自閉症は妊娠中に予兆がある?影響する要因や気づくポイントを解説
更新日 2025年06月03日
児童精神科
自閉症(自閉スペクトラム症/ASD)は先天性の疾患であり、発達障害のひとつです。
「育て方に問題がある」「愛情不足」なのかもしれないなど、親としては悩んでしまうかもしれませんが、生まれつきの脳のつくりによるものです。
ただ、妊娠から出産までの間に、自閉症になる可能性が高まる要因があると考えられています。
この記事では、自閉症は妊娠中に予兆があるのかという疑問や、自閉症になる要因、気づくためのポイントなどについて詳しく解説します。
自閉症について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
自閉症は妊娠中に予兆がある?

結論から言うと、妊娠中に胎児が自閉症であると診断する方法は、今のところありません。
ここでは、予兆がわからない理由や、妊娠中の検査でわかることを解説します。
妊娠中に自閉症は特定できない
自閉症を始めとする発達障害は、妊娠中に特定することは困難です。
NIPT(非侵襲的出生前検査)は、生まれる前に胎児の染色体異常を調べる検査ですが、自閉症は染色体異常ではありません。
自閉症は複数の遺伝子の変化が引き起こすものであると考えられていて、単一の遺伝子や染色体の異常で説明できるものではないため、妊娠中に行える出生前診断では判断できません。
先天的な疾患とはいえ、自閉症を含む発達障害は、成長とともに少しずつ症状が現れるため、妊娠中に予兆を発見するのは難しいと言えます。
妊娠中の検査でわかること
妊娠中に自閉症は特定できませんが、妊娠中の検査でわかるのは、主に染色体異常や遺伝子異常による障害です。
NIPTや母体血清マーカー検査などは血液検査で行い、ダウン症候群やエドワーズ症候群などのリスクを推定することができます。
超音波(エコー)検査では、臓器や四肢の形成異常を含め、特徴が現れていればダウン症候群を判別できる可能性もありますが、確定はできません。
絨毛検査や羊水検査は障害の有無を特定する目的で行われますが、必ずしも特定できるわけではなく、また検査に伴う出血や破水、流産のリスクがあるため注意が必要です。
妊娠から出産までの間、自閉症に影響する要因

自閉症の発症には、さまざまな要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
ここでは主に、妊娠から出産までの間に影響する環境要因について解説します。
ただし、以下のことは自閉症に影響する要因である可能性はありますが、原因そのものは解明されていません。
当てはまるからといって必ず自閉症を発症するわけではなく、また反対に、当てはまらなくても自閉症を発症する可能性はあります。
前述したように、妊娠中に自閉症の診断をすることは困難です。
(参照:「自閉症の環境要因」藤原武夫、高松育子)
親の年齢
親の年齢が高くなるにつれ、自閉症のリスクが上がっていくことが指摘されています。
父親の年齢は10歳上がるごとにリスクが2倍以上となり、年齢が上がるにつれて精子の染色体に異常が発生することが示された研究結果もあります。
母親の年齢は父親ほどではないとされていますが、子宮機能の老化や血液供給の減少などの理由から産科合併症のリスクも高く、35歳以上では自閉症のリスクも高まるとされています。
妊娠週
妊娠週が短く出産を迎えると、自閉症のリスクが増加する恐れがあります。
35週未満で出産した場合、低出生体重や成長遅滞が起こりやすく、この場合自閉症リスクは約2倍です。
ただし、妊娠週が35週以上の低出生体重は自閉症のリスクとの関連は明らかではなく、妊娠週=在胎期間のみが関係していると考えられています。
生殖補助医療
体外受精や顕微授精などの生殖補助医療を受けて生まれた子どもは、自閉症の発症率が高かったという調査結果が報告されています。
卵胞刺激ホルモンの投与との関連性が指摘されていますが、はっきりとはわかっていません。
ただ、両親の年齢や妊娠週など、他の環境的要因や遺伝的要因により補正するとリスクが消失するとの報告もあります。
自閉症のリスクと生殖補助医療を受けた妊娠の関連性については、現時点ではまだ明らかでなく、さらなる研究が必要とされています。
(参照:「生殖補助医療と発達障害の関連」島田隆史 他)
栄養素
母体のビタミンD欠乏・不足は、自閉症の発生リスクと関連しているため、妊娠中から注意が必要です。
自閉症があると、ビタミンDの栄養状態が低いことが明らかになっています。
新生児は母体からの影響を受けていて、妊娠中のビタミンDが不足していることで新生児の栄養状態も左右されます。
(参照:「ビタミンD栄養状態と自閉スペクトラム症(ASD)リスク」日本ビタミン学会)
他にも、マグネシウムや亜鉛、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンE、オメガ3脂肪酸、カルニチンなどの栄養素が自閉症児に不足しているとの報告もあります。
帝王切開・流産歴
富山大学の研究によると、帝王切開の出産では、自然分娩(経腟分娩)と比較して自閉症と診断される頻度が高まるという結果が出ています。
特に女児の場合にこの傾向が見られ、男児では帝王切開に自閉症や他の神経発達障害が多くなる傾向は認められていません。
(参照:「帝王切開による出生と神経発達との関係:エコチル調査」富山大学)
また、流産歴や切迫早産も同様に自閉症リスクに影響すると考えられていることから、出産時の状況も環境因子として挙げられます。
生活習慣
妊娠中の生活習慣のなかにも、自閉症の発症に影響するものがあります。
妊娠初期の喫煙や受動喫煙は、自閉症のリスクになるとの研究結果が出ています。
日常的な喫煙は関連性が認められてはいませんが、喫煙自体が胎児への悪影響があるため、注意が必要です。
また、妊娠中の睡眠時間や身体活動量についても自閉症との関係が研究されていますが、明確ではありません。
適度な睡眠(7〜8時間)をとっていると、これより短かったり、長かったりするよりは自閉症の診断が少ない結果が出ています。
身体活動量が最も多いグループは、3歳時点で自閉症の診断リスクが40%低下しています。
しかし、これらの結果が自閉症の発症と直接関係しているかはわかっていません。
妊娠中に適切な睡眠や運動をしている方は、他の生活習慣を含めて母子ともに健康を保つ意識が高かったという可能性もあります。
(参照:「妊婦の生活習慣(睡眠時間や身体活動量)と出生時の3歳児の自閉症診断との関連」九州大学)
自閉症とは

自閉症は、1943年に「早期乳幼児自閉症」と名付けた論文が発表されてから長く認知されていました。
2013年にアメリカ精神医学会の診断基準DSM-5の発表以後は自閉スペクトラム症(ASD)と呼ばれています。
現在はアスペルガー症候群や自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害などの呼び方があったものを統一して表現するようになっています。
自閉症は、脳のなかにある情報を整理する中枢神経のメカニズムに特性があり、できることとできないことに差があるのが特徴です。
日常生活を困難に感じるほどの症状がある場合は、医師や臨床心理士に相談し、カウンセリングを受けてみましょう。
自閉症の原因
自閉症は先天性の脳機能障害により起こることはわかっていますが、なぜ自閉症になるのか、詳しくはまだわかっていません。
複数の遺伝的要因や環境的要因が複雑に重なり、関連し合っていると考えられています。
自閉症は発達障害の一種で、生まれつきの疾患です。
育児環境や愛情不足、虐待などが原因で発症するものではありません。
自閉症の症状
自閉症の症状はさまざまで、現れ方も程度も個人差があって一人ひとり異なります。
主な症状は、以下のようなものがあります。
- 他者とのコミュニケーションが苦手
- 感覚過敏・感覚鈍麻
- 興味を持つ範囲が狭い・こだわりが強い
- 変化に対応できない・不安になる
- 言葉の遅れや理解力が弱い・オウム返しする など
自閉症の特性として、自分の納得した決まり事は必ず守ったり、興味を持った事柄には時間を忘れて没頭できたりなど、得意なこともあります。
本人や家族にしかわからない症状だと、周囲の理解を得にくく、対人関係にお悩みの方も少なくありません。
自閉症の症状かもしれないと思ったら、信頼できる家族や友人、専門知識を持った医師や臨床心理士に相談してみましょう。
自閉症の割合
自閉症の診断数は近年増加していて、5歳における有病率は3.22%という報告があります。
(参照:「5歳児における自閉スペクトラム症の有病率は推定3%以上であることを解明」弘前大学)
また、日本自閉症協会は、およそ20〜40人(2.5〜5%)に1人は存在する可能性があるとしています。
以前と比較すると増加しているように感じるかもしれませんが、近年は検査精度が上がっていて今まで見逃されてきた自閉症の診断ができるようになったことも大きいでしょう。
自閉症に気付くためのポイント

子どもの自閉症の場合ですが、気付くためには子どもの様子をよく見ることが重要です。
もしも「あれ?」と感じることがあったら、周囲の方にも相談しながら、注意深く見守りましょう。
ここでは、子どもの自閉症に気付くためのポイントについて、詳しく解説します。
子どもからのサインをよく見る
自閉症の症状には個人差があり、軽度であれば気付かないケースも珍しくありません。
自閉症かもしれないと気付くきっかけになるサインは、以下のようなものがあります。
年齢 | サイン |
---|---|
0~1歳 | 目を合わせない あやしても笑わない 抱っこが嫌い 名前を呼んでも振り向かない 音や光に敏感 睡眠時間が短い |
2~3歳 | 言葉が遅れている(二語文が出ない) 指さしをしない かんしゃくが多い 偏食傾向がある 指示に従わない 周りの子どもに関心が薄い |
3~5歳 | 遊びのルールが理解できない 集団行動ができない 同じ遊びを繰り返す 決まった場所やルーティンへのこだわりが強い 友達とのトラブルが多い ごっこ遊びが苦手 |
これらは自閉症でよくある「気付くきっかけ」ですが、当てはまるかは人それぞれです。
いくつも当てはまったら自閉症と決まるわけでも、ひとつだけだから違うだろうというわけでもありません。
自閉症を始めとした発達障害に気付くポイントやサポートの方法については、以下の記事も参考にしてみてください。
▶︎子どもの発達障害とは?早く気付くポイントやサポート方法について解説
乳幼児健康診査や就学時健康診断など地域の検診を受ける
乳幼児健診は1歳6ヶ月、3歳(地域によっては5歳も)のタイミングで行われます。
厚生労働省は、1歳6ヶ月ではM-CHAT、3歳ではPARS(自閉スペクトラム症評定尺度)という質問紙を使用してスクリーニングすることを推奨しています。
(参照:「乳幼児健康診査における発達障害の早期発見・早期支援のための取組事例に関する調査研究報告書」株式会社政策基礎研究所(厚生労働省))
早期発見するための工夫や支援方法、健診の実施方法については自治体によりさまざまです。
なお、小学校の入学前に実施される就学時健康診断では、知的発達についても困難がないかを発見できる可能性があります。
あまり早い段階で診断をするのは慎重にすべきですが、小学校の学習に支障が出る前に気付けるように注意深く見守ってください。
保育園・幼稚園の様子をこまめに聞く
保育園や幼稚園に通う年齢になったら、行き帰りや面談でこまめに子どもの様子を聞きましょう。
園での集団行動や他の子どもとの関わり方、こだわりの有無などから、自閉症の可能性があると気付くきっかけになります。
多くの子どもたちを見てきた保育士や幼稚園教諭は、発達面の気がかりがある場合には早く気づきやすいため、聞いてみるのもひとつの方法です。
その際、我が子が否定されたように感じたり、ショックを受けてしまったりする方もいますが、それは無理もない感情かもしれません。
しかし、より良い環境や支援を受けるためと考え、次の行動に移すことができれば、子どもにとっても困りごとを減らす助けになるでしょう。
自閉症は適切な支援・サポートを受けることが大切
自閉症は、地域の相談機関(子育て支援センターや児童相談所、療育センターなど)に相談してみて、必要であれば専門機関を紹介してもらえます。
自閉症を始めとする発達障害を診断するには、医療機関の受診が必要です。
自閉症の可能性があることを伝え、対応しているかを事前に問い合わせしておきましょう。
それぞれの症状や特性に合わせた治療や支援・サポートをしていくためにも、早めに専門機関を受診して相談してください。
医師監修のオンライン診療・カウンセリングサービス『かもみーる』は、夜遅い時間や当日予約も可能で、いつでも医師や心理士にお悩みを相談できます。
『かもみーる心のクリニック(東京院)』での対面診療では、自閉症の診断補助として脳波検査(QEEG検査)を保険適用で行っております。
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