「自分の感情がよくわからない」
「周りから『淡々としている』と言われる」
「つらいはずなのに感情が動かない」
こうした感覚が続くと、「自分が他の人と違っておかしいのではないか」「感情が欠けているのではないか」と不安になってしまいますよね。
このような状態には、もしかしたら「失感情症(アレキシサイミア)」が関係しているかもしれません。
失感情症は「感情がない・感情を失った状態」ではなく、「感情に気付きにくい」状態を指します。
この記事では、失感情症とはどんなものなのか、症状や原因、対処法やセルフチェックリストなどを含めてわかりやすく解説します。
失感情症(アレキシサイミア)とは?

失感情症(アレキシサイミア/Alexithymia)とは、自分の感情を自覚したり、表現することが苦手な傾向のことです。
「失感情症」というと病気のように聞こえますが、心理学的な概念であり、精神疾患の正式な病名ではありません。個人の特性や性質の一つとして捉えられています。
ここでは、失感情症について詳しく解説します。
感情が無いのではなく「感情に気付きにくい」状態
日本語の「失感情」という文字を見ると、まるで「感情を失ってしまった」状態のように勘違いしそうになりますが、実際には感情がないわけではありません。
失感情症とは、「感情に気付きにくい状態」「感情を認知することの障害」です。
感情は存在するものの、自分の気持ちを理解したり、整理したりすることが難しく、本人が戸惑いや生きづらさを抱えやすくなります。
症状の現れ方には個人差があり、症状が強い人もいれば、失感情症の一部の性質が見られる人もいます。
失感情症の人の割合は約10%
失感情症は、一般の人の約10%程度に見られるとする報告もあります。
調査によって数値の変動は見られるものの、失感情症は決して珍しいものではありません。
(参考:Neural Correlates of Alexithymia Based on Electroencephalogram (EEG)—A Mechanistic Review)
前提として、どんな人でも常に自分の「感情」をはっきり自覚し、理解しているわけではありません。
あえて感情を意識しないようにしている、集中するあまり内面に意識が向かない、周囲の環境に疲れているといった状態では、誰しも一時的に感情に鈍くなることがあるものです。
しかし、感情がわかりにくい状態が長く続き、生きづらさを強く感じていたり、仕事や学校、家庭生活に支障が出ている場合は、失感情症が影響しているかもしれません。
心身症・うつ病・摂食障害などを併発しやすい
失感情症自体は病気ではなく特性であるため、日常生活に支障がなければ、必ずしも精神科や心療内科といった医療機関での治療は必要ないとされています。
しかし、失感情症では感情をうまく処理できないことでストレスが蓄積してしまい、うつ病や依存症、心身症といった病気を引き起こしやすい傾向にあり、病気ではないからといって放置していいわけではありません。
自分や周囲の人の感情がわかりにくいことで、ストレスや不安を抱えているなら、一度専門家への相談も検討してみましょう。
うつ病などでも失感情症に似た症状が現れることもある
喜びや楽しみといった感情を感じにくくなる症状は失感情症以外でも見られることがあり、例えば、うつ病には「感情鈍麻(かんじょうどんま)」の症状があります。
脳の機能低下やストレスからの防御反応と考えられており、自分の意思でコントロールできません。
このほか、不安障害や摂食障害でも失感情症のような症状が現れることがあるといいます。
失感情症はストレスにも気付きにくい傾向にある
自分の感情を自覚しにくい失感情症の方は、ストレスを受けていることに気付かないこともあります。
実際には心が疲れているのに「いつも通り」と感じて頑張りすぎてしまい、その結果として突然体調を崩してしまうのです。
例えば、仕事で毎日残業続きで疲れたら、多くの人は「そろそろ疲れたから休みたい、ストレス発散したい」と考えます。
しかし、失感情症の方はストレスを感じにくいため、自分が気付かないうちに抱えているストレスにうまく対処ができません。
このことが、心身症(ストレスが原因で身体に症状が現れる疾患)やうつ病の発症に影響すると考えられています。
失感情症の特徴・症状

現れ方は人によって異なりますが、失感情症(アレキシサイミア)では以下のような特徴が見られます。
- 感情の認識・表現が難しい
- 身体の感覚と感情を結びつけるのが苦手
- 内面への関心が薄く、想像力や空想力に乏しい
- コミュニケーションで誤解されることがある
失感情症の中心となる症状が、感情の認識や言語化の難しさです。自分の感情だけでなく、相手の表情や声から感情を読み取るのも難しい傾向にあります。
身体の感覚と自分の感情を結びつけることも苦手で、ストレスによって身体に症状が出ていてもそれに気付くことができません。
思考や感情など、自分の内面についての関心が薄いことも特徴です。空想をしたり、夢を見ることが少なく、物事を論理的・現実的に考えることを好む傾向にあるといいます。
自分や相手の感情の認識が難しいことで、人と接する中で「冷たい」「何を考えているかわからない」と思われてしまうこともあります。
失感情症の原因

失感情症の原因ははっきりとはわかっていないものの、背景には元々の特性としての要因と、環境やストレスといった後天的な影響が複雑に関わっていると考えられています。
先天的な要因(生まれ持った特性) | 後天的な要因(環境・ストレスによる影響) |
・脳の働きの偏り(前頭葉や扁桃体などの働き方の差) ・遺伝的要因 ・発達特性(ASD) | ・幼少期の環境 ・過度なストレスのある環境 ・家庭内不和や虐待、いじめなどのトラウマ |
失感情症との関連がある病気・特性

失感情症は単独で存在するケースだけでなく、以下のような病気や特性と併存することもあります。
病気・特性 | 特徴 |
心身症 | 感情を自覚しにくく、ストレスが身体症状として出やすい |
依存症 | 感情の処理が苦手で、行動や物質による代替的な調整に頼りやすい |
摂食障害 | 食行動が感情調整の代わりになりやすい傾向がある |
PTSD | 強いトラウマにより感情が麻痺し、失感情状態が続くことがある |
うつ病 | 感情の鈍化や無気力感が重なり、感情がわからなくなる症状が強まる場合がある |
発達障害(ASD・ADHD) | 感情理解や対人面の困難など失感情症と共通する部分がある |
▶ADHD(注意欠如・多動症)とは?発達障害との関係や特徴、対応法を解説
失感情症のチェックリスト

ここでは、失感情症のチェックリストを紹介します。いくつ当てはまるものがあるか、チェックしてみましょう。
- 自分の感情を言葉にするのが難しいと感じることが多い
- 今どんな気持ちなのかわからないことがある
- 喜怒哀楽の区別がつきにくい
- 自分の気持ちの背景を掴むのが難しい
- 身体の感覚がどの感情と結びついているかわからない
- 人の感情を理解するのが苦手だ
- 他人に共感することが苦手だ
- 映画や本でも登場人物の感情に入り込むことが少ない
- 空想したり想像を広げたりすることがあまりない
- 自分の内面を深く見つめることが少ない
- 夢を見る頻度が少ない、もしくは内容を覚えていない
- 論理的・現実的に考えるタイプだ
- 抽象的な概念を理解するのが苦手だ
- 問題が起きると感情より解決策に目が向きやすい
- ストレスを感じると体に不調が出ることが多い
- 身体の不調が感情から来ているとはあまり思わない
- 「何を考えているか分からない」と言われたことがある
- 人との感情的な関わりに疲れを感じることがある
- 自分の気持ちを人にあまり打ち明けない
- 感情的な出来事があってもすぐ切り替えられる
0〜5個程度であれば、失感情症の傾向は低いと考えられるでしょう。
6〜10個ではやや失感情症の傾向が見られ、11個以上では傾向が高くなります。
あくまで簡易的なチェックリストとなるため、当てはまる・当てはまらないにかかわらず、強い生きづらさやストレスを感じている場合は、早めに専門家に相談してみましょう。
失感情症の診断基準

失感情症は特性であるため、病気としての診断ではなく「状態」を評価することが一般的です。
評価には、失感情症を評価するための『TAS-20(トロント・アレキシサイミア尺度)』が広く使われています。
TAS-20では、20の質問項目で「感情の同定困難(感情を認識し身体感覚を区別する)」「感情の表出困難(感情を伝える)」「外的思考(感情や思考よりも外的な出来事に意識が向く)」の3つを評価します。
失感情症の日常でできる対処法

失感情症の特性に対して、日常生活でできるさまざまな対処法があります。
ここで紹介する方法は、無理なく取り入れやすいものばかりなので、できる範囲で取り入れてみてください。
感情に気付くためのトレーニング
意識して練習することで、自分や他者の感情に気付く力を育めます。例えば、以下のような方法がおすすめです。
- 感情日記をつける(寝る前にその日に感じた心の変化、身体の反応をメモする)
- 映画やドラマ、本で感情について考える
- 五感に意識を向けてみる(例えば、散歩や食事のときに音やにおい、景色や味などを意識する)
ストレスケアをする
失感情症の人はストレスに気付きにくい傾向にあるため、意識的に以下のようなストレス発散を取り入れることが大切です。
- 睡眠と食事を整える
- 適度な運動をする
- リラックス・リフレッシュの時間を作る
- マインドフルネス(「今、ここ」に意識を集中する瞑想)
生活習慣を整えることを基本に、このほかにも自分にとってストレス発散になることを試してみましょう。
周囲との関わり方に工夫する
失感情症の特徴によって誤解されてしまうことがあるため、可能であれば感情を表現しにくいことを周りへ共有してみるといいでしょう。
「うまく気持ちを言葉にできないことがある」と伝えるだけでも人間関係の負担が軽くなったり、衝突を避けられることがあります。
また、感情表現が難しい場合は、伝え方や行動を工夫するのも一つの方法です。
例えば、感謝を言葉で伝える、予定や意思決定を「今は判断が難しいので少し考えたい」と表現するなど、無理のない方法を選ぶといいでしょう。
自分に合った伝え方が見つかると、人と接するときのストレスも減り、気持ちの整理にも役立ちます。
失感情症の治療法・治し方はある?

失感情症(アレキシサイミア)は病気ではないため「治す」というよりも、上手な付き合い方を知り、対処していくことが中心になります。
精神科や心療内科では「精神療法(心理療法)」や「TMS治療」などを行い、症状によっては薬物療法を併用することもあります。
精神療法(心理療法) | カウンセリングや認知行動療法(CBT)を通して、感情を理解し表現する力を育てるアプローチを行う |
TMS治療 | 頭部に繰り返し磁気刺激を与え、脳の働きを整える方法。薬を使わず副作用が少ない傾向にある |
薬物療法 | 失感情症そのものに効果を発揮する薬はないが、併発するうつ病を軽減するために用いられることがある |
失感情症かも?専門家に相談する目安

以下に当てはまる方は、一度専門家に相談することを検討してみましょう。
- 感情がうまくわからないことで、日常生活に支障が出ている
- 人間関係がうまくいかず、生きづらさや悩みを抱えがちである
- 身体症状(頭痛・胃痛・倦怠感・不眠など)が続いているのに原因が分からない
- 気分の落ち込み・不安が長引いている
- 「何も感じなくなった」「急に感情がなくなった」など感情を感じにくくなった
失感情症ではなく、うつ病や不安障害といった病気が関係している可能性もあります。
「感情が分かりにくいのは性格の問題」と捉えて我慢を続けてしまう方も多いですが、必要なタイミングで専門家に相談することで、心身の負担を大きく減らせるかもしれません。
失感情症についてのよくある質問

ここでは、失感情症についてのよくある質問を紹介します。
Q:失感情症とサイコパスとの違いは?
失感情症とサイコパス(サイコパシー/反社会性パーソナリティ障害)は混同されることもありますが、全く別のものです。
失感情症の方は、感情が湧いていても認識・表現することが難しいだけで、他者を傷つけたい気持ちを持つわけではありません。
むしろ、誤解されたり自分の状態がわからず苦しむことが多い傾向にあります。
一方サイコパスは、罪悪感の欠如・衝動性・他者を利用する傾向などが特徴です。
感情への気付きにくさよりも、倫理観や共感の欠如が中心であり、失感情症とは根本的に異なる状態です。
Q:失感情症で恋愛感情がわからなくなることはある?
失感情症では、恋愛に関する感情も含めて「気持ちの変化に気付きにくい」「自分が本当にどう思っているのか判断しづらい」といった状況が起きることがあります。
好き・嫌いといった感情に揺れが生じていても、それを自覚できず、「よくわからない」と感じてしまうこともあるでしょう。
まとめ
失感情症(アレキシサイミア)は、感情は存在しているものの、「感情に気付きにくい」状態のことです。
失感情症の人は感情だけでなくストレスにも気付きにくい傾向があり、自分でも気付かないうちに多くのストレスを抱えてしまっていることもあります。
うつ病や摂食障害にもなりやすいとされているため、我慢しすぎず早めに適切な対処を取りましょう。
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