TMS治療は強迫性障害に効果的?具体的なメカニズムやエビデンスを解説

強迫性障害は、日常生活や社会生活に支障をきたすレベルで強い不安やこだわりを持ってしまう精神疾患です。
主な治療方法としては薬物療法や精神療法などがありますが、脳に直接アプローチする『TMS治療』も有効とされています。
この記事では、強迫性障害に対するTMS治療の効果について詳しく解説します。
具体的な治療メカニズムやエビデンス、治療のポイントなどもまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
強迫性障害とは

強迫性障害とは、主に気になったことが頭から離れなくなってしまう『強迫観念』と特定の行為をしないと気が済まなくなってしまう『強迫行為』の2つの症状が現れる精神疾患です。
強迫観念と強迫行為の主な症状として、以下のようなものが挙げられます。
- 不潔恐怖・洗浄:汚れや細菌に対する恐怖から、何度も手洗いや入浴、洗濯を繰り返す行為
- 確認行為:戸締り・ガス栓・電気のスイッチなどを何度も確認する行為
- 加害恐怖:人を傷つけてしまったかもしれないという不安が離れず、新聞やテレビニュースなどを確認する行為
- 儀式行為:自分の決めた手順に強いこだわりを持ち、どのようなときも同じ手順で仕事や家事をする行為
- 数字へのこだわり:不吉な数字や幸運な数字に過度にこだわりを持つ
- 物の配置へのこだわり:物の配置に強いこだわりを持ち、定位置でないと不安になる
健康的な人であっても日々の生活で不安に思うことやこだわりを持つことはありますが、強迫性障害は日常生活に支障をきたすレベルになるものです。
例えば家の鍵を閉めたか不安になることは誰にもあり得ることですが、強迫性障害の患者さんはその不安が心を離れず、何度も確認してしまいます。
日常生活や社会生活に影響が出るレベルであれば、強迫性障害の疑いがあるといえるでしょう。
強迫性障害の主な治療方法

強迫性障害は、正しい治療を受けることで症状を改善させられる精神疾患です。
強迫性障害の主な治療方法としては、以下の2つが挙げられます。
- 薬物療法
- 精神療法
ここでは上記2つの治療方法についてそれぞれ解説します。
薬物療法
強迫性障害の主な治療方法の一つが薬物療法です。
薬物療法は、強迫性障害の症状が起こる原因の一つであるセロトニン異常に有効な治療方法となっています。
セロトニンは人間の脳内に存在する神経伝達物質の一つで、ドパミンやノルアドレナリンといった他の神経伝達物質をコントロールする働きを持ちます。
神経伝達物質は喜びや恐怖、驚きといった情報を持っており、セロトニンが低下するとこれらのコントロールが不安定になってしまうため、不安やうつといった症状を引き起こすのです。
強迫性障害の薬物療法では、『選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)』という抗うつ・抗不安薬を使用します。
また患者さんの症状によって効果的な薬剤や用量が異なるため、SSRIのほかに抗精神病薬や他の抗不安薬が処方される場合もあります。
精神療法
強迫性障害の治療では、基本的に薬物療法と精神療法を並行して行うケースが多いです。
精神療法にはいくつか種類がありますが、強迫性障害の治療で行われる代表的な治療方法としては『曝露反応妨害法(ばくろはんのうぼうがいほう)』や『森田療法』が挙げられます。
曝露反応妨害法は認知行動療法の一つで、あえて患者さんが不安を感じる状況に立たせたうえで、強迫行為をせずに我慢してもらうという治療方法です。
例えば戸締りの確認を何度もしてしまうという患者さんであれば、毎回5回は行っていた確認を1回だけで我慢するなどです。
我慢するという行為を何度も繰り返すうちに、強迫行為や強迫観念を軽減させられます。
森田療法は精神科医の森田正馬氏が創始した独自の精神療法で、『不安を受け入れることで自分らしい生き方を実現する』という特徴があります。
強迫性障害だけでなく、うつ病や統合失調症、アルコール依存症など幅広い疾患に適応可能です。
これらの精神療法を行うことで、強い不安を徐々に軽減していきます。
TMS治療は強迫性障害に有効な治療方法

強迫性障害の主な治療方法は薬物療法や精神療法ですが、TMS治療も有効です。
TMS治療は、脳に直接磁気刺激を与える方法で、アメリカでは強迫性障害に対してFDAが承認し、保険適用されています。
ここではTMS治療の具体的な治療方法や適応疾患についてみてみましょう。
TMS治療とは
TMS治療は、脳に繰り返し磁気刺激を与えることで、脳の働きを正常化する治療方法です。
人間の脳には『ニューロン』と呼ばれる神経細胞が存在しており、これらが情報伝達をすることで感情や体の機能をコントロールしています。
そしてニューロン同士の情報伝達はプラグとコンセントのようなイメージで行われています。
情報を持っているニューロンの先端と、情報を持っていないニューロンの先端を接続することで情報伝達を行っているのです。
このコンセントのような役割を担う神経伝達物質の受容体を『スパイン』と呼び、人間の脳にはこのスパインを増やしたり減らしたりする調整能力(神経可塑性)が備わっています。
正常な脳であれば情報伝達が済んだスパインは消失するのですが、神経可塑性の低い人は上手くスパインを調整できなくなってしまいます。
その結果、感情や行動の情報伝達が上手く行われず、攻撃性が増したりマイナス思考に陥ってしまったりすることがあるのです。
この神経可塑性を修正するのが、TMS治療です。
神経可塑性の改善により、スパインの調整が良くなり、神経細胞間の情報伝達が円滑になります。
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TMS治療は何に効く?効果や適応疾患&メリット・デメリットを紹介
TMS治療の適応疾患
TMS治療の日本での適応疾患は、現時点では『治療抵抗性うつ病』に限られています。
治療抵抗性うつ病は、抗うつ薬が効きにくいうつ病です。
TMS治療は薬とは異なるメカニズムでアプローチするため、治療抵抗性うつ病の患者さんに対しても効果があることがわかっています。
またTMS治療が浸透しているアメリカでは、強迫性障害も適応疾患の一つとなっています。
強迫性障害に対するTMS治療のエビデンス
アメリカでは強迫性障害もTMS治療の保険適用疾患となっていることもあり、治療効果のエビデンスがきちんとあります。
FDA(アメリカ食品医薬品局)に承認されている治療プロトコルは、『前帯状皮質(ACC)および背内側前頭前野(dmPFC)に対する20HZ高頻度刺激』です。
99人での二重盲検ランダム化比較試験で症状が大幅に改善されたというデータがあり、薬物療法や精神療法で十分に効果を実感できない患者さんへの治療に有効な可能性があると示唆されています。
参考:OCDに対する深部TMSの有効性と安全性に関する多施設共同試験
強迫性障害でTMS治療を行うメリット

強迫性障害でTMS治療を行うメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 薬とは異なるメカニズムで症状にアプローチできる
- ほかの治療方法と比べて副作用が少ない
- 薬物療法と比べて再発率が低い
ここでは上記3つのメリットについてそれぞれ解説します。
薬とは異なるメカニズムで症状にアプローチできる
強迫性障害でTMS治療を行うメリットとして、薬とは異なるメカニズムで症状にアプローチできる点が挙げられます。
TMS治療は脳に直接磁気刺激を与える治療方法で、薬物治療であまり効果が得られなかった患者さんにも効果が期待できるのが特徴です。
治療抵抗性うつ病の患者さんの場合、TMS治療を受けると3〜5割ほどの割合で症状が改善されることがわかっています。
薬による治療と同等の効果が得られるため、薬物療法があまり効かない患者さんにこそ推奨される治療方法です。
ほかの治療方法と比べて副作用が少ない
TMS治療を行うメリットとして、他の治療方法と比べて副作用が少ないことが挙げられます。
薬物療法の場合、薬の成分が血液を通して体全体に行き渡り、以下のようにさまざまな副作用が現れる恐れがあります。
- 頭痛
- 吐き気
- 下痢・便秘
- 肝機能障害
- 情緒不安定
- 不眠・眠気など
使用する薬によって症状は異なりますが、副作用のリスクが全くないものはありません。
その点、TMS治療は治療中の頭皮痛や不快感などが主な副作用です。
稀に吐き気やめまいといった副作用が現れる場合もありますが、回数を重ねるごとに慣れてくる患者さんが多く、身体的にも精神的にも負担が少ない治療方法といえます。
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薬物療法と比べて再発率が低い
TMS治療は薬物療法と比べて再発率が低い特徴があります。
1年後の再発率は1〜3割程度といわれており、薬物療法よりも低い割合です。
また薬物療法や精神療法と合わせることで、さらに再発率を抑えられると考えられているため、より確実な治療を行いたい方におすすめです。
強迫性障害に対するTMS治療とは

強迫性障害に対するTMS治療は通常とは異なり、『dTMS治療』と呼ばれるものになります。
これは前帯状皮質(ACC)および背内側前頭前野(dmPFC)の深い部位に対して刺激を行う治療方法です。
100%まで徐々に刺激の強度を高めていき、強迫症状自体の改善を目指します。
TMS治療は刺激頻度をコントロールして治療を行いますが、強迫性障害に対しては高頻度刺激(20Hz)のほうが効果的であるとされています。
強迫性障害に対するTMS治療のポイント

強迫性障害に対するTMS治療で押さえておきたいポイントが3つあります。
- 30%の症状改善を目指す治療方法である
- 薬物療法や精神療法の効果増強を目的としている
- 治療頻度・回数は週5回×6週間が理想
ここでは上記3つのポイントについてそれぞれ解説します。
30%の症状改善を目指す治療方法
強迫性障害に対するTMS治療は、完治ではなく、30%の症状改善を目標とします。
症状が30%改善されるだけでも生活の質が改善され、日常生活や社会生活を送りやすくなります。
海外で行われたTMS治療に関する研究では、57.9%の患者さんが良好な改善を示したというデータもあり、強迫性障害に有効な治療方法であるといえます。
参考:強迫性障害に対する深部 TMS の実際の有効性: 22 の臨床施設から収集された市販後データ
薬物療法や精神療法の効果増強を目的とする
TMS治療は単体で行うのではなく、薬物療法や精神療法の効果増強を目的として行うのが一般的です。
薬物療法や精神療法と組み合わせることで症状が改善しやすくなるだけでなく、再発率も抑えられます。
また強迫性障害だけでなくうつ病も併発している場合、そちらの治療をまずは優先して行わなくてはいけません。
TMS治療はうつ病に対する治療効果も認められている治療方法のため、まずはうつ病に対しTMS治療を行い、安定してきた段階で強迫性障害の症状に対するTMS治療を行う治療も可能です。
SSRIで治療反応が見られた場合や、1つのSSRIにのみ反応しなかった場合、TMS治療がより効果的であるという研究結果があります。
参考:強迫性障害における反復経頭蓋磁気刺激(r-TMS)と選択的セロトニン再取り込み阻害薬抵抗性:メタ分析と臨床的意義
治療頻度・回数は週5回×6週間が理想
TMS治療の理想的な頻度は週5回×6週間ですが、個々の症状や医師の判断に応じて調整されます。
この治療頻度・回数で集中的に治療を行うことで、症状の改善が期待できます。
通院頻度は医師と相談のうえで検討しましょう。
強迫性障害の治療にはTMS治療が効果的
TMS治療は強迫性障害にも効果が期待できる治療方法です。
特定の部位に対し高頻度刺激を与えることにより、強迫観念や強迫行為などの症状を改善できる可能性があります。
薬物療法や精神療法であまり効果が得られない難治性の強迫性障害にも効果が期待できるとされます。
しかし日本ではまだ普及率の低い治療方法であるため、治療できる医療機関が限られる点に注意が必要です。
『かもみーる』では、うつ病や不安障害、強迫性障害、パニック障害の患者さんに対して、医師の判断のもとTMS治療を行っています。
オンラインカウンセリングも行っているため、TMS治療が気になる方や強迫性障害の症状でお悩みの方はぜひ当院までご相談ください。
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