緊張すると胃がムカムカしたり、吐き気を感じたりする経験をしたことのある人は少なくないでしょう。
大事なプレゼンや人前に出る場面などで強い不安を感じたとき、身体が反応して吐き気を引き起こすことは珍しくありません。
多くは一時的なもので心配いりませんが、症状が繰り返し起こる、日常生活に支障が出るといった場合は注意が必要です。
この記事では、緊張によって吐き気が生じる原因について詳しく解説します。
自分でできる対処法や病院を受診する目安などもまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
緊張で吐き気がする場合に考えられる病気や症状

緊張による吐き気は一時的なものと思われがちですが、精神的な病気が原因となっていることもあります。
特に注意したいのが『不安障害』や『神経性嘔吐症』といった心因性の疾患や症状です。
これらは精神的なストレスや不安により自律神経が乱れ、身体的な症状として吐き気や嘔吐が現れるのが特徴です。
どちらも精神面の影響が強く、症状が出るタイミングには一定のパターンがあります。
ここではそれぞれの特徴について解説します。
不安障害
不安障害とは、過剰な不安や心配が長期的に続き、日常生活に大きな支障をきたす精神疾患の一つです。
不安そのものは誰にでも起こり得る自然な感情ですが、不安障害ではその感情が強くなりすぎて、身体にも影響が及びます。
具体的な症状としては、吐き気、動悸、頭痛、胃の不快感などが挙げられます。
これらの身体症状は自律神経のバランスが乱れることによって引き起こされるもので、特に緊張状態にあるときに現れやすくなるのが特徴です。
緊張やプレッシャーがかかる場面で吐き気を繰り返す場合は、不安障害の可能性が考えられるでしょう。
放置すると症状が悪化し、外出が困難になるなど生活に支障をきたすこともあります。
▶不安障害の種類別の症状・診断基準┃セルフチェックや治療法も解説
神経性嘔吐症
神経性嘔吐症は、明確な身体的異常がないにもかかわらず、精神的ストレスによって吐き気や嘔吐を繰り返す状態です。
以前は子どもに多いとされていましたが、近年では大人にも発症するケースが増えています。
特徴的なのは、何か特定の条件や場面で症状が反射的に起きる点です。
例えば人前で話すときや会食の場面など、過去に吐いてしまった経験がある場面に再び直面すると、その記憶と結びついて嘔吐を誘発することがあります。
このような条件反射によって、症状が慢性化することも少なくありません。
また、吐くことへの強い恐怖から対人関係を避けるようになり、引きこもりや不登校につながる場合もあります。
摂食障害との関連がみられることもあり、放置すると体重減少や栄養障害を引き起こす可能性があります。
症状に悩まされている場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
不安障害は主に4つの種類がある

不安障害には、主に以下の4つの種類があります。
- パニック障害
- 社交不安障害
- 全般性不安障害
- 強迫性障害
これらはいずれも強い不安を主な症状とし、身体的な異常がないにもかかわらず、日常生活に深刻な支障をきたす可能性があります。
ここでは上記4つの症状についてそれぞれ見てみましょう。
パニック障害
パニック障害は、不安障害の中でも『突然激しい不安に襲われる発作(パニック発作)』が繰り返されるのが特徴です。
動悸、息切れ、めまい、手足のしびれ、胸の痛み、吐き気などが現れ、死の恐怖に近い感覚を伴うこともあります。
発作自体は数分から数十分でおさまることが多いものの、発作が再び起こるのではないかという『予期不安』が常につきまとうのが特徴です。
さらに「また外出先で発作が起きたらどうしよう」といった不安から、電車や人混みなど逃げ場のない環境を避けるようになり、生活範囲が狭くなる『広場恐怖』を併発するケースもあります。
これが続くと、外出が困難になり社会生活に支障をきたすことも少なくありません。
抗不安薬や抗うつ薬、認知行動療法などの治療が有効とされています。
▶パニック障害になりやすい人の特徴│性格・年代・環境や遺伝など徹底解説!セルフチェックも
社交不安障害
社交不安障害(社会不安障害)は、人前で恥をかくのではないかという過剰な不安や緊張を抱えてしまう状態です。
プレゼンや自己紹介など他人から注目される場面で強い不安が生じ、顔が赤くなる、声が震える、汗が出る、腹痛を感じるなどの身体症状も現れます。
こうした症状が起きること自体への恐怖感から、外出を避けたり、人と会うことを控えたりするようになり、学校や職場への出席にも支障が出てしまいます。
また社会的な孤立や自尊心の低下を招きやすく、うつ病やアルコール依存症を併発するリスクがある点にも注意が必要です。
社交不安障害は、本人が自分の性格のせいだと思い込みやすい傾向がありますが、適切な診断と治療で改善が可能です。
症状が強く生活に影響を及ぼしている場合は、早めの受診をおすすめします。
全般性不安障害
全般性不安障害は、特定の物事に限らず、日常のささいなことまで過剰に心配してしまう状態が6か月以上にわたって続く不安障害の一種です。
「家族に何かあったらどうしよう」「病気になったらどうしよう」といった不安が長期間にわたり持続し、本人も不安が過剰であると分かっていても抑えられないのが特徴です。
精神的に落ち着かない状態に加え、疲れやすさ、頭痛、肩こり、筋肉の緊張、動悸、胃の不快感、不眠など、身体症状も多く見られます。
特に体の不調が目立つケースでは、最初に内科を受診する人も少なくありません。
こうした症状が続くと、集中力や仕事の効率が落ち、生活に支障が出るようになります。
薬物療法や認知行動療法によって改善が期待できるため、不安が日常的に続くようであれば専門医の診断を受けましょう。
強迫性障害
強迫性障害は、強い不安や不快感を打ち消すために、繰り返し特定の行動や思考を行ってしまう精神疾患です。
例えば「手にばい菌がついているのでは」と感じて手を何度も洗ってしまう、「鍵を閉め忘れたのではないか」と気になって何度も確認するなどが典型的な例です。
本人も「やりすぎている」「無意味かもしれない」と感じていながらも、強い不安を抑えるためにやめられない特徴があります。
強迫行為に多くの時間とエネルギーを費やすため、仕事や家事、人間関係に悪影響を及ぼすことも少なくありません。
治療には、抗うつ薬などの薬物療法や、強迫観念を客観的に捉えて行動パターンを変える認知行動療法が用いられます。
▶強迫性障害は何科を受診?精神科・心療内科の特徴と選び方を解説
緊張で吐き気がする不安障害の治療方法

不安障害によって緊張や吐き気などの身体症状に悩まされている場合、医療機関での専門的な治療によって症状を軽減することが可能です。
医療機関で行われる不安障害の主な治療方法は以下の通りです。
- 薬物療法
- 認知行動療法
- TMS治療
ここでは上記3つの治療方法についてそれぞれ解説します。
薬物療法
薬物療法は、不安障害に伴う過度な緊張や吐き気を和らげるのに有効な治療方法の一つです。
主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬と、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬を使用します。
SSRIは脳内のセロトニンの濃度を高めることで不安を抑え、持続的に症状を軽減する効果が期待できます。
一方、抗不安薬は即効性があり、強い不安感や吐き気にすぐに効果を発揮しますが、依存性のリスクがあるため使用は慎重に行わなくてはいけません。
これらの薬は医師の指導のもと適切に使用する必要があるため、自己判断での中断や過剰摂取は避けましょう。
また、副作用や効果の出方には個人差があるため、治療の経過を見ながら薬の種類や量を調整していくのが望ましいです。
認知行動療法
認知行動療法は、不安障害の根本的な原因に働きかける心理療法の一つです。
この治療では、不安や吐き気を引き起こす『認知の歪み』や『行動パターン』を見つけ出し、それらをより現実的で柔軟な思考に置き換えることで症状を改善していきます。
例えば「人前で失敗したらどうしよう」といった極端な考えが、強い緊張や吐き気を招く場合がありますが、このような思考も認知行動療法で改善することが可能です。
認知行動療法ではこのような思考を一つ一つ見直し、自分自身の思い込みに気づき、行動の幅を広げていきます。
また、日常生活で取り組む課題(ホームワーク)を通じて、徐々に不安を克服する力を身につけることができます。
薬に頼らずに改善を目指したい方にとって、認知行動療法は非常に有効な方法といえるでしょう。
治療期間は数か月から半年程度が目安とされますが、効果の持続性が高く、再発防止にも役立ちます。
TMS治療
TMS治療(経頭蓋磁気刺激療法)は、薬に頼らずに不安障害を改善する新しい治療方法として注目されています。
頭部に専用の装置を当てて磁気刺激を与えることで、脳の神経回路を活性化させ、不安や緊張などの症状を緩和する方法です。
うつ病や不安障害の症状を引き起こすとされる脳の前頭前野領域に働きかけることができ、日本でもうつ病で適用条件を満たす場合に保険適用が認められています。
治療は1回あたり20〜30分程度で、痛みを感じることはほとんどなく、施術後すぐに通常の生活に戻れる点が特徴です。
薬に対する副作用や依存が心配な方、また薬で十分な効果が得られなかった方に適しています。
ただしTMS治療は一定期間通院して継続的に受ける必要があり、効果の感じ方にも個人差があるため、医療機関と相談して検討することが大切です。
緊張で吐き気がする場合に自分でできること

緊張による吐き気を軽減するために自分でできることとして、以下が挙げられます。
- リラックス法を身につける
- 食生活を改善する
- 規則正しい生活を心がける
- 刺激物を控える
- ストレスをため込まない
- ストレスの原因から離れる
ここでは上記6つのセルフケアについてそれぞれ解説します。
リラックス法を身につける
緊張による吐き気を和らげるには、心身を落ち着けるリラックス法を日常生活に取り入れるとよいでしょう。
特に深呼吸や腹式呼吸は、いつどこでも気軽に実践できるためおすすめです。
深くゆっくり息を吸い込み、長めに吐き出すことで副交感神経が優位になり、身体の緊張が緩みやすくなります。
その他にも、軽いヨガやストレッチ、瞑想やアロマテラピーなどもおすすめです。
リラックスできる音楽を聴く、ぬるめのお風呂にゆっくり浸かるといった方法もあります。
自分に合ったリラックス法を身につけておきましょう。
食生活を改善する
吐き気を感じるときは、食べるものや食べ方を見直すことが大切です。
まず消化の良い食品を選び、脂っこいものや香辛料など胃を刺激するものは避けましょう。
また食事は一度にたくさん食べず、少量ずつよく噛んでゆっくり食べることも大切です。
これにより胃腸への負担が軽減され、吐き気の予防につながります。
においの強い料理や熱すぎる・冷たすぎる食べ物は吐き気を悪化させることがあるため、口当たりがやさしいものを選ぶのもポイントです。
食事が苦痛な場合は、ゼリーやヨーグルトなど軽いものから試してみるとよいでしょう。
規則正しい生活を心がける
生活リズムが乱れると、心身のバランスが崩れやすくなり、不安や吐き気の症状が悪化しやすくなります。
まずは毎日同じ時間に起きて、同じ時間に寝ることを意識しましょう。
睡眠時間が不規則になると、自律神経が乱れやすくなり、緊張を感じやすくなる原因になります。
朝食をしっかりとる、夜遅くに食べ過ぎないなど、食事の時間も安定させることで胃腸への負担も減らせます。
一気に生活を変えようとせず、まずは「朝起きたらカーテンを開ける」「夜はスマホを早めに手放す」など、小さなことから習慣化していくと無理なく続けられるでしょう。
刺激物を控える
緊張による吐き気があるときは、胃を刺激する飲食物を控えることが大切です。
特に注意したいのがアルコール、カフェイン、たばこです。
これらの刺激物は、吐き気や不安を悪化させる可能性があるため、症状がある間は極力控えるのが望ましいでしょう。
代わりに水や麦茶、カフェインレスのハーブティーなどを選ぶと、安心して水分補給ができます。
ストレスをため込まない
ストレスは緊張や吐き気の大きな原因となるため、日頃からこまめに発散することが大切です。
ストレス発散の方法は人それぞれですが、深呼吸やストレッチ、音楽鑑賞、読書、散歩、日記を書くなど、気分転換できる工夫を日常に取り入れるのがポイントです。
また笑うこともストレス解消に効果的で、脳の緊張を和らげるとされています。
信頼できる友人や家族と過ごす時間を増やすのも良いでしょう。
ストレスをためこまない習慣を作ることで、吐き気の予防にもなり、心身ともに健康を保ちやすくなります。
ストレスの原因から離れる
ストレスの原因となる環境や状況から少し距離を取ることも、吐き気や緊張感の緩和に役立ちます。
例えば職場や学校などで人間関係に強いストレスを感じている場合は、信頼できる上司や家族に相談し、配置転換や休息を検討するのも選択肢の一つです。
またSNSやニュースなど、情報の過多によってストレスが蓄積するケースもあるため、デジタルデトックスを試してみるのもおすすめです。
まずは自分が何にストレスを感じているのかを見つめ直し、できる範囲で環境を調整してみましょう。
緊張で吐き気がする場合の受診目安

自分でできる対処法を試しても改善が見られない場合は、医療機関の受診を検討しましょう。
具体的な受診目安は以下の通りです。
- 日常生活に支障をきたしている
- 2週間以上同じ症状が続いている
- 食欲不振や不眠などの他の症状が重なっている
上記に当てはまる場合は、早めに心療内科や精神科を受診し、適切な診断・治療を受けるのが望ましいです。
症状が続く場合は早めに医療機関を受診しましょう
緊張による吐き気は、生活習慣の改善やリラックス法の実践で軽減することもありますが、症状が長引く場合は専門医の診察を受けることが大切です。
特に日常生活に支障をきたしている、2週間以上改善が見られない、食欲不振や不眠を伴う場合は、心療内科や精神科への相談を検討しましょう。
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緊張による吐き気に悩んでいる方はもちろん、職場での人間関係やストレスなどのお悩みにも対応しているため、ぜひ気軽にご相談ください。
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