TMS治療は何に効く?効果や適応疾患&メリット・デメリットを紹介
更新日 2025年02月05日

うつ病にお悩みの方で、薬物療法がうまくいかない方の中には、他に何かよい治療法はないかと探しているうちに「TMS治療」という治療法を目にしたことがある方もいることでしょう。
TMS治療とは、磁気刺激によって脳に刺激を与える治療法です。
うつ病治療としては比較的新しいため、どんな治療なのか、何に効くのか詳しく知りたいという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、TMS治療とはどのような治療なのか、効果や適応疾患、メリット・デメリットなどについて紹介します。
薬を服用しないうつ病治療をお探しの方、TMS治療に興味のある方は、ぜひご覧ください。
TMS治療(磁気刺激治療)とは

TMS治療とは、脳に直接電気刺激を与えることで、シナプスの働きを整える治療方法です。
「repetitive Transcranial Magnetic Stimulation」の頭文字をとった略称で、厳密には「rTMS」といい、日本語では「反復経頭蓋磁気刺激法」と表されます。
2019年から保険適用でも受けられるようになりましたが、どのような治療なのか知りたい方も多いことでしょう。
ここではまず、TMS治療の概要を紹介します。
TMS治療は脳に電気刺激を与える治療
TMS治療とは、磁気を利用した電気刺激を脳に繰り返し与えることで、働きを改善する治療です。
磁場をパルス状に連続発生させるコイル装置を患者さんの前頭葉に当て、コイルに電流を流して磁場を変動させることで、渦電流が脳神経細胞に刺激を与えます。
うつ病の患者さんは、脳の左前方に位置する「背外側前頭前野」の機能低下によって意欲や思考力、集中力が低下し、適切な判断ができなくなっている状態です。
そこで磁気による刺激を脳に繰り返し与え、脳の血流のバランスを整えたり扁桃体の過活動を抑制したりすることで、機能を正常に回復する効果が期待できます。
日本では2019年に保険適用となった新しい治療
日本では、2019年6月にTMS治療の保険適用が認められ、徐々に国内での認知度も高まってきています。
適用条件をクリアする必要はありますが、対象となった場合は特定のTMS機器を用いた治療であれば保険が適用されます。
以下は、TMS治療で保険が適用される条件です。
- 成人であること
- うつ病と診断されていること
- 抗うつ剤の薬物療法を受けた経験があること
- 薬物療法では効果不十分であること
- 重度うつ病ではないこと
- 入院までの待機と2ヶ月の入院が可能なこと
- 特定の機器で定められた期間治療を受けること
上記のように、TMS治療を保険適用で受けるための条件は厳しく、現状では全体の3割程度にとどまっています。
また、施設の要件も厳しく、大学病院や総合病院などの大きな医療機関でなければ保険診療のTMS治療を実施できないため、スムーズに治療を受けるには自由診療を検討するのがおすすめです。
TMS治療は何に効く?効果と適応疾患

脳に電気刺激を与えることで、さまざまな効果が期待できるTMS治療ですが、具体的にはどのような効果があるのでしょうか。
ここでは、TMS治療の効果と適応疾患について紹介します。
TMS治療の効果
TMS治療には、主に以下の4つの効果が期待できます。
- うつ症状の改善
- 強迫症状の緩和
- うつ症状の再発予防
- 認知機能の維持・認知症予防
TMS治療で特に高いとされているのが、うつ症状の改善や強迫障害の緩和への効果です。
脳に電気刺激を与えることで、脳本来の働きを取り戻し、うつ病による不眠や気分の落ち込み、興味関心の喪失、ぐるぐる思考、不安に対して過剰な反応をしてしまう強迫障害などを軽減できる可能性があります。
また、うつ症状の再発予防、認知機能の維持・認知症予防の効果が期待できるのもTMS治療の特徴です。
現在、治療としては確立していませんが、TMS治療が認知機能に対してよい影響を与える可能性があるとされているため、 将来的には認知機能に関する治療として知られるようになるかもしれません。
TMS治療の適応疾患
TMS治療の日本での適応は、「治療抵抗性うつ病」や「治療不耐性うつ病」といった、薬物療法では十分な効果が認められないタイプのうつ病です。
海外においては、TMS治療はめざましい発展を遂げていて、うつ病以外にも以下の疾患に効果があるとされています。
- うつ病
- 強迫性障害
- ニコチン依存症・コカイン依存症
- 発達障害特性(ADHD・ASD)
- 睡眠障害
- パニック障害
- 摂食障害
- 双極性障害
- PTSD
上記の中で海外での治療適応が認められているのは、うつ病と強迫性障害、ニコチン依存症・コカイン依存症です。 その他の疾患については、まだ研究段階にあり、アメリカでも正式な治療法として認可されていません。
更なる研究が必要ではありますが、TMS治療は他の病気でうつ症状が出ている場合や疼痛、麻痺などの治療で、 リハビリの効果を高める目的で取り入れられる場合にも、効果が期待できるといわれています。
ただし、確実に治療効果が期待できるかどうかは、患者さんの状態によって異なるため、 TMS治療の経験が豊富な医師に相談することをおすすめします。
うつ病について詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
TMS治療のメリット

薬物療法や心理療法とともに、新しいうつ病治療の選択肢となったTMS治療には、さまざまなメリットがあります。
ここでは、TMS治療のメリットを紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
治療抵抗性の方でも一定の効果が期待できる
TMS治療は、薬とは異なるメカニズムで効果を発揮するため、これまで薬物療法で効果がみられなかった治療抵抗性の方でも、一定の効果が得られるケースが多いのがメリットです。
初めの薬の効きがよくないと、その後薬を変更しても効果が少しずつ低下してしまいますが、 TMS治療であれば薬の抵抗を示す患者さんでも、3〜5割程度に効果が得られる可能性があるでしょう。
米国NIMHが主導して行った「STAR*D試験」では薬や心理治療を2ステップ行った参加者の約半数、4ステップ行った参加者の約70%の症状が消失したとの結果が出ています。
一方、「薬物抵抗性大うつ病患者に対する経頭蓋時期刺激の多施設自然観察研究:1年間の追跡期間にわたる効果の持続性」という論文では、42の異なる臨床現場でTMS治療を実施し、1年間にわたって効果を確認したところ、 1年後も45.1%の患者さんの寛解が維持され、67.7%に治療反応が認められています。
薬物療法とどちらが効果が高いかは一概にはいえませんが、これらの結果からTMS治療は薬物療法を2ステップ行ったのと変わらない結果が、 より短期間で期待できるといえるでしょう。
副作用がほとんどない
TMS治療の最大のメリットは安全性が高く、薬物療法と比べて副作用が少ない点です。体にメスを入れることもないため、体に傷がつくこともありません。
また、薬物療法では抗うつ剤が全身に作用し、眠気やだるさ、ふるえ、吐き気などの副作用が起こる可能性がありますが、TMS治療では脳の特定箇所に直接刺激を与えることから、全身性の副作用の心配をせずに普段通りの生活を送ることができます。
万が一、治療中に軽い頭痛や吐き気などを催しても、ほとんどの場合、回数を重ねるうちに少しずつ慣れていきます。
重篤な副作用として、けいれん発作が起こる可能性もありますが、頻度としては89,000回に1回(0.001%)ととても少ないものです。
けいれん発作が生じるのは、TMS治療実施中か治療直後が多く、通常は1分未満5分以内で長期的な後遺症が報告された例はありません。
治療時間が短い
TMS治療は、治療時間が短いのがメリットです。他の治療法と比べて、日常生活に支障が出にくいといえます。
治療回数は20〜30回ほど必要なケースが多く、特に最初の10回はできるだけ短期間で受ける必要がありますが、1回あたりの治療時間は3〜30分程度と短いため、患者さんへの負担が少なくて済みます。
効果が現れるまでの期間が短い
TMS治療は、通院のときに確実に治療を行うため、薬のように飲み忘れることもありません。
短い期間に集中して治療を受けることも可能で、その場合は1週間程度で十分な治療効果が期待できる可能性もあります。
一般的には、10回治療を行った時点で症状の改善を自覚する方も多いです。
しかし、よくなったからといって自己判断でTMS治療を中断してしまうと、悪化する恐れもあるため、 脳が安定するまでは20〜30回と継続し、必要に応じて適切な間隔で治療を受けることをおすすめします。
薬と併用できる
TMS治療と薬物療法は、効果を発揮するメカニズムが異なるため、併用して治療を行うことができます。
現在、薬物療法を行っていて、急に薬をやめることに抵抗がある場合は、併用して治療を行うのもおすすめです。
ただし、併用するかどうかは医師の判断によります。希望の通りにならない可能性もあることを理解しておきましょう。
再発が少ない
TMS治療を受けた場合の1年後の再発率は1〜3割ほどだといわれ、薬物療法と比べて低いとされています。
そもそもうつ病は再発率の高い疾患で、一度回復しても約半数の方は再発するともいわれています。
特に5年以内の再発率が高く、再発した方の8割以上は平均して5〜9回ほど回復と再発を繰り返すとの報告もあるほどです。
そのため、うつ病の再発予防には細心の注意を払う必要がありますが、TMS治療では再発リスクのある方に対して維持治療も行えるため、薬物療法と比べて再発しにくいと考えられています。
ただし、再発予防の方法が確立されているわけではない点に注意しましょう。
TMS治療のデメリット
TMS治療は治療抵抗性の方でも一定の効果が期待でき、副作用もほとんどないなど、メリットの多い治療ですが、どんな治療にもメリットがあればデメリットもあることを忘れてはいけません。
ここでは、TMS治療のデメリットを紹介します。
頻繁に通院が必要
自由診療のTMS治療は、基本的に週に3〜5回ほどの通院が必要となるため、仕事をしながら治療を続けるのは大変だといえるでしょう。
保険適応では、多くの場合2ヶ月ほどの入院とその前の待機期間があり、その間は治療に専念することになることから、患者さんの負担はさらに大きくなります。
TMS治療は、適切な間隔で治療を受けなければ効果が期待できません。継続が難しいと感じる場合は、医師とよく相談して自分に合った治療を選択することをおすすめします。
保険が適用されない場合が多い
日本ではTMS治療を保険適用で受けるための条件が厳しく、自由診療で治療を受ける場合が多いです。
自由診療は治療にかかるすべての費用を患者さんが負担することになるため、1回の費用が高額になります。
しかしその反面、保険適用のTMS治療と比べて治療期間は短くて済み、入院の必要もないことから、 結果的に自由診療でも保険診療と変わらない可能性もあります。
必ず効果が得られるとは限らない
TMS治療は、治療抵抗性の方でも一定の効果が期待できる治療ですが、必ず効果が得られるとは限らない点に注意が必要です。
治療抵抗性うつ病の方に行った治療では、3〜5割ほどが症状が寛解したという報告があります。
これは、半数の方は寛解に到達しなかったともいえる結果です。
とはいえ、薬物療法で効果が不十分だった方に対する治療としては、よい結果であるといえるでしょう。
副作用が起こる可能性もゼロではない
TMS治療の安全性については、海外の臨床データからも証明されていますが、治療中に頭痛や吐き気、顔のけいれんなどの副作用が起こる可能性もゼロではありません。
多くの場合、TMS治療の回数を重ねることで刺激に慣れてきます。万が一、我慢できないほどの頭痛や顔のけいれんなどが生じた場合は、 コイル位置を調整したり刺激強度を下げたりして対応するため、医師にすぐ相談しましょう。
TMS治療がおすすめの方

メリットとデメリットを踏まえると、TMS治療は以下のような方におすすめだといえます。
- 薬の使用に抵抗がある方
- 持病で薬が服用できない方
- 薬物療法で効果を得られない方
- 薬の副作用が辛い方
- 妊娠中や授乳中、職業上の問題で薬を服用しにくい方
- 治療効果を早く得たい方など
TMS治療は薬を服用せず、副作用が発生しにくいのが特徴です。薬物療法での改善が難しい場合や薬を服用したくない場合でも、TMS治療を継続することで、うつ病の治療ができます。
TMS治療は治療抵抗性のうつ病でも効果が期待できる!
TMS治療は、電気刺激を脳に繰り返し与えることで、働きを改善する治療です。
薬物療法と比べてまだ歴史の浅い治療法であり、日本ではまだ受けられる医療機関が限られています。
保険適用の条件も厳しく、自由診療になるケースがほとんどですが、体に傷をつけずに副作用も少なく治療できるため、治療抵抗性のうつ病の方の重要な選択肢のひとつであるといえるでしょう。
医師監修オンラインカウンセリングサービスの『かもみーる』では、うつ病で薬物療法を行っても効果が不十分な方、薬の服用に抵抗がある方は、経験豊富な医師やカウンセラーが適切な治療やアドバイスを提供しています。
港区にある『かもみーる心のクリニック』でも、主にうつ病の患者様を対象にTMS治療を受けていただけますので、 まずは『かもみーる』のオンライン診療やオンラインカウンセリングで相談してみてください。
▶︎ カウンセラー(医師・心理士)一覧はこちら
▶︎ 新規会員登録はこちら