双極性障害とは

双極性障害は、気分が高ぶったり活動性が増したりする「躁状態・軽躁状態」と、気分が落ち込み意欲が低下する「うつ状態」などが、経過の中で現れる病気です。
「躁うつ病」とも呼ばれ、近年は「双極症」という名称も使われています。
「躁とうつが必ず交互に訪れる」「毎日、気分が上下する」という意味ではありません。
うつ状態が長く続く人もいれば、症状が目立たず安定して過ごせる期間がある人もいます。
病気の現れ方や再発の間隔には個人差があります。
発症は思春期後半から若い成人期に多いものの、それ以外の年代でも起こります。
性格や意志の弱さによって生じる病気ではなく、症状に合った治療と生活面の支援が必要です。
基本的な特徴は、国立精神・神経医療研究センター「双極性障害(躁うつ病)」でも紹介されています。
普段の気分の波とは何が違う?
誰でも、出来事に応じてうれしくなったり落ち込んだりします。
双極性障害を考えるうえで大切なのは、気分の変化に加え、「普段の自分とは違う睡眠・活動・行動の変化」が一定期間まとまって続いているかという点です。
たとえば、数時間しか眠っていないのに疲れを感じず、次々と予定を入れ、普段ならしない大きな買い物をする、といった変化です。
一方、嫌なことがあって一時的に落ち込んだというだけでは、双極性障害とは判断できません。
本人の感覚と、周囲が気づいた変化の両方が手がかりになります。
双極性障害のⅠ型とⅡ型の違い

双極性障害は、主にⅠ型とⅡ型に分けられます。
違いの中心は、これまでに「躁状態」があったか、「軽躁状態」にとどまるかです。
分類 | 診断の中心となる経過 | 理解しておきたい点 |
双極Ⅰ型障害 | 少なくとも1回の躁病エピソードがある | うつ病エピソードを伴うことは多いものの、診断に必須ではありません。躁状態で生活への大きな支障が生じることがあります。 |
双極Ⅱ型障害 | 軽躁病エピソードとうつ病エピソードがあり、躁病エピソードの既往がない | 躁状態が軽いというだけで、病気全体が軽いとはいえません。うつ症状が長引き、生活に大きな影響が出ることがあります。 |
「エピソード」とは、特徴的な症状が一定期間まとまって現れることを指します。
分類には、薬剤やほかの病気による症状ではないことなどの確認も必要です。
Ⅰ型からⅡ型へと順番に進む病気ではなく、症状の経過を踏まえて診断します。
診断の考え方は、日本うつ病学会『双極性障害(双極症)2023』の診断に関する解説を参照してください。
双極性障害の経過と気分の波
症状の続く期間や再発の間隔には個人差がある
双極性障害では、躁・軽躁状態とうつ状態が規則正しく交互に現れるとは限りません。
うつ状態を繰り返すこともあれば、症状が落ち着いた「寛解」の期間が長く続くこともあります。
症状が軽くなっても、疲れやすさや集中しにくさなどが残り、生活の回復には時間がかかる場合があります。
経過を把握するときは、その日の気分だけでなく、数週間から数か月単位での睡眠や活動量の変化を振り返ります。
症状が落ち着いている時期も、再発を予防するための治療や生活面の調整を続けることが大切です。
急速交代型(ラピッドサイクリング)とは
急速交代型は、過去12か月間に、躁病・軽躁病・うつ病のエピソードが合計4回以上みられる経過を指します。
「躁とうつを1往復として4回」という意味ではなく、それぞれのエピソードを数えます。
Ⅰ型・Ⅱ型とは別に経過の特徴を表すもので、どちらでも起こり得ます。
「急速」という言葉から、1日の中で気分が何度も変わることだと思われがちですが、日内の気分変動だけで急速交代型とは判断しません。
各エピソードには症状や持続期間などの基準があり、別のエピソードとして数える際も、一定の寛解期間や躁・軽躁側とうつ側の切り替わりなどを確認します。
定義の概要は、NIMHによる双極性障害・急速交代の解説を参照してください。
一度この経過がみられても、その後ずっと急速交代が続くとは限りません。
STEP-BD研究による急速交代型の経過の検討でも、翌年に同じ頻度でエピソードが続くとは限らないことが報告されています。
症状の再発が増えている場合は、睡眠や服薬状況も含めて記録し、主治医と治療方針を確認しましょう。
気分の波の捉え方については、双極性障害の周期・気分の波についての記事で詳しく解説しています。
双極性障害でみられる主な症状

躁状態:高揚感だけでなく、いらだちが目立つこともある
躁状態では、気分の高まりや強いいらだちとともに、エネルギーや活動量が普段より増えます。
代表的な変化には次のようなものがあります。
- 睡眠時間が短くても平気だと感じ、活動を続ける
- 話し続ける、話題が次々と変わる、考えがどんどん浮かぶ
- 自信が過度に強くなり、実現が難しい計画を進める
- 浪費、無理な契約、危険な運転など、普段なら控える行動が増える
- 注意がそれやすくなり、仕事や人間関係でトラブルが起こる
「明るく元気になる」だけとは限らず、怒りっぽさや落ち着かなさが前面に出ることもあります。
重症になると、現実と異なる確信である妄想などが現れ、入院治療が必要になる場合もあります。
本人には好調に感じられ、困りごととして認識しにくいことがあります。
「最近、いつもと違う」と家族や同僚に言われた場合は、その具体的な内容を診察で共有すると役立ちます。
軽躁状態:好調な時期と見分けにくいことがある
軽躁状態でも、睡眠の必要性が減る、多弁になる、活動量が増すなどの変化がみられます。
躁状態と比べて生活への支障が著しい程度には至らず、本人は「仕事がはかどる」「調子が戻った」と感じる場合があります。
ただし、単にうつ症状が改善して普段の状態に戻ったことと、軽躁状態は同じではありません。
元気さの程度だけでなく、普段からの変化、持続期間、周囲から見た様子を確認します。
軽躁状態の診断では、精神病症状を伴わないことも重要です。
うつ状態:気分の落ち込みに加え、睡眠や体にも変化が出る
うつ状態では、気分が沈む、以前は楽しめていたことに興味を持てない、といった症状が続きます。
疲れやすさ、集中力や判断力の低下、自分を責める気持ちなどが重なり、家事や仕事、通学が難しくなることもあります。
眠れなくなる人もいれば、長く眠ってしまう人もいます。
食欲にも変化が出ます。
「寝すぎるから双極性障害」「朝つらいからうつ病」といった、ひとつの症状だけの見分け方はできません。
死にたい気持ちが現れる場合には、ひとりで抱えず、早めに医療者や身近な人に伝えてください。
症状の具体例は、米国国立精神衛生研究所(NIMH)の双極性障害の解説も参考になります。
混合性の特徴:落ち込みと活動性の高まりが重なることがある
「気分は落ち込んでいるのに、頭の中は考えが次々と浮かんで眠れない」など、うつの症状と躁・軽躁の症状が同じ時期に重なることがあります。
躁とうつの切り替わりに限って起こるものではありません。
強い焦りや落ち着かなさがある場合は、薬の副作用など別の原因も含めた評価が必要です。
衝動的な行動や自傷につながりそうなときは、次の予約日を待たずに相談してください。
うつ病との違いと、診断の進め方

過去の躁・軽躁状態の有無が重要
双極性障害のうつ状態は、うつ病と症状がよく似ています。
大きな違いは、これまでに躁状態や軽躁状態があったかどうかです。
受診時に落ち込んでいる様子だけでは区別できないことがあります。
軽躁状態を本人が「元気だった時期」と捉えていると、診察で話題にならず、当初はうつ病と診断される場合もあります。
反対に、回復して活動できるようになっただけなのに、軽躁状態と誤解されることもあります。
過去の生活の変化を丁寧にたどることが大切です。
両者は治療方針にも違いがあります。
症状や治療の比較は、うつ病と双極性障害の違いを解説した記事で詳しく紹介しています。
診察では症状の期間・程度・生活への影響を確認する
精神科の診察では、現在の症状に加え、過去の気分、睡眠、活動量の変化、服薬歴、ご家族の病歴などを確認します。
本人の同意を得て、ご家族から普段との違いを聞くこともあります。
診断基準で用いられる代表的な期間は次のとおりです。
ただし、期間だけで診断が決まるわけではありません。
状態 | 期間の目安 | あわせて確認する点 |
躁病エピソード | 原則として1週間以上。入院が必要なほど重い場合は期間を問いません | 気分と活動性の変化、症状の組み合わせ、著しい生活上の支障など |
軽躁病エピソード | 少なくとも4日間連続 | 普段と明らかに異なる変化があり、周囲からも確認できることなど |
うつ病エピソード | 少なくとも2週間 | 抑うつ気分または興味・喜びの低下を含む症状と、苦痛や生活への影響など |
この日数を満たすまで受診を待つ必要はありません。
睡眠や行動の変化で困っている場合は、早い段階で相談できます。
血液検査やセルフチェックだけでは診断できない
現時点で、双極性障害を単独で確定できる血液検査や画像検査はありません。
必要に応じて検査を行い、甲状腺の病気、薬剤や物質の影響など、似た症状を起こす原因を確認します。
インターネットのチェックリストは、相談するきっかけにはなりますが、診断の代わりにはなりません。
受診前には「いつ、何時間眠り、どのような行動の変化があったか」を簡単にメモしておくと、経過を伝えやすくなります。
双極性障害の原因は?
双極性障害の原因は、ひとつに特定されていません。
遺伝的ななりやすさを含む生物学的な要因と、心理的・社会的な要因などが関係すると考えられています。
家族に双極性障害の人がいても、必ず発症するわけではありません。
強いストレスや大きな生活の変化、睡眠不足などが、発症や再発のきっかけになる場合があります。
一方で、明確なきっかけが見つからない場合もあり、本人や家族の努力不足に原因を求めることは適切ではありません。
仕事や家庭での負担を振り返る目的は、誰かを責めることではなく、これから調整できる条件を見つけることです。
原因と支援の考え方は、WHO「Bipolar disorder」でも説明されています。
日常生活で気をつけたい変化については、双極性障害のきっかけ・再発サインの記事もご覧ください。
双極性障害の治療法

治療では、いま現れている症状を軽くすることと、次の再発を防いで生活を安定させることの両方を目指します。
薬物療法を中心に、病気への理解を深める心理教育や生活リズムの調整、必要に応じた心理社会的支援を組み合わせます。
薬物療法:躁・うつ・再発予防で選び方が変わる
主に、リチウムなどの気分安定薬や、一部の非定型抗精神病薬が用いられます。
どの薬もすべての時期に同じように効くわけではありません。
躁状態を抑える治療、うつ状態を改善する治療、再発を予防する治療では、使う薬や組み合わせが異なります。
たとえば、ラモトリギンは日本では双極性障害の気分エピソードの再発・再燃抑制に承認されており、急な躁状態を抑えるための薬ではありません。
薬の名前や分類だけで役割を判断せず、現在の治療目的を主治医と確認しましょう。
承認された使い方や注意点は、ラモトリギンのPMDA電子添文に記載されています。
抗うつ薬についても、うつ病と同じ考え方で使えるとは限りません。
躁転などのリスクを踏まえて慎重に判断し、とくに双極Ⅰ型障害での抗うつ薬単独治療は避けるのが原則です。
すでに服用している場合は、自己判断で中止せず、睡眠や活動量の変化を主治医に伝えてください。
薬の効果と同時に、副作用の確認も欠かせません。
薬に応じて血中濃度、腎機能・甲状腺機能、体重や血糖などを調べます。
妊娠を希望する場合や妊娠がわかった場合も、早めに相談して治療を調整します。
心理教育・心理療法:病気への対処を身につける
心理教育では、症状の特徴、薬の役割、自分に起こりやすい再発サインなどを学びます。
「眠る時間が短くなる」「予定を急に増やす」など、自分の変化を具体化し、気づいたときの対応を考えておきます。
必要に応じて、認知行動療法や対人関係・生活リズムに働きかける支援などを組み合わせます。
心理療法は、気の持ちようで病気を治すという意味ではありません。
薬物療法と並行して、困りごとへの対処や日常生活の回復を支えるために行います。
入院治療や電気けいれん療法を検討する場合もある
躁状態が強く安全を保てない場合や、重いうつ状態で食事・水分が十分に取れない場合などには、入院が必要になることがあります。
症状の重さや緊急性、薬への反応を踏まえ、麻酔下で行う電気けいれん療法(ECT)を専門施設で検討する場合もあります。
治療は本人の希望も確認しながら、効果と負担のバランスを考えて選びます。
治療全体の考え方は、日本うつ病学会の診療ガイドラインが参考になります。
治療の継続や寛解については、双極性障害の治療・寛解を解説した記事で詳しく紹介しています。
日常生活でできること・家族ができること

睡眠と活動のリズムを整える
日々の睡眠・起床時刻をできるだけ一定にし、徹夜や過密な予定を避けることが基本です。
調子がよい日に仕事や用事を詰め込みすぎず、休む時間も予定に入れましょう。
飲酒で眠ろうとすることも避け、眠れない状態が続くときは相談してください。
気分、睡眠時間、服薬、気になった出来事を短く記録すると、自分の変化を振り返る助けになります。
毎日完璧に記録する必要はありません。
負担にならない方法を選び、診察で共有できれば十分です。
家族は「いつもとの違い」を具体的に伝える
家族が伝えるときは、「また躁になっている」と決めつけるよりも、「ここ数日、睡眠が3時間くらいになっている」「買い物が増えて心配している」と、観察した事実を伝えるほうが話し合いやすくなります。
安定している時期に、受診を早めるサインや連絡先、大きな買い物・契約をするときの相談方法を本人と決めておくことも役立ちます。
支える側も抱え込まず、医療者などに相談してください。
具体的な関わり方は、双極性障害の方への接し方・家族の支援の記事で解説しています。
受診の目安と、急いで相談したいサイン
気分の落ち込みが続く場合だけでなく、睡眠が少ないのに活動し続ける、浪費や怒りっぽさが目立つなど、普段と異なる変化が続く場合も精神科で相談できます。
うつ病の治療中にこうした変化が出た場合は、主治医に伝えてください。
受診時には、お薬手帳と、症状の時期や睡眠の変化をまとめたメモがあると役立ちます。
以前に元気すぎた時期があった場合も、現在の落ち込みとあわせて伝えましょう。
次のような場合には、通常の予約日を待たずに医療機関へ連絡してください。
- 死にたい気持ちが強い、自分を傷つけそうで安全を保てない
- ほとんど眠らずに活動し続け、危険な行動を止められない
- 妄想などによって混乱し、自分や周囲の安全が脅かされている
- 食事や水分が取れず、体の状態も悪くなっている
命の危険が差し迫っている場合は119番などの救急対応を利用してください。
安全に付き添える状況であれば、ひとりで抱え込ませず、身近な人と医療につながることが大切です。
気分だけでなく、睡眠や行動の変化も相談しましょう
双極性障害を理解するには、いまのつらさだけでなく、過去の睡眠や活動量の変化にも目を向けることが大切です。
診断や治療は、症状の経過を一緒に確かめながら進めます。
「双極性障害かどうかわからない」という段階でも相談できます。
宮城県で双極性障害についてお悩みの方は、かもみーる心のクリニック仙台院でも相談が可能です。
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