TMS治療はうつ病に有効!効果が期待できる症状の特徴やメカニズムについて解説

うつ病は、憂うつな気分になったり身体にさまざまな症状が現れたりする気分障害の一つです。
うつ病の基本的な治療方法は休養・環境調整・薬物療法・精神療法の4つですが、TMS治療でも症状が改善できることがわかっています。
この記事では、うつ病に対するTMS治療の効果について解説します。
TMS治療で期待できる効果や薬物療法との違い、効果が期待できる人・症状の特徴などもまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。
うつ病とは

うつ病とは具体的にどのような疾患なのか、主な症状や分類、原因などについて解説します。
うつ病の主な症状
うつ病は心と体にさまざまな症状が現れます。
具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
精神的な症状の例 | 身体的な症状の例 |
---|---|
• 抑うつ気分(気分が落ち込むこと) • 不安・焦り・イライラ • 物事に関する興味がなくなる • 集中できない • 意欲がなくなるなど | • 頭痛 • 耳鳴り • 肩こり • 動悸 • 睡眠障害 • 食欲不振 • 生理不順など |
上記のような症状が2週間以上続く場合、うつ病の可能性が高くなります。
症状が悪化すると日常生活や社会生活に影響をきたすようになるだけでなく、最悪の場合入院しなければいけなくなるケースもあります。
思い当たる症状がある方はなるべく早めに医療機関を受診しましょう。
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うつ病の分類
うつ病は症状の特徴によっていくつかの分類があります。
分類 | 特徴 |
---|---|
メランコリー型 | いわゆる典型的なうつ病。主な症状としては良いことがあっても気分が晴れない、食欲不振、体重減少などが挙げられます。 |
非定型 | 新型うつ病とも呼ばれるタイプ。はっきりとした原因がわからず、診断基準にも当てはまらない特徴があります。メランコリー型と異なり、良いことがあると明るい気分になります。 |
季節型 | 特定の季節にのみ発症するタイプ。過眠や過食、体重増加などの症状がよくみられます。 |
産後 | 産後4週間以内に発症するうつ病。不眠や食欲不振、強い不安などの症状が現れます。 |
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うつ病の主な原因
うつ病を引き起こす最大の原因はストレスですが、さまざまな要因が重なって起こることも少なくありません。
主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 環境要因(家族や親しい人の喪失、人間関係のトラブル、就職・退職、結婚・離婚んなど)
- 身体的要因(慢性的な疲労、脳血管障害、甲状腺機能の異常、ホルモンバランスの変化など)
- 性格
- 遺伝的要因
特に人間関係や環境変化などからくるストレスが原因でうつ病を発症する場合が多いです。
うつ病の基本的な治療方法
うつ病の基本的な治療方法は、休養・環境調整・薬物療法・精神療法の4つです。
この中で重要なのが休養・環境調整で、心と体をしっかり休ませる必要があります。
残業時間を減らす、休暇を取る、家族に家事を手伝ってもらうなど、ストレスを軽減しながら休む時間を確保することが大切です。
薬物療法では『選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)』や『セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)』などの抗うつ薬を使用します。
ほかにも症状に合わせて、抗不安薬や睡眠導入薬、気分安定薬、非定型抗精神病薬などが処方される場合もあります。
精神療法は、上記3つの治療方法と並行して行うことで、より症状を改善しやすくする治療方法です。
精神療法には認知行動療法や対人関係療法などがあり、考え方を改善したり対人関係問題を解消したりする目的があります。
これら4つの治療を並行して行い、症状の改善を目指します。
うつ病にはTMS治療が効果的

うつ病の基本的な治療方法は休養・環境調整・薬物療法・精神療法の4つですが、TMS治療も効果的です。
特に、薬物療法が効きにくい人に対してはTMS治療が推奨されます。
ここではTMS治療の具体的な方法や期待できる効果、薬物療法との違いなどについて解説します。
TMS治療とは
TMS治療は正式には『rTMS治療(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)』といい、日本語に訳すと 『反復経頭蓋磁気刺激療法』になります。
脳に繰り返し磁気刺激を与えることで、脳の働きを正常化する治療方法です。
TMS治療ではコイルを用いて磁場を発生させ、頭皮を通じて脳の神経細胞に影響を与えます。
特にうつ病に関係する前頭前野をターゲットとし、その活動を活性化させることで、症状の改善を促すのが特徴です。
1回の治療は20〜40分程度で終了し、数週間にわたって繰り返されます。
TMS治療は電気けいれん療法(ECT)とは異なり、意識を失うことなく施術が可能で、入院の必要もありません。
また薬物療法のような全身的な副作用がほとんどないため、安全性の高い治療法として広まりつつあります。
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TMS治療で期待できる効果
TMS治療はうつ病の症状改善に効果が期待される治療方法です。
特に薬物療法で効果が十分に得られなかった『治療抵抗性うつ病』の患者さんに推奨されます。
TMS治療を受けることで、気分の落ち込み、不安、意欲の低下などの症状が軽減し、日常生活をより快適に過ごせるようになる可能性があります。
また集中力や思考力の改善も期待され、仕事や学業におけるパフォーマンス向上にもつながることがあるでしょう。
薬を使わないため、抗うつ薬に伴う眠気や体重増加、消化器症状といった副作用のリスクを回避できるのも大きなメリットです。
一般的に5〜6回程度の治療で効果が現れ始めるとされており、持続的な改善が期待できます。
薬物療法とTMS治療の効果の違い
うつ病の治療として最も一般的なのは抗うつ薬を用いた薬物療法ですが、TMS治療とはそのメカニズムや効果の出方が異なります。
薬物療法は脳内の神経伝達物質のバランスを調整することで症状を改善しますが、効果が現れるまでに時間がかかることが多く、副作用の問題もあります。
一方、TMS治療は直接脳の特定部位を刺激し、神経活動を促進するため、薬が効きにくい患者さんでも改善の可能性があるのです。
またTMS治療は副作用が少ない点が大きなメリットです。
主な副作用には治療中の頭皮痛や不快感が挙げられますが、治療を繰り返し受けることで徐々に慣れてくる患者さんが多い傾向にあります。
副作用が全くないわけではありませんが、薬物療法と比べると副作用がかなり少なく、身体的な負担が少ない治療方法といえるでしょう。
ただし治療効果には個人差があり、TMS治療単独ではなく、薬物療法と併用することでより高い効果を得られる場合もあります。
うつ病に対するTMS治療の効果のメカニズム

うつ病に対するTMS治療は『神経可塑性』を改善する効果が期待できます。
神経可塑性は神経同士の結びつきの柔軟性のことで、うつ病はこの機能の低下によってさまざまな精神的・身体的症状が現れます。
TMS治療により繰り返し磁気刺激を与えると、神経の結びつきが柔軟になり、脳内の神経物質同士の情報伝達が活性化されるのです。
その結果、神経可塑性の低下によって現れるさまざまな症状が改善されます。
またTMS治療の効果は1回きりだと一時的な効果しか得られませんが、繰り返し治療を受けることで効果が持続しやすくなります。
そのためうつ病治療に対してTMS治療を行う際は、間隔をあまり空けすぎずに複数回治療を行うことが大切です。
TMS治療で効果が期待しやすい人の特徴

TMS治療で効果が期待しやすい人の特徴として、以下の3つが挙げられます。
- 若い人
- 女性
- 持続性の気質の人
ここでは上記3つの特徴についてそれぞれ解説します。
若い人
TMS治療は若い人のほうが効果が期待しやすいとされています。
抗うつ剤の増強目的でTMS治療を行った場合、若い人には右低頻度刺激では効果が期待できるという研究データが出ているのです。
ただうつ病に対するTMS治療は左高頻度刺激のほうが多数のエビデンスがあるため、実際の治療では左高頻度刺激を選択するケースがよくみられます。
また高齢者は若い人よりも効果が出にくいことも明らかになっています。
女性
うつ病に対するTMS治療では、女性の方が効果を期待しやすい特徴があります。
従来のTMS治療でのデータから、『女性であること』や『1セッション当たりの刺激が少ないこと』などの条件がそろっていると、高い治療効果が期待できるとされているのです。
rTMSの顕著な抗うつ特性は、治療抵抗性、単極性(または双極性)、非精神病性、薬物治療なし(またはrTMSと同時に抗うつ薬を開始)の患者を対象とした研究で観察されました。単変量メタ回帰分析によると、女性患者が多く、セッションあたりの刺激が少ない研究では、うつ病スコアが有意に低かった。
引用元:女性患者が多く、1 回の刺激回数が少ないことが、反復経頭蓋磁気刺激 (rTMS) の短期的な抗うつ効果と関連している: 1997 年から 2013 年の間に発表された 54 件の模擬対照試験のメタ分析
また同じ研究内において、TMS治療の短期的な抗うつ特性は抗うつ薬の効果と無関係であり、独立したものであることも示されています。
つまり、抗うつ薬の効果の有無にかかわらず、TMS治療では効果が期待できるということが言えるのです。
持続性の気質の人
TMS治療の効果が期待しやすい要素として、性格も影響することが明らかになっています。
特に持続性の気質(ひとつのことに集中しやすい人)の人は、TMS治療の効果が期待しやすい傾向にあることが分かったのです。
この性格はうつ病患者さんに多い性格の一つでもあるため、典型的なうつ病にかかっている方はTMS治療を試してみる価値があるといえるでしょう。
TMS治療で効果が期待しやすいうつ病の特徴

TMS治療で効果が期待しやすいうつ病の特徴として、以下の3つが挙げられます。
- 睡眠障害の目立つうつ病
- 認知症状が目立つうつ病
- 不安障害を合併したうつ病
ここでは上記3つの特徴についてそれぞれ解説します。
睡眠障害の目立つうつ病
TMS治療で効果が期待しやすい特徴として、睡眠障害の目立つうつ病が挙げられます。
睡眠障害のレベルが高いことが rTMS に対する治療反応の重要な予測因子でした。また、治療抵抗性のスコアが低く、エピソードの持続時間が短いことも、肯定的な予測因子でした。これらの結果は、特に顕著な睡眠障害が rTMS に対する反応の重要な臨床的予測因子である可能性があるという新しい証拠を提供します。
この研究では、睡眠障害が治療反応の重要な予測因子(治療効果に関連する因子)と結論付けられています。
認知症状が目立つうつ病
認知症状が目立つうつ病も、TMS治療で効果が期待しやすい可能性があります。
うつ病には単極性と双極性の2種類ありますが、この2つを合わせてTMS治療の反応予測因子を調べた研究において、『認知症状が目立つ人のほうがTMS治療が効果的』という結果が出たのです。
若年患者や、身体症状よりも認知感情症状のある患者は、DLPFC rTMS 治療からより多くの恩恵を受ける。rTMS は UDD および BDD 患者に効果的である。患者は臨床的および人口統計学的プロファイルに基づいて選択する必要がある。
思考抑制や過度な自責感などの精神症状に悩むうつ病患者さんは、TMS治療を試す価値があるでしょう。
不安障害を合併したうつ病
TMS治療の効果が期待しやすいタイプとして、不安障害を合併したうつ病が挙げられます。
不安障害を合併しているうつ病患者さんに対するTMS治療を行った論文において、以下のような結果が出ています。
不安障害を併発している患者と併発していない患者の両方で、rTMS 治療後にうつ病の評価が改善し、グループ間の寛解率に有意差は見られませんでした。不安障害を併発している患者では、23.3% が寛解基準を満たし、39.5% が反応基準を満たしました。不安障害の診断ごとに、HAM-A、HAM-D21、MADRS、ZUNG スコアが有意に減少しました (すべて p = <0.001)。
つまり不安障害を合併しているうつ病患者さんでも、TMS治療は有効であるといえるのです。
うつ病に対するTMS治療は保険適用可能

日本では、うつ病に対するTMS治療は保険適用となっています。
とはいえすべてのうつ病に保険が適応されるわけでなく、以下の条件を満たさなくてはいけません。
- 成人である
- うつ病と診断されている
- 過去に抗うつ病の薬物療法を受けており、効果が不十分だった
- 中等度うつ病である
- 2か月の入院が可能である
- 決められた機器とプロトコルが導入されている
上記を満たしていれば、TMS治療は保険適用での治療が可能です。
とはいえ条件が厳しめであるため、保険適用可能な医療機関が限られているのが現状です。
現在TMS治療を提供している医療機関の多くが自由診療となっていますが、自由診療には以下のようなメリットがあります。
- 最新のプロトコルが使用可能
- 短期集中治療も可能
- すぐに治療を始めることも可能
TMS治療が気になる方やうつ病の症状でお悩みの方は、ぜひTMS治療対応の医療機関に相談してみるとよいでしょう。
うつ症状にお悩みの方はTMS治療をご検討ください
うつ病に対するTMS治療はエビデンスがしっかりしており、効果があることが研究できちんと証明されています。
特に薬物療法であまり効果が得られなかった『治療抵抗性うつ病』の患者さんに適した治療方法です。
『かもみーる』では、うつ病や不安障害、パニック障害、強迫性障害の患者さんに対し、医師の判断のもとTMS治療を行っています。
従来の薬物療法では効果がみられなかった方や副作用の少ない治療方法を希望する方は、ぜひ当院までご相談ください。
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