強迫性障害で寝るのが怖いと感じる原因は?対処法や治療を解説
更新日 2025年03月11日
強迫性障害
強迫性障害がある方のなかには、眠ることそのものに強い恐怖を感じ、深刻な睡眠障害に悩む方が少なくありません。
この記事では、強迫性障害による睡眠の問題のメカニズムと、効果的な対処法について詳しく解説します。
強迫性障害の症状の方や、夜になると不安で眠れないとお悩みの方はぜひ参考にしてみてください。
強迫性障害で『寝るのが怖い』と感じる理由

強迫性障害による睡眠の問題は、一般的な不眠症とは異なり、入眠に対する強い恐怖感や寝る前の強迫的な儀式行為などが特徴的です。
なぜ、強迫性障害があると『寝ること』自体が恐怖の対象になるのでしょうか。
強迫性障害と睡眠問題の関係性
強迫性障害は不安障害の一つとされ、頭の中に浮かぶ不合理な考え『強迫観念』を払拭しようと、何度も同じ行動『強迫行為』をとってしまう精神疾患です。
このような強迫観念と強迫行為が夜間の睡眠プロセスと複雑に絡みあい、寝る時間が近付くと極度の不安や緊張状態に陥ることがあります。
寝る前の強迫行為として挙げられるのが、『戸締りやガス栓などを何度も確認せずにはいられなくなり、一度布団に入ってからも起きだして確かめに行く』といった行動です。
また、『今日も眠れなかったらどうしよう』『明日の活動に支障が出たらどうしよう』という不安が頭から離れず、それがさらに入眠を困難にする悪循環を生み出します。
加えて、自律神経の乱れによって交感神経が過剰に働き、緊張が解けない状態に陥っているケースもあると考えられます。
不安障害について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
▶︎不安障害の種類別の症状・診断基準┃セルフチェックや治療法も解説
なぜ寝ることに恐怖を感じるのか
強迫性障害の方が寝ることに恐怖を感じる根本的な理由は、入眠プロセスそのものへの過剰な意識と制御の試みにあると考えられます。
通常、睡眠は意識的にコントロールするものではありません。
しかし、強迫性障害の方は入眠の経過を細かく確認し、制御しようとする傾向があります。
眠れていないと自覚すると焦りを感じ、眠ろうと努力を重ねますが、このような意識がかえって覚醒レベルを高め、入眠を妨げる結果を招いてしまいます。
さらに、寝ている間に強迫的な儀式を行えないことへの不安や、睡眠中に何か問題が起きるかもしれないという恐怖感も、寝るのが怖いと感じる要因となり得るでしょう。
これらに加え、『十分な睡眠が取れなかったら大変だ』という考えが強化されやすい傾向もあり、結果として寝ることへの圧力と恐怖が増大します。
夜間の強迫症状の特徴と影響

強迫性障害の症状は一日を通して現れますが、とりわけ夜間や就寝前になると顕著になることがあります。
これは、他者との交流がなくなり静かな環境で一人きりになると、強迫観念が意識の中で大きな位置を占めるようになるためです。
入眠時に現れる不安と強迫観念
強迫性障害を抱える方が入眠しようとする時、心の中にはさまざまな不安と強迫観念が押し寄せてきます。
この時間帯に現れる強迫観念には、幾つかの典型的なパターンがあります。
【安全に関する強迫観念】
- 寝ている間に泥棒がはいるのではないか
- 火事が起きるのではないか
- 呼吸ができなくなるのではないか
こういった心配から何度も戸締りやガスの元栓を確認したり、また、寝る体勢や呼吸に過剰に注意を払ったりして、リラックスして眠れなくなっていきます。
【睡眠に対する強迫観念】
- きちんと眠れるだろうか
- 何時間眠れるだろうか
- 明日の予定に影響しないだろうか
さらに、このように入眠について過剰に意識し、自分の入眠状態を確認する行為がかえって覚醒度を高め、入眠をさらに困難にする悪循環を引き起こしてしまいます。
睡眠の質低下が日常に与える影響
強迫性障害による睡眠の問題は夜間の苦痛にとどまらず、日中の活動にも深刻な影響を及ぼしかねません。
例えば、常に不安が頭から離れず体の緊張が取れないことで、筋肉の痛みや関節の痛みといった身体症状が現れる場合があります。
また、睡眠不足による集中力や判断力の低下、イライラや焦燥感が増すことも考えられます。
これらの症状から仕事や学業、対人関係に支障をきたし、社会生活全体が困難になっていく要因となるかもしれません。
睡眠障害が長期化するとうつ病など他の精神疾患を併発するリスクが高まり、睡眠薬への依存など新たな問題が発生する恐れもあるため注意が必要です。
このように、夜間の強迫症状による睡眠の問題は、心身の健康状態全般に広範な影響を及ぼします。
睡眠は心身の回復と健康維持に欠かせないものであり、強迫性障害による睡眠障害への早期対応が重要です。
強迫性障害で『寝られない』苦しみ

強迫性障害を抱える方が経験する『寝られない』苦しみは、単に寝つきが悪いというだけではありません。
入眠に対する強い不安と恐怖、そして強迫観念と強迫行為が複雑に絡みあった状態に陥ります。
強迫性障害による睡眠の問題がどのようなメカニズムで起こり、どのように悪化していくのかを理解することが、適切な対処法を見つける第一歩となります。
強迫性障害による入眠困難のメカニズム
強迫性障害による入眠困難の中核には、自分の入眠過程を過剰に意識し、コントロールしようとする試みがあります。
床に就いた瞬間から自分の状態を細かくモニターし、入眠の進行具合を確認しようとするため、覚醒が促進されてしまいます。
この自己監視がリラックスした入眠への移行を妨げる要因の一つです。
さらに、『絶対に早く眠らなければならない』という強迫観念が強まると、入眠へのプレッシャーが増し、かえって体と心が緊張状態になります。
入眠を強く意識し努力するほど逆効果となり、ますます眠れなくなる悪循環に陥りがちです。
さらに、このような状況で強迫行為も加わります。
例えば、室内の環境条件(カーテンの隙間、部屋の温度、物の配置など)が気になり、それらを繰り返し調整しようとすることがあります。
また、寝具の状態や体の位置にもこだわり、最適な睡眠姿勢を追求して何度も体勢を変えることも少なくありません。
こうした行為が続くと就寝時間はさらに遅れ、疲労感と焦りが増してしまいます。
不安が強まる悪循環のパターン
強迫性障害による入眠困難は、時間の経過と共に悪循環に陥りやすい特徴があります。
はじめは単なる入眠の遅れであったものが、『今夜も眠れなかったらどうしよう』という予期不安を生み出します。
前夜の不眠体験が翌日の夜の不安を高め、入眠への恐怖感が強化されるというものです。
この恐怖感自体が交感神経系を活性化させ、身体的にもリラックスしにくい状態を作り出してしまいます。
また、不眠が続き日中の生活にも支障が出始めると、現実の心配も加わり、入眠前の不安がさらに増大します。
このような状況では、寝室や寝具を見るだけで不安が高まる条件付けが生じるケースも考えられるでしょう。
さらに、睡眠に関する情報に過敏になりやすい傾向があるため、睡眠の重要性や不眠のリスクに関する情報に接するとそれが新たな不安材料となりかねません。
このように、強迫性障害による入眠困難は、不安と強迫観念、強迫行為が相互に影響しあい、時間の経過と共に悪化していく特徴があります。
しかし、このメカニズムを理解し、適切な治療と対処法を実践すれば、この悪循環から抜け出すことは十分に可能です。
強迫性障害の治療法

強迫性障害による睡眠問題は、適切な専門的治療によって改善できます。
『寝るのが怖い』という症状に悩む方にとって、効果的な治療法があることを知るだけでも、明るい気持ちにつながるでしょう。
現在、医学的に効果が認められている治療法としては、薬物療法、認知行動療法、そしてTMS治療などがあります。
薬物療法の選択肢(SSRIなど)
強迫性障害に対する薬物療法の第一選択薬は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。
この薬は脳内の神経伝達物質であるセロトニンの濃度を増やす働きがあり、不安感を打ち消す効果が知られています。
SSRIは強迫観念を和らげると共に、不安レベルを下げて、入眠時の過剰な警戒心や恐怖感を緩和してくれる薬です。
強迫行為が強い場合には、少量の非定型向精神薬を併用することで、症状がさらに軽減するケースもあります。
認知行動療法の効果と進め方
認知行動療法、とりわけ曝露反応妨害法は、強迫性障害の治療に高い効果が認められている治療法です。
この方法では、不安や恐怖を引き起こす状況に段階的に向きあい、同時に強迫行為を行わないよう練習します。
入眠に関する強迫症状では、寝る前の確認儀式を少しずつ減らす、入眠への過剰意識を手放す練習をするなどの方法で進めていきます。
低い不安レベルのものから挑戦し、徐々に困難なものへと移行していくのが効果的です。
TMS(経頭蓋磁気刺激)治療
TMS治療は、強迫性障害の比較的新しい治療法です。
頭部に電磁コイルを当て磁気パルスを送り、脳の特定部位の活動を調整します。
この治療の利点は、薬物療法に比べて副作用が少ないこと、他の治療で効果が得られなかった場合の選択肢となり得ることなどです。
週に数回、数週間から数ヶ月にわたって行われるのが一般的です。
TMS治療について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
▶︎TMS治療は睡眠障害にも効果がある?原因別のアプローチ法や効果を紹介
▶TMS治療は何に効く?効果や適応疾患&メリット・デメリットを紹介
これらの治療法は単独でも効果がありますが、複数の方法を組みあわせることでより効果的な結果が期待できます。
どの治療がご自身にあうかは、医師との相談を通じて判断するのが重要です。
強迫性障害の改善のために自分でできる対処法と生活習慣の見直し

強迫性障害による『寝るのが怖い』という症状には、専門的な治療と並行して、日常生活のなかでも実践できる対処法があります。
睡眠環境の整え方と入眠を促す習慣の見直し
強迫性障害がある方の睡眠改善には、まず睡眠環境を整えることから始めましょう。
できれば寝室は睡眠専用の空間として確保し、仕事や勉強などは別の場所で行うとよいでしょう。
寝具の快適さも重要で、ご自身にあったものを選び、清潔に保つのが大切です。
また、入眠習慣の見直しも効果的です。毎日同じ時間に起き同じ時間に床に就くことで、体内時計を整えられます。
就寝前のルーティンにはリラックスできる活動を組み込むとよいですが、強迫的な儀式とならないよう注意が必要です。
就寝前はスマホなどの使用を控え、代わりに明かりを落としてストレッチするなどのリラクセーションを取り入れると心身の緊張がほぐれやすくなります。
不安な考えが浮かんできた場合は、それを紙に書き出すのも効果的です。
栄養面からのアプローチと日中の過ごし方
強迫性障害の症状改善には、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることが重要です。
タンパク質は神経伝達物質の原料となるため、肉、魚、卵、大豆製品などから十分に摂取しましょう。
また、ビタミンB群、亜鉛、鉄なども神経系の機能維持に欠かせません。
一方、カフェインやアルコール、糖分の多い食品は不安感を増大させる可能性があるため、夕方以降は控えめにするのがおすすめです。
日中の過ごし方も睡眠の質に影響します。
適度な運動は身体的なエネルギーを消費するだけでなく、脳内の神経伝達物質のバランスを整え、ストレス軽減にも役立ちます。
ただし、就寝の3時間前までには終えるようにしましょう。
日中に十分な自然光を浴びるのも、体内時計の調整に役立ちます。
リラクセーション法を練習しておくと、就寝時に不安感が高まった際にも落ち着いて対処できるようになります。
これらの方法は専門治療の効果を高め、日々の不安感を和らげる助けとなるでしょう。
ご自身のペースで無理なく続けられる方法を見つけることが大切です。
強迫性障害による寝るのが怖い症状に一人で悩まないために
強迫性障害による『寝るのが怖い』という症状は、一人で抱え込むには苦しいものです。
多くの方が不合理な恐怖を感じているのは自分だけだと思い込み、周囲への相談をためらいますが、強迫性障害は決して珍しい病気ではありません。
精神科や心療内科に相談したり、信頼できる家族や親しい友人に状況を伝えたりして、理解とサポートを得ることが回復への大きな力となるでしょう。
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