TMS治療は慢性の痛みに効く?治療方法やメリット・症例・注意点を紹介

更新日 2025年02月05日

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「生活はできるけど常に痛い」
「ケガは治ったのに長い間痛みが取れない」

など、理由がはっきりしない、なかなか治らない慢性疼痛に悩まされている人は少なくありません。

そのような慢性疼痛に効果があるとされる『TMS治療』に大きな期待が寄せられています。

この記事では、痛みの治療として注目されているTMS治療について、治療方法や治療中の痛み、治療効果が期待できる慢性疼痛や注意点などについて紹介します。

薬の効かないうつ病にも効果があるとされるTMS治療が、痛みに対してどのように効果を発揮するのか、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。

TMS治療とは

TMS治療とは「repetitive Transcranial Magnetic Stimulation」を略したもので、厳密には『rTMS』、日本語では『反復経頭蓋磁気刺激法』と呼ばれる治療法です。

痛みに対して効果があるとされるTMS治療について、どのような治療なのか、治療自体の痛み、メリットやデメリットである副作用などについて紹介します。

TMS治療の方法

TMS治療は、磁気による電気刺激を脳に繰り返し与えて、脳の機能正常化を目指す治療法です。

8の字コイルを頭部に当て、コイルに電流を流すと磁場が発生し、その磁場を変化させることで脳内の目的の部位(刺激部位)に電流を流し、刺激を与えます。

局所的な電流の発生が可能な特殊コイルを使用するため、電気ショックのように直接電流を流すわけではなく、目的の部位以外を刺激することもありません。

TMS治療の痛み

TMS治療では副作用といえる痛みがあるのは、治療を受けた方のうち5%程度とされています。ただし、これは個人差があり、必ずしも副作用とは限りません。

治療中に頭部の筋肉が収縮する反応があるため、違和感があったり痛いと感じたりする人は一定数いることは間違いありません。

一般的に体験するような治療ではないこともあり、不安や恐怖心から刺激を痛みと感じる人もいます。

しかし治療中寝てしまう人もいれば、恐怖によって痛みに過敏になり必死にこらえる人、デコピン程度の痛みと表現する人もいるなど、反応はさまざまです。

週2回以上の通院治療が必要とされていますが、頻回な通院により心理的にも早いうちから慣れてくるため、治療期間中にずっと痛むケースはほとんどありません。

TMS治療のメリット

一般的に受ける機会が多くないTMS治療ですが、以下のようなメリットがあります。

  • うつ病に関しては条件つきで保険適用される場合がある
  • 侵襲性(生体を傷つけること)がない
  • 薬が効かない人にも効果が現れる可能性がある
  • 治療期間が短期でも効果が期待できる
  • 再発率が低い
  • 副作用が少ない
  • 治療時間が短い(1回3~30分)

慢性疼痛によって抑うつ状態を引き起こすケースが多いため、うつ病の治療を併用している方も少なくありません。その場合のTMS治療は効果的といえるでしょう。

また、侵襲性がない・副作用が少ないなど、身体への負担が少なくリスクが低い治療法です。

TMS治療のデメリット

TMS治療はメリットが多いですが、以下のようなデメリットもあります。

  • 週2回以上の通院が必要
  • 保険適用での治療ができる医療施設の認定基準が厳しい
  • 痛み治療は特に自由診療が主で費用負担が小さくない
  • トラブルが生じた場合の再発予防法が確立できていない
  • まれに副作用(頭皮痛・めまい・頭痛・聴力低下・イライラ)がある

目的の部位以外に影響がないため、副作用も少ないといわれていますが、全くないわけではありません。

治療の痛みは治療時のみに感じる一過性のものですが、コイルの角度を調整したり、一時的な鎮痛剤の使用によって軽減したり、慣れるまで対策したりすることは可能です。

耳鳴りやめまいは比較的見られる副作用ですが、治療の際の音が若干大きいためで、耳栓などで対策できます。

慢性疼痛とは

ここからは、TMS治療の対象となる慢性疼痛について紹介します。

慢性疼痛が起こるメカニズムや、TMS治療によって効果が期待できる病気など、参考にしてください。

慢性疼痛の原因

慢性疼痛の原因は、何らかの理由で強い痛みや不快感を受けた神経回路が過敏に反応するようになるためといわれています。

ケガや病気などによる神経の傷害のために、痛みや異常な感覚などの情報の受け渡しが繰り返されると、 神経回路が盛んに組み変わってしまったり(リモデリング)、活動が高まったりすることがあります。

その結果、通常以上に痛みや不快感が強くなり、慢性疼痛を引き起こします。

慢性疼痛の診断

以下のどれかに当てはまるようであれば慢性疼痛とみなされます。

  • 3ヶ月以上の長期間続く痛み
  • 原因となるケガや問題がなくなっても1ヶ月以上痛みが続く
  • 数ヶ月から数年にわたって再発と消失をくりかえしている
  • がんや関節炎・糖尿病・線維筋痛症など慢性疾患または治らないケガに伴うもの

また、心理的要因が痛みを予想以上に強く感じさせることもあるため、 医師は診断の際に抑うつや不安について、十分な睡眠が取れているかなどを尋ねます。

精神状態は痛みを悪化させる可能性もあり、治療を効果的に進めるためには精神状態の評価が必要になる場合もあるためです。

TMS治療が有効な慢性疼痛とは

痛みの種類には以下のような3種類があります。

  • 神経因性疼痛
  • 侵害受容性疼痛
  • 痛覚変調性疼痛

このうちTMS治療が有効と思われる慢性疼痛は、神経因性疼痛と痛覚変調性疼痛です。しかし侵害受容性疼痛も、痛みの長期化に複雑に絡む場合があるため、無視はできません。

慢性疼痛は本来の治療期間を過ぎても継続する痛みで、その原因は多岐に渡るため、患者さんはまずその痛みがどれなのかを知ることが大切です。

神経因性疼痛とは

神経因性疼痛は圧迫や損傷などで神経が障害されることで痛みを感じる症状で『神経障害性疼痛』とも呼ばれます。

神経因性疼痛に対するTMS治療のエビデンスレベル(治療による影響がどれくらいかを推定した時の確実さの程度)はAで、明確な有効性があるとされています。

神経因性疼痛には以下のような種類があります。

  • 帯状疱疹後神経痛
  • 坐骨神経痛
  • 頚椎症や腰椎ヘルニア
  • 糖尿病性神経障害
  • 手根管症候群
  • 糖尿病の合併症
  • 多発性硬化症

神経因性疼痛がきっかけとなって不安や抑うつを生じたり、逆に不安や抑うつが痛みを悪化させたりと、影響を与えあう場合があります。

神経因性疼痛の症状

神経因性疼痛の症状は、痛みを感じるほどではない刺激や痛みの刺激自体がない場合に信号を出してしまい、それを受けて痛みを感じます。

神経因性疼痛は以下のように特徴的です。

  • 焼けるようなヒリヒリした痛み
  • 冷たさや熱さなど、温度を感じる痛み
  • 痺れ感や電気が走るような痛み
  • ぴりぴりする
  • 小さな刺激に過敏に痛みを感じる

神経が過敏に反応しているため、衣類が擦れたり冷たい風に当たったりしただけでもこれらの痛みを感じます。

40代以上に多く患者が存在し、日本では推定約600万人以上が罹患しているとされています。

神経因性疼痛のTMS治療

神経因性疼痛のTMS治療の場合、痛む部位の反対側の、手足の運動指令を出す主要拠点である一次運動野(M1)を狙った高頻度刺激が明確な有効性があるといわれています。

運動野は強く刺激するとけいれん発作につながるため、80〜90%で10回ほど行い、維持療法を行うと治療効果を強化できると報告されています。

参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36170712/

侵害受容性疼痛とは

侵害受容性疼痛は、ぶつけたりケガをしたり、やけどなどをしたときの、身体のあらゆるところにある侵害受容器(痛みセンサー)で感じとれる、よくある痛みの種類です。

喉や虫歯の痛みも同様で、炎症物質が出ることによって痛みの神経が刺激を受け、脳へ伝達されます。

以下のような病気やケガが挙げられます。

  • 切り傷
  • やけど
  • 打撲・骨折
  • 関節リウマチ
  • 変形性関節症
  • 肩関節周囲炎(五十肩)
  • 虫歯・歯周病

原因となる以上のような病気やケガが長引くことで、痛みが慢性化する場合があります。

侵害受容性疼痛の症状

侵害受容性疼痛にみられる症状はズキズキする・ズーンとするなどと多く聞かれます。

ほとんどは急性期で終わることが多い侵害受容性疼痛は、一般的な鎮痛剤で炎症を抑えれば痛みを落ち着かせることが可能とされます。

しかし、五十肩や歯周病などは、鎮痛剤などで抑えても炎症を繰り返す特徴のある病気のため慢性化します。

他にも、炎症部分に物理的負荷がかかると治癒できず、慢性的に痛みがある病態になることも多くあります。

侵害受容性疼痛のTMS治療

侵害受容性疼痛は他の慢性疼痛と複雑に絡み合って慢性疼痛となるケースが多く、また痛みが長引く場合は不安や抑うつ状態を招くため、TMS治療が効果的であるといえるでしょう。

痛覚変調性疼痛とは

痛覚変調性疼痛は、神経因性疼痛と侵害受容性疼痛のどちらでもない、痛みを感じる仕組み自体に変調を来す慢性疼痛です。『Nociplastic Pain』ともいわれています。

痛覚変調性疼痛には以下のような症例があります。

  • 線維筋痛症
  • 過敏性腸症候群
  • 慢性疲労症候群

線維筋痛症は痛覚変調性疼痛の代表的な症例で、難病指定はされていませんが、症状によっては障害者手帳の取得が可能な場合もある治療の難しい病気です。

過敏性腸症候群も同様に治療が難しく、社会生活を送るうえでストレスが大きな疾患です。

TMS治療がそのような難しい疾患を治療する選択肢の一つとされる可能性に期待が高まっています。

痛覚変調性疼痛の症状

痛覚変調性疼痛は、原因が判明しない慢性疼痛のため、その症状もさまざまです。

一例として上記で紹介した痛覚変調性疼痛の3つの症例について、症状を紹介します。

症例症状特徴
線維筋痛症3ヶ月以上持続する全身痛
強い倦怠感・疲労感
筋肉や関節のこわばり
睡眠障害
抑うつ気分
エビデンスレベルB(結果を支持する研究はある)
痛みを脳に伝えるシステムと、痛みを抑えるシステムのバランス異常と考えられている
過敏性腸症候群過敏な腹痛
下痢や便秘を繰り返す
急な腹痛は便意など、いつも不安
心身症の一つと考えられている
慢性疲労症候群 (菌通性脳脊髄炎)6ヶ月以上の長期で継続
リンパ節の痛み
強い倦怠感・疲労感
十分に休養を取っても回復しない
睡眠障害
うつ病や双極性障害など心の病気が隠れている可能性があるため、 うつ病に伴う倦怠感は改善が期待できる

原因は解明されていませんが、どれも心理的な原因が考えられるため、TMS治療が効果的であるといえます。

痛覚変調性疼痛のTMS治療

線維筋痛症のTMS治療の場合、2つの方法の効果があります。

  • 左一次運動野(M1)……手足の運動指令を出す主要拠点。左側
  • 左背外側前頭前野(DLPFC)…思考や創造性を担う、脳の最高中枢。左側

線維筋痛症の治療としてはエビデンスレベルBで有効性がまだ確率できていないため、気分の落ち込みに効果がある左背外側前頭前野への治療が有効と考えられています。

慢性疲労症候群では、線維筋痛症の治療でも提示されている左背外側前頭前野(DLPFC)への高頻度刺激が疲労感を軽減できるとして報告されています。

しかし背景に双極性障害が隠れていると考えられる場合は、逆である右に対しての低頻度刺激が選択肢としてあります。

慢性疲労症候群はうつ病の治療と同様と考えられているため、エビデンスレベルAであるTMSが治療の選択肢としておすすめでしょう。

TMS治療の注意点

副作用については上で紹介しましたが、他にもTMS治療を受ける際の注意点が2つあります。

TMS治療を考えている人は参考にしてください。

TMS治療を受けられない人・推奨しない人

TMS治療は誰でも受けられるわけではありません。

以下はTMS治療を受けられない人です。

  • 治療箇所の近くに金属がある人
    • 人工内耳
    • 磁性体クリップ
    • 体内刺激装置
    • 投薬ポンプなど
  • ペースメーカーがある人(心臓も)
  • けいれんのリスクがある人
    • てんかん
    • 頭蓋内病変の既往
    • アルコール依存症
    • 睡眠不足
  • 重篤な心疾患がある人

また、TMS治療を推奨しない人は以下の通りです。

  • 治療箇所の近くにはないが金属がある人(銀歯・インプラントなどは治療可能)
  • けいれんを起こしやすい服薬や成分摂取をしている人(ベンゾジアゼピン系不安薬・睡眠薬、三環系抗うつ薬など)
  • 覚せい剤使用者・離脱時
  • 妊婦
  • 18歳未満の発達障害や精神疾患のある子ども(有効性がまだ証明されていない)

TMSは正しく受ければ安全な治療であるため、上記の人は医師の診察時に申告・相談しましょう。

けいれん発作について

TMS治療ではけいれん発作に注意が必要といわれています。

TMS治療におけるけいれんの頻度は30,000回の1回未満という報告がありますが、実際は最近の報告にあったように89,000回に1回という、もっと少ない頻度です。

そしてけいれん発作が見受けられる患者さんには、アルコールや薬物の問題、脳の萎縮などが生じているケースが多いなど、けいれんを起こす理由が治療以外にある場合が多いです。

他にも、けいれんが起こりやすい条件として刺激方法と患者さんの状況がありますが、刺激方法に関しては1週間に15,000発以内に留めることを推奨されています。

この内容をTMS治療を受けられない・推奨しない人と合わせて参考とし、TMS治療をしっかり検討してみてください。

慢性疼痛にはTMS治療が効果的

慢性疼痛に苦しむ人たちのなかには、TMS治療を試してみたい人が少なくないでしょう。

実際、治療を受けた感想として、

「3日目には痛みがほとんど消え、1週間でうつ状態が改善した」
「痛みやしびれ・吐き気に悩まされていたが、1回目から効果が感じられ、5回でうつが改善した」

などの声が聞かれています。

痛みを解決したいのももちろんですが、痛みが続くことでうつ状態を併発してしまうのが慢性疼痛の恐いところです。

痛みや痛みに伴う抑うつなどの問題を抱えている人は、痛みとうつのどちらにも効果が期待できるTMS治療を、一度検討してみませんか?

医師監修オンラインカウンセリングサービスの『かもみーる』は、有資格者のみが在籍している、カウンセリングサービスです。

痛みの治療に効果が得られずずっと我慢することで、心にまで影響が出てしまっている場合があります。

「痛みもあるけど……私自身も少し様子が変な気がする」と思ったら、一度、『かもみーる』に心の内を相談してください。

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