菓子を食べる、音楽を聴く、短時間の散歩をするなど、自分にとってリラックスできる方法を事前に用意しておくと安心です。
重要なのは、確実に気分転換できるものを選ぶことです。
職場の場合は、休憩時間や許可を得られる環境で実践してみましょう。
アンガーマネジメントを学ぶ
アンガーマネジメントは、怒りの仕組みやパターンを理解し、適切にコントロールするための心理トレーニングです。
簡単にできる方法としては、怒りを感じたら6秒待つ、原因を特定する、ポジティブな視点に切り替えるなどがあります。
怒りのピークは約6秒と言われ、その間をやり過ごすことで衝動的な発言や行動を防ぎやすくなります。
十分な睡眠時間を確保する
睡眠不足は感情の乱れや判断力の低下を招きます。
毎日同じ時間に起き、朝日を浴びる、夕食後のカフェインや飲酒を控える、ぬるめのお湯で入浴するなど、睡眠の質を高める習慣を取り入れましょう。
質の高い睡眠は疲労回復やストレス軽減につながり、感情が安定した状態を保ちやすくなります。
発達障害の特性を理解したうえで対策をとることが大切
大人の発達障害では、特性によって感情の起伏が強くなったり、落ち着くまで時間がかかることがあります。
しかし、深呼吸や気持ちの書き出し、環境から離れるなどの対処法を身につければ、衝動的な言動を減らすことが可能です。
どうしても感情のコントロールが難しい場合には、専門家に相談したり適切な治療や支援を受けたりすることも検討してみましょう。
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