うつ病は脳がおかしい?脳内物質の変化と回復へのアプローチ
更新日 2024年03月26日

うつ病は『気合い不足』や『心の弱さ』ではなく、脳内で実際に起きている生物学的変化が原因の病気です。
うつ病になると脳内の神経伝達物質のバランスが崩れ、気分の落ち込みや意欲低下、睡眠障害など、さまざまな症状が現れます。
この記事では、うつ病と脳の関係について解説します。
うつ病に悩む方やそのご家族、また『最近なんとなく調子が悪い』と感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。
うつ病は『気の持ちよう』ではなく脳内の変化が原因

うつ病は『脳のエネルギーが欠乏した状態』とされます。
この状態では、憂うつな気分や意欲低下だけでなく、さまざまな身体症状も現れます。
うつ病を『脳の病気』として認識することは、患者さん自身の自己理解だけでなく、周囲の適切なサポートにもつながる重要な視点といえるでしょう。
神経伝達物質の役割
うつ病の患者さんの脳内は、情報伝達を担う重要な物質の機能が低下している状態です。
とりわけセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといった神経伝達物質が、症状と密接に関連しているとされます。
セロトニンは気分の安定や睡眠、食欲を調整し、不足すると気分の落ち込みや不安、睡眠障害といったうつ病の中核症状が現れます。
ノルアドレナリンは注意力や意欲に、ドーパミンは快感や報酬系に関わる物質です。
これらの物質が適切に機能しないと、何事にも興味や喜びを感じられないといった症状につながります。
脳のエネルギー欠乏状態とは
私たちの脳は、常にエネルギーを消費・回復させながら機能しています。
うつ病における『脳のエネルギーが欠乏した状態』とは、この消費と回復のバランスが崩れていることを指します。
脳は体重のわずか2%程度の重さしかないにもかかわらず、体全体の20%ものエネルギーを消費する臓器です。
長時間の労働やストレス、睡眠不足などで脳のエネルギーが消耗しきると、次第に回復が追いつかなくなりうつ病の症状が現れ始めます。
この状態では物事を前向きに考えたり気分をコントロールしたりする能力が低下し、ネガティブな思考パターンに陥りやすくなります。
ただし、この脳のエネルギー欠乏状態は一時的なものであり、適切な休養や治療によって回復が可能です。
糖尿病や高血圧と同様にうつ病は『病気である』という考え方
うつ病を『病気である』と認識すると、以下のような利点があると考えられます。
メリット | 説明 |
---|---|
適切な治療への道筋 | 医学的問題として捉えることで効果的な治療法を選択できる |
自責感の軽減 | 自分が弱いからではなく、病気だから症状が出ていると理解できる |
周囲の理解促進 | 家族や職場の人々が適切なサポートを提供しやすくなる |
回復への希望 | ほかの病気と同様、適切な治療で回復可能という見通しが持てる |
例えば糖尿病では血糖値、高血圧では血圧という客観的な指標がありますが、うつ病では主に症状から診断します。
また、脳波検査や血液検査、光トポグラフィー検査などもうつ病の診断補助として用いられる場合があります。
うつ病を脳の機能障害という観点から捉えることで、不必要な自己非難から解放され、回復に向けた建設的なステップを踏み出せるでしょう。
うつ病が脳に及ぼす影響とその症状

うつ病では、脳内の情報伝達システムに障害が生じて多岐にわたる症状が現れます。
- 気分の落ち込み
- 興味・喜びの喪失
- 思考力の低下
- 決断力の減退
- 自己評価の低下
症状の程度は軽症から重症まで幅広く、これらの症状を理解することが早期発見と適切な対応につながります。
うつ病について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
▶︎うつ病の初期症状?12のサイン丨受診目安・対処法・顔つきの変化も解説
感情面の症状
うつ病の中核症状は『憂うつな気分』と『興味・喜びの喪失』です。
うつ病による憂うつな気分は単なる落ち込みとは異なり、何かいい出来事があっても晴れにくいのが特徴です。
一日のうちで気分の変動も見られ、朝方に症状が強く、夕方にやや改善するケースがあります。
また、興味・喜びが喪失すると、趣味だけでなく食事などの本能的な喜びも減退します。
不安や焦燥感、易刺激性(ちょっとしたことで過剰に反応する)なども、感情面の症状に含まれます。
身体の症状
うつ病では、身体にも症状が表れます。
睡眠障害はうつ病の初期に見られやすい重要なサインで、入眠困難や早朝覚醒などが代表的です。
食欲も変化し、多くは食欲不振と体重減少ですが、非定型うつ病では過食と体重増加が生じるケースもあります。
全身倦怠感や慢性的な疲労感も一般的で、ささいな活動でも疲れを感じ、回復に時間がかかります。
脳の状態が日常生活に与える影響
うつ病の症状が日常生活に与える影響は、以下のようなものが考えられます。
- 集中力や記憶力の低下
- 感情表現が乏しくなる
- 社交的な活動から引きこもる
- 日常生活のセルフケアが困難になる
ただし、これらの機能低下は本人の努力不足ではなく脳の状態によるものであり、適切な治療を受ければ徐々に回復します。
うつ病の分類や症状について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
▶︎うつ病の診断基準とは?軽症・中等症・重症の分類や症状について解説
▶︎うつ病を9種類に分けて症状・原因別に解説!重症度や間違われやすい病気も
うつ病からの回復メカニズム

ここでは、うつ病の治療や、うつ病からの回復メカニズムについて解説します。
休養がもたらす効果
うつ病治療において休養は非常に重要な要素です。
休養とは単に仕事を休むだけではなく、脳に過度な負担をかけない生活を送ることを意味します。
とりわけ睡眠は心身の回復に不可欠で、睡眠の質が高まると脳の回復が促進されます。
休養期間は週単位ではなく月単位で考える必要があるでしょう。
焦って元の生活に戻ろうとするとかえって症状が悪化する場合もあるため、医師の指導のもと段階的に活動レベルを上げていくことが大切です。
薬物療法で脳内物質のバランスを整える
うつ病治療に用いられる抗うつ薬は脳内の神経伝達物質のバランスを調整し、症状の改善を促します。
代表的な抗うつ薬にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などがあります。
これらは神経伝達物質が効率よく働くように助け、脳内の情報伝達を改善するものです。
また、薬物療法だけでなく心理療法や生活習慣の改善と組みあわせることで、より効果的な治療が可能になります。
抗うつ薬について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
▶︎抗うつ薬は飲まない方がいい?副作用や種類別の特徴・対処法を解説
生活習慣の改善が与える影響
うつ病からの回復を促進し、再発を防ぐためにも重要な役割を果たすのがライフスタイルの改善です。健康的な生活習慣は脳の回復力を高めます。
例えば、規則正しい生活リズムを保つことで体内時計が整い、脳内物質の分泌バランス改善が期待できます。
また、適度な運動は神経細胞の成長や維持を助け、バランスの取れた食事も脳の機能回復に貢献すると考えられています。
うつ病の回復にはストレス管理も重要となるため、マインドフルネスや深呼吸などのリラクセーション法を役立てましょう。
また、無理のない範囲で社会的つながりを維持するのも回復を助けてくれます。
うつ病の回復プロセスについて、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
脳科学の進歩と共に広がる治療アプローチ

従来のうつ病治療は主に症状に基づいて行われてきましたが、近年では脳の機能変化に直接アプローチする治療法も増えています。
薬のような全身性の副作用が殆どなく、週に数回の通院で効果が期待できるこれらの治療法は、有効な選択肢として注目されています。
認知行動療法の効果
認知行動療法(CBT)は、思考パターンの修正を通じて脳の情報処理の仕方を変えていく治療法です。
この治療の核心は、ネガティブな思考パターンを特定し、より現実的で柔軟な考え方に置き換えていくという点です。
例えば『自分はいつも失敗する』という考えを『ときに失敗することもあるが、成功することもある』といった、より現実に即した考え方に修正します。
この療法が脳に与える影響も研究されていて、前頭前皮質の活動が改善するなど、実際に脳の機能変化をもたらすと分かっています。
薬物療法と比較しても同等の効果があるとされ、とりわけ軽度から中等度のうつ病に効果的です。
認知行動療法は通常週1回30分以上、16週間にわたって継続的に行われます。
学んだスキルは日常生活でも活用でき、治療終了後も自分で実践できる点が大きなメリットです。
TMS(経頭蓋磁気刺激)治療のメカニズムと効果
TMS(経頭蓋磁気刺激)治療は、頭部に磁気パルスを与え脳の特定領域を刺激する非侵襲的治療法です。
薬物療法に反応しないうつ病に対しても有効性が認められている治療です。
治療では頭皮の上から磁気コイルを当て、短時間の磁気パルスを与えます。
うつ病では前頭前皮質という領域の活動が低下していることが多いため、この部位を刺激して脳機能の改善を図ります。
この治療のメリットは、薬のような全身性の副作用が殆どない点です。
TMS治療は1回あたり数十分程度で終了し、通常は週に数回、数週間にわたって治療を継続します。
薬物療法との併用も可能で、複合的なアプローチによってよりよい効果が期待できます。
うつ病治療は個人の症状特性にあわせた選択が重要です。
自己診断や自己流対処より、専門家による適切な診断と治療計画が回復への近道といえるでしょう。
うつ病と向きあうために今日からできること

うつ病は早期発見・早期治療ができる程回復が早く、再発リスクも低下します。
初期症状には気分の落ち込み以外に、睡眠障害(寝つきの悪さ、中途覚醒、早朝覚醒)、食欲変化、疲れやすさ、集中力低下などがあります。
以前は容易にできていたことに大きなエネルギーを要するようになった場合は、脳からのSOS信号かもしれません。
専門医への相談のタイミングと方法
うつ病の症状を感じたら、ためらわず医療機関に相談するのが大切です。
相談先としては、精神科や心療内科が適しています。
受診のタイミングとしては、症状が2週間以上続き、仕事や日常生活に支障が出始めたらできるだけ早く相談するとよいでしょう。
診察では、いつからどのような症状があるか、日常生活にどのような影響があるかを具体的に伝えるとよいです。
最近では対面診察だけでなく、オンライン診察を行っているクリニックも増えています。
はじめての受診に不安を感じる方や、時間の制約がある方にはオンライン診察も選択肢の一つです。
周囲の人ができるサポートと避けたほうがよい対応
うつ病の人をサポートする際は、適切な理解と対応が重要です。
うつ病が脳の病気であると理解し、本人を責めないことが大切です。
『気合いで治る』『頑張れ』といった励ましは逆効果で、オーバーヒート状態にあるうつ病の脳にさらなる頑張りを求めると症状が悪化してしまいます。
静かに寄り添い、話を聴くのが効果的です。無理に解決策を提案せず、まずは理解しようとする姿勢を持ちましょう。
通院の付き添いや日常生活のサポートなど、自然な形で支えることが大切です。
サポートする側も自身のケアを忘れず、長期的な視点で関わるとよいでしょう。
症状と向きあいながら回復を目指す具体的なステップ
うつ病からの回復には時間がかかりますが、以下のようなステップを踏むことで、脳の回復を促せます。
- 回復には時間がかかることを理解し適切な治療を継続する
- 脳の回復のために健康的な生活リズムを整える
- 趣味や軽い運動など無理をしない範囲で活動する
- ストレス管理のリラクセーションスキルを身につける
- 小さな目標を設定し少しづつ前進する
回復の道は一進一退です。
調子のよい日も悪い日もあると理解し、焦らず進んでいくことが大切です。
うつ病は『脳がおかしい』のではなく一時的な機能障害
うつ病は脳内の神経伝達物質のバランスが崩れ、脳のエネルギー不足になった状態です。
症状に気づいたら早期に専門家への相談を検討しましょう。
休養、薬物療法、認知行動療法などの治療に加え、TMS治療のような新しいアプローチも登場しています。
オンラインカウンセリングの『かもみーる』は、医師や有資格の心理士が適切な治療やカウンセリングを提供する医師監修のサービスです。
また、『かもみーる心のクリニック』では、対面診察とTMS治療もお受けいただけます。
副作用が少なく、薬物療法と併用可能なこの治療法は、回復への新たな選択肢となるでしょう。
うつ病は回復できる病気です。
まずは『かもみーる』のオンライン診察・カウンセリングでご相談ください。
▶︎新規会員登録はこちら