「人とうまく関われない」「いつも不安で、人の反応に敏感に反応してしまう」といった生きづらさを抱えている方は少なくありません。
そんな悩みの背景には愛着障害(アタッチメント障害)が関係している場合があります。
愛着障害は、幼少期の親子関係や環境によって形成される『心の土台』が不安定になることで、人間関係や感情のコントロールに影響を及ぼす状態です。
ここでは、愛着障害の種類や特徴、発達障害との関係、そして大人の症状や治療法までをわかりやすく解説します。
ご自身や身近な人の心の理解のために、ぜひ参考にしてください。
愛着障害とは

愛着障害とは、幼少期に養育者(主に親)との間で安定した「愛着関係(アタッチメント)」が十分に形成されなかったことにより、情緒の安定や人間関係の構築に困難を抱える状態を指します。
ここでは、愛着障害が引き起こされるメカニズムや症状の特徴などを詳しく解説します。
愛着障害のメカニズム
愛着障害は、主に、安定した安心感を得られない養育環境によって引き起こされます。
例えば、養育者との離別・死別、虐待やネグレクト(育児放棄)、無関心な対応、または養育者が頻繁に変わるといった環境では、子どもは「自分は守られない」「誰も信じられない」という感覚を抱きやすくなります。
通常、子どもは養育者から愛情を受け、安全を感じることで心の拠り所を得ます。
しかし、この『安全基地』が十分に機能しないと、情緒の安定や自立の発達が阻害され、結果として愛着形成のプロセスが歪んでしまいます。
このような経験が積み重なると、子どもは成長してからも人との関わり方に困難を感じるようになり、それが愛着障害として表れるのです。
愛着(アタッチメント)が大切な理由
愛着は、人が安心して生きていくための心の土台です。
特定の相手との間に信頼関係が築かれることで、子どもは安心して周囲を探索し、成長していくことができます。
愛着には主に次の3つの機能があります。
- 安全基地:不安や恐怖を感じたときに、守ってくれる存在がいるという安心感
- 安心基地:特定の人といることで落ち着き、心が安定する感覚
- 探索基地:安心できる存在がいるからこそ、新しいことに挑戦できるエネルギーを生む機能
このような「安全・安心・探索」のサイクルを通じて、子どもが身につけるのは感情のコントロールや自己肯定感、他者への信頼感です。
逆に、愛着が不安定なままだと、これらの心の機能が十分に発達せず、成長後に人間関係や感情面で困難を抱えやすくなります。
愛着障害の原因

愛着障害の大きな原因は乳幼児期の養育環境ですが、環境だけでなく、遺伝や気質によっても愛着障害は起こる可能性があります。
ここでは、愛着障害の原因について詳しく紹介します。
乳幼児期の養育環境
愛着障害の最も大きな原因とされているのが、乳幼児期の養育環境です。
愛着関係は、生まれて間もない時期から養育者(主に母親など)との間で交わされる、安心感をもたらす応答的なやりとりを通じて形成されます。
赤ちゃんが泣いたり求めたりしたときに、養育者がそのサインに敏感に応じて安心を与えることで、安全だと感じる、自分は大切にされているという基本的な信頼感が育まれていきます。
しかし、安定した愛着の形成が難しくなるのが、次のような環境です。
- 養育者によるネグレクト(放任)や無関心
- 身体的・精神的・性的な虐待
- 養育者自身の情緒不安定や精神的問題
- 養育者の頻繁な交代(施設養育、里親委託など)
- 厳格なしつけや体罰、兄弟間での明らかな差別
- 褒められることが極端に少ない環境
- 病気や災害などによる長期的な親子の分離
こうした状況では、子どもが安心できる居場所や自分のニーズが受け止められる感覚を得られず、世界や他者への基本的な信頼感を築くことが難しくなります。
その結果、大人になってからも対人関係や自己肯定感の低さなどに悩むことがあるのです。
遺伝や気質
養育環境は愛着形成に大きく影響しますが、子ども自身の気質や遺伝的な傾向も関係していると考えられています。
たとえば、生まれつき刺激に敏感で不安を感じやすい子どもは、養育者との関わりにおいて特別な配慮が必要な場合があります。
養育者がその子の特性を理解し、適切に対応できれば安定した愛着が育まれますが、対応が難しいと不安定な愛着につながるでしょう。
また、ストレスへの反応性や情緒の調整に関わる遺伝的な要因が、愛着スタイルに影響を与える可能性もあります。
ただし、遺伝や気質がすべてを決定づけるわけではありません。
環境と気質が互いに影響し合いながら、その人の愛着スタイルは形づくられていきます。
愛着障害は「親や子どものどちらかのせい」ではなく、複数の要因が複雑に絡み合った結果であり、適切な理解と支援があれば、愛着スタイルは時間とともに変化していくことが可能です。
愛着障害の種類と特徴

医学的な分類では、愛着障害は大きく以下の2つに分けられます。
- 反応性アタッチメント障害
- 脱抑制型愛着障害
いずれも5歳以前に発症することが多いとされ、原因は共通して「安定した愛着形成の欠如」にありますが、他人への関わり方の傾向が正反対である点が特徴です。
ここでは、2つの種類の愛着障害とその特徴をそれぞれ詳しく解説し、共通する特徴についても紹介します。
反応性アタッチメント障害
反応性アタッチメント障害(Reactive Attachment Disorder)は、他人を過剰に警戒し、関係を避けようとするタイプの愛着障害です。
感情表現が乏しく、人を信頼することが難しい一方で、心の中では強い孤独感や不安を抱えています。
主な特徴は以下の通りです。
- 他者を信用できず、頼ることができない
- 感情をうまく表せず、表情が硬い
- 周囲の変化に敏感で、常に警戒心を持つ
- 落ち込みやすく、自己肯定感が低い
養育者との深刻な不和や、虐待・無視などの経験が背景にあるケースが多く、情緒の安定が得られないことで人間関係の形成が難しくなります。
また、他者との交流が難しいといった自閉スペクトラム症(ASD)と似た特徴も見られます。
脱抑制型愛着障害
脱抑制型愛着障害(Disinhibited Social Engagement Disorder)は、初対面の人にも過剰に親しげに接するタイプの愛着障害です。
誰にでもなれなれしく接したり、注意を引こうとしたりと、社会的な距離感の調整が苦手です。
主な特徴には次のような傾向があります。
- 初対面でもためらいなく近づく
- 相手を選ばず甘える、身体的接触が多い
- 注意を引くために感情的な行動をとる
- 他人との関係が浅く、安定しにくい
このタイプは、早期から複数の養育者を転々とするなど、安定した関係を築く経験が乏しい環境で起こりやすいとされています。
また、衝動性や感情のコントロールが難しいなど、注意欠如・多動症(ADHD)に似た特徴が見られることもあります。
両方に共通する特徴
反応性アタッチメント障害と脱抑制型愛着障害は、それぞれ反対の反応を示すことが特徴ですが、両方に共通する以下のような特徴があります。
- 強情・意地っ張り・度が過ぎるわがまま:甘えることが上手にできないために起こる
- アピール行動:養育者の注意を引くために起こす行動(わざと問題行動を起こす・おおげさに泣く・体調不良を訴えるなど)
- 試し行動:養育者の愛情や忍耐を試すような行動(言うことを聞かない・約束を破る・攻撃的な言動をする)
これは、養育者から傷つけられたり、見捨てられたりした経験から不安を抱えているために起こる行動と言えます。
愛着障害の見分け方

愛着障害は、子どもの行動や感情の表れ方に特徴が見られる一方で、発達障害(ADHDやASDなど)と似た症状を示すことも多く、見分けが難しい場合があります。
そのため、表面的な行動だけで判断せず、子どもの成育歴や家庭環境、親子関係の質などを丁寧に見ていくことが大切です。
ここでは、愛着障害の医学的な診断基準と、ADHDやASDとの違いについて紹介します。
愛着障害の診断基準
医学的な診断としての反応性アタッチメント障害や脱抑制型愛着障害は、精神科医や臨床心理士などの専門家によって、子どもの行動観察や養育環境の詳細な聞き取りに基づいて診断されます。
診断には、『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)』の基準が用いられ、以下のような要素が重視されます。
- 不適切な養育環境に曝されていた(ネグレクト、虐待、養育者の頻繁な交代など)
- 特定の行動パターンが持続している(例:情緒的な引きこもりや、見知らぬ人への過度な親しさ)
- 子どもの発達段階にそぐわない社会的応答や関係性の問題がある
診断は子どもの発達段階を十分に考慮しながら慎重に行われます。
ADHD、ASDとの違い
愛着障害は、ADHDやASDと似た特徴を示すことがあります。
たとえば、衝動的に行動したり、他者との関わりに難しさを感じたりする点が共通して見られるため、混同されやすい傾向があります。
愛着障害とADHD、ASDは主に以下のような違いがあるとされています。
- ADHDとの違い:ADHDの子どもは、常に多動的な傾向がある一方、愛着障害では、感情の不安定さや不安からくるムラのある多動が見られることが多い
- ASDとの違い:ASDの子どもは、言葉を文字通りに受け取りやすく日常のルーティンを重視し、変化への抵抗が強いが、愛着障害では環境の変化や人間関係の不安定さによって情緒が大きく揺れ動く
このように、愛着行動とADHDやASDは行動面では似ていても、その背景にある原因や心理的メカニズムは異なります。
また、ADHDやASDの子どもは、育児の困難さから二次障害としての愛着障害を起こすケースも考えられます。
▶ADHD(注意欠如・多動症)とは?発達障害との関係や特徴、対応法を解説
大人の愛着障害

愛着障害は本来、子どもに対して使われる診断名ですが、幼少期に十分な愛情や安心感を得られなかった人が大人になっても、対人関係や感情のコントロールで苦しむことがあります。
このような状態を大人の愛着障害と呼ぶことがあります。
大人の愛着障害の特徴
大人の愛着障害の特徴として、以下のようなものが挙げられます。
特徴 | 内容 | 具体的な例・傾向 |
対人関係の不安定さ | 他者との距離感をうまく取れず、極端に依存したり距離を置きすぎたりする傾向 | ・相手の気持ちが分からず過剰に不安になる ・相手を試すような行動をとる ・見捨てられることへの恐れから相手に執着する ・親密になるのが怖く、関係を避ける |
感情の揺れやすさ | 感情のコントロールが難しく、怒りや悲しみが爆発しやすい | ・些細なことで落ち込む、怒る ・情緒的に疲れやすい ・「感情の起伏が激しい」「扱いにくい」と思われることがある |
自己肯定感の低さ | ありのままの自分が受け入れられたという体験が少なく、自分に対して否定的な感情を抱きやすい | ・自分に自信が持てない ・他人の評価に過敏に反応する ・失敗を極端に恐れる ・自分は愛されないと感じる |
これらの特徴が自分にも当てはまるかもしれないと感じる方は、専門的なサポートを受けることで、徐々に安定した心の状態を取り戻す助けになる場合もあります。
また、大人の愛着障害は、その合併症として以下のような症状が出る場合があります。
- うつ病
- 境界性パーソナリティ障害
- 心身症
- 不安障害 など
他の障害や疾患と併発している場合、それぞれの症状に合わせた治療や支援を受けることが重要です。
ひとりで悩まずに、少しでも辛いと感じたら、心理士や精神科医などの専門家を頼りましょう。
大人の愛着障害の対処法・治療法
大人の愛着障害は、治らないものではありません。
時間をかけて安心できる人間関係を築き、専門的なサポートを受けることで安定した心の状態を保つ助けになります。
大人の愛着障害の対処法や治療法には、以下のようなものがあります。
安全基地となる人間関係の構築 | 恋人・友人・信頼できる同僚など、ありのままの自分を受け入れてくれる人との関係が回復の大きな助けになる |
カウンセリングや心理療法 | 専門家とのカウンセリングや認知行動療法などを通し、自分の感情や人とのかかわり方の癖を見つけ直し、健全な対人関係を築く練習を行う |
セルフケア | 専門家の支援に加えて、日常生活でも自分を受け入れる練習や休息をとるなどを心がける |
愛着の問題は、ひとりで抱え込むほど深刻になるケースがあります。
感情の揺れや対人関係の難しさで辛さを感じている場合は、早めにカウンセラーや医師に相談することが大切です。
愛着障害かも?と思ったら「かもみーる」に相談を
愛着障害は、性格の問題や甘えではなく、心の成長過程で生じた深い傷からくる反応です。
しかし、カウンセリングや心理療法によって、安心できる人間関係を築けるようになる方も多くいます。
「もしかして自分もそうかもしれない」と感じたら、一人で抱え込まず、専門家に相談してみてください。
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