アルコール依存症とは

飲酒のコントロールが難しくなる病気
アルコール依存症では、「今日はここまで」と決めた量を超えて飲む、お酒を控えようとしても続かない、体調や人間関係への影響を感じながら飲酒を繰り返す、といった状態がみられます。
お酒への強い欲求が生じ、飲酒を生活の中で優先するようになることもあります。
仕事を続けている方や、普段は周囲から問題が見えにくい方にも起こります。
受診の目安になるのは、飲酒が自分の意思や生活にどのような影響を及ぼしているかです。
症状が軽いうちから相談することで、取り組み方を一緒に考えられます。
参考:Understanding Alcohol Use Disorder|NIAAA
「お酒好き」「多量飲酒」との違い
飲酒量が多いほど依存症や身体の病気のリスクは高まりますが、依存症の診断では飲酒行動や生活上の支障も確認します。
お酒の種類、毎日飲むかどうか、肝機能の数値だけで判断することはできません。
「以前より量が増えた」「休肝日を決めても守るのが難しい」「飲酒後の体調不良で予定を変更することが増えた」という変化があれば、一度飲み方を振り返ってみましょう。
アルコール依存症の主な症状・初期のサイン

症状の現れ方には個人差があります。
早い段階では、周囲に大きなトラブルが生じる前に、飲酒量や生活の優先順位が変わっていくことがあります。
決めた量や時間を超えて飲む
「缶1本で終えるつもりが追加で買ってしまう」「翌朝に予定があっても遅くまで飲む」といったことが繰り返されます。
減らそうと何度も取り組んでいるのに、思うように調整できないことも重要なサインです。
お酒への欲求が強くなり、生活を圧迫する
仕事中から飲酒のことが気になる、お酒を飲めるかどうかで予定を決める、趣味や家族との時間が減るなど、飲酒の優先度が高まります。
飲んでいる時間に加え、酔いや翌日の不調から回復する時間も生活を圧迫します。
同じ効果を得るために飲酒量が増える
以前と同じ量では酔いや満足感が得られにくくなる現象を「耐性」といいます。
飲酒量が増えてきた場合は、身体がお酒に慣れてきた可能性があります。
お酒が切れると震えや不眠が出る
飲酒を中断したり大幅に減らしたりしたときに、手の震え、発汗、動悸、不眠、吐き気、強い不安などが現れることがあります。
これが「離脱症状」です。
朝の不調を和らげるために飲む、いわゆる迎え酒が繰り返される場合にも注意が必要です。
離脱症状は医療機関で評価・治療する対象です。
症状を抑えるための飲酒を繰り返す前に、早めの相談につなげましょう。
参考:Alcohol Use Disorder: From Risk to Diagnosis to Recovery|NIAAA
アルコール依存症の原因・なりやすさに関わる要因

飲酒の繰り返しによる脳の働きの変化
アルコールは、快感や意欲、ストレス反応、行動の調整に関わる脳の働きに影響します。
飲酒を繰り返すうちに、お酒のある場所や仕事終わりなどの状況が、強い飲酒欲求と結びつくことがあります。
さらに、お酒が切れたときのつらさを飲酒で和らげる習慣が加わると、「楽しむために飲む」状態から「つらさを避けるために飲む」状態へ変化していきます。
治療では、この循環を理解し、飲酒以外の対処を増やしていきます。
参考:The Cycle of Alcohol Addiction|NIAAA
体質・生活環境・こころの不調が重なる
依存症のなりやすさには、飲酒量や頻度に加えて、遺伝的な要因、若い頃からの飲酒、飲酒を促す環境、トラウマの経験、うつ病などの精神疾患が関係します。
複数の要因が重なって発症に至ると考えられています。
不安や落ち込みを紛らわせるために飲酒している場合は、背景のつらさも治療で扱うことが大切です。
相談の際には、飲酒のことと一緒に、睡眠や気分、生活で困っていることも伝えてください。
参考:Understanding Alcohol Use Disorder|NIAAA
診断とセルフチェックはどのように行う?

診察では飲み方と生活への影響を確認する
医師は、普段の飲酒量、飲む時間帯、減らそうとした経験、離脱症状、仕事や家庭への影響などを聞き取り、診断基準に沿って評価します。
肝機能などの血液検査は、身体への影響や治療の安全性を確認するために役立ちます。
診断分類によって用語や基準が異なります。
DSM-5-TRでは「アルコール使用障害」という、従来の依存症より広い範囲を含む名称を用います。
過去12か月に、飲酒の調整困難、強い欲求、生活への支障、耐性・離脱など11項目のうち2項目以上があり、臨床的に意味のある苦痛や障害を伴う場合に診断を検討します。
この項目数をそのまま自己診断に使うのではなく、経過や症状の背景を含めて医師が判断します。
参考:Alcohol Use Disorder: From Risk to Diagnosis to Recovery|NIAAA
AUDITで飲酒の問題を振り返る
AUDIT(オーディット)は、WHOが開発した10項目の質問票です。
飲酒量や頻度に加え、飲み始めると止めにくいことや、飲酒による問題などを確認します。
久里浜医療センターの説明では、日本の特定保健指導で用いる区分として、8~14点を飲酒量を減らす支援の対象、15点以上を依存症が疑われる受診の目安として紹介しています。
ただし、区分点は対象や目的によって異なります。
点数が低くても、離脱症状や生活上の困りごとがあれば相談が必要です。
飲酒量は「純アルコール量」で把握する
飲酒による健康への影響を考える際には、お酒の種類や杯数だけでなく、実際に摂取した「純アルコール量」を把握することが大切です。
純アルコール量(g)=飲酒量(mL)×アルコール度数(%)÷100×0.8
例えば、アルコール度数5%のビール500mLに含まれる純アルコール量は20gです。
お酒の例 | 量・度数 | 純アルコール量 |
ビール | 500mL・5% | 20g |
チューハイ | 500mL・9% | 36g |
日本酒 | 180mL・15% | 約22g |
ワイン | 150mL・12% | 約14g |
生活習慣病のリスクを高める飲酒量は男女で異なる
厚生労働省の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」では、生活習慣病のリスクを高める飲酒量として、1日当たりの平均純アルコール摂取量について、男性40g以上、女性20g以上という指標が示されています。
アルコール度数5%のビールに換算すると、男性では1日平均約1,000mL、女性では約500mLに相当します。
ただし、これらは安全な飲酒量の上限ではありません。
少量の飲酒でも、がんや高血圧などのリスクが高まる場合があります。
飲酒による影響は、性別に加えて年齢、体質、持病、服用中の薬などによっても異なります。
アルコール依存症の診断では、飲酒量だけでなく、飲酒のコントロールの難しさや生活への支障などを総合的に評価します。
上記の量を下回っていても、飲酒を減らせない、飲酒欲求が強いなどの症状があれば医療機関に相談しましょう。
参考:厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」
アルコール依存症に伴う身体・こころへの影響
アルコール依存症では、長期間の多量飲酒によって、肝臓だけでなく、膵臓、心臓、脳、神経など全身に影響が及ぶことがあります。
また、抑うつや不安、睡眠の問題が飲酒と相互に影響し合う場合もあります。
影響の程度は飲酒量・飲酒期間・体質・併存疾患などによって異なります。(参考:WHO)
肝臓・膵臓・消化管への影響
アルコール関連肝疾患では、脂肪肝からアルコール関連肝炎、肝線維化、肝硬変へ進行する場合があります。
肝硬変が進行すると、腹水、黄疸、食道静脈瘤からの出血、肝性脳症などが起こり得ます。
また、飲酒は急性・慢性膵炎と関連し、慢性膵炎では腹痛や消化吸収障害、糖尿病につながることがあります。
胃や食道などの消化管にも炎症や出血が生じる場合があります。(参考:NIAAA詳細)
心臓・血管への影響
長期間の多量飲酒は、高血圧、心房細動などの不整脈、心筋症、脳卒中と関連しています。
アルコール性心筋症では心臓の収縮機能が低下し、息切れ、むくみ、疲れやすさなどの心不全症状が現れることがあります。(参考:NIAAA詳細)
脳・神経・認知機能への影響
飲酒時には注意力、判断力、反応速度や運動の協調性が低下し、転倒や事故の危険性が高まります。
長期間の多量飲酒では記憶力や計画的に行動する力などが低下することもあります。
末梢神経障害によって手足のしびれが生じる場合もあります。(参考:NIAAA)
栄養状態の悪化に伴うビタミンB1欠乏は、ウェルニッケ脳症の原因となります。
意識の混乱、歩行のふらつき、眼球運動の異常などが現れることがあり、速やかな医療対応が必要です。
治療が遅れると、重い記憶障害を伴うコルサコフ症候群につながることがあります。(参考:NIAAA詳細)
うつ病・不安症・睡眠障害との関係
落ち込みや不安を和らげようとして飲酒が増えることがある一方、アルコールの作用や離脱によって抑うつ、不安、焦燥感が現れることもあります。
また、飲酒で一時的に眠くなっても、睡眠の後半に目が覚めやすくなるなど、睡眠の質が損なわれる場合があります。(参考:WHO)
飲酒に伴う精神症状なのか、独立したうつ病や不安症が併存しているのかは、飲酒量の変化や症状の経過を踏まえて評価します。
必要に応じて飲酒の問題と精神症状の両方に対する治療を進めます。
がんのリスクとの関係
飲酒は口腔・咽頭・喉頭、食道、肝臓、大腸、乳房などのがんのリスクを高めます。
アルコールの代謝で生じるアセトアルデヒドによるDNAへの損傷などが、発がんの仕組みに関係しています。
飲酒量が増えるほど多くのがんのリスクは高まりますが、少量の飲酒でもリスクが上昇するがんがあります。
喫煙が重なると、特に頭頸部や食道のがんの危険性がさらに高まります。(参考:NCI)
アルコール依存症の治療では、飲酒量や生活への影響だけでなく、身体疾患・認知機能・精神症状を併せて確認し、必要な検査や治療につなげることが大切です。
アルコール依存症の治療

まず離脱症状と身体の安全性を確認する
治療の入り口では、飲酒をやめたときに起こる離脱症状の危険性を確認します。
必要に応じて離脱症状を抑える薬を用い、脱水や栄養状態も整えます。
ビタミンB1が不足している方などでは、その補充も検討します。
過去に断酒時のけいれんや意識の混乱を経験した方、重い身体の病気を伴う方などは、入院で安全を確保することがあります。
離脱症状が落ち着いた後も、飲酒の再開を防ぎ、生活を立て直す治療を続けます。
参考:Clinical guidelines for alcohol treatment:Alcohol care in acute hospitals|英国政府
断酒と減酒の目標を相談する
アルコール依存症では、原則として断酒の達成と継続を目指します。
一方で、身体・精神の状態や本人の希望を踏まえ、医師が適切と判断した場合には、飲酒量を減らす「減酒」を治療目標にすることもあります。
「お酒を完全にやめる決心がついてから受診する」と考える必要はありません。
「まず飲み方を見直したい」という段階から相談できます。
飲酒の問題が重い場合は断酒を勧め、減酒から始めた場合も、経過を見ながら目標を調整します。
心理社会的治療で飲酒への対処法を身につける
心理社会的治療は、飲酒につながる気持ちや行動、生活環境を整理し、回復を支える方法を身につける治療です。
例えば認知行動療法では、「帰宅後に一人になる」「仕事で失敗して落ち込む」といった飲みたくなる場面を振り返り、その場面で使える対処法を考えます。
本人が大切にしたい生活や治療への迷いを話し合い、取り組める目標を決める支援も行います。
飲酒を記録する、飲みたくなったときの相談相手を決める、飲酒に結びつく予定を調整するなど、生活に合った方法を組み合わせます。
参考:Treatment for Alcohol Problems: Finding and Getting Help|NIAAA
薬物療法で断酒・減酒を支える
日本で用いられる薬には、断酒の維持を補助するアカンプロサート、飲酒量低減を補助するナルメフェン、飲酒時に不快な反応を起こすことで断酒を支える抗酒薬などがあります。
目的や身体の状態に合わせて選択し、心理社会的治療と組み合わせます。
アカンプロサートでは下痢など、ナルメフェンでは吐き気やめまいなどが生じることがあります。
抗酒薬の服用中の飲酒は重い反応につながることがあり、本人が作用を理解したうえで使用します。
また、ナルメフェンには併用できないオピオイド系の鎮痛薬などがあるため、服用中の薬を医師に伝えることが大切です。
参考:アルコール科:薬物療法の解説|久里浜医療センター/セリンクロ錠10mg 添付文書|PMDA
減酒治療補助アプリHAUDY(ハウディ)とは
HAUDY(ハウディ)は、アルコール依存症の飲酒量低減治療を補助する、医師が処方するプログラム医療機器です。
正式な販売名は「CureApp AUD 飲酒量低減治療補助アプリ」で、2025年に国内で製造販売承認を受けました。
医師が減酒を適切な治療目標と判断した患者さんに使用します。
患者さんはスマートフォンで日々の飲酒量や体調を記録し、アプリを通じて飲酒習慣の振り返り、学習、目標に沿った行動の実践に取り組みます。
記録した内容は医師側のアプリにも反映され、診察時に飲酒状況や取り組みを確認しながら、目標や対処法を調整できます。
HAUDYは、診察と診察の間にも減酒への取り組みを続けられるよう支援する治療手段です。
アプリだけで診断や離脱症状の治療を行うものではなく、医師の診察と組み合わせて使用します。
重い離脱症状が予想される場合など、断酒や入院治療が優先される方もいるため、使用の適否は医師が判断します。
HAUDYの機能や利用条件について詳しく知りたい方は、減酒治療補助アプリHAUDY(ハウディ)の解説をご覧ください。
参考:減酒治療補助アプリ HAUDY(ハウディ)|沢井製薬・CureApp(https://aud-sodan.jp/hcp/)
外来・入院・自助グループを組み合わせる
症状や生活環境に応じて、通院で治療する方法と、入院で集中的に取り組む方法があります。
入院では離脱症状や身体の治療に加え、病気について学ぶプログラムや心理療法などを行います。
治療期間は状態や医療機関のプログラムによって異なります。
断酒会やAAなどの自助グループは、同じような経験を持つ人と回復の過程を共有する場です。
医療機関への通院、デイケア、地域の支援などと組み合わせ、自分に合う支えを増やしていきます。
参考:アルコール科:受診案内|久里浜医療センター/Treatment for Alcohol Problems: Finding and Getting Help|NIAAA
家族はどのように対応すればよい?

本人への働きかけと、家族自身の支援を考える
飲酒の問題が続くと、ご家族も不安や疲れ、経済的な負担を抱えることがあります。
ご家族自身が相談し、休息や支援を得ることも大切です。
本人に声をかける際は、落ち着いて話せるときに、「最近、朝につらそうで心配している」「一緒に相談先を探したい」など、具体的に心配していることと支援の提案を伝える方法があります。
やり取りが難しい場合は、専門の相談窓口で接し方を一緒に考えましょう。
本人が受診を望まない場合も家族だけで相談できる
精神保健福祉センターや保健所などでは、ご家族だけの相談も受け付けています。
家族向けの勉強会や自助グループが助けになることもあります。
本人を受診につなげる方法に加え、金銭や生活上のトラブルへの対応、家族自身の負担を減らす方法も相談できます。
暴力や威嚇がある場合は距離を取り、安全な場所へ避難してください。
差し迫った危険には110番、けがや意識障害には119番などの緊急支援を求めましょう。
参考:ご家族への支援|依存症対策全国センター
受診・相談の目安と、診察で伝えること
飲酒量を減らせず困っている、体調や仕事に影響が出ている、ご家族から心配されているときは、アルコール依存症に対応する精神科や専門医療機関に相談してください。
かかりつけ医から相談を始めることもできます。
相談先が分からない場合は、地域の精神保健福祉センターや保健所が案内を行っています。
受診の際は、次の情報をメモしておくと状況が伝わりやすくなります。
- お酒の種類・度数・1日に飲む量・飲む時間帯
- 最後に飲んだ日時と、お酒を減らした際の症状
- 過去のけいれんや意識の混乱、入院歴
- 健康診断の結果、服用中の薬、仕事や家庭で困っていること
- 断酒・減酒についての希望や迷っていること
幻覚、けいれん、強い混乱などがあるときは通常の予約日を待たず、救急受診を含めて速やかに医療につながってください。
状態の確認や検査、離脱症状の治療が必要な場合には、対面での診療が重要です。
参考:依存症の相談窓口について|依存症対策全国センター
アルコール依存症からの回復に向けて
回復では、飲酒を見直すこととともに、睡眠・食事・仕事・人とのつながりを整えていきます。
飲酒が再開したときも、早めに治療者へ伝えることで、きっかけや支援の不足を振り返り、治療を調整できます。
「今の飲み方を続けてよいか気になる」「家族としてどう関わればよいか知りたい」。
その気持ちを出発点に、相談先につながることが回復への一歩になります。
仙台で受診を検討されている方は、かもみーる心のクリニック仙台院の診療案内をご確認ください。