摂食障害とは

摂食障害は、食行動の異常を中心に、体重・体型についての認知や感情、健康状態、社会生活などに影響が生じる精神疾患の一群です。
見た目だけでは重症度が分からないこともあり、体重が標準範囲内であっても治療が必要な場合があります。
国立精神・神経医療研究センターの摂食障害情報ポータルサイトでは、主な摂食障害として神経性やせ症、神経性過食症、過食性障害、回避・制限性食物摂取症の4つが紹介されています。
摂食障害情報ポータルサイト「摂食障害はどんな病気?」
摂食障害は若い女性に多いという印象を持たれやすい病気ですが、男性や子ども、成人にもみられます。
「やせていないから摂食障害ではない」「食欲があるから拒食症ではない」とは限りません。
食行動や心身の変化を総合的にみる必要があります。
摂食障害の主な4つの種類
代表的な4つの病型の違いを整理します。
これは自己診断のための表ではありません。
複数の特徴が重なったり、経過の中で病型が変わったりすることもあります。
病型 | 主な食行動 | 体重・体型へのとらわれ | 過食後の代償行動 |
神経性やせ症 | 食事制限による低体重。過食を伴う場合もある | 体重増加への恐怖や、体重増加を妨げる行動など | 嘔吐や下剤使用などを伴う場合もある |
神経性過食症 | コントロールできないむちゃ食いを繰り返す | 体重・体型が自己評価に強く影響する | 嘔吐・絶食・過度な運動などを繰り返す |
過食性障害 | 苦痛を伴うむちゃ食いを繰り返す | みられることはあるが診断の必須条件ではない | 規則的な代償行動は伴わない |
ARFID | 感覚的な苦手さや食への関心の乏しさ、食べる恐怖などで摂取を制限 | 体重・体型へのとらわれを主な理由としない | 体重増加を防ぐ代償行動が中心ではない |
参考:摂食障害情報ポータルサイト|摂食障害はどんな病気?
神経性やせ症(拒食症)
神経性やせ症は、必要なエネルギー摂取を制限することで低体重となり、体重が増えることへの強い恐怖や、体重・体型に対するとらえ方の偏りなどがみられる病気です。
一般には「拒食症」と呼ばれることがありますが、必ずしも食欲そのものが失われるわけではありません。
食事量を大きく減らすだけでなく、過度な運動を続けたり、過食のあとに嘔吐や下剤の使用などを行ったりする人もいます。
低栄養が進むと、徐脈、低血圧、低体温、月経異常、筋力低下、骨密度低下など、さまざまな身体症状につながります。
神経性過食症
神経性過食症は、短時間に大量の食物を食べ、食べることを止められない感覚を伴う「むちゃ食い」を繰り返し、その後に体重増加を避けるための代償行動を行う病気です。
代償行動には、自己誘発性嘔吐、下剤・利尿薬の不適切な使用、絶食、過度な運動などがあります。
過食が止められないときの原因や治療、何科に相談すればよいかについては、「過食症の治し方とは?やめたいのに止まらない原因と治療法」で詳しく解説しています。
過食性障害(むちゃ食い症)
過食性障害では、神経性過食症と同じように、コントロールできないむちゃ食いを繰り返します。
ただし、通常は嘔吐や下剤の乱用、絶食などの代償行動を規則的には行いません。
過食のあとに強い罪悪感や自己嫌悪を抱き、症状を人に隠してしまうこともあります。
気分の落ち込みと過食が同時にみられる場合については、「過食はうつ病のせい?過食性障害や非定型うつ病の特徴・対処法や治療法」も参考にしてください。
回避・制限性食物摂取症(ARFID)
回避・制限性食物摂取症(ARFID)は、食べ物の感覚的な特徴への強い苦手意識、食べることへの関心の乏しさ、窒息や嘔吐などへの恐怖を背景に、食事量や食べられる食品の種類が著しく制限される病気です。
神経性やせ症とは異なり、体重や体型への強いこだわりを主な理由として食事を制限するわけではありません。
子どもにみられることが多いものの、成人にも起こります。
栄養不足、体重減少、成長への影響、栄養補助食品への依存などが問題になることがあります。
その他の摂食・食行動の問題
上記の4つに加え、異食症、反芻症、他の特定される摂食・食行動症などがあります。
異食症では食物ではないものを繰り返し食べ、反芻症ではいったん飲み込んだ食物を繰り返し口に戻すといった問題がみられます。
年齢や発達段階、身体疾患なども含めて評価します。
典型的な病型に完全には当てはまらなくても、身体や生活への影響が大きい場合があります。
たとえば、食事制限によって大きく体重が減っていても、現在の体重が標準範囲内にある場合があります。
「やせていないから軽い」と自己判断せず、困りごとが続く場合は医療機関へ相談することが大切です。
参考:American Psychiatric Association|What are Eating Disorders?
摂食障害でみられやすい症状・サイン

摂食障害の症状は人によって異なります。次のような変化が複数みられる場合は注意が必要です。
- 食事量を極端に減らす、特定の食品を強く避ける
- 短時間に大量に食べ、途中で止められない
- 食後に吐く、下剤・利尿薬を頻繁に使う
- 体重や体型を何度も確認する
- 体重が増えることを強く恐れる
- 食事や体型のことが一日の多くを占める
- 人と一緒に食べることを避ける
- 短期間で体重が大きく変化する
- 月経異常、めまい、動悸、疲労、便秘などの身体症状がある
- 食べたことへの罪悪感や自己嫌悪が強い
一方、食欲低下だけで摂食障害と決まるわけではありません。
ストレスやうつ病、身体疾患などでも食欲は低下します。
「ストレスは食欲不振を引き起こす?原因と今すぐできる対処法」では、食欲不振の原因と受診の目安を詳しく解説しています。
摂食障害の原因は一つではない
摂食障害は「ダイエットをしたから」「本人の性格の問題だから」と、一つの原因だけで説明できる病気ではありません。
遺伝的・生物学的要因、心理的要因、社会的要因、環境要因などが複雑に関係すると考えられています。
米国国立精神衛生研究所(NIMH)も、摂食障害のリスクには遺伝、生物学、行動、心理、社会的要因の組み合わせが関係すると説明しています。
NIMH「Eating Disorders: What You Need to Know」
心理・認知の要因
体重や体型を自己評価の中心に置く考え方、完璧主義、不安の強さ、自己評価の低さなどが症状の維持に関係する場合があります。
ただし、特定の性格であれば必ず摂食障害になるわけではありません。
環境・社会的要因
体型に関する強いプレッシャー、スポーツや職業上の体重管理、対人関係のストレス、生活環境の変化などが発症や悪化のきっかけになることがあります。
SNSや周囲からの体型評価が影響することもありますが、これだけで発症を説明することはできません。
他の精神疾患との併存
摂食障害では、うつ病、不安症、強迫症、発達特性などが併存することがあります。
併存症がある場合、それぞれを切り離さずに評価して治療計画を立てることが重要です。
強迫症状と摂食障害の関係については、「強迫性障害と摂食障害は併発することがある!診断・治療方法について解説」もあわせてご覧ください。
摂食障害は身体にも影響する

摂食障害は精神面だけの病気ではありません。
食事制限、低栄養、嘔吐、下剤の乱用、過食などが続くと、全身にさまざまな影響が出る可能性があります。
- 脱水や電解質異常
- 徐脈、不整脈、低血圧
- 貧血、低血糖
- 肝機能・腎機能の異常
- 便秘や腹部症状
- 月経異常や性ホルモンの変化
- 骨密度の低下
- 歯の酸蝕や唾液腺の腫れ(嘔吐を繰り返す場合)
- 成長・発達への影響(子ども・思春期)
特に低体重が著しい場合や、嘔吐・下剤の乱用が続いている場合は、本人が「まだ大丈夫」と感じていても身体的に危険な状態になっていることがあります。
NICEの摂食障害ガイドラインでは、摂食障害が疑われる人は早期に評価・治療を受けること、重度のやせがある、またはそのリスクが高い場合には特に早期対応を優先することが推奨されています。
NICE guideline NG69「Eating disorders: recognition and treatment」
摂食障害はどうやって診断する?

摂食障害の診断では、食事量や過食・嘔吐の有無だけでなく、体重の推移、体重や体型に対する考え方、食事への恐怖、生活への支障、併存する精神症状などを確認します。
さらに、身体状態を把握するために、身長・体重・BMI、血圧、脈拍、血液検査、心電図などが必要になる場合があります。
低栄養や嘔吐による電解質異常は、本人の自覚症状が乏しくても起きていることがあるためです。
スクリーニング質問票は診断の補助になりますが、それだけで摂食障害の有無を決めるものではありません。
NICEの診療ガイドラインでも、SCOFFなどのスクリーニングツールだけを用いて摂食障害の有無を判断しないよう勧告しています。
摂食障害の治療

摂食障害の治療は、病型、年齢、身体状態、症状の重さ、併存症などによって異なります。
基本的には、心理療法、栄養・食行動への支援、身体管理を組み合わせて進めます。
必要に応じて薬物療法や入院治療を行うこともあります。
心理療法
摂食障害では、病型や年齢に応じて、摂食障害に焦点を当てた認知行動療法(CBT-ED)、家族療法などが用いられます。
特に子ども・若年者の神経性やせ症では家族を含めた治療が重要になることがあります。
APAの摂食障害診療ガイドラインでは、評価に基づいて個別の治療計画を立て、身体状態と精神状態の両方を継続的に評価することが重視されています。
American Psychiatric Association「Practice Guideline for the Treatment of Patients With Eating Disorders」
神経性やせ症では栄養回復と食べる不安の両方に取り組む
身体状態を確認しながら、年齢や成長に応じた栄養状態と体重の回復を目指します。
同時に、体重が増える恐怖や、体型によって自分の価値を判断してしまう考え方にも心理療法で取り組みます。
子ども・思春期では、医療者の助言のもとで保護者が食事を支え、回復に応じて本人が食事を管理する役割を段階的に取り戻していく家族を含めた治療が検討されます。
神経性過食症では食事制限と過食・代償行動の循環を見直す
食事を抜いた反動で過食し、その後に吐いたり再び絶食したりする循環を整理します。
治療では規則的な食事を整え、過食や代償行動のきっかけ、体重・体型への考え方を扱います。
成人では専門家の支援を伴うセルフヘルプや認知行動療法などが、子ども・若年者では家族を含めた治療などが検討されます。
過食性障害ではむちゃ食いと苦痛を減らす
過食を「意志の弱さ」と捉えず、空腹や感情、生活場面との関係を記録し、食事のリズムや対処方法を整えます。
専門家の支援を伴うセルフヘルプや認知行動療法などを用います。
過食への心理的治療では、まずむちゃ食いと苦痛を減らすことを目指し、体重を減らすことだけを治療目標にはしません。
参考:NICE NG69|摂食障害の病型別治療
ARFIDでは食べられない理由に合わせて支援する
栄養状態や成長、身体疾患の有無を確認し、食感やにおいへの苦手さ、食への関心の乏しさ、窒息・嘔吐への恐怖など、制限の背景を整理します。
栄養を確保しながら、年齢や理解力に応じて、食べる量や食品の幅を広げる練習、家族への支援などを組み合わせます。
ARFIDに合わせた認知行動療法(CBT-AR)では、食べることへの恐怖や避けている食品などに段階的に取り組みます。
小規模な研究で検討されていますが、効果の根拠はまだ蓄積途上です。
無理に食べさせるのではなく、身体状態と本人の困りごとに合わせて専門家と進めます。
参考:Thomasら(2020)|子ども・思春期のARFIDに対するCBT-ARの実行可能性研究
栄養・食行動への支援
栄養状態を整え、規則的で安全な食事パターンを取り戻すことも治療の重要な部分です。
神経性やせ症では低栄養からの回復が必要ですが、急激な栄養補給ではリフィーディング症候群などの危険があるため、重症の場合は医療者の管理下で慎重に進めます。
薬物療法
薬物療法の位置づけは病型によって異なります。
たとえば神経性やせ症では、薬だけを単独の治療として用いることは推奨されません。
一方で、神経性過食症や過食性障害、併存するうつ病や不安症などに対して薬物療法を検討することがあります。
NICEは神経性やせ症について、薬物療法を単独治療として提供しないよう勧告しています。
NICE guideline NG69
入院・専門治療
著しい低栄養、重い電解質異常、循環器系の異常、急速な体重減少、重い自傷・自殺リスクなどがある場合には、外来治療ではなく入院や専門的な治療が必要になることがあります。
入院の必要性は体重だけではなく、身体所見や検査結果、精神状態、家庭での安全性などを含めて判断します。
摂食障害は何科を受診すればいい?

摂食障害が疑われる場合は、精神科・心療内科、摂食障害を専門とする医療機関などが相談先になります。
子どもや思春期では、小児科や児童精神科が窓口になることもあります。
ただし、著しい低体重、意識がもうろうとする、失神、強い動悸、胸痛、繰り返す嘔吐、強い脱水などの身体症状がある場合には、精神科だけでなく内科や救急医療での評価が必要になることがあります。
早めに受診したほうがよいサイン
次のような状態がみられる場合は、早めに医療機関へ相談することをおすすめします。
- 食事量の制限や過食・嘔吐が繰り返されている
- 短期間で体重が大きく減った、または増減を繰り返している
- 体重や体型への不安のため、学校・仕事・外出・人付き合いに支障が出ている
- 食後の嘔吐や下剤・利尿薬の使用を繰り返している
- めまい、失神、動悸、強いだるさ、むくみなどがある
- 食事や体重のことが頭から離れず、強い苦痛を感じている
- 本人は受診を拒んでいるが、家族から見て体重減少や食行動の変化が著しい
摂食障害では、本人が病気の重さを自覚しにくいことがあります。
特に神経性やせ症では、低体重や低栄養が進んでいても「まだ太っている」「治療は必要ない」と感じることがあるため、家族や周囲が変化に気づいた段階で相談につなげることも大切です。
家族や周囲の人ができること
摂食障害が疑われる人に対して、「もっと食べればいい」「気にしすぎ」「意志が弱い」などと責めたり、食事や体型をめぐって繰り返し言い争ったりすると、本人が困りごとを話しにくくなることがあります。
本人だけでなく、支える家族も責められるべきではありません。
体重や見た目について議論するよりも、「最近つらそうに見える」「食事のことで悩んでいるようなら一緒に相談先を探したい」と、体調や苦痛に焦点を当てて声をかけることが大切です。
子どもや若年者では、家族が治療に参加すること自体が重要な治療要素になる場合があります。
責めないことは、食事の支援をせずに見守るだけでよいという意味ではありません。
特に子ども・思春期の神経性やせ症では、医療者の方針に沿って保護者が食事の準備や食事中の付き添いを担い、必要な栄養を取れるよう支えることがあります。
食事量や運動、食後の過ごし方については治療者と具体的に相談し、家庭だけで対応を抱え込まないようにします。
参考:NIMH|Eating Disorders: What You Need to Know
摂食障害は早期の相談が大切
摂食障害は、食事の問題だけではなく、心と体の両方に影響する病気です。
神経性やせ症、神経性過食症、過食性障害、ARFIDなどでは症状や治療方針が異なり、見た目や体重だけでは判断できません。
食事制限、過食、嘔吐、体重への強いこだわりなどが続き、日常生活や体調に影響している場合は、一人で判断せず医療機関へ相談しましょう。
身体状態を確認しながら、病型や年齢に合った心理療法や栄養支援などを組み合わせて治療していくことが重要です。
宮城県で摂食障害の相談をしたい場合は、かもみーる心のクリニック仙台院にご相談ください。