TMS治療は比較的新しい治療法のため、研究結果によって効果があることは実証されていても、広く認知はされていません。
更新日 2025年02月05日

TMS治療は比較的新しい治療法のため、研究結果によって効果があることは実証されていても、広く認知はされていません。
実際は問題の起きにくい安全な治療で、なかなか治らないといわれているうつ病に対して適応できる治療法ですが、誤った情報やイメージが先行してしまいがちです。
この記事では、TMS治療の副作用や怪しいと思われている理由、TMS治療に対する誤解や治療を受けられない人・推奨しない人などを紹介します。
正しい理解をすることで、安心してTMS治療を受けられるよう、ぜひご一読ください。
TMS治療とは

まずはTMS治療についての理解を深めましょう。
TMS治療がどのようにして行われ、どのような特徴のある治療なのか、適応症などについて紹介します。
TMS治療はどのような治療か
TMS治療はアメリカ発のうつ病などの治療法で、厳密には『rTMS(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)』、 日本語訳は『反復経頭蓋磁気刺激法』といいます。
頭に専用の8の字コイルを当て、瞬間的な電流を流して磁場を発生させると、磁気が頭蓋骨を超えて脳に届きます。
効果を生む脳の部位をピンポイントで狙うと、狙った所に渦電流が発生し、脳の神経組織を刺激するというしくみです。
直接電流を流すわけではないため身体を傷つけることがなく、刺激された特定部位が活性化することで低下した機能を取り戻していくという治療法です。
TMS治療はこんな人に向いている
TMS治療はうつ病が適応症の治療法ですが、特に以下のような人に向いています。
- 早く治したい
- 向精神薬の服用に抵抗がある
- 薬で治療中だがなかなか効果が見られない
- 薬の副作用が酷く継続が困難
- もう薬を飲みたくない
- 性機能障害の副作用に悩んでいる
- 授乳中である・妊娠を考えている
- 電気けいれん療法は怖い
現在の治療と相性がよくない・薬が合わない・問題を抱えているなどの患者さんは、TMS治療の特徴を理解して、 治療の選択肢の一つと考えてみるとよいでしょう。
うつ病については、以下のコラムで詳しく説明しています。
→うつ病を9種類に分けて症状・原因別に解説!重症度や間違われやすい病気も
TMS治療の特徴

ここでは、TMS治療の特徴について紹介します。
まだ認知が広がっていないTMS治療ですが、特徴を知って治療検討のきっかけにしてください。
比較的安全性が高い
電気けいれん療法に比べると治療に麻酔は必要なく、医師の指示に従い適切な姿勢が保てれば本を読んだり会話したりしながら行える、比較的安全性が高い治療です。
パフォーマンスアップや健康増進・睡眠の質を良くする・認知症予防なども認められており、病気を患っていない方にもさまざまな効果が期待できます。
副作用が少ない
TMS治療は副作用が少ないことが大きな特徴で、続けやすい治療といえるでしょう。
抗うつ薬に比べて副作用が少ないため、身体への負担を気にせず治療できます。
治療中の痛みも、あるとすれば最初のうちだけの一時的なもので、慣れてくることがほとんどです。
治療時間が短く効果の実感が早い
TMS治療は1回にかかる時間が3〜30分程度と短く、早い人では1回の治療でも効果を実感できる場合があります。
回復を急いでいる場合は短期集中で行うことで、1週間程度で十分な効果が期待できます。
治療の時間さえ確保できれば、日常生活に支障なく治療をすすめられるため、心身への負担が少なく済みます。
再発率が低い
TMS治療は、うつ病の異常な脳の活動パターンを変えるという根本に働きかける治療のため、1年後の再発率が1〜3割と低いことがわかっています。
うつ病は再発率が60%と高く、再発を繰り返すことで再発率が上がっていくとされています。
TMS治療は抗うつ剤を併用したり、定期的なメンテナンス治療を行ったりしてさらに再発率を抑えられると考えられています。
TMS治療で効果が期待できる病気
日本でのTMS治療の適応症はうつ病で、条件が合えば保険適用にて治療が受けられます。
しかし、アメリカでは他の症例に対しても治療に役立てられています。
実際に効果があるとされる適応症にはうつ病以外にも、以下があります。
- 強迫性障害
- ニコチン依存症
- 双極性障害
- PTSD
- 慢性疼痛
- 全般性不安障害
- パーキンソン病
強迫性障害は治療として薬や心理療法などで対応すると難渋することが多い症例ですが、 TMS治療でも深部刺激法となるため、特殊で専門性が高いものとなります。
双極性障害に関してはうつ状態には選択できても躁状態には行うべきではないとされながら、 近年になって治療適応を検討されるようになってきています。
このように、日本ではうつ病が主な適応症で治療としては発展途上ですが、 この先の可能性が期待できる治療法です。
TMS治療の副作用

TMS治療は副作用が少ないですが全くないわけではなく、ごくまれに生じる副作用があります。
TMS治療のデメリットを紹介します。
けいれん発作
TMS治療で注意が必要な副作用は、けいれん発作です。
5分以上続くと脳や神経に後遺症を残す危険性がありますが、TMS治療における実際の頻度としては、最近では約90,000回に1回、通常1分未満という報告があります。
TMS治療でけいれん発作が起こりやすい条件として、刺激方法と患者さんの状況の2つがあります。
刺激方法としては、頻度が高く、強度が強く、かける時間が長いとけいれん発作が誘導されやすいといわれています。
そのため、TMS治療のガイドラインでは1週間に15,000発以内に留めるよう推奨されています。
また、けいれん発作を起こしやすい患者さんの状況としては以下が挙げられます。
- 寝不足
- アルコール摂取
- 低血糖
- けいれんしやすい薬物の服用
- 治療中の居眠り
- 急な減薬をしている
TMS治療はけいれん発作の確率が極めて低い治療ですが、以上のような結果を踏まえて、安全に治療を受ける必要があります。
治療中の痛み
TMS治療中の痛みについては、以下のようなものが軽度で起こるといわれています。
- 頭痛
- 頭皮痛・刺激痛
- 顔のけいれん・ひきつれ
- 不快感
- 耳鳴り
治療中に起こる副作用については軽度で、治療が終わると消えるものがほとんどです。
鎮痛剤や耳栓の使用など、簡単な対処で緩和できる場合が多く、心理的に慣れていくうちに治まるものが大半で、 治療中ずっと感じるのはまれです。
治療後のよくある副作用
副作用は少ないTMS治療ですが、次のような副作用が生じる場合があります。
- 軽い頭痛
- 吐き気
- 顔の違和感
TMS治療で与えられる刺激によって頭部の筋収縮が生じるため、違和感や痛みが必ずありますが、強さの程度としては人それぞれ感じ方に違いがあります。
実際は副作用といえる程度の痛みが生じるのは治療を受けた方のうち5%といわれていて、 治療回数を重ねることで慣れてくるため、心理的な側面もあるでしょう。
痛みの恐怖を必死にこらえる人や、治療しながらくつろげる人など、感じ方はさまざまです。
コイルの角度や刺激強度の調整、一時的な鎮痛剤使用などで対策もできるため、 慣れるまでは治療の際に相談するとよいでしょう。
TMS治療はなぜ怪しいといわれるのか?

TMS治療はうつ病治療として健康保険適用にまでなっているにも関わらず、周知が追い付かず「怪しい」と思う人が少なからずいます。
以下はTMS治療を怪しいと思わせる理由の一例です。
- 誇大広告・いい加減な広告
- 治療費が高い
- 精神科医が診察していない
- 適応しない疾患を紹介する
新しい治療法のため認知度が低いのといいことに、中には以上のような心無い行動も見られます。
治療費が高いのは、うつ病にTMS治療を行う医療機関の認定基準や条件が厳しく、クリアして保険診療を行える医療機関や患者さんがごく一部であるためです。
しかし自由診療でTMS治療を行っていても、信頼できる医療機関はあります。
不当な請求をしていない医療機関の陰で、価格設定をつり上げているところが存在しているのも要因の一つです。
TMS治療を検討する場合は、信頼できる医療機関を探して受診しましょう。
TMS治療に対する誤解

TMS治療は比較的新しい治療法のため、認知度が低い分、リスクが高い・どんな病気にも効くなど、 良くも悪くも誤解を生んでいる部分があります。
ここでは、TMS治療について誤解されがちな部分について紹介します。
脳にダメージを与える?
安全に運用するための指針や指標であるガイドラインの範囲内で行われたTMS治療では、脳組織が病理学的変化を及ぼすダメージを被るようなケースは確認されていません。
以前から行われている電気けいれん療法においても安全性が高いことは周知のため、 TMSによる脳へのダメージが考えられる可能性も低いといえます。
認知に悪い影響がある?
脳に治療を施すため、記憶や思考・理解力などの認知機能に悪影響があると思われがちですが、 TMS治療ではそのような悪影響は認められません。
むしろ研究レベルではありますが、覚えたことを一定時間後に思い出す遅延再生能力や、 言語記憶の改善・運動反応時間の短縮などに良い影響があるという報告があります。
偏頭痛になる?
TMS治療の副作用に頭痛があるため、偏頭痛を患っている人が治療を行うことで悪化を心配されるケースがありますが、 むしろ治療効果が認められているため心配ありません。
前兆のある偏頭痛の急性期治療として有効性があると報告する論文があります。
子どもも治療できる?
TMS治療は精神障害の治療法として幅広く有効とされていますが、18歳未満の方に対しての治療は安全性の観点から一般的に推奨されていません。
特に小さな子どもは治療中に大人しく姿勢を保つのが困難だったり、 頭部の範囲が小さかったりするために適切な部位へ刺激を与えるのが困難です。
18~20歳未満の場合でも保護者の同伴か同意書が必要です。
ECT(電気けいれん療法)の方が効果がある?
ECTは頭部に強い電流を流してけいれんを起こし、脳機能の回復を促す治療法で、うつ病に対しての効果が認められています。
重いうつ病への効果・即効性が期待できる分、入院や絶食が必要な場合や、記憶障害のリスクがあるなど、ECTは患者さんの負担が大きいといえます。
TMS治療には患者さんの身体的負担や副作用などを気にせず治療に専念できます。
tDCS(経頭蓋直流電気刺激法)の方が安全?
tDCSとは、頭部に電極を貼り付け微弱な電流を流すことで脳にアプローチする治療法です。
TMS同様、脳機能の活性化が可能といわれていますが、tDCSは現時点でTMSと比較して科学的根拠が少なく、ピンポイントでの働きかけが難しいため、精神疾患の標準的な治療法としては確立されていません。
TMS治療における検査機器は医療機器としても薬事承認されています。
TMS治療を受けられない人・推奨しない人

TMSが安全性の高い治療とされていても、禁忌として受けられない人や、推奨しない状態の人はいます。
TMS治療を受けられない人は以下の通りです。
- 治療箇所の近くに金属がある人
- 人工内耳
- 磁性体クリップ
- 体内刺激装置
- 投薬ポンプ など
- ペースメーカーがある人(心臓も)
- けいれんのリスクがある人
- てんかん
- 頭蓋内病変の既往
- アルコール依存症
- 睡眠不足
- 重篤な心疾患がある人
また、禁忌までではありませんがTMS治療を推奨しない人は以下です。
- 治療箇所の近くにはないが金属がある人(銀歯・インプラントなどは治療可能)
- けいれんを起こしやすい服薬や成分摂取をしている人(ベンゾジアゼピン系不安薬・睡眠薬、三環系抗うつ薬など)
- 覚せい剤使用者・離脱時
- 妊婦(けいれんなどで倒れるリスクを避けるため)
- 18歳未満の発達障害や精神疾患のある子ども(有効性がまだ証明されていない)
以上の人はTMS治療を安全に受けられない可能性があるため、治療前に必ず申告し、 推奨しない人でも勝手に判断せず医師に相談しましょう。
うつ病治療で副作用に悩む人はTMS治療がおすすめ
TMS治療は副作用が少なく患者さんの身体的負担も重くない、安全性の高い治療です。
うつ病の治療で効果が出ていない人や薬の副作用が辛い人などは、ぜひ一度検討してみると良いでしょう。
また、薬物治療とTMSとの併用でさらに効果をあげる治療方法もあるなど、うつ病治療の選択肢の拡大が期待されます。
しかし、TMS治療はまだ新しい治療法のため、安全性を問うには信頼できる医療機関を選ぶ必要があります。
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