TMS治療の対象疾患とは?適応外となる条件についても解説
更新日 2025年03月11日
TMS治療
TMS治療は正式にはrTMS治療(反復経頭蓋磁気刺激法)のことで、磁気刺激によって脳の働きを正常化する効果をもちます。
さまざまな疾患の治療に用いられていますが、具体的にどの疾患に適応しているのか気になる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、TMS治療の対象疾患について詳しく解説します。
TMS治療のメカニズムや適応外となる条件などもまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
TMS治療とは

TMS治療は『反復経頭蓋磁気刺激法(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)』を略した治療名で、主にうつ病の治療に用いられています。
アメリカでは2008年にFDA(アメリカ食品医薬品局)に承認され、日本でも2019年6月に保険適応の対象となりました。
日本ではまだ普及が進んでいない治療方法ではあるものの、世界的には標準治療の一つとして認められています。
ここではTMS治療の特徴や副作用などについて解説します。
TMS治療の特徴
TMS治療の主な特徴として、以下の5つが挙げられます。
- 治療抵抗性うつ病にも改善効果がみられる
- 副作用が少ない
- 安全性が高い
- 1回の治療時間が短く身体への負担が少ない
- 治療効果が現れるのが早い
- 薬物療法に比べて再発率が低い
TMS治療は薬物療法やほかの治療方法と比べ、副作用の少なさや安全性の高さ、再発率の低さなどで優れています。
薬物療法の場合、薬の成分が血流を通して全身を巡るため、頭痛や吐き気、食欲不振、肝機能障害などさまざまな副作用のリスクがあります。
一方でTMS治療は副作用が少ないため、患者さんの身体への負担を抑えながら治療を行うことができるのです。
さらにTMS治療は1回の治療時間が3〜30分程度で、治療期間についても最短1〜2週間程度で効果が出てきます。
このようにTMS治療は安全性の高さや身体への負担の少なさ、治療効果の即効性などから注目を集めている治療方法です。
TMS治療の副作用
TMS治療は副作用の少ない治療方法ですが、以下のような副作用が現れる可能性があります。
- 頭皮痛・不快感
- 顔の痙攣
- めまい
- 精神症状の変化
- 失神・全身けいれん
TMS治療は頭皮に刺激を与えるため、頭皮や頭蓋に痛み・違和感が生じる場合があります。
ただしこれは治療中のみに生じるもので、慣れてくると徐々にその痛みや不快感も薄れてくる場合が多いです。
また稀に現れる副作用として、精神症状の変化が挙げられます。
主に双極性障害の患者さんに現れやすい副作用で、イライラが増したり不眠が強まったりする場合があります。
さらに失神や全身けいれんなどの副作用のリスクがある点にも注意が必要です。
万が一副作用が生じた場合には、医師に相談して適切な処置を受けましょう。
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TMS治療のメカニズム

TMS治療は脳に繰り返し磁気刺激を行うことにより、脳の働きを正常化する治療方法です。
脳には心や体の機能の情報伝達を行う『ニューロン』という神経細胞があり、ニューロン同士の間にはシナプスという継ぎ目があります。
ニューロン同士で情報伝達を行う際は、プラグとコンセントのようなイメージでニューロンの先端同士を接続するのです。
このコンセントの役割を担う部分はスパインと呼ばれ、神経伝達物質の受容体を持っています。
スパインは受け渡す電気信号の情報量によって調節され、不要となったスパインは消失していきます。
このスパインの調節能力を『神経可塑性』といい、通常の人であればこの神経可塑性によってスムーズに情報伝達が行われます。
しかしうつ病や発達障害の人は神経可塑性が弱く、スパインの量をうまく調整できないため、バランスが崩れてしまうのです。
そこでTMS治療により脳に直接ピンポイントで刺激を与えると、神経可塑性が修正され、正常な脳の働きへと変化させることができます。
1度の刺激では一時的な効果しか得られませんが、繰り返し治療を受けることで効果が持続しやすくなっていきます。
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TMS治療の対象疾患

TMS治療の対象疾患は以下の通りです。
- うつ病
- 強迫性障害
- 双極性障害
- 慢性疼痛
- 脳卒中の運動麻痺
- ニコチン依存症
ここでは上記6つの対象疾患についてそれぞれ解説します。
うつ病
TMS治療の対象疾患として代表的なのがうつ病で、アメリカだけでなく日本でも正式に認められています。
厳密には『治療抵抗性うつ病』または『治療不耐性うつ病』が対象疾患となっています。
- 治療抵抗性うつ病:薬物療法で改善がみられないうつ病
- 治療不耐性うつ病:薬物療法の副作用が大きく治療が継続できないうつ病
上記2つのうつ病は薬物療法と相性が悪い特徴がありますが、TMS治療だと効果が期待できます。
うつ病は神経可塑性が低下してしまうことで、脳内の情報伝達が正しく行われないことが主な原因です。
TMS治療によって神経可塑性が修正されると、脳のバランス異常が改善されていき、うつ病の症状も改善へと向かっていきます。
またTMS治療は副作用が少なく治療期間も短いため、薬物療法で効果が出なかった方はTMS治療が進められるケースも多いです。
強迫性障害
アメリカFDAでは、強迫性障害もTMS治療の対象疾患となっています。
強迫性障害は気になることが頭から離れない『強迫観念』や、何度も確認しなければ気が済まない『脅迫行為』が主な症状の疾患です。
強迫性障害に対しては、前帯状皮質と背内側前頭前野に深く刺激を行う『deepTMS治療』という治療方法で行われ、基本的なTMS治療とは少し異なります。
強迫性障害でのTMS治療については、研究によってエビデンスが確立されています。
TMS治療を行った強迫性障害の患者さんのうち、38.1%が症状の重症度を30%以上軽減、さらに54.8%が症状の重症度が20%異常軽減するという試験データです。
強迫性障害のTMS治療では、30%の症状の改善を目指して治療が行われます。
双極性障害
うつ病ほどの効果は示されていないものの、TMS治療の適応が検討されている疾患の一つとして、双極性障害が挙げられます。
双極性障害は気持ちが高まる『躁状態』と、何をしていても気持ちが落ち込んでしまう『うつ状態』を繰り返す疾患です。
うつ病と誤認・誤診しまうケースもありますが、うつ病とは異なる疾患となります。
双極性障害には躁とうつがはっきりしている『双極性障害Ⅰ型』と、躁状態が軽症の『双極性障害Ⅱ型』があり、TMS治療は主にⅡ型を対象としています。
双極性障害にTMS治療を行うと、躁状態に転じてしまう『躁転』が起こるリスクがあるため、比較的リスクの低いⅡ型の治療がメインとなっているのです。
慢性疼痛
慢性疼痛も正式には適応疾患ではありませんが、効果があるのではないかと考えられている疾患の一つです。
TMS治療で効果が期待できる慢性疼痛は主に『神経因性疼痛』と『線維筋痛症』の2つが挙げられます。
神経因性疼痛は何らかの原因によって神経が障害されることで痛みが生じるもので、帯状疱疹後神経痛や坐骨神経痛などの疾患が該当します。
これらの疾患に対してはTMS治療での高頻度刺激による効果がエビデンスレベルA(確実に有効である)として、有効性があると判断されているのです。
また線維筋痛症は原因不明な慢性疼痛に悩まされる疾患で、こちらはTMS治療のエビデンスレベルB(有効の可能性がある)となっています。
有効性は確立されていないものの、気分の落ち込みを伴う痛みの場合には、治療を行う価値があると判断されています。
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脳卒中の運動麻痺
TMS治療は脳卒中による運動麻痺に効果がある可能性があると考えられています。
上肢麻痺に対するTMS治療はエビデンスレベルAとなっており、有効性があると判断されているのです。
病変と反対側の手の運動野に対して低頻度TMS治療を行うことで、上肢の運動機能を改善させられることが明らかになっています。
ニコチン依存症
アメリカでは、ニコチン依存症もTMSの対象疾患となっています。
日本でアメリカと同様の治療を行うのは難しいですが、背外側前頭前野という実行機能に関係する領域に対してTMS治療を行うことが可能です。
これによってニコチンを摂取したいという衝動性を軽減し、治療効果を高められるのです。
またニコチン依存症はニコチンを摂取することでドパミンの分泌が促され、強い快感や覚醒効果が得られますが、これがなかなか禁煙できない原因の一つとなっています。
TMS治療で脳を刺激すると、その刺激でドパミンが放出されるため、ニコチンを摂取したときに近い働きが行われます。
この働きにより、ニコチンを摂取しなくても渇望が抑えられやすくなり、ニコチン依存を脱しやすくなるのです。
TMS治療がおすすめな方・適応外となる方

TMS治療がおすすめな方や適応外となる条件について見てみましょう。
TMS治療がおすすめな方
TMS治療は以下のような方におすすめの治療方法です。
- うつ病や強迫性障害でお悩みの方
- 長年薬物療法で治療を行っているが効果がみられない方
- 薬の副作用が強く出てしまう方
- 短期間治療を希望する方
- 妊娠を検討しており薬による治療を避けたい方
TMS治療は薬物療法による効果がみられなかった方や、薬の副作用がつらい方などに特におすすめです。
また受験生や試験前、休職期間の満了が近い方など、短期間での治療を希望する方もTMS治療が適しているといえます。
TMS治療は保険適応可能な治療方法ではあるものの、その条件の厳しさから多くの医療機関が自由診療でTMS治療を行っています。
そのためTMS治療が可能かどうかは医療機関によって判断が異なるため、気になる方はまずは医師に相談してみるとよいでしょう。
TMS治療が適応外となる方
以下はTMS治療の禁忌となるため、当てはまる場合は治療が受けられません。
- 磁石に反応する金属が頭部にある方
- ペースメーカーを使用中の方
- てんかん発作がある方
- 妊娠中の方
またほかにも、当てはまると治療が受けられない可能性がある条件として以下が挙げられます。
- 18歳未満の方
- 同一のうつ病の症状で過去にTMS治療を受けたことがある方
- 明らかな認知症や器質性または症状性の気分障害がある方
- 副職支援デイケアなどに参加できる程度に回復している中等症以上のうつ病の方
- 抗うつ薬の著しいアドヒアランス低下をともなう方
- 精神作用物質または医薬品使用による残遺性感情障害を示す方
医療機関によってTMS治療を受けられる条件が異なる場合があるため、上記に当てはまる場合でも一度医師に相談してみてください。
対象疾患のある方はTMS治療の検討を
TMS治療の対象となる疾患として、うつ病や強迫性障害、双極性障害、慢性疼痛、脳卒中の運動麻痺、ニコチン依存症などが挙げられます。
アメリカではうつ病、強迫性障害、ニコチン依存症が正式な治療適応が認められており、日本では治療抵抗性うつ病または治療不耐性うつ病が正式な適応疾患です。
TMS治療は現在も研究が進められている治療方法で、うつ病以外にもエビデンスレベルの高い疾患もあります。
自分が悩んでいる疾患が治療対象となるかどうかは、TMS治療に対応している医療機関に相談してみましょう。
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