イライラしやすい、すぐ怒るといった感情の動きは、多くの方が経験する自然な反応です。
しかし、怒りをコントロールできない状況が日常的に続き、周囲との関係に影響を与えている場合は単なる性格の問題ではないかもしれません。
この記事では、感情をコントロールできない状況が病気によるものかを判断するポイント、怒りやすくなる主な疾患の特徴、医療機関での診断プロセス、そして治療への取り組み方について詳しくお伝えします。
「性格だから仕方ない」と一人で抱え込まずに、適切なサポートを受ければ改善の可能性があることを知っていただければ幸いです。
このような症状は要注意!病気が疑われる怒りのサイン

怒りっぽい人や感情をコントロールできない状況が病的なレベルなのか、それとも一時的なものなのかを見極めるポイントがあります。
日常生活に支障をきたす怒りの特徴
病気が関与している怒りには、いくつかの特徴的なサインがあります。
怒りの強さと持続時間の異常 | ・ささいなことで激しく怒ってしまう ・一度怒ると数時間から数日間も怒りが続く ・怒りの度合いが出来事に対して明らかに過剰である |
コントロールの困難さ | ・怒りを抑えようと努力しても効果がない ・怒ったあとに激しく後悔したり自己嫌悪に陥ったりする ・怒っている最中に「自分では止められない」という感覚がある |
頻度の増加 | ・以前と比べて明らかに怒りっぽくなった ・週に複数回、怒りの爆発が起こる ・すぐ不機嫌になる頻度が増している |
周囲の人への影響
病的な怒りは、本人だけでなく周囲の人にも深刻な影響を与えます。
- 家族や同僚が怖がったり避けたりするようになる
- 職場や学校で対人関係のトラブルが頻発する
- パートナーや子どもが萎縮してしまう
なかでも注目したいのは、外では穏やかなのに家族にだけキレてしまうケースです。
これは安心できる環境での感情解放という面もありますが、病気や障害の症状として現れている可能性もあります。
怒りやすくなる主な病気・疾患

すぐ怒る、イライラしやすいといった症状の背景には、様々な疾患が関与しているケースがあります。
ここでは怒りっぽくなる病気として考えられる主なものを紹介します。
精神的な疾患
怒りのコントロール困難の背景として、うつ病や発達障害などの精神的な疾患が関与している場合があります。
■うつ病・双極性障害
うつ病では気分の落ち込みが代表的な症状ですが、『いらいら型うつ病』と呼ばれるタイプでは、悲しみよりも怒りとして感情が表れる傾向が見られます。
また、双極性障害の躁状態では、ささいなことで感情的に興奮しやすくなり、批判に対して強く反発する症状が見られる場合があります。
うつ病・双極性障害について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
▶︎うつ病はどんな病気?特徴や重さごとの症状、なりやすい人の特性を紹介
▶うつ病と双極性障害(躁うつ病)の違いは?症状・原因・治療法とセルフチェックリスト
■発達障害(ADHD・自閉スペクトラム症)
発達障害は病気ではなく特性ですが、ADHDの特性で感情の抑制が困難になるケースがあります。
また、不注意でのミスへの指摘を受けることによるフラストレーションも、怒りにつながりやすい点が特徴です。
自閉スペクトラム症では、予期しない変化や自分のこだわりが満たされない状況に強い混乱を感じ、それが怒りとして表現される場合があります。
発達障害について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
■境界性パーソナリティ障害
境界性パーソナリティ障害では、見捨てられることへの強い恐れから、相手のささいな言動を拒絶と受け取り、激しい怒りを向けてしまう場合があります。
感情の揺れが激しく、短時間で喜びから怒りへと変化するのも特徴の一つです。
身体的な疾患
ホルモンバランスの異常や脳の機能に関わる疾患が、感情の制御に影響を与える場合があります。
■甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンの過剰分泌により、イライラしやすくなったり感情的になりやすくなったりする症状が現れる場合があります。
動悸や手の震え、体重減少などの身体症状とあわせて現れることが多いです。
■脳の器質的疾患
頭部外傷や脳腫瘍、認知症などの脳の病気により、感情のコントロールを司る前頭葉の機能が影響を受けた場合、性格の変化や感情の制御困難が生じることがあります。
これまで穏やかだった方が急に怒りっぽくなったときは、このような要因も考えられます。
女性特有の要因
女性の場合、月経周期や更年期に伴うホルモンの変動が怒りやすさに関係している可能性があります。
■月経前症候群(PMS)
女性の体内でホルモンバランスが変化すると、感情の不安定さに大きく影響することがあります。
とりわけ月経前の黄体期には、イライラや気分の落ち込みが現れやすくなる傾向があります。
■更年期障害
更年期になると女性ホルモンの減少に伴い、のぼせや発汗などの身体症状とともに、感情の起伏が激しくなったり怒りっぽくなったりする場合があります。
PMSについて、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
▶︎PMSとは?症状・原因・治療方法などについてわかりやすく解説
間欠性爆発性障害(IED)について

とりわけ怒りっぽい性格には、『間欠性爆発性障害』という病気が関係している場合もあります。
『大人の癇癪』とも呼ばれるこの障害は、ささいなきっかけで突発的な怒りが爆発し、本人もコントロールできない状態になることが特徴です。
症状の特徴
間欠性爆発性障害では、日常生活の小さな出来事が引き金となって、激しい怒りの爆発が起こります。
【突発的で制御困難な怒りの爆発】
- ちょっとしたやりとりのなかで突然怒鳴り声を上げる
- 思い通りにならないと物を投げたり壊したりする
- 怒りの最中に「自分では止められない感覚」に陥る
怒りの爆発は数分から30分程度で自然に治まることが多く、その後は急速に冷静になります。
本人は「やりすぎた」と深く後悔し、謝罪をするのも珍しくありません。
しかし、また同じような爆発を繰り返してしまうのがこの障害の特徴です。
親しい人に対してのみ現れる傾向
この障害の興味深い点は、家族など安心できる関係のなかで症状が現れやすいという点です。
職場や外では穏やかに振る舞えているケースも多く、そのため周囲から「甘えているだけ」「家族にだけわがまま」と誤解されることもあります。
間欠性爆発性障害の診断には、一定期間内での怒りの爆発回数や破壊的行動の頻度などが考慮されます。
認知行動療法やアンガーマネジメント、場合によっては薬物療法により、症状の改善が期待できる疾患です。
『性格の問題』として諦めずに、治療による改善の可能性があると知っておくのが大切です。
医療機関での診断プロセス

怒りをコントロールできない状況が続いている場合、医療機関で適切な診断を受けることが改善への第一歩となります。
ここでは受診の流れと準備について詳しく説明します。
何科を受診すればよいのか
感情のコントロール困難について相談する際は、精神科または心療内科の受診がおすすめです。
精神科は、うつ病や発達障害、パーソナリティ障害など幅広い精神的な問題を扱います。
心療内科は主にストレスなど心理的要因による身体症状を診療しますが、多くは精神的な問題も診療範囲としています。
急な性格変化や感情のコントロール困難に加えて、頭痛や手足の痺れなどの神経症状があるときは、脳神経内科や脳神経外科も選択肢となるでしょう。
また、動悸や体重の変化などがある場合は、まず内科を受診し、必要に応じて精神科への紹介を受ける流れも考えられます。
診断に必要な情報
医師が適切な診断を行うために、事前に整理しておくとよい情報があります。
症状の詳細な記録 | ・いつ頃から怒りやすくなったか ・どのような状況で怒りを感じるか ・怒りの強さ、頻度、持続時間 ・怒りの後の気分や行動の変化 |
生活状況と背景 | ・現在の生活環境(仕事、家庭、人間関係) ・睡眠、食事、飲酒の習慣 ・過去の病気やけがの経験 ・服用中の薬や治療中の病気 |
さらに、家族に精神疾患や発達障害、怒りに関する問題を抱えている方がいるかも重要な情報となります。
これは、遺伝的要因が関係しているケースがあるためです。
診断には時間がかかる場合もありますが、丁寧な問診と必要に応じた心理検査などを通じて、総合的に判断が行われます。
セルフチェックと医師への相談タイミング

自分の怒りが病的なレベルなのか判断に迷う方も多いかもしれません。
ここでは医療機関への相談を検討したほうがよいサインを紹介します。
緊急度の高い症状
以下のような状況がある場合は、早めの相談をおすすめします。
安全に関わる症状 | ・怒りによって自分や他者を傷つけてしまった ・暴言や暴力、物の破壊といった行動に発展している ・相手が怖がったり避けたりするようになっている |
日常生活への深刻な影響 | ・仕事や学業でミスが増えたり、遅刻・欠勤が増えたりしている ・家族関係や友人関係にトラブルが頻発している ・怒りのせいで退職や休学を考えるような状況になっている |
簡易チェックリスト
次の項目に複数当てはまる場合は、相談を検討されるようおすすめします。
- ささいなことでカッとなるときが週に数回ある
- 怒りを感じると数時間以上引きずってしまう
- 怒ったあとに激しく後悔することが多い
- 以前と比べて明らかに怒りっぽくなった
- 家族など親しい人にだけ怒りをぶつけてしまう
- 怒りを抑えようとしても効果がないと感じる
- 気分の落ち込みや不安、睡眠の問題もある
- 周囲から性格が変わったと指摘されることがある
一人で抱え込まないことの大切さ
怒りのコントロール困難は、本人だけでなく周囲の方にも影響を与える問題です。
「性格の問題だから」「自分で何とかしなければ」と一人で抱え込んでいても、根本的な解決には至らない場合があります。
適切な診断によって原因が明らかになり、その人に合った治療法や対処法が見つかる可能性があります。
勇気を出して一歩踏み出すことが、自分自身と大切な人との関係をよりよいものにする重要なステップとなるでしょう。
治療・改善への第一歩

怒りのコントロール困難は、適切な治療やサポートにより改善の可能性がある問題です。
個々の原因や症状に応じた治療選択肢について見ていきましょう。
治療の選択肢
医療機関では、診断結果に基づいて様々な治療アプローチが検討されます。
■薬物療法
原因となっている疾患に応じて、抗うつ薬や気分安定薬などが処方されることがあります。
甲状腺機能異常など身体的な疾患が原因の場合は、その疾患自体の治療が行われます。
■心理療法・カウンセリング
認知行動療法では、怒りを感じやすい思考パターンを見直し、より適応的な考え方や行動を身につけることを目指します。
境界性パーソナリティ障害に対しては、感情の調節スキルや対人関係スキルを習得する弁証法的行動療法が効果的とされる場合があります。
■アンガーマネジメント
怒りの感情と上手に付き合うための具体的なスキルを学ぶトレーニングです。
怒りの兆候に早く気付く方法、冷静になるための技法、建設的な問題解決方法などを習得します。
オンラインカウンセリングの活用
近年、オンラインカウンセリングという選択肢も広がっています。
オンラインカウンセリングには、以下のようなメリットがあります。
- 通院の負担を軽減できる
- 自宅など慣れた環境でリラックスして相談できる
- 忙しい方でも時間を調整しやすい
- 対面での相談に抵抗がある方も利用しやすい
治療には時間がかかる場合もありますが、継続した取り組みによって怒りのコントロールスキルを習得し、人間関係や社会生活の改善が期待できます。
一人で悩まずに、まずは相談してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
怒りは適切なサポートでコントロールが可能です!
怒りをコントロールできない状況は、単なる性格の問題ではなく、様々な医学的要因が関わっている可能性があることをお伝えしました。
うつ病や双極性障害、発達障害、間欠性爆発性障害、ホルモンバランスの異常など、多くの疾患が怒りやすさの背景にある場合があります。
「いつもと違う」「以前より怒りっぽくなった」と感じたら、それは体や心からのサインかもしれません。
症状が悪化する前に、また人間関係により深刻な影響が出る前に、早めに相談することでより効果的な治療や改善につなげられるでしょう。
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