パニック障害の原因は?ストレスとの関係や発症・発作のきっかけついて解説
更新日 2025年02月05日

パニック障害は、突然の激しい不安や恐怖に襲われるパニック発作を繰り返す病気です。
「いきなり家の中で苦しくなって病院に行ったらパニック障害と診断された」「ある日突然パニック障害になってしまった」など、なぜ自分がパニック障害になったのかわからない方も多くいます。
パニック障害のはっきりとした原因は現時点では解明されていませんが、脳の構造や機能の異常やストレス、二酸化炭素などとの関連が指摘されています。
この記事では、パニック障害の原因や発症メカニズム、症状、診断基準、そして治療法について詳しく解説します。
パニック障害は決して珍しい病気ではありません。あなたやあなたの大切な人がパニック障害に悩んでいるなら、この記事を読んで理解を深め、適切な対処法を見つけてみてください。
パニック障害(パニック症)とは

パニック障害(パニック症)は、突然の激しい不安や恐怖を伴う発作(パニック発作)が繰り返し起こる病気です。
パニック発作は何の前触れもなく突然起こることが特徴で、多くの患者さんが「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖を感じます。
発作は通常10〜30分程度で治まるものの、その間に経験する強烈な恐怖感や身体症状は、本人にとって非常に苦痛なものです。
仕事や学業、家事や育児など日常生活に支障をきたしてしまうケースも多く、うつ病を併発してしまうこともあります。
パニック障害については以下の記事でも解説しています。よろしければ合わせてご覧ください。
パニック障害の原因は?関与が考えられる要因

パニック障害の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。
その基盤となるのが「脳の構造や機能の異常」です。さらに、これに加えてストレスや性格傾向、環境、誘発因子(カフェイン、乳酸など)の影響も考えられます。
ここでは、パニック障害に影響していると考えられる以下の事柄について解説します。
- 脳の構造や機能の異常との関係
- 脳内神経伝達物質との関係
- ストレスとの関係
- 性格や環境との関係
- 遺伝との関係
- 二酸化炭素(CO2)との関係
- 乳酸・カフェインとの関係
脳の構造や機能の異常との関係
パニック障害は、脳の特定の部位の機能異常や構造的な変化が主な原因であるとされています。特に注目されているのが、「扁桃体(大脳辺縁系)」「前頭前皮質(前頭葉)」「青斑核(脳幹)」3つの脳領域です。
ここからは、それぞれの器官とパニック障害の関係について解説します。
(参照:浅見 剛 小西 潤 平安良雄 横浜市立大学大学院医学研究科精神医学部門『パニック障害における脳構造の変化』、塩入俊樹 岐阜大学大学院医学系研究科精神病理学分野『パニック症の神経解剖学的モデルについて』)
扁桃体(大脳辺縁系)
大脳辺縁系、特に扁桃体は、恐怖や不安などの感情を処理する重要な役割を担っている部分です。
パニック障害の患者さんでは、扁桃体がすぐに活発になりやすいといわれています。
扁桃体の活動が過剰になると、小さなストレスや刺激でも強い不安や恐怖を感じやすくなるため、これがパニック発作を繰り返す原因になっていると考えられています。
また、扁桃体は記憶を司る「海馬」に隣接しており、記憶とも密接に関連しているため、過去のパニック発作の記憶が新たな発作を引き起こす要因にもなり得ます。
前頭前皮質(前頭葉)
前頭前皮質(前頭葉)は、意志や思考、言語や感情などを司る器官です。感情や行動などをコントロールし、理性的な判断をする働きをしています。
パニック障害の患者さんは、この前頭前皮質の機能が低下していることが指摘されています。
前頭前皮質は通常、扁桃体からの過剰な反応を抑制する役割を果たしています。
しかし、この機能が低下すると、扁桃体の活動を適切に制御できず、激しい動悸や過呼吸といったパニック発作が引き起こされてしまうのです。
また、海馬も「前にここでパニックを起こした」という情報を前頭前皮質に伝えてきます。すると、広場恐怖(回避行動)といって、広い場所や狭い場所など、特定の場所を避けるようになります。
青斑核(脳幹)
青斑核(脳幹)は、警報のような役割をしている器官です。
何らかの危険が起こると大量のノルアドレナリンを分泌し、それが大脳辺縁系に伝わって初めて、恐怖や不安を感じます。
パニック障害では、この青斑核が誤作動を起こすことで、過剰なノルアドレナリンが自律神経の中枢を刺激し、さまざまな自律神経症状(パニック発作)を引き起こしていると考えられています。
脳内神経伝達物質との関係
脳内神経伝達物質とは、神経細胞から神経細胞へ情報を伝える役割を果たしている物質で、身体を動かしたり感情を調整したりしています。
上記で紹介したような脳の機能や構造に異常が起きると、セロトニンやノルアドレナリン、γ-アミノ酪酸(GABA)といった脳内神経伝達物質のバランスが崩れてしまいます。
脳内神経伝達物質のバランスが崩れると、不安や恐怖、焦りを感じたり、憂鬱な気持ちが続いたりするといった症状が起こります。
ストレスとの関係
ストレスはパニック障害の直接の原因ではありませんが、発症や悪化に大きく関与していると考えられている要因の一つです。
強いストレスがかかると、ノルアドレナリンが過剰になり、セロトニンは減少します。ノルアドレナリンの増加は動悸や呼吸困難を、セロトニンの減少は不安を引き起こしやすくなり、パニック発作につながります。
特に、長期間にわたる強いストレスや、突発的な強いストレスがパニック障害のきっかけとなることがあります。大切な人との死別、離婚、虐待、トラウマ経験なども大きなストレスです。
パニック障害の患者さんの中には、発症の数ヶ月前に苦痛を感じるほどのストレスを感じているケースも多くあります。
また、パニック障害は20~30代の若い世代に多く見られる傾向がありますが、この年代は仕事の責任や役割が増えたり、将来の不安、女性は結婚や出産・妊娠を経験する時期です。
このようなさまざまなストレスも、パニック障害が若い世代に多く見られる理由かもしれません。
性格や環境との関係
パニック障害にはストレスの影響もあると考えられていますが、ストレスの受け止め方は人によって異なります。
同じ状況であっても、大してストレスを感じない人もいれば、思い悩んでしまうほど強くストレスを感じる人もいます。
このことから、以下に当てはまる人・性格はパニック障害になりやすいと考えられます。
- 不安・恐怖を感じやすい
- こだわりが強い
- 責任感が強く真面目で、完璧主義なところがある
- 周囲の人の目や評価が気になって仕方がない
- 感受性が強い
- 睡眠不足・過労
パニック障害になりやすい人の特徴については以下の記事で詳しく解説しています。
▶パニック障害になりやすい人の特徴│性格・年代・環境や遺伝など徹底解説!セルフチェックも
遺伝との関係
パニック障害の発症には遺伝的要因も関与していると考えられており、家族にパニック障害の方がいる場合、そうでない場合に比べてパニック障害を発症するリスクが高くなることが知られています。
日本ではなく海外で行われた研究ですが、親がパニック障害の場合、子どもがパニック障害になるリスクは通常の約8倍であったという結果が出ています。
二酸化炭素(CO2)との関係
二酸化炭素(CO2)はパニック発作を誘発する物質(パニコーゲン)として知られています。
パニック障害の方は、二酸化炭素の濃度に対する感受性が高いことが知られており、少し二酸化炭素が上昇しただけでも「呼吸が不足している、もっと呼吸しなければ!」と体が反応してしまいます。
その結果、過呼吸や動悸といった症状が起こるという仕組みです。
二酸化炭素に対する過敏さにはストレスも影響しており、「小児期〜青年期に起こったストレスフルなライフイベント」は過敏性を上昇させることもわかっています。
(参照:塩入俊樹 岐阜大学大学院医学系研究科精神病理学分野『パニック症の神経解剖学的モデルについて』)
乳酸・カフェインとの関係
乳酸やカフェインも、パニコーゲンの一つです。
疲労物質と言われる乳酸もパニック発作を誘発する物質として知られ、疲れを溜めないことが発作予防につながります。
カフェインのほか、アルコールやタバコもパニック障害に悪影響を与える物質です。これらはできる限り避けるようにしましょう。
パニック障害の発症(最初の発作)のきっかけとなる出来事

パニック障害の発症には様々な要因が関与していますが、最初のパニック発作のきっかけとなるのは、多くの場合、強いストレスや過労であるといわれています。
以下で、最初のパニック発作を引き起こす可能性のあるきっかけとなる出来事の例を紹介します。
職場 | 家庭 | 外出時 |
---|---|---|
・仕事の責任のプレッシャー、業務量の増加 ・上司や部下、同僚とのコミュニケーションの問題(人間関係トラブル) ・大勢の前での発表への不安や恐怖 ・異動や転職に伴う不安 ・残業による過労、睡眠不足など | ・家族やパートナーとの不和、喧嘩 ・育児や介護の負担や不安 ・家計や将来についての金銭的な不安 ・コミュニケーション不足による孤立感 ・幼少期の不安や虐待によるストレス、トラウマ | ・エレベーターや電車、車などに閉じ込められる感覚、閉塞感 ・人混みの多い場所や公共交通機関の混雑、圧迫感 ・初めて訪れる場所での不安 ・長い列や待ち時間によるストレス |
また、最初のパニック発作は、はっきりした原因がわからないケースも多いです。
息苦しくて「ああ、心筋梗塞だ」と思った。
(中略)
これまで、心臓などを調べてもらったけれど、異常は見つかっていない。めまいもするので耳鼻科にも行ったけれど、原因はわからない。仕事は続けたいけれど、実家から会社は遠くて、1時間ずっと快速電車に乗っていなくてはならないのはつらい。その間にまたあの発作が起きたらと思うと、怖くて仕事は休みがちになっている。迷惑をかけるので、今とりかかっていたプロジェクトからははずしてもらった。引用:こころの情報サイト『私がパニック障害になったとき』
引用した上記の体験談では、最初は心筋梗塞かと思ったといいます。しかし、パニック障害の場合、検査しても内科的な異常は見つかりません。
パニック障害は原因がわからず不安になったり、周りから理解されにくいことから思い悩んでしまう人も多い病気です。
パニック障害の発症(最初の発作)のメカニズム

パニック障害の発症にはここまでで紹介した「脳の構造や機能の異常」と「二酸化炭素(CO2)に対する敏感さ」が関係しているという説があります。
脳の構造や機能の異常 | 二酸化炭素(CO2)に対する敏感さ |
---|---|
【扁桃体がすぐに活発になりやすい】不安や恐怖に敏感 【前頭前皮質の機能低下】 扁桃体からの過剰な反応を適切に抑制できない 【青斑核の誤作動】 過剰なノルアドレナリンによる自律神経症状(パニック発作) | 二酸化炭素に対する過敏さによってパニック発作が出現。これが引き金となりパニック障害が発症 |
(参照:塩入俊樹 岐阜大学大学院医学系研究科精神病理学分野『パニック症の神経解剖学的モデルについて』)
パニック障害の症状

パニック障害では、大きく分けて以下の4つの症状が見られます。
- パニック発作
- 予期不安
- 広場恐怖(回避行動)
- 非発作性不定愁訴(慢性的な体の不調)
それぞれの症状について見ていきましょう。
パニック発作
パニック発作は、突然襲ってくる強い不安や恐怖の発作です。その他にも、過呼吸や震え、動悸、呼吸困難、発汗、吐き気やめまいといった症状が起こることもあります。
予期不安
一度発作を経験すると、同じような状況になったときに「また同じようなことが起こったらどうしよう」「次はもっと激しい発作が起こるかもしれない」という恐怖心(予期不安)が起こります。
不安のために外出を控えたり、特定の場所や状況を避けたりするようになり、日常生活に支障をきたしてしまいます。
広場恐怖(回避行動)
広場恐怖は、パニック発作が起こりそうな場所や状況が怖くなり、避けようとする症状です。
「広場」という名前がついていますが、必ずしも広い場所だけを指すわけではなく、お店やエレベーターのような閉鎖空間、公共機関、混みの中などを避けるようになります。
広場恐怖はパニック障害の方すべてに起こるわけではなく、約4分の3の患者さんに見られます。
非発作性不定愁訴(慢性的な体の不調)
慢性的なパニック障害では、パニック発作よりも穏やかな症状が起こる非発作性不定愁訴が見られることがあります。
- 胸が詰まる
- 息苦しい
- 不整脈
- 心臓がドキドキする
- 汗が止まらない
- 体がふわふわする、視界が揺れる
- 疲れやすい
- 気分の落ち込みやイライラ
- 目や頭が膨れるような感覚
- 不眠
- 食欲減退
パニック障害が長く続いたり、悪化するとうつ病を併発するリスクが高まるため、パニック障害が疑われる症状や原因のわからない不調がある場合は、早めにクリニックで相談しましょう。
悪化させないためには早期発見・早期治療が大切
パニック障害の原因は完全には解明されていないものの、脳の機能や構造が主な原因であると考えられています。これに加え、ストレスや疲労、遺伝などもパニック障害に影響する要素です。
パニック障害の治療は、カウンセリング(認知行動療法など)と、必要に応じて薬を併用する治療が効果的です。適切な治療を行えば克服することもできるため、悪化させないためにも早めにクリニックで相談してみましょう。
「パニック発作の症状が強く、通院が難しい」「不安や恐怖が強くて外出できない」という方は、オンライン診療・オンラインカウンセリングの『かもみーる』にご相談ください。
スマホやパソコンを使って、自宅から外出することなく医師の診察やカウンセリングが受けられます。
悩みや希望に合わせて医師やカウンセラーを選ぶこともできますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
▶ かもみーるのカウンセラー(医師・心理士)一覧はこちら
▶ かもみーるの新規会員登録はこちら