弁証法的行動療法(DBT)とは?境界性パーソナリティ障害(BPD)への効果・4つのスキル・治療の流れを精神科医が解説

投稿日 2026年09月05日

パーソナリティ障害
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弁証法的行動療法(Dialectical Behavior Therapy:DBT)は、強い感情や衝動、自傷行為、不安定な対人関係などに悩む人を支援するために開発された心理療法です。

特に境界性パーソナリティ障害(BPD)に対して研究が重ねられてきました。

境界性パーソナリティ障害については下記の記事で詳しく解説しています。

▶︎ 境界性パーソナリティ障害(BPD)|症状・原因・治療法まとめ

DBTでは、現在の自分や感情をそのまま認める「受容」と、問題となっている行動を変えていく「変化」の両方を大切にします。

単に前向きに考えたり、感情を我慢したりする治療ではありません。

つらい状況を安全に乗り切り、感情を調整し、より安定した人間関係を築くための具体的なスキルを学びます。

この記事では、DBTの考え方、4つのスキル、標準的な治療の構造、BPDへの効果と限界、治療期間、費用、自分で取り組む際の注意点を解説します。

弁証法的行動療法(DBT)とは

弁証法的行動療法(DBT)は、米国の心理学者マーシャ・M・リネハンによって開発された、認知行動療法を基盤とする包括的な治療プログラムです。

参考文献:Linehan MM. Cognitive-Behavioral Treatment of Borderline Personality Disorder. New York: Guilford Press; 1993.

もともとは、自殺関連行動や自傷行為を繰り返すBPDの人を対象として開発されました。

現在では、BPDのほか、強い感情調節の困難を伴うさまざまな問題に応用されています。

DBTの「弁証法」とは、一見すると矛盾する二つの考えをどちらか一方だけが正しいと決めず、両方を踏まえて新しい解決を探す考え方です。

治療では、特に「今の自分を受け入れること」と「より生きやすくなるために変わること」のバランスを重視します。

弁証法的行動療法(DBT)と一般的な認知行動療法(CBT)の違い

DBTとCBTのどちらも、考え方、感情、行動の関係に注目し、現在の問題を改善するための具体的な方法を扱います。

一方、DBTは、慢性的な自傷・自殺関連行動、急激な感情変化、治療関係の不安定さなど、複雑で危機性の高い問題に対応するため、より包括的な治療構造を備えています。

比較項目

一般的なCBT

標準的なDBT

中心的な考え

思考・感情・行動の関係を整理し、問題に対処する

受容と変化を両立させ、感情・衝動・対人関係に対処する

主な形式

個人療法を中心に、疾患別プログラムなど

個人療法、集団スキル訓練、電話コーチング、治療者チーム

特徴

症状や問題に応じた課題・行動実験など

治療標的の優先順位、行動分析、承認、4領域のスキル訓練

ただし、CBTにもさまざまな形式があり、すべてのCBTが同じ内容というわけではありません。

DBTも、標準的な包括プログラムから、スキルトレーニングのみ、個人療法の中に一部の技法を取り入れる形式まで、提供内容が異なります。

境界性パーソナリティ障害(BPD)に弁証法的行動療法(DBT)を用いる理由とは?

BPDでは、感情が非常に強く動き、一度高まった感情がなかなか元に戻らないことがあります。

見捨てられる不安、対人関係の混乱、強い怒り、空虚感などを背景として、衝動的な行動や自傷行為につながる場合もあります。

DBTでは、こうした問題を単に「性格が悪い」「意志が弱い」と考えません。

本人の感情の感じやすさと、これまで置かれてきた環境との相互作用によって、感情を調整する方法を十分に学ぶ機会が得られなかった可能性があると考えます。

そのうえで、現在必要となるスキルを具体的に練習していきます。

症状や困りごとは人によって異なるため、DBTがすべてのBPDの人に必要、あるいは最適とは限りません。

診断、危険性、併存疾患、本人の希望、通院可能性などを確認して治療法を選びます。

弁証法的行動療法(DBT)で学ぶ4つのスキル

DBTのスキルトレーニングでは、主に次の4領域を扱います。

実際の治療では、説明を読むだけでなく、練習、記録、振り返りを繰り返し、日常生活で使えるようにしていきます。

1.マインドフルネス

マインドフルネスは、今この瞬間に起きていることに注意を向け、良い・悪いとすぐに判断せずに観察するスキルです。

感情に飲み込まれているときでも、「私は今、見捨てられたと感じて強い不安がある」「相手を責めるメッセージを送りたい衝動がある」と、一歩離れて気づくことを目指します。

感情を消すことが目的ではありません。感情と衝動の間に少し間をつくり、次の行動を選べる状態に近づけます。

2.苦痛耐性

苦痛耐性は、すぐには解決できない強い苦痛や危機を、状況をさらに悪化させずに乗り切るためのスキルです。

激しい感情が高まったとき、衝動的な連絡、自傷、過量服薬、浪費、飲酒などに向かう前に、安全な対処を選ぶことを目指します。

注意を一時的に別の活動へ向ける、呼吸や感覚に意識を戻す、安全な場所に移動する、支援者に連絡するなど、本人の状態に合わせて危機対応の選択肢を準備します。

苦痛耐性は、つらさを我慢し続けることではなく、危機のピークを安全に越えるための方法です。

3.感情調節

感情調節では、感情の名前、強さ、きっかけ、身体反応、行動への影響を整理します。

睡眠不足、空腹、体調不良、飲酒など、感情が不安定になりやすい要因を減らすことも含まれます。

感情が伝えている情報を確認し、現在の事実に合っているかを検討します。

感情から生じる衝動とは反対の安全な行動を試すなど、感情に自動的に従わず、状況に合った行動を選ぶ練習をします。

4.対人関係の有効性

対人関係の有効性は、自分の希望や断りたいことを伝えながら、相手との関係と自尊心もできるだけ保つためのスキルです。

要求を整理して具体的に伝える、相手の話を聞く、交渉する、必要な境界線を設定するなどを練習します。

例えば、返信が遅いことへの不安から相手を責め続ける代わりに、「連絡がないと不安になる。忙しいときは後で返信すると一言もらえると助かる。」と、事実、感情、希望を分けて伝える方法を検討します。

標準的な弁証法的行動療法(DBT)を構成する4つの治療

標準的な包括的DBTは、スキルを学ぶだけのプログラムではありません。一般に、次の4つを組み合わせます。

個人療法:通常は週1回程度、本人の目標や問題行動を取り上げます。日々の記録を使い、問題行動に至る経過を細かく振り返り、次に使えるスキルを検討します。

グループ・スキルトレーニング:講義と練習を通して、マインドフルネス、苦痛耐性、感情調節、対人関係の有効性を体系的に学びます。一般的なグループカウンセリングとは異なり、スキルを学ぶ授業に近い構造です。

電話コーチング:セッション外で危機や困難が生じた際に、学んだスキルをその場で使えるよう短時間の支援を行います。対応時間や利用条件はプログラムごとに異なります。

治療者のコンサルテーションチーム:治療者同士が定期的に検討し、治療の一貫性を保ち、治療者の疲弊を防ぎます。患者本人が参加する会議ではありませんが、包括的DBTを支える重要な要素です。

複数の問題がある場合、すべてを同時に扱うのではなく、安全性と治療継続を重視して優先順位をつけます。

標準的な弁証法的行動療法(DBT)では、概ね次の順序で治療標的を検討します。

  • 生命を脅かす行動:自殺企図、自傷行為など
  • 治療を妨げる行動:頻回の無断欠席、治療関係を維持できなくする行動など
  • 生活の質を著しく低下させる行動:依存、摂食の問題、危険な対人関係、仕事上の問題など
  • 新しい行動スキルの習得:感情調節、危機対応、対人関係など

実際には、危険度、本人の状況、治療環境によって個別に判断します。

「過去の原因を詳しく掘り下げること」よりも、まず現在の生命と安全を守り、治療を継続できる状態を整えることが優先されます。

境界性パーソナリティ障害(BPD)に対する弁証法的行動療法(DBT)の効果

弁証法的行動療法(DBT)は、境界性パーソナリティ障害(BPD)に対して研究上の有効性が示されている構造化された精神療法の一つです。

自傷行為、自殺関連行動、BPD症状の重症度、心理社会的機能などの改善が報告されています。

2006年に報告された無作為化比較試験では、自殺企図や自傷行為のリスクが高いBPD女性101人を対象に、1年間のDBTと、地域で専門家が実施する非行動療法的な心理療法が比較され、その後さらに1年間の追跡調査が行われました。

DBT群では自殺企図、救急受診、精神科入院などの一部の転帰が良好でした。

参考文献:Linehan MM, Comtois KA, Murray AM, et al. Two-year randomized controlled trial and follow-up of dialectical behavior therapy vs therapy by experts for suicidal behaviors and borderline personality disorder. Arch Gen Psychiatry. 2006;63(7):757–766. doi:10.1001/archpsyc.63.7.757.

一方、2020年のCochraneレビューでは、BPDに対する心理療法は通常治療と比較して、BPD症状の重症度や自傷などを改善する可能性が示されました。

治療法別の解析では、DBTについてもBPD症状の重症度、自傷、心理社会的機能の改善が示唆されましたが、エビデンスの確実性は低いと評価されています。

参考文献:Storebø OJ, Stoffers-Winterling JM, Völlm BA, et al. Psychological therapies for people with borderline personality disorder. Cochrane Database Syst Rev. 2020;5(5):CD012955. doi:10.1002/14651858.CD012955.pub2.

また、2024年に公表された米国精神医学会のガイドラインは、研究上の支持がありBPDの中核的特徴を対象とする構造化された精神療法を推奨しています。

一方、DBTを含む特定の精神療法が、ほかの構造化された精神療法より優れているとは結論づけられていません。

参考文献:Keepers GA, Fochtmann LJ, Anzia JM, et al. The American Psychiatric Association Practice Guideline for the Treatment of Patients With Borderline Personality Disorder. Am J Psychiatry. 2024;181(11):1024–1028. doi:10.1176/appi.ajp.24181010.

弁証法的行動療法(DBT)の治療期間と治療頻度

標準的なDBTでは、個人療法とグループ・スキルトレーニングをそれぞれ週1回程度行い、電話コーチングなどを組み合わせながら、6か月から1年以上継続することがあります。

4つのスキル領域を一巡した後、必要に応じて繰り返し学ぶプログラムもあります。

短期間のDBT、スキルトレーニング単独、個人療法だけでDBTの技法を用いる形式もあります。

期間が短いから無効、長いから必ず有効というわけではなく、本人の症状と目的、プログラムの内容を確認する必要があります。

DBTは日本で保険適用になる?費用は?

日本では、弁証法的行動療法(DBT)単体に対する診療報酬の設定はありません。

医療機関によっては、診察や精神療法、デイケアプログラムなど、保険診療の枠組みで一部を提供する場合や、自費のカウンセリングやグループプログラムとして提供する場合があります。

そのため、費用は施設と提供形式によって大きく異なります。予約時には、保険診療か自費診療か、診察料とは別に費用が必要か、個人療法とグループの両方を受ける必要があるか、キャンセル料があるかなどを事前に確認しましょう。

弁証法的行動療法(DBT)を受けられる医療機関・施設の探し方

日本では、包括的なDBTを提供できる施設はまだ限られています。「DBTを行っている」と表示されていても、標準的なDBT、スキルトレーニング単独、DBTの一部を取り入れた個人カウンセリングなど、内容はさまざまです。

問い合わせる際には、次の点を確認するとよいでしょう。

  • 標準的な包括的DBTか、DBTの一部を取り入れた支援か
  • 個人療法とグループ・スキルトレーニングの両方があるか
  • 治療の頻度、期間、途中参加の可否
  • 担当者の資格とDBTに関する研修・臨床経験
  • 自傷・自殺リスクが高まったときの対応範囲
  • 主治医やほかの医療機関との連携方法
  • 保険診療か自費診療か、必要となる総費用
  • 対面かオンラインか、対象年齢や参加条件

包括的DBTを受けられない場合でも、BPDに対するほかの構造化された精神療法、通常の精神科治療、個別の心理療法、スキルトレーニングなどが選択肢になることがあります。

DBTだけに限定せず、現在の症状と利用可能な支援を医師や心理職と相談してください。

弁証法的行動療法(DBT)は自分でもできる?

書籍やワークブックを使い、マインドフルネスや感情記録などの一部のスキルを学ぶことはできます。しかし、自習は標準的なDBTそのものではなく、専門的な評価や治療の代わりにはなりません。

特に、自傷行為、具体的な自殺計画、過量服薬、重い摂食の問題、薬物・アルコールの問題、暴力の危険などがある場合は、自習だけで対処しないでください。危険性を評価し、必要な治療につなげることが優先されます。

比較的状態が安定している場合は、日々の感情ときっかけを記録する、感情が高まったときに安全に時間を置く、事実と解釈を分ける、希望を具体的に伝えるといった練習を、主治医や心理職と相談しながら取り入れられます。

弁証法的行動療法(DBT)は家族やパートナーも学べる?

DBTの考え方やスキルは、本人だけでなく家族やパートナーの支援にも応用されています。

家族が、感情を否定せずに聞く方法、対応できることとできないことを一貫して伝える方法、危機時の対応、自分自身の負担を軽減する方法を学ぶことには意義があります。

ただし、家族が治療者の役割を担ったり、本人のすべての感情や行動を引き受けたりする必要はありません。

安全に関わる問題がある場合は、家族だけで抱え込まず、本人の治療者、医療機関、救急機関などにつないでください。

自傷したい・死にたい気持ちが強い場合

DBTのスキルは危機を乗り切る助けになることがありますが、切迫した危険があるときに救急医療の代わりになるものではありません。

【緊急度が高い場合】

自分を傷つけたい気持ちや死にたい気持ちが強い、具体的な方法を考えている、すでに自傷や過量服薬をした、安全を保てないと感じる場合は、通常の診療予約を待たず、119番への連絡や救急医療機関への受診を検討してください。

可能であれば一人にならず、家族など信頼できる人に状況を伝えてください。

まとめ

弁証法的行動療法(DBT)は、受容と変化のバランスを重視し、強い感情、衝動、自傷行為、対人関係の問題に対処するための具体的なスキルを学ぶ心理療法です。

BPDに対して研究上の有効性が示されている構造化された精神療法の一つですが、すべての人に同じ形のDBTが適しているとは限りません。

また、標準的なDBTは、個人療法、グループ・スキルトレーニング、電話コーチング、治療者チームからなる包括的な治療です。施設によって提供内容、期間、費用が異なるため、申し込む前に確認しましょう。

感情や人間関係の問題、自傷衝動などによって生活に支障が生じている場合は、診断名を自分で決めるのではなく、精神科などへ相談し、自分に合った治療方法を検討することが大切です。

境界性パーソナリティ障害の診断や治療方針について相談したい方は、かもみーるでもご相談いただけます。

なお、提供している治療内容は担当者や診療形態によって異なるため、標準的な包括的DBTを希望する場合は、予約前に提供内容をご確認ください。

宮城県で境界性パーソナリティ障害でお悩みの方は、かもみーる心のクリニック仙台院でも相談が可能です。

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この記事の監修者

赤堀 将太郎

医療法人社団弘愛会理事長

赤堀 将太郎

こんにちは、赤堀将太郎と申します。 心療内科のクリニックに受診するまでに心理的なハードルが大きいかと思います。 そういった場合、「かもみーる」で病院に行くべきかどうかなど気軽にご相談ください。 オンラインで御対応いたします。 また現在、どうしても仕事がつらくて休職したいと思っているが病院に行くのを迷っている方に対して、場合によっては診断書を発行することも可能です。(オンライン診察となります) そういった場合も遠慮なくお申し付けください。