ASD(自閉スペクトラム症)は、生まれつきの脳機能の特性によって、対人コミュニケーションや行動、興味の持ち方などに特徴が現れる発達障害の一つです。
特性の表れ方は人によって異なり、幼児期から気づかれる場合もあれば、大人になってから診断されるケースもあります。
この記事では、ASDの特徴について詳しく解説します。
ASDの診断基準・診断方法、治療方法などもまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
ASDとは

ASD(自閉スペクトラム症)は、生まれつきの脳機能の特性によって、対人関係やコミュニケーション、行動パターンに特徴がみられる発達障害の一つです。
代表的な特性としては「人との関わりや意思疎通が苦手」「興味や関心が特定の分野に偏る」「感覚過敏や鈍感さがある」などが挙げられます。
診断は、これらの特性が日常生活や社会生活に影響を及ぼしているかどうかが基準となります。
特性の表れ方は個人差が大きく、知的発達の遅れや他の発達障害(ADHD、学習障害、発達性協調運動症など)を併せ持つ場合も珍しくありません。
また、子どもの頃は周囲の支援により困難が目立たず、大人になってから対人関係や仕事の壁に直面し、初めて気づくケースもあります。
原因は完全には解明されていませんが、脳の神経伝達や情報処理の仕組みに関する機能の違いが関係すると考えられています。
ASDは完治するものではありませんが、本人の特性に合わせた環境調整や行動療法、教育的支援などによって、より過ごしやすい生活を築くことが可能です。
子どものASDの特徴

子どものASDの特徴として、以下が挙げられます。
- 関心を共有するコミュニケーションが苦手
- 興味のあるなしがはっきりしている
- コミュニケーションが困難
- いつも同じ行動・動きをする
- 感覚過敏・鈍麻がある
ここでは上記5つの特徴についてそれぞれ解説します。
関心を共有するコミュニケーションが苦手
ASDの子どもは、他者と同じ対象に関心を向け、その喜びや驚きを共有することが難しい傾向があります。
例えばASDの子どもの場合、通常1歳半ごろには見られる「指差し」で物を示し合う行動が少ない、あるいはほとんど見られません。
親や周囲が指差した方向に視線を向けないこともあり、「一緒に見る」という行為が自然に起こりにくいのです。
また、自分の見つけた面白い物や出来事を他人に伝えようとする姿勢が乏しく、一人で完結する行動が目立ちます。
このような特性は、単なる恥ずかしがりや内気さとは異なり、対人相互作用そのものに関心を持ちにくいことが根底にあります。
結果として、周囲との関係構築が難しくなり、集団生活や遊びの中で孤立する場面も少なくありません。
興味のあるなしがはっきりしている
ASDの子どもは、興味や関心の対象が非常に限られ、その分野には強い集中力とこだわりを示します。
例えば、特定のキャラクターや乗り物、数字、地図などに強い関心を持ち、長時間飽きずに取り組む一方で、それ以外のことにはほとんど興味を示しません。
友達や家族と過ごす時間よりも、一人で自分の好きな遊びや活動を繰り返すことを好む場合もあります。
また、興味の範囲が狭いことから、同年代の子どもとの共通の話題が見つかりにくく、交流が難しくなることがあります。
コミュニケーションが困難
ASDの子どもは、言葉のやり取りや表情、身振りなどを使った非言語的コミュニケーションに課題を抱えることが多いです。
会話が一方的になったり、相手の発言を無視して自分の話題を続けたりするなど、会話のキャッチボールが難しい場合があるのです。
また、相手の表情や声のトーンから感情を読み取ることが苦手で、うなずきや首振りといった基本的な身振りもあまり使わないことがあります。
このため、相手からは冷たく見えたり、興味がないように誤解されてしまったりすることも少なくありません。
さらに比喩や冗談、あいまいな表現を理解しにくく、会話がかみ合わないこともあります。
こうした特性は本人の意図によるものではなく、脳の情報処理の仕組みの違いによって生じるため、わかりやすい言葉や具体的な表現で伝えてあげる工夫が重要です。
いつも同じ行動・動きをする
ASDの子どもは、生活や行動パターンに強いこだわりを持つ傾向があります。
例えば、毎日同じ道順で通園・通学したがる、持ち物や家具の配置を変えることを嫌がるなど、予測可能で変化の少ない環境を好みます。
急な予定変更や思わぬ出来事に遭遇すると強い不安や混乱を覚え、泣き出したりパニックを起こすことも少なくありません。
また、特定の動作を繰り返す『常同行動』も特徴の一つです。
具体的には、くるくる回る、ジャンプを繰り返す、手をひらひらさせるなどが挙げられます。
これらの行動は本人にとって安心感や落ち着きを得る手段であることが多く、無理にやめさせると逆にストレスを高める場合があるため注意が必要です。
感覚過敏・鈍麻がある
ASDの子どもは、聴覚・視覚・触覚・味覚・嗅覚といった感覚のいずれかが、過敏または鈍感に偏っていることがあります。
感覚過敏の場合、日常的な音や光、匂いが耐え難く感じられることがあります。
例えば、掃除機やドライヤーの音、蛍光灯の光、特定の布の肌触りを強く嫌がることがあるのです。
一方で感覚鈍麻の場合、痛みに気づきにくかったり、極端な温度差を感じにくいために真冬でも薄着で過ごしたりすることがあります。
また、味覚の偏りから極端な好き嫌いがあり、特定の食感や味を避けるために偏食傾向が強くなることもあります。
大人のASDの特徴

大人の発達障害では、ビジネスや人間関係上で「人と関わるのが苦手」「人に合わせられない」などの悩みを抱えることが多くなります。
大人のASDの特徴として、以下の3つが挙げられます。
- コミュニケーションが難しい
- 相手の気持ちや次の段取りを想像するのが難しい
- こだわりが強い
ここでは上記3つの特徴についてそれぞれ解説します。
コミュニケーションが難しい
大人のASDでは、対人コミュニケーションにおいて言葉や非言語的なサインを理解することが難しい傾向があります。
例えば、相手の表情や声色、身振りから感情を読み取るのが苦手で、会話の中での微妙なニュアンスや暗黙の了解を察することができません。
そのため、社交の場で「空気が読めない」と捉えられることがあります。
また、比喩や冗談を文字通りに解釈してしまい、本来の意味を汲み取れないことも少なくありません。
会話の順番を判断しにくく、人に合わせられず一方的に話し続けたり、逆に話す機会を逃してしまう場合もあります。
こうした特徴は、本人が意図的に避けているのではなく、脳の情報処理の特性によるものです。
相手の気持ちや次の段取りを想像するのが難しい
ASDのある大人は、相手の感情や状況を推測すること、また先の予定や段取りを柔軟に組み立てることに困難を感じることがあります。
例えば、会話中に相手が退屈している、困っているといった非言語的サインに気づかず、一方的に話し続けてしまうことがあるのです。
仕事においては、与えられたタスクは正確に遂行できても、その後に必要となる工程や周囲の動きまで予測できず、融通が利かないと評価される場合があります。
さらに、予定外の出来事や急な変更があると混乱しやすく、対応に時間がかかることもあります。
これは、情報を同時に処理しながら将来を見通すことが難しいという特性によるものです。
こだわりが強い
大人のASDでは、興味や行動に強いこだわりを持つ傾向があります。
特定の分野に深く没頭し、専門的な知識を細部まで覚えていることも珍しくありません。
反面、それ以外の事柄にはほとんど関心を示さず、会話や行動の幅が限られる場合があります。
また、物事のやり方や順序に強い固執があり、予定外の変更や想定外の出来事に対して強いストレスを感じやすいです。
このこだわりは本人にとって安心感を得るための重要な要素である一方、人間関係や社会生活において柔軟性を求められる場面では、衝突や誤解を招くこともあります。
ASDの診断基準・診断方法

ASDの診断は、本人や周囲の観察だけでなく、国際的に定められた医学的基準に基づいて行われます。
特徴が見られるからといって自己判断で断定することはできず、診断は医師による詳細な評価が必要不可欠です。
特性は幼児期から現れることが多く、早ければ1歳半健診で指摘される場合もありますが、大人になってから人間関係や仕事の困難さをきっかけに受診し、初めて診断されるケースもあります。
診断が可能な医療機関は限られており、小児科・児童精神科・小児神経科、発達外来、または大学病院や総合病院などの専門外来で受けるのが一般的です。
ここではASDの診断基準と診断方法について解説します。
ASDの診断基準
ASDの診断は、アメリカ精神医学会が発行する『DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版・改訂版)』に基づいて行われます。
主な基準は以下の通りです。
- 複数の状況で、社会的コミュニケーションや対人的相互反応に持続的な困難がある(視線や表情の使い方、相手の気持ちの理解、会話のキャッチボールなど)
- 行動や興味、活動において、限定的で反復的な様式が2つ以上見られる(同じ動作の繰り返し、特定分野への強いこだわり、順序やルールへの固執、感覚刺激への過敏または鈍感など)
- これらの症状が発達早期から存在し、日常生活や学業、職業などの機能に支障をきたしている
- 知的発達症や全般的発達遅延など、他の要因では説明できない
上記の条件が満たされた場合、ASDと診断されます。
さらに診断時には、知的障害や言語障害の有無、ADHDなど他の発達特性との併存可能性も確認します。
ASDの診断方法
診断は問診・行動観察・心理検査などを組み合わせて行われます。
問診 | 生育歴や生活歴、現在の困りごとについて、本人や家族、養育者から詳しい聞き取りをする。母子手帳、学校の通知表、日常の記録などが重要な資料となる。 |
行動観察 | 医師や専門スタッフが日常的な動作や遊び方、会話の様子を見て、ASD特有のパターンがあるかを評価する。 |
心理検査 | 発達や知能、認知機能を測定するもので、『WISC-Ⅳ』『田中ビネー知能検査V』『WAIS』などが代表的な検査。 |
これらの結果を総合し、DSM-5-TRの基準を満たす場合にASDと診断されます。
一度の診察で結論を出すのではなく、複数回の受診を通じて慎重に判断するケースが多いです。
ASDの治療方法

ASDは生まれつきの脳機能の特性によるもので、現時点で完治させる治療法はありません。
しかし、適切な支援やアプローチを行うことで、日常生活の困りごとを減らし、より過ごしやすい環境を整えることが可能です。
具体的な治療方法は以下の3つが挙げられます。
- 環境調整
- 薬物療法
- 行動療法
ここでは上記3つの治療方法についてそれぞれ解説します。
環境調整
環境調整は、ASDの特性に合わせて生活や仕事、学習環境を整え、困難が起こりにくくする方法です。
例えば、急な変化に弱い場合は予定を事前に伝え、イラスト付きのスケジュールやタイマーを使って視覚的に示します。
学校や職場では、静かな作業スペースを確保したり、パソコン業務など一人で集中できる業務を選択する方法が有効です。
薬物療法
ASD自体を根本的に治す薬は存在しませんが、特性に伴って現れる二次的な症状を緩和するために薬物療法が行われることがあります。
例えば、不安感や抑うつが強い場合は抗不安薬や抗うつ薬が用いられます。
多動性や常同行動が強いケースでは、アリピプラゾールやリスペリドンといった抗精神病薬が有効な場合が多いです。
薬物療法はあくまで補助的な位置づけであり、症状のコントロールや生活の安定化を目的としています。
服薬は医師の指導のもとで行い、副作用の有無や効果の程度を継続的に確認することが重要です。
また、薬物療法単独ではなく、環境調整や行動療法と併用することで効果が高まりやすくなります。
行動療法
行動療法は、ASDの特性によって生じる困りごとを軽減し、社会的スキルや自己管理能力を高めるための心理社会的アプローチです。
代表的なのが『ソーシャルスキルトレーニング』で、挨拶や会話の進め方、相手の立場を考える練習などをロールプレイ形式で行います。
また、個別カウンセリングでは、本人の気持ちを受け止めながら行動や考え方のパターンを整理し、ストレスの軽減や対処法の習得を目指します。
行動療法は、時間をかけて継続することで効果が現れやすい治療方法です。
環境調整や薬物療法と組み合わせることで、生活の質を大きく向上させられます。
ASDの疑いがあるときは専門医への相談を検討しましょう
ASDの特徴はさまざまで、自己判断が難しいケースがあります。
生活や仕事、人間関係において困りごとが多い場合には、一度専門医による評価を受けることが大切です。
ASDの特性は完全に消えるものではありませんが、周囲の理解と適切なサポートがあれば、日常生活の質を大きく向上させられます。
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