TMS治療は睡眠障害にも効果がある?原因別のアプローチ法や効果を紹介

更新日 2025年02月05日

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睡眠に関連したさまざまな病気をまとめて『睡眠障害』と呼びますが、その中でも『不眠症』は一般成人の30~40%がその症状に悩まされる、国民病といわれています。

不眠症は基本的には自力でも治る病気ですが、その原因は多種多様で、1ヶ月以上持続して慢性化するとなかなか治せなくなってしまいます。

この記事では、不眠症や睡眠障害の種類を紹介しながら、その治療として期待されるTMS治療について、どのように治療するのか、どう効いていくのかなどを紹介します。

不眠症に新しいアプローチができるTMS治療を知るきっかけになれば幸いです。

TMS治療とは

TMS治療とは、磁場の誘導によって脳にアプローチする治療法です。

TMS治療について紹介します。

磁場を発生させて頭蓋骨を超える

TMS治療は、脳にピンポイントで電気による刺激を与えることで、本来の脳の機能の回復を図る治療法です。

日本ではうつ病に適応する治療ですが、海外ではさまざまな疾患に対しての研究結果が出ています。

うつ病については、以下のコラムで詳しく説明しています。

うつ病とは?症状・原因・治療法と自己診断チェックリスト

うつ病を9種類に分けて症状・原因別に解説!重症度や間違われやすい病気も

専用の8の字コイルを頭に当て、瞬間的に電流を流すと磁場が発生しますが、この磁場が頭蓋骨や頭皮を通り抜けます。

するとその特性「ファラデーの法則(電磁誘導の法則)」に従って、8の字コイルと並行になる形で、脳内において渦電流を作り、狙った場所を刺激します。

8の字の交わるところが最も強い磁場になり、強い電流が生じ、局所的に刺激するため、他の場所に影響を与えません。

電流で刺激することで神経ネットワークを再構築

うつ病は、ニューロン間に放出される神経伝達物質のバランスが、過剰なストレスのために崩れることが原因と考えられています。

ニューロンの端にはシナプスがあり、ニューロン同士の間にはシナプス間隙と呼ばれる隙間があって、お互い繋がっていません。シナプスが隙間をあけて向かい合っている形です。

ニューロンは外からのさまざまな情報を、神経伝達物質という化学信号に変換して、シナプスからシナプス間隙に向かって放出し、それを反対側のシナプスが受け取ります。

例えばこの時の神経伝達物質がドーパミンの場合、『意欲』や『前向き』、『安定』『多幸感』などをニューロンからシナプスを通してニューロンへ伝えます。

この神経伝達物質の量が多すぎたり分泌されなくなったりすることでバランスを崩し、うつ病になると考えられています。

TMSが生みだす渦電流によって生じる電気に局所的に刺激されると、神経回路を形成しているニューロンの軸索(突起)がそれを受け止めて電気信号を発生させます。

するとシナプスでの神経の働きに変化が与えられるため、神経ネットワークが再構築され、適切なネットワークを取り戻すと考えられています。

TMS治療で効果が期待できる病気

TMS治療で効果が期待できる病気はうつ病の他にも多種多様にあります。

  • うつ病
  • 慢性疼痛
  • 不眠症
  • ニコチン依存症
  • 不安障害
  • 強迫性障害
  • 双極性障害

新しい治療法として登場してからまだ日が浅く、他の病気に対する効果がまだ示されていないだけで今後増える可能性はあるでしょう。

副作用も少なく安全

TMS治療は磁場を用いて脳内に微弱な電流を誘導し、間接的に刺激を与えます。

また目的部位以外に影響を与えないため、副作用は少なく安全性が高い治療です。

重篤な副作用として『けいれん発作』がありますが、非常にまれで頻度が極端に低く、ほとんどが1分以内の発作で済んでいるため、リスクは低いといえます。

不眠症とは

不眠症とは、睡眠に問題を抱えているため、日中の活動に支障を来す状態が1ヶ月以上にわたり続く症状です。

睡眠障害で一番多い不眠症について紹介します。

不眠症は4種類

不眠症の種類は4つありますが、自分がどのタイプかわからない場合もあります。

種類症状特徴
入眠障害寝付くまで30分〜1時間以上かかる緊張・不安などで起こりやすい
不眠症の訴えで一番多い
中途覚醒寝ている間に何度も起きる
そして寝つけない
大人の睡眠障害で一番多い
高齢者や中高年が多い
熟眠障害いくら寝ても寝た気がしない
寝ている間に病気の症状が出て、睡眠の量と質が低下する
昼間に強い眠気
睡眠時無呼吸症候群
周期性四肢運動障害
本人が気づきにくい
早朝覚醒自分が起きたい時間より2時間以上早く起きてしまう高齢者・うつ病の人によく見られる

不眠症の種類としては4つありますが、このどれかひとつが原因の場合もあれば、重複している場合もあります。特に高齢者の多くは複数の症状を訴えます。

不眠症の治療はタイプによって異なるため、自分がどのタイプなのかを把握しておきましょう。

不眠症の原因

不眠症の原因はさまざまですが、原因が判明しないものは原発性不眠症、原因があるものは続発性不眠症に分けられます。

原因が分かっているもの(続発性不眠症)には以下があります。

  • 生理的要因……生活習慣・睡眠環境
  • 心理的要因……不安・悩み
  • 薬理学的要因……薬の副作用・コーヒーやアルコールなどの飲食物
  • 身体的要因……呼吸器疾患などの病気・更年期障害・痛みなど
  • 精神的要因……うつ病・神経症・緊張・ストレス

続発性不眠症に関しては原因を取り除いたり治療したりすることで解決できますが、原因の分からない原発性不眠症に関してはTMS治療がおすすめです。

不眠症のTMS治療

原因の分からない不眠症や、うつ病を併発している不眠症はTMS治療が一つの選択肢となります。

ここでは、TMS治療が不眠症の治療として考えられる理由や、アプローチについて、具体的な治療法についてなど、不眠症とTMS治療の関係性について紹介します。

うつ病と不眠症

うつ病と不眠症は高い確率で併発するといわれています。

うつ病の場合は特に、入眠困難・中途覚醒、特に早期覚醒を訴えることが多く、睡眠障害の合併も見られ、睡眠の質が低下する特徴があります。

また逆に、眠れない状態が続くことで昼間は眠気に悩まされ、集中力が低下するなどして、うつ病を発症するケースもあります。

また、うつ病と不眠症が併存しているケースで、うつの症状が順調にすすみほぼ寛解に至った場合、不眠症が後遺症のように残ることがあります。この症状を残遺症状といいます。

この場合、残遺症状を放置していると、うつ病の再発率が高まるとされています。

このようにうつ病と不眠症は、発症と治療のどちらも深い関係性があることを把握しておいた方がいいでしょう。

原因でアプローチが変化

不眠症に対してTMS治療を行う場合、原因でアプローチ法が変わります。

うつ病からくる不眠症の場合はうつ病に効果のある部位を刺激すると効果が期待できます。

不眠症で原因が分からない原発性不眠症の場合はその症状にあった部位を狙います。

アプローチの方法は、原因や症状を見極められる医師の経験や技術が必要となるため、TMS治療を受ける場合は信頼できる医療機関を探すと安心して治療が受けられます。

不眠症のTMS治療の刺激部位

不眠症の治療をTMSで行う際、実際に刺激を与える部位は以下です。

  • 原因が判明しない場合……右背外側前頭前野に対する低頻度刺激
  • うつ病が原因と考えられる場合……左背外側前頭前野に対する高頻度刺激

背外側前頭前野は大脳皮質にあり、TMS治療の低頻度刺激は皮質の興奮性を抑制し、高頻度刺激は逆に興奮性を増強します。

原発性不眠症は大脳皮質が過覚醒の状態であるといわれているため、低頻度刺激で皮質の抑制をすると効果的であることが示されたエビデンスがあります。

一方、左背外側前頭前野はもともとうつ病の治療で狙う部位ですが、うつ病治療としてTMS治療を行うことで睡眠障害が改善されるケースは多いです。

うつ病が原因の場合は、高頻度刺激により大脳皮質を興奮させて、多少頭を疲れさせるような治療を行うと効果的です。

このように、症状や刺激部位によってアプローチを変えて効果を引き出す治療を行います。

他にもある睡眠障害やきっかけとなる病気・習慣

睡眠障害は不眠症の他にもいくつかあり、睡眠障害のきっかけとなる病気や習慣もあります。

TMS治療は比較的新しい治療法であるため、研究報告の論文は発表されていますが、まだ可能性を探る段階にいるといえます。

将来TMS治療による効果が期待される、不眠症以外の睡眠障害や病気・習慣について紹介します。

過眠症

過眠症は寝過ぎる病状というわけではなく、日中に過度な眠気がある、夜きちんと睡眠をとっても強い眠気を感じる病気です。

以下の3種類があります。

  • 特発性過眠症
    • 昼間の眠気と1時間以上持続する居眠りが主症状
    • 夜間の睡眠は10時間以上と長い
    • 目覚めがいつも悪い
  • 反復性過眠症
    • 傾眠期(強い眠気がある時期)が3日〜3週間持続し、自然に回復
    • 傾眠機を不定期に繰り返す
  • ナルコレプシー
    • 感情の起伏で急に脱力する
    • 日中に耐えがたい眠気と居眠りを繰り返す
    • 居眠りは30分程度しかできないが一時的にすっきりする
    • 症状が強い時はどこでもへたり込んでしまう
    • 現実と区別がつかない夢を見る
    • 入眠時に金縛りになることがある

全身脱力の発作があるナルコレプシーについては、左背外側前頭前野に対する高頻度刺激が刺激部位として選択できる可能性があるとされています。

睡眠時随伴症

睡眠時随伴症は、睡眠中に異常な行動や体験をするのが特徴で、突然叫び声を上げたり、寝床を出て歩き回ったり、料理をして食べるなどといった行動が見られます。

周りの人が覚醒させるのは困難で、本人も思い出せないという症状です。

この症状に関してはまだTMS治療が検討されていない段階であり、現段階では薬物療法や精神療法が治療のメインとなっています。

むずむず足症候群

むずむず足症候群(レストレスレッグス症候群)は、座ってじっとしたり横になったりすると、特に脚がむずむず・ぴりぴりといった、かゆみや痛みなどが起こる症状です。

夕方から夜間にかけて症状が現れるため、睡眠障害の原因になることがある、原因がまだ明らかになっていない病気です。

TMS治療では、一次運動野または補足運動野に対する高頻度・低頻度の両方の刺激が一時的に有効であるという報告があり、正式なエビデンスが待たれる症状です。

歯ぎしり

歯ぎしりは専門用語でブラキシズムと呼ばれる、上下の歯をこすり合わせて音を出す口腔内悪習慣ですが、睡眠の質に対しても悪影響を及ぼす場合があります。

歯ぎしりのTMS治療に関してはまだ予備調査の段階で、治療効果が期待される可能性が提起されています。

睡眠の改善は生活習慣から

不眠症や睡眠障害を改善するためには、治療の他に、良い睡眠を目指した生活習慣を送ることが大切です。

睡眠の質を向上する生活習慣として押さえたいポイントは以下です。

  • 適度な運動
  • バランスのとれた食生活
  • 眠りやすい環境を整える
  • 就寝前はスマホやPCを触らない
  • 就寝2~3時間前に入浴を済ます
  • 就寝3~4時間前はカフェインを摂らない
  • 就寝1時間前までは喫煙しない
  • 睡眠時間の理想は7~8時間
  • 朝は光を浴び・夜間は暗くする
  • ぬるめのお湯にゆっくりつかる

質の良い睡眠のためにできることはさまざまあり、ご自身で不眠症を改善できる可能性もあります。

気持ちよく眠れるようになるために、できることから行ってみましょう。

睡眠障害に悩む人はTMS治療を検討してみませんか?

不眠に悩んでいる人は多く、不眠症とうつ病は併発しやすいため、エビデンスレベルA(最も信頼性の高い科学的根拠)であるうつ病の治療を一緒に行えるTMS治療はおすすめです。

TMS治療はこれからも新しい発見や新しい適応症が判明していく将来性のある治療といえます。

睡眠障害に悩んでいて、うつ症状を感じている人、治療中の服薬を減らしたい人・副作用を軽減したい人などはTMS治療を選択肢に入れて検討してみましょう。

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